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コラム

報告書を作成する際の考え方

コラム

当社はクライアントワークの多くで、報告書を作成します。本コラムでは、当社の報告書の作成に関する考え方と方法を紹介します。当社の大事にしていることを知っていただくことで、当社への依頼を検討されている方や、入社を検討されている方の参考になれば幸甚です。

ここでの内容は、あくまでビジネスリサーチラボにおける報告書の作成方法に基づいています。また、本コラムは報告書のデザインやレイアウトに関する話ではなく、コンテンツに焦点を当てたものです。

当社がどんなサービスを提供しているのか、背景情報から始めます。当社は、企業の人事部門を対象に、組織サーベイや社内データ分析のサービスを提供しています。さらに、HR事業者に向けて、組織サーベイや適性検査の開発支援、HR関連のサービス開発に関するコンサルティングも手掛けています。

一見すると、当社が提供しているサービスは多岐にわたるように思えるかもしれません。しかし、これらのサービスには共通の特徴があります。それは、すべてのサービスがオーダーメイド、つまり顧客のニーズに合わせてカスタマイズされているという点です。

例えば、組織サーベイを行う際、ある企業では社員のエンゲージメントやその背後にある要因を明らかにすることを重視するかもしれません。別の企業では、特定の制度の効果を詳しく検証したいと考えるかもしれません。

このように、「報告書を作る」と一言で言っても、一つの標準的なフォーマットがあてはまるわけではありません。企業やプロジェクトによって、必要とされる内容や形式は異なります。そのため、報告書の作成時には、それぞれのニーズをしっかりと捉え、それに応じた最適な内容を提供することが求められます。

作成の前に押さえるべきポイント

報告書の作成は当社のプロジェクトのフローで言うと、最終段階に近いと言えます。例えば、組織サーベイの場合、12のステップがありますが、報告書の作成はそのうち10個目のステップに当たります[1]

報告書を作成する前に、すなわち、プロジェクトの開始前・初期・中期を通じて、次の通り、報告書の活用シーンと目的を明らかにしておく必要があります。これらのことは、報告書作成に着手する際に求められる情報です。

報告書の活用シーンを考える

プロジェクトや状況によって報告書を用いる場面は多様です。そのため、報告書を作成する前に、最も重要なのはその「活用シーン」をしっかりと検討することです。

活用シーンを考える際、以下の3つの要素を中心に考えるとよいでしょう。

  • 誰が:誰が用いるのか
  • 誰に:誰に対して用いるのか
  • どのように:どのような方法で用いるのか

例えば、当社の社員がクライアントの人事部門のメンバーに調査結果を共有するという場面があり得ます。他にも、クライアントの人事部門のメンバーが経営層に対して施策の提案をする場面でも報告書は活用されるでしょう。

これら2つのシーンでは、報告書の性質や内容が異なります。報告書の活用シーンを具体的にイメージすることで、その品質や有用性を向上させることができます。慣れるまでは文字や図を使用して、活用シーンを描きます。

報告書の目的を考える

報告書を書くとき、その目的を明確にすることは大切です。報告書を提出する自体が目的ではないからです。報告書はあくまで手段であり、それを通じて達成したい具体的な目的が存在します。

当社やクライアントが報告書を通じて何かを達成しようとするとき、その目的をきちんと整理することが不可欠です。報告書によって促そうとする行動は様々です。

例えば、経営層に向けて、複数の施策候補の中から1つの施策を選択してもらうことが目的であることもあります。また、現場のマネージャーに対して、自らの部門の問題を解決するための改善策を実行してもらいたい場合も考えられます。

さらに、報告書が受け手の思考を変えるきっかけとなることもあります。各部門に自らの課題について深く考え、次のアクションにつなげるアイデアを膨らませてもらうことも、報告書を通じて達成したい目的の一つと言えます。

報告書が情報提供の手段として利用されることもあります。自社が直面している深刻な問題の存在を共有したり、現在検討中の施策が妥当であることを理解してもらったりすることも、報告書の大きな役割となり得ます。

載せる情報の重要度を評価する

報告書の「活用シーン」と「目的」を整理すれば、報告書に載せるべき情報の重要度を検討することができます。具体的には、何を載せるべきで、何を載せるべきでないかの判断がつくようになります。

