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【HR事業者向け】パッケージ型組織サーベイの開発プロセス

コラム

本コラムでは、ビジネスリサーチラボがHR事業者向けに提供している「パッケージ型の組織サーベイ」の開発サービスに関して、その基本的な流れを解説します。


本コラムの主な想定読者:

  • HR事業者(特に当社にパッケージ型の組織サーベイの開発を依頼することを検討している企業)

用語の定義:

  • 組織サーベイ:従業員を対象としたアンケート調査。人や組織をより良い状態にすべく実行される
  • HR事業者:企業の人事部門をクライアントとしてサービスを提供する企業
  • パッケージ型の組織サーベイ:質問項目や計算式、アウトプットがあらかじめ設定されているもの
  • オーダーメイド型の組織サーベイ:各企業の事情や背景を踏まえて、独自の質問を開発し、特定の目的に沿った分析を行うもの

当社は、企業の人事部門向けにはオーダーメイド型の組織サーベイを提供している一方、HR事業者向けにはパッケージ型の組織サーベイの開発をしています[1]

本コラムで焦点を当てるのは「パッケージ型の組織サーベイ」です。パッケージ型の組織サーベイは、HR事業者が商品として市場にリリースします。これは、企業の人事部門をクライアントにする「オーダーメイド型の組織サーベイ」との大きな違いです。

以降では、パッケージ型の組織サーベイを開発する際の流れを紹介していきます[2]。この流れは全部で15ステップから構成されており、それぞれのステップの内容について説明した後、納品物について整理していきます。

ただし、ここで示している流れはあくまで一例です。実際には、HR事業者から当社に依頼をいただいた後に調整することになります。

1. コンセプトを考える

パッケージ型の組織サーベイを開発する際、最初に取り組むべきステップは「コンセプトの検討」です。ここでいう「コンセプト」とは、その組織サーベイで何を重視するのかという核心的な問いへの回答を指します。

コンセプトは、別の言葉で表現すると「世界観」とも言えます。もしその組織サーベイが市場にリリースされ、広く受け入れられた場合、それがもたらす変化や形成される世界のイメージこそが、コンセプトなのです。

コンセプトを最初にしっかりと定義することは重要です。開発プロセスにおいて何を取り入れるべきか、何を排除すべきかの取捨選択や、どの部分を重点的に取り組むべきかの優先順位の判断など、様々な決定を下す際の基準として、コンセプトは活用されます。そのため、コンセプトは明確に言語化され、関係者と共有されているのが望ましいと言えます。

2. アウトプットイメージのたたき台を作る

コンセプトを明確にした後のステップとして取り組むのは、「アウトプットイメージ」の作成です。アウトプットイメージとは、組織サーベイの結果を通じて、何をどのような形で出力するのかを示したものを言います。

組織サーベイの結果を誰の目に触れさせるのか、それがどのような状況や場面でのものなのか、そしてそれによって受け手にどのような行動をとってもらいたいか、といったことを考慮しながら、アウトプットイメージの作成を進めます。

ただ、この時点でのアウトプットイメージは完璧なものではありません。議論や検討の材料として、一時的に作成される「たたき台」に過ぎないのです。開発の過程でのさまざまなステップを経ながら、アウトプットイメージは継続的に更新・精緻化されていきます。

アウトプットイメージは、パッケージ型の組織サーベイ開発の道標となるものです。何を最終的に出力するのかという視点は、開発の過程全体を通じて、その土台として常に考慮されなければなりません。

3. アウトプットロジックを検討する

アウトプットイメージを作成する際、その裏側には「ロジック」が存在します。アウトプットロジックとは、アウトプットイメージを出力するための計算の基盤となるものを指します。

例えば、アウトプットロジックには、どのような計算を施せば期待されるアウトプットイメージを表示することができるのかという情報が含まれています。アウトプットロジックを詳細に詰めることで、計算式や計算方法が明らかになります。ただし、詳細な検討は、サーベイの開発プロセスの後半で行います。

