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既存のデータをどのように分析するか:社内データ分析 10のステップ ビジネスリサーチラボが支援する場合

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ビジネスリサーチラボでは、企業の人事部門が直面している課題に対して、その企業が保有するデータを分析することで解決策を提供しています。このサービスは「社内データ分析」と称しており、人事に関する意思決定の質を向上させることを目的としています。

近年、この種のサービスに対する相談をいただくことが増えています。本コラムでは、社内データ分析を進める際の一般的なステップを10項目に分けて紹介します。これらは、当社がサポートする場合における標準的な手順ですが、実際には各企業の状況やニーズに応じて、ステップを省略/追加/変更することもあります。

プロセスは必ずしも一方通行ではなく、時には行き来しながら進めることもあります。したがって、ここで紹介するステップはあくまでも一例であることをご理解いただき、それぞれの企業にとって参考情報としてご活用いただければ幸いです。

社内データ分析とは

そもそも「社内データ分析」とは何でしょうか。

前提として、当社は、企業人事向けに2種類のサービスを提供しています。一つは、オーダーメイド型の組織サーベイで[1]、企業の特定のニーズに合わせて、社員対象のアンケート調査を設計・分析するサービスです。もう一つは、既に企業内に蓄積されているデータを活用する「社内データ分析」です。

これらのサービスは、どちらもデータ分析を行うという共通点を持っていますが、前者が新しいデータの収集に焦点を当てているのに対し、後者は既存のデータを用いる点が大きな違いです。

例えば、過去に実施した組織サーベイのデータを分析する場合、それは社内に存在するデータを用いるため、社内データ分析の一環と言えます。

昨今、タレントマネジメントシステムや組織サーベイなど、社内データが蓄積される機会が増えており、それらのデータから有益な洞察を得たいという需要が高まっています。

しかし、社内データ分析においてはデータの新規作成ができないため、適切なデータを選択し、抽出して処理し、分析する必要があります。これには専門的なスキルと経験が必要であり、簡単な作業ではありません。

社内データ分析を進めるために必要な10のステップを、以下で紹介します。各ステップの詳細とその重要性、さらに注意すべき点についても触れていきたいと思います。

1.プロジェクト全体の計画を立てる

社内データ分析のプロジェクトを始めるにあたり、最初に行うべきことは、クライアントと共にプロジェクトの目的、利用できるリソース、そして期間を明確に定めることです。これは、社内データ分析を行う計画を立てるということに他なりません。

例えば、クライアントが若手社員の離職率を減らすことを目的としている場合、どの要因が離職につながっているのかを明らかにする必要があるでしょう。

この目的を達成するために、過去に実施された組織サーベイのデータやその他の利用可能なデータを分析することになります。プロジェクトの期間は例えば半年と設定し、その期間中に有益な結果が得られた場合は、さらなる詳細な分析のために追加で半年を割くなど、段階的に計画を進めることもできます。

明確な計画を立てることにより、プロジェクトの指針を確立でき、必要なリソースを確保しやすくなります。また、プロジェクトの進行と管理がスムーズに行われ、目標達成が容易になります。

2.成果指標を定める

社内データ分析のプロジェクトにおいて、次に行うべきは「成果指標」を定めることです[2]。成果指標とは、人や組織が目指すべき状態を数値で示したものです。これは、社内データ分析を実施することで到達したいゴールとも言えます。

例えば、社員の定着意思を高めることを目指す場合、定着意欲を成果指標として設定することができます。成果指標は企業やプロジェクトごとに異なるものであり、その都度きちんと検討して設定します。ただし、定着意思といった大まかな概念だけでなく、「会社に長く留まりたいと思う意欲」といった具合に、その定義まで明確にする必要があります。

成果指標を設定する際には、その指標に対応するデータが企業内に存在するかどうかも考慮します。特に成果指標のデータがなければ分析は始まりません。利用可能なデータの有無も念頭に置きながら成果指標を決めます。

成果指標は社内データ分析のゴールですから、関係者間での合意形成が不可欠です。もし合意が曖昧なまま進めた場合、分析結果が出た後に意見の不一致や前提の見直しを余儀なくされることがあるため、注意が必要です。全ての関係者が成果指標について同じ理解と期待を共有することで、分析が成功に結びつきやすくなります。

3.影響指標の候補を挙げる

成果指標を定めた後のステップは、「影響指標」の候補を挙げることです[3]。影響指標とは、成果指標を促進/阻害する要因を示す指標です。社内データ分析を行う際には、成果指標と影響指標が分析の根幹をなす枠組みを提供します。

例えば、社員の定着意思を成果指標として設定した場合、影響指標の候補としては、上司からのサポート、仕事に対するフィードバック、仕事の量の適切さなどが考えられるかもしれません(あくまで仮想例です)。

影響指標は、設定した成果指標に基づいて変わります。そのため、各企業や各プロジェクトで影響指標の候補を慎重に検討する必要があるのです。

ここで「候補」という言葉を使っているのは、データ分析を行う前の段階であり、これらはあくまでも仮説に過ぎないからです。しかし、影響指標の候補を挙げることで、どのようなデータを抽出し分析する必要があるかを考えることができます。データの質の高さが社内データ分析の成功を左右するため、このフェーズは重要です。