初めに、どのような情報を報告書に載せることができるのかをリストアップします。この段階では、情報の重要度を気にせず、できる限り多くの情報を列挙します。

情報を一通り挙げたら、先ほど整理した活用シーンや目的と照らし合わせて、どの情報がより重要かを評価します。情報同士を比較し、順位付けしたりもします。

重要度の高い情報は、基本的に報告書の初めの部分に配置します。報告書の初めのページは読者の注意を引きやすく、しっかりと読まれる可能性が高いからです。

重要なことに、報告書にすべての情報を載せる必要はありません。情報を過剰に載せると、読む側が圧倒されてしまい、本来のメッセージが伝わりにくくなります。ページ数の制限がない場合でも、情報量が多ければ良いわけではありません。

実際、どの情報を載せるかは悩みやすいポイントです。しかし、この悩みは健全な反省の過程でもあります。全ての情報を報告書に入れる必要はなく、入れない情報があっても問題ありません。

ただ、情報を入れない判断を下す際には、論理的にその理由を明確にする必要があります。このためにも、報告書の活用シーンや目的を明確にすることが大切なのです。

実際に作成する上で重要になる視点

報告書の作成に際し、どのような視点が重要となるかを説明します。具体的には5つの視点を紹介します。

①伝えたいことは横に置く

報告書の作成者が伝えたいと思う内容は、それぞれの経験や背景からくるもので、単に好みに基づく場合もあれば、価値観に基づく場合もあります。

これらの個人的な要素は、報告書に個性や独自性をもたらし、ある状況では効果的に機能するかもしれません。しかし、多くの場面で重要とされるのは、読者や利用者が報告書から何を求めているのか、すなわち「ニーズ」を理解し、それに基づいて報告書を作成することです。

ここでの「ニーズ」は、報告書の活用シーンや目的をしっかりと検討することで明らかになります。したがって、報告書を作成する際には、まず自身が伝えたいことを一旦横に置いて、ニーズに焦点を当てます。

②限界と制約を踏まえて作成する

報告書を作成する際、自分の中での最良の形にしようという気持ちは強くなるものです、特に仕事に対して真面目に取り組む人ほど、この傾向が強いでしょう。

しかし、現実的には、報告書の作成にかけられる時間や労力には限界があります。また、形式や分量などの制約、さらにはその報告書の活用シーンから来る制約も存在します。

これらの限界や制約の中で、最大の効果を狙うことが求められます。簡単に言えば、限られたリソースの中で効率的かつ有効な報告書を作る必要があるのです。

③シーズよりニーズを大事にする

報告書を作成する際、作成者の意向や考えも確かに重要です。しかし、読者や利用者のニーズ、つまりその報告書から何を得たいのかという要求や期待は、より大切に取り扱う必要があります。

とはいえ、あまりにもニーズに合わせた報告書を提供すると、新しい情報や学びの機会が限られてしまうことが考えられます。理想的な報告書は、ニーズに合致しつつ、読者の学習意欲を刺激する内容が織り込まれているものです。

活用シーンや目的に合わせた内容を含めた上で、少し枠を超えた「遊び心」のある情報を入れることもあります。ただし、そのような情報は、読者が主要内容を理解した上で楽しむものであるため、報告書の後半や末尾に掲載します。

④口頭での説明があるかを確認する

報告書の活用シーンには様々なものがあり、それに応じて報告書の内容や形式も変わってきます。特に、報告書が口頭での説明を伴う場面を想定しているのか、あるいは報告書だけで情報が完結しているべきかを考慮することが重要です。

口頭での説明がある場合、すべての詳細を文章にする必要はなく、重要なポイントや説明が必要な部分は口頭で補足できます。しかし、口頭での説明が予定されていない場合、報告書単体で情報が完結するよう、十分に記述することが求められます。

⑤クライアントに関する理解を深める

クライアントを理解することは、報告書を作成する際に大事なことです。報告書の内容をより的確に伝えるためには、クライアントが持っている知識や経験を把握しておくことが望ましいと言えます。