さらに、この段階では、アンケートの回答にかかる時間や、回答方法といった仕様についても議論する必要があります。

4. 成果指標を定義する

ここまでのプロセスで、組織サーベイの大枠を固めてきました。次のステップとして、サーベイの中身の作成に着手します。この段階での主要な作業の一つが「成果指標」の設定です。

「成果指標」とは、人や組織の目指すべき状態を示す指標を指します[3]。組織サーベイを通してどのような状態が「良い」と評価されるかを示すものです。成果指標は、組織サーベイの価値観を反映すると言えるでしょう。

例を挙げると、エンゲージメントに焦点を当てたサーベイの場合、エンゲージメントを成果指標として設定するかもしれません。ただし、何を成果指標として取り上げるかは、HR事業者の自由です。

パッケージ型の組織サーベイとして商品を市場にリリースする場合、その成果指標には独自性が求められます。他社の組織サーベイと差別化を図るために、独自の価値を持たせなければなりません。

成果指標を設定した後、それに伴ってアウトプットイメージに変更が必要になることも考えられます。そういった場合には、適宜修正を加えます。

5. 影響指標の候補を挙げる

成果指標をしっかりと定義した後のステップとして、「影響指標」の候補を挙げる作業が待っています。影響指標とは、成果指標を促進/阻害する要因を指します。

組織サーベイは、オーダーメイド型であれパッケージ型であれ、「成果指標」と「影響指標」の両方を組み込む必要があります。

ただし、ここで挙げられる影響指標は最終版ではなく、あくまで初期の候補です。これらの候補が成果指標とどのような関連性を持つのかは、エビデンスをもとに検証されていません。後ほどデータで検証を行えば、関連性が認められない影響指標が浮かび上がるかもしれません。このため、幅広く多めに影響指標の候補をリストアップします。

影響指標の候補を考える作業は、一見するとシンプルに思えますが、実際には難易度が高い作業となります。なぜなら、多岐にわたる知識を総動員する必要があるからです[4]

当社の場合、学術研究の知見を活用して影響指標の候補を挙げます。しかし、学術的な知見だけで十分ではありません。クライアントの現場での経験や知識、いわゆる「実践知」も重要です。実践知は、打ち合わせを繰り返しながら影響指標の候補を検討する中で活用されます。

6. 属性比較のための指標を考える

成果指標と影響指標の候補を挙げ終えた後、組織サーベイの中で集める「属性」の種類について検討します。ここでいう「属性」とは、主にデモグラフィックな情報、典型的には回答者の年代、役職、部門などの背景情報を指します。

属性を測定することで、各成果指標や影響指標を、それぞれの属性で比較することが可能となります。属性比較の結果は、対策のターゲットを特定するのに役立ちます。

属性は、組織サーベイで事前に設定しておくこともあれば、クライアントの特性や要望に応じて後から設定することも考えられます。

どの方法を選ぶかは、パッケージ型の組織サーベイをどのようなシステムで運用するかによっても変わってきます。しかし、どの方法でも、取り入れる属性の種類は慎重に考えます。

属性を決めた後で、アウトプットイメージに変更が必要になる場合には、修正を行います。

7. 項目を作成する

成果指標、影響指標の候補、属性について一通り出揃いました。ここで理解しておきたいのは、これまで述べてきたものが実際の質問ではなく、あくまで「概念」であるという点です。

「概念」とは、組織サーベイで測定したいと考える行動や現象、または心理的な側面を指します。一方で、「項目」とは、これらの概念を具体的に測定するための質問項目、選択肢や教示文を表します。

前のステップでは「何を測定するか」に焦点を当ててきましたが、具体的に「どのような質問を設定するか」は未定なのです。

そこで次のステップとして、質問の「項目」を作成します。妥当性、信頼性、公平性の観点を考慮しつつ、質問の品質や適切さを厳格に保証しなければなりません。項目の作成は、慎重かつ緻密に進められるべきです[5]

