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コラム

ビジネスリサーチラボの組織サーベイ支援 12のステップ

コラム

本コラムでは、ビジネスリサーチラボが「組織サーベイをどのような流れで進めているか」を説明します。ビジネスリサーチラボは「オーダーメイド型」の組織サーベイを提供しています。質問項目や計算式が定められているパッケージ型とは異なり、オーダーメイド型ではクライアントの状況に合わせて設計や分析を行います。

本コラムでお伝えする流れは、あくまで基本形です。全てのプロジェクトでその通りに進んでいるわけではありません。しかし、およその全体像は把握していただけるはずです。

ビジネスリサーチラボの組織サーベイは12のステップで進行します。それぞれのステップを順番に解説します。

1.成果指標を定める

成果指標とは目指すべき人や組織の状態を表す指標です。例えば、「当社の成果指標は『組織コミットメント』で、定義は『会社に対して愛着を持っていること』です」という具合に、成果指標を定めます。

概念の名前だけではなく定義も行うのがポイントです。「成果指標はエンゲージメントです」と決めるにとどまらず、「当社はエンゲージメントを『仕事に打ち込んでいること』と定義しています」と決めます。

経営・人事・現場のステークホルダーと調整し、成果指標合意をとっておきます。後になって「成果指標が自分のイメージとは違う」となると、深刻な事態に陥ります。

なお、成果指標の定め方の詳細については、コラム「良い成果指標を定めるための4つのステップ」で説明しています。そちらもあわせてご覧ください。

2.影響指標の候補を挙げる

影響指標とは、成果指標を促す/妨げる要因す。例えば、「組織コミットメント=会社に対して愛着を持っていること」を成果指標としたとき、それを促すものは何かを考えます。

実際に、影響指標の候補を挙げようとすると難しいものです。研究知」「データ知」「実践知という3つの知識が必要になるからです。

  • 研究知学術研究の知識です。例えば、組織コミットメントの先行要因を実証した研究をレビューします。
  • データ知過去の分析結果から導き出すということです。例えば、ビジネスリサーチラボが行った組織サーベイの中で、組織コミットメントと関連していた影響指標は何だったかを調べます。
  • 実践知:クライアントの経験則です。例えば、組織に愛着を持っている人はどのような特徴があり、どのような環境のもとで働いているかをクライアントに尋ねます。

このうち、ビジネスリサーチラボで提供するのは研究知データ知です。実践知については、設計段階の打ち合わせにおいて、クライアントのローカルな経験則をヒアリングします。

3.質問項目を作成する

ここまでのステップで成果指標と影響指標の候補に関する「概念」を挙げました。概念は組織サーベイで測定したいものです。それぞれの概念を測定するには「質問項目(以下、「項目」と記載)が必要です。

一つの概念につ複数の項目で測定するのが基本です。各概念を測定する項目を作成していきます。項目を作成するときには、学術尺度が参考になります。ただし、そのまま尺度を使うわけではありません。

もちろん、著作権や商用利用の許諾をめぐる問題に注意を払う必要があります。しかし、それだけではなく、クライアントを取り巻くローカルな現実世界を捉えることを優先すると、尺度がそっくり当てはまるわけではないため、参照する程度にとどめることになります。

概念と項目を作成したら、概念項目表にまとめます。概念項目表はExcelで作成した資料で、概念・項目・選択肢・教示文などの測定内容が一覧化されています。

概念項目表はクライアントに納品します。そして、「波風が立たない内容になっているか」「理解できない言葉はないか」など、クライアントに項目をチェックしていただき、必要があれば修正をします。

項目作成とその背後にある専門的な考え方については、ビジネスリサーチラボのウェブサイトにコラム「心理尺度の作り方・考え方:組織サーベイの質問項目作成のポイント」を掲載しています。関心のある方はご一読ください。

4.回答画面を作成する

概念項目表の確認が済んだら、アンケートの回答画面を作ります。ビジネスリサーチラボでは、紙のアンケートを実施することはめったにありません。PCあるいはスマートフォンで回答できる回答画面を作ります。