例えば、分析結果を伴う報告書を作るときに、クライアントがどの程度統計分析に詳しいかということは、報告書の内容やアプローチに大きく関わります。これは、情報をどのような深さや角度で伝えるかを決定する際の基準となるためです。

さらに、クライアントの社内での役割や立場、権限を理解しておきます。例えば、経営層と人事責任者では、仕事の範囲や視点が異なるため、同じ情報でも受け取り方や期待する内容が変わります。人事担当者の中でも、採用担当であるか、育成担当であるかによって、関心や必要とする情報は異なるでしょう。

また、クライアントとの関係の質も考慮に入れます。当社は、クライアントとの間に尊敬し合う関係を構築しながらプロジェクトを進める傾向があります。一方で、その関係が長く続いている場合と、始まったばかりの場合では、報告書の内容も違ってきます。

分析結果を含む報告書の作成

当社で作成する報告書は、様々な活用シーンや目的のもとで用いられるものですが、当社の報告書には「分析結果」を含む場合が多いのが特徴です。ここでは、そうした報告書を作成する際に注意すべきポイントを説明します。

目的・結果・方法に分けて記述する

報告書をまとめる上で、「目的・結果・方法」という3つの要素を分けて記述します。

  • 目的:何をしようとしたのか
  • 結果:それによって何が分かったのか
  • 方法:どのような手段を使って結果を導き出したのか

例えば、次のように目的・結果・方法を書き分けることができます。

  • 目的:成果指標と関連する影響指標を特定する
  • 結果:◯◯、△△、□□の3つの影響指標が成果指標と関連していることが分かった
  • 方法:成果指標と8個の影響指標の関連を検証するために、重回帰分析を行った

目的・結果パートの記述方針

目的・結果・方法の3要素の中で、特に「目的」と「結果」が重要です。一般にクライアントは、当社が「何をしようとして、その結果、どうなったのか」を知りたいと考えています。

特に「目的」に関しては、分析を開始する前にクライアントとの合意を得ておくことが好ましいと言えます。報告書をわかりやすくまとめる努力も大切ですが、報告書を作成する前の段階での調整や合意形成が成功の鍵を握ります。

「結果」の記述においては、シンプルさが求められます。目的を満たす内容であれば、端的かつ正確に情報を伝えます。情報量が増えると読み手の負荷が大きくなり、予期せぬ誤解を招く原因となります。

特に注意が必要な方法パート

分析する立場からすれば、多くの試行錯誤や工夫を凝らしており、分析の重要性も十分に認識しています。その「方法」を丁寧に伝えたくなるのは自然なことです。特に学術研究に慣れ親しんでいる人は、「方法」のパートを丁寧に書きたい思いが強いかもしれません。

クライアントとの仕事においても、適切な分析方法の選択は肝要です。しかし、こと報告書では、「方法」を最低限の記述に留めます。「方法」の理解を目的とする報告書が例外的だからです。

他方で、クライアントと中長期的な関係を築いていくプロセスで、クライアントの「方法」に対する理解が深まれば、コミュニケーションはより円滑になり、高度な分析に挑戦することが可能となります。

とはいえ、「方法」の詳細な記述は報告書の後半部分にまとめて、関心のある方に読んでいただく程度にとどめます。また、より深い内容については脚注での記述、内容が長くなりそうであれば付録として別に添付します。

なお、当社ではこれまで多くの報告書を提出してきましたが、末尾に詳述した「方法」を読み込み、さらに学習を深める担当者もいます。

入り組んだ話は脚注か付録に

詳細や複雑な話題に関しては報告書の脚注や付録を活用しますが、「結果」に関しても同じ方針を取ることがあります。理想的には、結果は簡潔に示すべきですが、複数の視点からの結果が存在する場合など、簡単にはまとめられないこともあります。

そのような場合、結論だけを本文に簡潔に記述し、詳細な結果については別のページに記載するか、付録として添付します。

いずれにせよ、重要なのは、伝えたい内容をすべて報告書に盛り込もうとしないことです。必要に応じて口頭での説明や別の打ち合わせを組み合わせることで、報告書が冗長にならないようにします。

報告書におけるスライドの作り方

報告書を作成する際には、多くの場合、PowerPointを使用します。それぞれのスライドに「タイトル」を設定しますが、それに加えて、当社では「メインメッセージ」も含めています。