これまでの概念と作成する項目を、一元的にまとめます。当社では、このような情報を効率的に整理するために「概念項目表」という資料を活用しています。

8. データ収集の準備をする

成果指標、影響指標の候補、そして属性に関する項目を検討してきました。しかし、実際のエビデンスをもとに、これらの項目がどれほど適切であるのかを検証したわけではありません。この時点での項目は試作版としてみなし、まだ暫定的なものと捉えるべきです。

項目の正確さや適切さを確認するためには、項目に対する回答を集める必要があります。また、データの収集は精度の確認だけでなく、例えば、計算式を構築する上でも不可欠です。

データの収集方法として、HR事業者のクライアントに調査を行うケースや、外部のモニターを利用して調査を行うケースなどが考えられます。どの方法が最適かは、それぞれのプロジェクトの性質や要件によって異なります。

データを集めるためには、これらの暫定的な項目を使用した回答画面を作成しなければなりません。回答画面のユーザー・インターフェイス(UI)について考える、よい機会になります。ただし、こうしたデザイン作業は専門的なスキルを必要とするため、当社の責任範囲外であり、最終的なアウトプットイメージにも含まれていません。

9. データを集める

前のステップで準備した内容を元に、項目への回答を集める段階に入ります。HR事業者のクライアントに調査を行う場合、モニター調査と比べると、より多くの期間が必要となるかもしれません。しかし、どの方法であれ、必要なデータが十分に集まるまで待つことになります。

10. データを分析可能な形にする

暫定的な項目に対する回答は非常に貴重なデータとなります。とはいえ、それをそのまま分析に使用することはできません。問題のある回答が混ざっている可能性がありますし、分析が行える形にデータを整理する作業も求められます。この段階は単純に見えるかもしれませんが、分析を行う上で重要なステップとなります。

11. 概念と項目の性能を検討する

データを分析可能な形に変換したら、分析のフェーズに突入します。分析の詳しい手法や進め方は専門的な内容となるため、ここでは深く触れませんが[6]、分析を通じて実行することを2点取り上げます。

まず、事前に設定した概念と項目の組み合わせが、予想通りに機能しているかを確認します。次に、統計的な観点から、適切に機能していない項目がないかを評価します。このステップでは、概念と項目の性能に関する基本的な検討を行います。

12. 概念を取捨選択する

データを用いて行うべきことは他にもあります。概念の取捨選択です。特に「影響指標の候補」について取捨選択が必要です。

「影響指標の候補」という名前の通り、それはあくまで候補です。それらが本当に「影響指標」として妥当なのかを、データ分析の結果をもって判断します。

具体的には、成果指標と影響指標の候補との関連を検証します。この関連が確認できない場合、その候補は影響指標の定義に沿いません。そのような候補は、組織サーベイの概念リストから除外します。

概念を取捨選択する作業は、アウトプットイメージにも影響を及ぼします。状況に応じて、アウトプットイメージも適宜修正します。

13.  計算式を構築する

開発プロセスの前半で「アウトプットロジック」について検討しました。その内容を基盤として、調査を通じて得られた回答データを利用し、計算式を構築します。

「計算式」とは、アウトプットイメージを形にするための数式を指します。計算式を用いて、各概念に関する得点を精密に算出することができます。

回答データが手に入れば、数式に値を代入するだけで結果を得ることができる場合、そのような式を特に「計算式」と呼びます。

しかし、すべての計算が数式で表現できるわけではありません。場合によっては、計算の手順で示す必要があるかもしれません。それを当社では「計算方法」と称しています。計算方法を組織サーベイのシステムに取り入れる際には、手順を自動で実行するプログラムを開発していただくことになります。

計算式や計算方法が決まったら、状況に応じてアウトプットイメージを修正します。

14. 対策案を挙げる

組織サーベイは、ただ現状を明らかにするだけでなく、人や組織をより良い状態にするために実施します。サーベイ結果を基に対策を考え、実行することが望まれます。

とはいえ、日常的に結果の分析や実践を行っていない場合、サーベイ結果の数値を見ただけで、即座に対策を思いつくのは難しいものです。そのため、事前に考えられる対策案を挙げておき、サーベイ結果とともにそれを提出することで、組織サーベイの有効性を高められます[7]

