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コラム

サーベイフィードバックの10の方法:従属員意識調査を対策につなげるために(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、2023126日に「サーベイフィードバックの10の方法:従属員意識調査を対策につなげるために」を開催しました。

組織サーベイ(従業員意識調査)を行う企業が増えています。その一方で、「対策につながらない」という悩みをよく耳にします。対策につながる組織サーベイにするためにどうすれば良いのでしょうか。サーベイ結果の「フィードバック」の仕方が鍵を握ります。

本セミナーでは、ビジネスリサーチラボの伊達洋駆が、サーベイフィードバックのポイントをお伝えしました。報告書のまとめ方、フィードバック会議の進め方、対策の考え方など、10の方法を解説しています。

本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

登壇者

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年にHRアワード2022書籍部門 最優秀賞を受賞。


「対策につなげるために、組織サーベイの結果をどのようにフィードバックすればいいか」をテーマに、10のポイントを示します。はじめに、いくつか用語の定義をしておきます。

組織サーベイとは、社員を対象にしたアンケート調査です。社員から回答を得たら、データを分析して、人や組織をより良いものにするのが組織サーベイの意義です。従業員意識調査、エンゲージメントサーベイなどとも呼ばれます。

サーベイフィードバックは、組織サーベイで得られたデータの分析結果を、関係者に伝え、対策につなげていくことです。今回は会議の場でフィードバックするシーンを主に想定しています。

1.情報をとにかく絞り込む

サーベイを実施する立場からすると、得られた結果をできる限り伝えたいと考えがちです。しかし、人は多くの情報を与えられても聞き流してしまいます。むしろ、受け手の信念に合う箇所しか記憶に残っていないといった事態にも陥るかもしれません。そこで、例えば、次の3点に情報を絞ってみてはいかがでしょうか。

A.目指すべき状態に近いか

自社の現状が目指すべき状態に対してどうかを示します。他社や前年と比較する方法があります。例えば、下図を見ると、昨年より今年のほうが「エンゲージメント」は高い一方、自ら助けを求める「ヘルプシーキング」は他社より自社が低いことがわかります。

B.近づくにはどうすればよいか

目指すべき状態に近づくための要因を明らかにします。例えば、「高い心理的安全性」「弱みを見せる上司」「成長を志向する態度」がヘルプシーキングを促すことがわかれば、必要な働きかけが見えてきます。

C.どこに対策を打てばいいか

対策を打つべき対象を可視化します。要因を属性で比較すると、低い属性が見えます。例えば、「上司の弱みを見せる行動」を部署で比較したところ、営業部と総務部が低いことがわかります。

2.判断の誤りを減らすために統計分析する

組織サーベイに基づく人事施策は、社員の職業人生に影響を与えます。そうした重要な判断を行う際に、誤りの可能性は少しでも減らしておきたいところです。

例えば、「上司と部下の関係性の質」を昨年と今年で比べたグラフがあります。昨年が3.5ポイントで、今年は3.3ポイントでした。この結果をどう解釈しますか。

昨年と今年の差が統計的に意味のあるものかを検討しましょう。これを「有意性検定」と呼びます。さらには、先ほどの3.53.3という値の差は本当に大きいのでしょうか。差の大きさを表すのが「効果量」です。有意かつ大きな差を報告すれば、情報を絞り込めます。

ただし、統計分析は万能ではありません。正解が導き出されるのではなく、判断を誤る可能性を少しでも減らすものです。

3.仮説を立ててから聞いてもらう

サーベイフィードバックの内容に対して「知っている内容ばかりだった」「改めて自分の感覚がデータでも確認できた」といった反応が出ることがあります。「既知の内容だった」という反応です。

どこかで見聞きしたり、少しでも考えたりしたことがある内容は、「知っていた」と感じやすいものです。しかし、既知のものだと感じると、「対策につなげていこう」というエネルギーが高まりにくいこともあります。

そこで、フィードバックの受け手に自分なりの仮説を挙げてもらいましょう。目指すべき状態に近いか、近づくにはどうすればいいか、どこに対策を打てばいいか、受け手が先に仮説を立てた上でフィードバックを行います。

例えば、「エンゲージメントを高めるには、どうしたら良いか」という問いに対し、受け手は「評価制度を作り込むのが大事」「上司とのコミュニケーション頻度が大事」と仮説を立てたとします。

これらの仮説は「既知のもの」となり、仮説で挙げていない内容は「未知のもの」となります。「既知の内容だった」という反応を避けられます。

仮説を考える際に、自社の現状をリフレクションできるのも長所です。また、受け手が「自分の挙げた仮説が組織サーベイで支持されるか」と、クイズのような楽しさを味わうこともできます。