回答画面はビジネスリサーチラボが作成する場合もあれば、クライアントが作成する場合もあります。どちらが担当するかは契約段階で調整しています。

調査の目的などを記載する、アンケートの冒頭文の作成をビジネスリサーチラボが手伝うこともあります。社員へのアナウンス方法について助言を求められることもあります。

回答画面ができたら、改めてビジネスリサーチラボでもクライアントでも項目をチェックします。実際の回答画面を見ると、「この項目は答えにくいかもしれない」といったことが見えてきます。そうした点は回答画面を修正し、概念項目表にも反映します。

5.回答を収集する

回答画面が完成したら、社員に配信し、回答を得ます。企業によって回収期間は異なりますが、2週間ほどが多いように思います。

回収期間の途中で社員にリマインドする企業もあります。もちろん、回答をたくさん集めるのは大事なことですが、社員が回答へのプレッシャーを感じると、回答が歪む可能性があるので注意が必要です。

回答の収集はクライアントが主導します。ビジネスリサーチラボは回答状況の報告を受け、必要に応じて相談に乗ります。

なお、類似する業種や規模の企業と比べたいと考えるケースがあります。いわゆる他社比較を望むケースです。その場合は、概念項目表をもとに、回答者をスクリーニングした上でモニター調査を実施します。

オーダーメイド型は他社比較ができないのが弱点だと思われることもあります。しかし、モニター調査を併用すれば、他社比較も可能になります。組織サーベイの結果を経営陣に報告しなければならない企業ほど、他社比較を希望しているように感じます。

6.データを分析可能な形にする

回答データを得たら、それを確認し、分析可能な形に変換します。例えば、数値を割り当てたり、他のデータと突合したり、逆転項目を処理したりします。簡便的に集計を行い、データに不具合が起きてないかもチェックします。

7.回答データを分析する

分析可能になった回答データを、様々な観点から分析します。いくつかの分析方針を例示しましょう。ただし、ここで示すのは基本的なものであり、実際にはクライアントのニーズとデータの性質を考慮し、試行錯誤で進むことをご理解ください。

概念と項目の確認

第1に、概念と項目が想定した通りに機能しているかを調べます。例えば、天井効果・床効果を検証したり、項目反応理論[1]を用いて困難度を確認したりします。

概念と項目の関連を精査します。想定した項目によって想定した概念を測定できているかを見ます。例えば、確認的因子分析[2]を行います。

それぞれの概念を平均値で得点化し、尺度得点を作る際には、α係数[3]も算出します。

成果指標の現状把握

第2に、成果指標の現状を把握します。人や組織の目指すべき状態を表す成果指標が、どのような値になっているかを見ていきます。例えば、クライアントと他社の違いをt検定[4]で検証します。その際にはモニター調査のデータを併用します。

下記の図は成果指標を分析した仮想例です。自社(クライアント)と他社のエンゲージメントの平均値の差を検定したところ、統計的に有意で、それなりの大きさの差がありました。自社の方が他社よりエンゲージメントが高いことがわかります。

図:成果指標の他社比較

部署ごとに平均値を出し、全社平均と比較することもあります。大企業になると部署数が多いものです。そこで、全社平均と各部署の平均値についてt検定を行います。

例えば、下記のグラフを見てください。エンゲージメントの全社平均と部署平均を比較し、1標本のt検定を行っています。有意かつ効果量が一定の値を超えているものは星印をつけています。

図:成果指標の部署比較

成果指標と影響指標の候補の関連検証

3に、成果指標と影響指標の候補の間に関連性が認められるかを分析します。例えば、重回帰分析を行うという方法があります。

下記は重回帰分析の仮想例です。エンゲージメントに対して「上司からの助言頻度」「仕事の裁量の大きさ」「お互いの感謝表明」「キャリア相談機会の充実」が有意に関連しています。

図:重回帰分析に基づく関連検証

近年、パルスサーベイと呼ばれる、短い間隔で測定するサーベイが流行しています。複数回にわたって同じ人物に調査した場合、成果指標の変化と影響指標の変化の関連を検証することもできます。

例えば、下図のように、潜在差得点モデル[5]を用いて、エンゲージメントの変化に対して、「上司からの助言頻度」の変化、「仕事の裁量の大きさ」の変化、「お互いの感謝表明」の変化、「キャリア相談機会の充実」の変化が影響を与えているかを検証することができます。