しかし、当社が挙げる対策案はあくまで一つの例です。HR事業者側で、必要に応じて対策案の精査や洗練を行っていただくことになります。

15. アウトプットイメージを仕上げる

これまでの過程を経て、いよいよ最後のステップに到達しました。アウトプットイメージを仕上げるステップです。最初に作成したアウトプットイメージは、たたき台としての役割を果たしました。その後、様々なステップを経て、アウトプットイメージに修正を加えてきました。

最終ステップでは、これまでの修正や変更を踏まえ、アウトプットイメージの全体を改めてチェックします。そして体裁を整えて、アウトプットイメージを完成させます。

組織サーベイ開発の納品物

HR事業者向けにパッケージ型の組織サーベイを開発するための15のステップを見てきました。これらのステップを経て、最終的に当社がHR事業者に納品する内容を整理します。納品物は、主に次の3つとなります。

  • 概念項目表:成果指標、影響指標、属性の概念、そしてそれらを測定するための項目がまとめられています。回答画面を作成する時に、この資料が基となります。
  • 計算式・計算方法:回答を得た後、そのデータをどのように計算して、アウトプットに表示する数値に変換するのかをまとめた資料です。直接数値を代入して解けるものについては「計算式」、特定の手順が必要なものについては「計算方法」としています。
  • アウトプットイメージ:組織サーベイの開発プロセスを通じて、何度も参照し、修正を重ねてきたものです。どのような値を、どのような方法で表示させるかを確認できる資料となります。

当社にできないこと

当社が提供できるサービスの範囲と、それを超える部分についても理解していただきけると幸いです。当社が提供できないサービスは、主に次の3点になります。

  • システム開発:当社は計算式や計算方法の構築は得意としていますが、それを組織サーベイのシステムに反映させる技術は持っていません。すなわち、システム開発に関する専門性を有していません。
  • デザイン:当社は開発の中でアウトプットイメージを作ることはできますが、それは当社とHR事業者とのコミュニケーションツールとしてのもので、商品としてそのまま利用することはできません。当社はデザインに関する専門性を持つ組織ではないからです。
  • コピーライティング:組織サーベイの開発では、サービス名や各種指標の名前、説明文などの言葉を検討する必要があります。当社はこれらの暫定的な提案はできますが、コピーライティングの専門家としてのスキルは持っていません。そのため、当社の提案を基にブラッシュアップしていただく必要があります。

当社のサービスを最大限活用していただきつつ、特定の部分については他の専門家のサポートを得ていただけると、より良い組織サーベイが出来上がるかと思います。

 

参考資料

[1] パッケージ型とオーダーメイド型の違いについて、詳細は「人事のための組織サーベイ入門:従業員の心理を可視化し、データ分析に基づいて意思決定する方法」を参照してください。

[2] 企業人事向けのオーダーメイド型の組織サーベイの流れについては、コラム「ビジネスリサーチラボの組織サーベイ支援 12のステップ」にまとめています。

[3] 成果指標の考え方については「良い成果指標を定めるための4つのステップ」が参考になります。

[4] 影響指標の挙げ方については「組織サーベイの効果を引き上げる 影響指標の設定方法とチェックポイント」にまとめています。

[5] 項目作成時に気をつけるべきことをまとめた専門的なコラムとして「心理尺度の作り方・考え方:組織サーベイの質問項目作成のポイント」をご参照ください。

[6] 様々な高度な分析を実施します。そのうちの一つである項目反応理論について、コラム「項目反応理論の基礎:組織サーベイ項目の統計学的な得点配分の性能を検証する」で紹介しています。

[7]コラム「データ分析の結果をもとに対策案を導出するためのコツ」にて、当社が対策案を挙げる際に検討しているポイントを紹介しています。


執筆者

伊達洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

#伊達洋駆

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