4.新たな気づきを挙げてもらう

「サーベイフィードバックは新たなことを学べる場」という認識を持ちましょう。漫然と結果を伝えるだけでは、学習機会とは思ってもらえません。そこで、「皆さんにとって新たな発見は何ですか」などと受け手に問いかけます。自分の気づきを周囲とシェアする時間を取るのもおすすめです。

一方で、サーベイフィードバックの際に、調査や分析の手続きに質問が相次ぐこともあります。手続きは大切です。しかし、サーベイフィードバックで話し合う内容として優先順位が高いわけではありません。事前に報告書を共有して質問を受け付けたり、手続きに関する問い合わせ先を記したりすることで、フィードバックでは内容面の検討に集中できます。

5.生々しいエピソードを披露する

組織サーベイの分析結果は定量的なものがほとんどになります。数値の説得力はなかなかのものですが、数値だけで人が動かないこともあります。そうしたときに、エピソードをプラスするのが有効です。

数値を典型的に表すエピソードを集めてサーベイフィードバックの場で共有します。「相談のしやすさがエンゲージメントを高める」という結果が得られたとします。これに対して、「営業部の○○部長は、水曜日の午前に相談タイムを設定している。部下が相談しやすくなり、部下の働きがいにつながっているそうだ」とエピソードを加えると、リアルに感じられます。

もう一つ例を挙げましょう。「失敗を許容することが心理的安全性を醸成する」という結果が得られたとします。同時に、「失敗を正直に打ち明けた同僚が上司から叱責されているのを見た人がいる。その人は以降、小さな失敗ならほぼ伝えないらしい」というエピソードを伝えると、イメージが湧きます。

このように、数値にエピソードを加えると、分析結果の重要性や深刻性が伝わります。サーベイフィードバックでは、定量的な情報だけではなく、定性的な情報もうまく使いましょう。

6.個々人の意見を集める手段を用意する

役職の高い人ばかりが話している。声の大きい人が場を支配している。こうした状況はサーベイフィードバックでも発生します。

人にはリスクを恐れて沈黙を選ぶ性質があります。沈黙はサーベイフィードバックの質を下げてしまいます。しかし、難しいのは「意見を話してください」と言っても、次々と意見を出すわけではない点です。

そこで、個人ワークの時間を設けるのがおすすめです。1時間のサーベイフィードバックにおいて、5分でも良いので、個々人の意見を収集する機会を作ります。

例えば、分析結果を伝えた後、「最も気になる結果や、その理由」「どんな対策があり得るか」「課題を表す典型的な事例を知っているか」を考えてもらいます。ワークシートを配布しても良いですし、手元でメモしてもらっても良いでしょう。

サーベイフィードバック当日に時間が取れないこともあります。その場合、事後に「今後に生かしていきたいので、本日の説明を聞いて感じたことを書いてください」と回答フォームを提示する方法もあります。

フォームでの回収も難しいときもあるかもしれません。そのときは、サーベイフィードバックの参加者を減らしましょう。参加者が増えると、発言しない人が出てきますし、発言のプレッシャーも高まりします。

7.対策の案を手元に忍ばせておく

サーベイフィードバックにおいては、対策を検討する必要があります。ただし、対策のアイデアは簡単に湧いてきません。サーベイ結果を報告した後に「この結果を聞いて、どのような対策が考えられますか」と尋ねても、次々に対策が出てくるわけではありません。

組織サーベイの実施側が、フィードバックに先立って対策案を準備しておきましょう。案の質は問わず、玉石混合で構いません。例えば、人事部が組織サーベイを行ったのなら、人事部内で対策案をブレストしておきます。

対策案を手元に置いてフィードバックに臨み、タイミングを見計らって「一例ですが、このようなアイデアもあり得ます」と挙げます。すると、それが呼び水になり、アイデアが広がります。

8.対策のターゲットを設定する

いつも全社一律で対策を実行するわけにはいきません。非効率だからです。それぞれの対策が特に必要なターゲットを特定する必要があります。

ポイント1で挙げた「C. どこに対策を打てば良いか」を思い出してください。要因を属性で比較する方法です。これがターゲット設定に使えます。

例えば役職・部署・入社経路など、客観的に区分できるデモグラフィック属性での比較が有用です。その方が働きかけやすいからです。

先の例を改めて出しましょう。結果を見ると、人事部と開発部の上司は弱みを見せることができていますが、営業部と総務部はそうでもありません。後者が対策のターゲットになり得ます。

犯人捜しをするモードでターゲットを設定するのは危険です。属性で比べると、相対的な高低は必ず出ます。低い値の属性は「不足している」のではなく「伸びしろがある」と捉えていただければと思います。対策を講じても、値の低い属性でなければ、伸びる余地が少なくなり、費用対効果がよくありません。