図:潜在差得点モデルを用いた変化の検証

成果指標と影響指標の候補の関連を検証すれば、設計時には候補に過ぎない影響指標の中で、本当に成果指標と関連するのはどれかがわかります。

影響指標どうしの重要度の大きさを比較することもできます。どのような企業でも経営資源には限りがあるため、対策の優先順位をつけられるのは実践的に有益です。

影響指標の属性比較

4に、成果指標との関連が認められた影響指標に注目し、属性比較を行います。部署、役職、入社経路、年代などのデモグラフィック属性が比較の中心になります。人事にとって働きかけの糸口になりやすいからです。

属性比較の際に、水準数が少ないなら分散分析[6]やt検定、水準数が多いなら1標本のt検定を行います。

例えば、下図は「上司からの助言頻度」という影響指標を全社平均と部署平均で比較したものです。1標本のt検定を行った結果、人事部の得点が低いことがわかります。値が低い属性は伸びしろがあると解釈します。

図:上司からの助言頻度の部署比較

伸びしろを確認すると対策のターゲットが見えてきます伸びしろのない属性より、ある属性に対策を講じた方が成果も上がりやすいと言えます。

成果指標と影響指標のモデル化

5に、成果指標と影響指標の関連性をモデル化します。例えば、構造方程式モデリングを用いてモデルを検証します。

下図はモデルの仮想例ですが、「エンゲージメント」と「離職したい気持ち」という成果指標に対して、「役割の板挟み状態」と「仕事の裁量の大きさ」が効き、さらにそれらを「上司からの助言頻度」が促すモデルになります。

モデル化すると、経営陣や現場マネジャーに説明するときに、短い時間でもエッセンスを理解できるという利点があります。また、コミュニケーションツールとしても機能します。

図:モデルの検証結果

8.分析結果を考察する

分析結果をそのまま示すだけで、クライアントの十分な理解を得られて対策が進むわけではありません。分析結果を解釈したり意味付けしたりする必要があります。具体的には、3つの観点から考察を行います。

  • 元々の想定と合っているか、それとも想定外だったかを考えます。例えば、上司からの助言頻度がエンゲージメントを促すという結果が出たとします。上司サポートがエンゲージメントを促す研究があるため、想定通りの結果と言えます。
  • なぜその結果が得られたのかを考えます。例えば、上司からの助言頻度がエンゲージメントを高める理由を検討します。JD-R(仕事の要求-資源)モデルに基づけば、上司からの助言頻度は仕事の資源として機能するため、エンゲージメントを高めたのではないかと推論できます。
  • どこが特に注目に値するかを考察します。例えば、上司からの助言頻度の得点を見ると、二極化に近い状態になっており、高い部署と低い部署がはっきりわかれていることに気づきます。

ビジネスリサーチラボが考察を行うときには、研究知とデータ知を活用します。考察を行う中で先行研究を調べたり、同様の概念を測定した組織サーベイの結果を振り返ったりします。分析結果を考察することで、クライアントの理解は深まるのに加えて、対策につなげやすくなります。

9.対策の案を挙げる

分析を行って結果を考察したら、対策の案を挙げます。例えば、仕事の裁量の大きさが重要な影響指標だったとします。これを高めるにはどうすれば良いでしょうか。

「仕事を任せる」という方向性があり得ます。仕事を任せることをデリゲーションと呼びます。4段階に分けて、デリゲーションを進めるのがおすすめです。デリゲーションについてはコラム「仕事を任せる:権限委譲を進めるために」も参考にしてください。

  • 任せる仕事を特定するどういう仕事を任せると良いかを決めます。ある程度まとまった単位で仕事を切り出す必要があります。
  • 任せる相手を特定する:誰に任せると良いかを決めます。相手の能力と仕事の相性を考慮しなければなりません。
  • 相手の合意を得る:任せる相手に納得してもらいます。どのような意図で任せたいと考えたのか、そして期待を伝えて合意を得ます。
  • 信じて待つ:仕事を任せたら口出しをせずに、相手が仕事を完遂するのを待ちます。

このように具体性を持って対策の案を挙げます。対策を検討するために、成果指標と関連する影響指標に着目します。特に成果指標と関連する影響指標を高めるにはどうすれば良いかを考えます。

対策の検討時には考察も参照します。例えば、仕事の裁量の大きさがエンゲージメントを促す理由を考察していれば、対策は生み出しやすくなります。なお、影響指標の候補を挙げる時点で、粗いレベルでも良いので対策を考えておきたいところです。