影響指標の候補は多角的な視点から挙げていきます[4]。これらは成果指標を改善するための起点となるものです。影響指標を元にして対策を立てることになるため、社内データ分析を対策につなげるためには、影響指標の候補をしっかり挙げなければなりません。

逆に、対策を講じることができない影響指標は候補として挙げるべきではありません。分析の結果、対応が困難または不可能な要因であれば、それを挙げても仕方ないからです。むしろ士気が低下する可能性もあります。対策を講じて成果を改善できる可能性のある影響指標に焦点を当てることで、社内データ分析の効果を最大化することができます。

4.データを集める

成果指標と影響指標の候補を明確にしたら、次はそれらに対応するデータを見つける作業に移ります。

成果指標に該当するデータは存在している必要がありますが、一方で影響指標の候補に関しては、必要なデータがすべて手元にあるとは限りません。場合によっては、代替となる指標を見つけることで妥協することも必要です。

この段階で重要なのは、クライアント企業に存在するデータのリストを作成することです。そして、そのリストをもとにクライアントと協力しながら、どのデータが分析に役立つのかを議論し、決定していきます。重要なデータを見落とさないよう細心の注意を払います。

各データが収集された目的や、その時点で社員に約束された使用方法を再確認することも欠かせません。

データを分析に使うことが適切かどうかは、法的な観点はもちろん、職業倫理の観点からも慎重に検討しなければなりません。なぜなら、社内データ分析の結果は人事上の意思決定に影響を与えるため、社員に不利益が生じないように配慮することが必須だからです。

データの使用にあたっては、必要に応じて専門家に相談することが推奨されます。データ分析をいかに厳密に行っても、人事部門と社員との間の信頼を損なうことがあれば、その分析は意味を成さなくなります。人と組織がより良い状態になるよう、データの取り扱いには注意と配慮を払うべきです。

5.データを整える

成果指標と影響指標に対応するデータを特定した後、次に行うべきは、実際にそのデータの内容を精査する作業です。この段階での主な目的は、データの品質を評価し、それが分析に適しているかどうかを判断することです。

データが正確に測定されているかどうか、そして収集時にバイアスや歪みが生じていないかどうかを確認します。データに不備がある場合、どれだけ丁寧に分析しても、信頼できる結果にはつながりません。

問題がないと確認できたら、データクリーニングというプロセスに進みます。これには、無効なデータの削除や修正、欠損データの処理方法の決定と適用が含まれます。また、複数の異なるソースから得られたデータを一つに統合することが必要になる場合もあります。

分析に使用する社内データの中には、元々分析を目的として収集されていなかったものもあり、これらは入念な前処理を必要とします。

データの保管状態によって手間が大きく変わる場合がありますが、適切な処理を施すことで分析の精度を高めることができます。データクリーニングはオペレーティブな作業のように感じられるかもしれませんが、品質の高いデータ分析を行う上で重要なステップです。

6.データを分析する

データを集めたら、その特徴を把握することから始めます。記述統計量を算出し、データの分布を確認します。これには、例えば、平均値、中央値、標準偏差などが含まれ、データの一般的な傾向を把握するために必要な情報です。さらに、外れ値がないかもチェックします。

これらの基本的な確認は、データに潜むパターンや異常値を識別するのに役立ち、さらには、どのような分析モデルが適しているかを検討することにも部分的に貢献します。

データにおかしな挙動が見られた場合は、その時点で一時停止し、原因を究明します。本格的な分析に移る前に、チェックを丁寧に行うことが、後の分析の意義を高めます。

次に、クライアントのニーズに合わせて、適切な分析手法を選びます。例えば、社員の定着意思の変化に関連する要因を明らかにするためには、潜在差得点モデルを使用する、といった選択が考えられます[5]

ここで重要なのは、プロジェクト計画段階で議論された目的や成果指標の内容、そしてそれらを定めた背景に立ち返り、選んだ分析手法がそのプロジェクトで意味のある結果を示せるかを考慮することです。

分析手法には通常、いくつかの仮定が含まれています。これらの仮定がクライアントの実情やプロジェクトの目的から乖離していないかを吟味します。

ある分析手法を適用し、実際の分析を行った後、分析結果を他の人事データと照らし合わせ、矛盾がないかを検証します。

先行研究を参照しながら、得られた結果が理論的に無理のないものかを確認することも重要です。理論に部分的に反する結果がすべて問題であるというわけではありませんが、なぜそのような結果が出たのか、その背景にある理由を考察すると良いでしょう。

7.結果を洞察する

分析結果が出た後、その結果から洞察を導き出します。まず、なぜそのような結果が得られたのかを説明してみます。続いて、その結果が人事の実践にどのような意味を持つかを考えます。

例えば、上司からの支援が部下の定着意欲を高めるという結果が得られた場合、その背後にどのようなメカニズムがあるでしょうか。支援が信頼関係の構築に寄与したのか、それとも部下が「自分にはできる」という自信を持つことにつながったのかなどと考察します。