9.ポジティブな結果を提示する

組織サーベイを実施すると、自社の課題が発見できます。いくつもの課題が見つかることでしょう。20個の課題が見つかったとします。サーベイフィードバックの場で、課題を1個、2個、3個・・・と挙げていくと、受け手の気分は沈んでいきます。

課題の指摘は、いわばネガティブ・フィードバックです。延々とネガティブ・フィードバックを受けると、表情は曇ります。対策に向けて動くにはエネルギーが必要です。気分が沈んでいると、エネルギーが湧いてきません。

ポジティブな分析結果も報告しましょう。今、十分な水準にあるもの、うまくいっている要因、良好な属性も伝えます。サーベイフィードバックは課題に偏りがちです。ポジティブな報告を意識して入れましょう。

10.何回かに分けて社員に共有する

組織サーベイの実施者として忘れてはならないのは、社員が忙しい業務の合間を縫って回答している事実です。

自分の回答した結果がどうなったかがわからないと、社員は徒労感を覚えます。また、回答が何に使われているのかがわからず、異動や評価に使われているのではないかと心配になります。こうした事態を防ぐために、回答した社員にフィードバックしましょう。

ただし、一度にまとめてフィードバックしても、内容は読み飛ばされたり、読まれなかったりします。そこで、まずは現状についてフィードバックし、後日、要因についてフィードバックするという具合に、分析結果を小分けにし、何回かに分けてフィードバックするのが有効です。

その際、回答という貢献にお礼を述べ、さらに、分析結果を何に用いようとしているかを伝えます。社員へのフィードバックは、イントラ、メール、チャット、掲示板など、様々な媒体で行うと良いでしょう。

対策につなげるためのサーベイフィードバックについて、10のポイントを解説しました。取り入れられるポイントから取り入れていただければと思います。

質疑応答

Q. 課題をフォーカスして経営側に受け入れてもらういい方法があれば知りたい。

ゴールを定めることが大事です。自社の目指すべき状態を経営層と議論してください。組織サーベイでは、ゴールとそこに近づく要因を検討します。そうすれば、有益な形で経営層の視点を絞ることができます。

Q. 受け手の統計リテラシーはどう考えれば良いか。

統計リテラシーに応じて伝え方を変えたほうが良いでしょう。統計分析の詳細は脚注で説明し、対策につながる発見について時間をとって解説するようにします。

一方で、中長期的には、統計リテラシーを高める努力も必要です。ビジネスリサーチラボの場合は、統計分析に関するコラムや本を紹介し、プロジェクトの合間や終了後に読んでいただけるように促しています。

Q. 促進要因をどのように挙げれば良いか。

促進要因を挙げるために、実践知と研究知が必要です。実践知とはいわゆる経験則、研究知とは学術研究の知見を指します。例えば、エンゲージメントの要因を検討する際に、自分の経験や他の社員の意見から考えるのが前者、エンゲージメントの研究から考えるのが後者です。

Q. 組織サーベイに関心が低い人をその気にさせるにはどうすれば良いか。

1対1でフィードバックする方法があります。個別に「先ほどの話について掘り下げて議論したい」と声をかけて時間を設けるのです。11で話すと、その人の価値観を考慮して議論でき、関心を高めることができます。

Q. 社内人事と社外コンサルタントのうまい役割分担はあるか。

経営層のケースと似ていて、ゴールを共有することが大切です。どのような状態に近づけるために組織サーベイを実施するのか、社内外の認識をそろえる必要があります。その上で役割を決め、必要に応じて役割を途中で変更すると良いでしょう。

Q. 回答者が不安を感じないようにするにはどうすれば良いか。

2つあります。まず、組織サーベイの結果を「何に使わないのか」をはっきりさせましょう。社員が不安に思うような使い方、例えば、異動や評価には決して用いないと宣言すると、安心感が増します。

続いて、組織サーベイを通じて会社が良くなった実感を持ってもらいます。組織サーベイの実施後に対策が打たれ、会社が良い方向に動き始めたと感じられると、不安を感じにくくなります。より良い環境になるのなら、積極的に回答しようという気持ちにもなります。

Q. 分析結果をどの階層まで下ろすのが良いか。

回答者には何らかの結果をフィードバックする必要があります。例えば、全社の傾向であれば広く共有したいところです。そのことを見込んだ上で、組織サーベイを設計していきましょう。

一方で、全員にすべての結果を提示すると、それはそれで混乱します。想定される対策に応じて、伝える対象を考えると良いでしょう。例えば、マネジャーが講じるべき対策と関連する結果であれば、伝えるのはマネジャーで十分です。

Q. 組織サーベイの結果を採用に活かしている企業はあるか。

正直、多くはありません。しかし、活かせると思います。組織サーベイの結果を見れば、自社の特徴がわかります。その情報をうまく求職者に伝えれば、自社の理解を深めることができるかもしれません。組織サーベイと採用の担当者が人事部内で連携することが大事です。

(了)

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