メインメッセージとは、そのスライドで伝えたい重要な情報を、短い文章で表現したものです。メインメッセージを読み取ることで、報告書の核心を理解することができます。

1つのスライドに1つのメッセージを掲載します。1枚のスライドに情報を詰め込むと、スライドの可読性が落ちてしまい、結果として読み手が重要な情報を読み飛ばしてしまう可能性が高まります。

報告書内では、テーマごとにサマリーをつけることを心がけます。例えば、成果指標と影響指標の関連を検証したセクションがあるとします。そのセクションが終わるタイミングで、「結局、成果指標と影響指標の関連はどうだったのか」をまとめます。

さらに、報告書を作成する過程で、対策や今後のアクションを提案することもあります。その際、分析結果を示すセクションと、対策やアクションを示すセクションは分けて提示します。これらの情報を同じセクションにまとめると、読み手が混乱します。

報告書を作成する際のプロセス

最後に、報告書作成の流れについて説明します。これは、あくまで当社の現時点での考え方に基づいているため、その点を留意いただきながら参考にしていただければと思います。

骨子づくりから始める

報告書の作成にあたって、最初からスライド作成や文章を書き始めるのは避けます。そういったアプローチをとると、結果的に作成に多くの時間がかかることが多いからです。

まずは、報告書に載せるかもしれない情報を、可能な限り列挙してみます。そして、報告書の活用シーンや目的を考慮して、情報の重要度を評価します。

この評価に基づき、情報の取捨選択を行い、重要度の高いものから順に並べ替えます。最後に、受け手が理解しやすいような構成を考えることで、報告書の骨子が出来上がります。

骨子は、報告書で言うと、スライドのタイトルやメインメッセージに該当するものです。その報告書に、およそ何をどのような順序で盛り込むのかを検討するのが、初めに求められます。

周囲の意見を求める

報告書の骨子を考えた段階で、社内の他のメンバーに意見を求めることは有効です。他者の目線を取り入れることで、報告書の品質が向上することが期待できます。

意見を求める際には、報告書の活用シーンや目的を伝えます。そうすることで、より適切なアドバイスを受け取ることができます。

ただし、すべての意見をそのまま反映させる必要はありません。報告書の活用場面に立ち会う人が、それぞれの意見をどのように取り入れるかを判断します。

なお、特にクライアントとの関係が深く形成されている場合、報告書の骨子を作成する段階で、その方向性についてクライアントに確認することも選択肢の一つです。

スライドを作成する

報告書の骨子を精査し、質の高いものができたら、次のステップとしてスライド作成に着手します。

ここでのポイントは、最初からすべてのスライドを一気に作成しようとするのではなく、まず主要なスライドから作成を始めることです。その上で、やはり社内のメンバーから意見をもらいます。

報告書を作成する際には、多くの場合、様々な限界や制約が存在します。このような状況下での作業をスムーズに進めるために、手戻りを極力減らすことが重要です。

最低限を早めに仕上げる

スライドを作成するとき、伝えたい情報を完璧にするあまり、時間を使い過ぎることは避けたいところです。それでは時間が足りなくなって、最後に急いで作業をすることになり、品質が下がる可能性があります。

良い品質を目指していたのに、逆効果となってしまうのは残念なことです。早めに最低限の内容を形にして、その後、時間の許す限りブラッシュアップする進め方を取ります。

先んじて報告書を送る

上記のプロセスを経て報告書が完成したら、社内で確認をとります。ここで大きな修正が必要になることはあまりありません。逆に言えば、ここで大きな修正が生じないような進め方をすることが求められます。

社内確認が済んだら、クライアントに対して報告書を早めに送付します。フィードバックを行う日程を考慮し、何日か前に送付することで、クライアントには報告書を事前にじっくり読んでいただけます。

大量の情報を初めて、それも短時間で処理するのは大変です。落ち着いて内容を理解していただいた方が、報告書の活用シーンでの効果が高まり、その目的も達成しやすくなります。

 

 脚注

[1] 詳細は「ビジネスリサーチラボの組織サーベイ支援 12のステップ」にまとめています


執筆者

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

#伊達洋駆

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