このような結果からは、「上司は部下との関わり方を変えるべきだ」といったマネジメントスタイルに対する含意が得られるかもしれません。

分析から得られる洞察は、人や組織の問題を解決したり改善策を考える際の材料となります。洞察をうまく引き出すことができれば、実践的な価値を持ちます。分析結果を実際の行動に移せるような含意につなげることが重要です。

洞察を得るための情報源は、実践知に限定されません。研究知見もヒントを提供します。例えば、上司サポートに関する先行研究はたくさんあり、それらは分析結果の解釈を助けるでしょう。

8.対策を検討する

分析結果から得られた洞察に基づいて対策を考えるのは、社内データ分析のプロセスにおいて重要な段階です。対策につなげない限り、分析を行った意義が薄れてしまいます。

例えば、上司からの支援が部下の定着意思と関連があることが明らかになった場合、これは上司のマネジメントスタイルを見直すことが対策のカギとなることを意味します。その一つの対策として、管理職研修プログラムに新しいマネジメントのスキルや手法を教えるセクションを追加することが考えられます。

対策は実行可能であることが前提です。利用可能なリソースを考慮した上で、現実的かつ合理的な対策となるようにしましょう。

対策が利害関係者に受け入れられることも重要です。受け入れられない対策は、実行段階に移ることができません。このため、必要に応じて対策に調整を加える柔軟性も必要になります。

さらに、計画に具体性を持たせる努力も必要です。どのような流れとタイムラインで進めるかを明確にすることで、実行に向けた動きがスムーズになります。

対策の策定プロセスでは、分析結果を何度も見返し、必要に応じてローデータまでさかのぼります。エビデンスから大きく乖離した対策は、せっかくの社内データ分析の価値を下げてしまいます。

9.報告書をまとめる

報告書においては成果指標と影響指標の候補を挙げ、それらに当たるデータとして何を選んだかを説明します。そのデータを分析するために採用した手法について触れ、分析によって何が明らかになったのかを詳述します。

分析結果から導き出される結論や示唆についても論じ、それを踏まえてどのような対策を導き出したかを紹介します。

報告書の作成にあたっては、専門知識を持たない人にも理解できるように、クリアで簡潔な言葉を使い、重要な情報を強調する一方で、不要な情報は省略します。こうした工夫により、報告書は明確でわかりやすい文書となり、それがコミュニケーションを促進する役割を果たします[6]

10.結果をフィードバックする

クライアントとの報告会において、社内データ分析の成果を共有します。報告会はオンラインか対面の打ち合わせ形式で行われます。

報告書は打ち合わせの前にクライアントに送付されていることが多く、クライアントは会議当日までに報告書を一読しておくことが期待されます。

打ち合わせの際、報告書の内容を簡潔に説明します。その後、主な焦点は、クライアントが持つこれまでの仮説と実際の分析結果を比較し、共通点と相違点を議論することに置かれます。そこから洞察を深め、クライアントと協力して今後の対策を練り上げていきます。

当社の役割は、一方的に情報を伝達することではなく、クライアントと共に未来を構想することです。会議では双方向のコミュニケーションを重んじ、クライアントからの意見や視点も取り入れます。

また、報告書の内容に関して不明点があれば、それらの疑問点を解消し、クライアントが内容をより深く理解できるよう支援することも、フィードバックの重要な役割です。

フィードバックの場は、クライアントが次のステップに向けて意欲を高める前向きな環境であるべきです[7]。このような環境を構築するために、当社もクライアントも共に努力を惜しみません。

 

以上の通り、社内データ分析には一連の標準的な手順がありますが、これはあくまでも一般的なものです。繰り返しになりますが、実際には企業やプロジェクトごとに状況に応じて、ステップを省略したり、追加したり、変更します。

これらのステップにはデータ分析を進める上で重要な原則が含まれており、それを適用することでデータ活用の質が向上し、より高品質な分析結果を生み出すことができます。

当社にご相談いただくことを歓迎しますが、直接のご相談がない場合でも、ここで紹介したステップを参考にしていただければ幸いです。これらの情報が、社内データ分析をより実りあるものにする助けとなることを願っています。

脚注

[1] オーダーメイド型の組織サーベイのステップは「ビジネスリサーチラボの組織サーベイ支援 12のステップ」をご参照ください

[2] 成果指標の定め方についての詳細は「良い成果指標を定めるための4つのステップ」を参考にしてください

[3] なお、成果指標と影響指標という2種類の組み合わせは最低限の要素であり、プロジェクトによってはより複雑なモデルを想定することもあります

[4] 影響指標の候補の挙げ方については、「組織サーベイの効果を引き上げる 影響指標の設定方法とチェックポイント」をご参照ください

[5] 潜在差得点モデルの詳細は、「潜在差得点モデルとは何か」をご参照ください

[6] 報告書作成の際の当社の考え方をまとめたコラムがあります

[7] フィードバックに関する詳細は「サーベイフィードバックの10の方法:従属員意識調査を対策につなげるために(セミナーレポート)」をご参照ください


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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