10.報告書を作成する

分析、考察、対策の検討が済んだら、報告書にまとめます。組織サーベイのプロジェクトでは、報告書は納品物になります。

報告書は7つの要素から構成されます。以降で示すのはあくまで基本的な要素ですが、報告書の内容をおおまかに理解することはできます。

  1. 目的・対象・方法(2ページ程度):何を目指して組織サーベイを実施するのか。回収の方法やサンプルの特徴を記述します。
  2. 概念と項目の確認(3ページ程度):項目が機能しているか、概念と項目の関連は適切かなど、検証の結果を整理します。こちらの要素は、付録に回す場合もあります。
  3. 成果指標の分析結果(5ページ程度):成果指標の現状を示します。成果指標どうしの比較、他社比較、昨年比較、部署比較などの結果を載せます。
  4. 成果指標と影響指標の関連(10ページ程度):成果指標と関連する影響指標や、関連の度合いを出します。一つのモデルとして提示することもあります。
  5. 影響指標の分析結果(10ページ程度):重要な影響指標に絞って属性比較をします。これにより、対策のターゲットを設定できます。
  6. 分析結果の考察(4ページ程度):分析結果を解釈します。注目すべきポイントについても記します。
  7. 対策案の例示(6ページ程度):一連の結果から想定される対策の案を出します。具体性を持たせて提案します。

ボリュームは1.から7.で40ページ程度、付録が加わってきて50ページ程度というイメージです。報告書はPowerPointで作成して納品します。

11.結果をフィードバックする

報告書ができたら、結果をフィードバックします。分析・考察・対策の内容をクライアントに伝え、その後、議論します。

サーベイフィードバックは打ち合わせ形式で実行します。時間は1時間半が多く、1回で終わる場合もあれば、2回実施する場合もあります。この辺りは契約調整時に決めておきます。

報告書はフィードバックに先立って送付しておきます。フィードバックまでにクライアントが目を通している状態です。

フィードバックの目的は2つあります。

  • 理解を深める報告書を読むだけでは、クライアントにとってわかりにくい箇所もあります。口頭で説明すると理解が深まります。
  • 対策を議論する:今後どのような対策を講じていけば良いかを探ります。対策をどれほど固める必要があるかはクライアントによって異なります。

サーベイフィードバックについては公開セミナー「サーベイフィードバックの10の方法:従属員意識調査を対策につなげるために」を開催しました。近日にコラムにまとめる予定です。詳細はそちらをご覧いただけるとわかりやすいかと思います。

12.概念と項目を修正する

回答データを分析していると、この項目修正した方が良い」「新規でこういう項目を追加した方が良い」とわかることがあります。

クライアントによりますが、概念項目表の修正も依頼内容に含まれるケースがあります。特に、定点観測で組織サーベイを実施するクライアントから依頼されることが多いと言えます。

分析結果をもとに概念項目表を修正します。新規項目を作る際には、項目作成の際と同じ要領で進めます。

 

以上、ビジネスリサーチラボが組織サーベイを実施する際の進め方を12のステップに分けて説明しました。全てのステップをビジネスリサーチラボが実施するのが多数派です。他方で、途中のいずれかのステップをクライアントが内製することもないわけではありません。なお、12のステップを実施するのに必要な期間は、3ヶ月から6ヶ月程度です。 

最後に補足ですが、組織サーベイのプロジェクトを進めていく中では、各所で打ち合わせを行います。クライアントと打ち合わせをして、認識をすり合わせていきます。丁寧に相互理解を深めながら進めることを大事にしています。

 

脚注

[1] 詳細はコラム「項目反応理論の基礎:組織サーベイ項目の統計学的な得点配分の性能を検証する」をご参照ください。

[2] 詳細はコラム「確認的因子分析とは何か」をご参照ください。

[3] α係数の詳細はコラム「α係数とは何か」をご確認ください。

[4] t検定の詳細はコラム「人事のためのデータ分析入門:「統計的に有意」とは何か(セミナーレポート)」をご参照ください。

[5] 詳細は「潜在差得点モデルとは何か」をご参照ください。

[6] 詳細はコラム「一要因分散分析とは何か」をご参照ください。

 

執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役

神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

#伊達洋駆 #組織サーベイ

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