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人事のための組織サーベイ入門:従業員の心理を可視化し、データ分析に基づいて意思決定する方法

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従業員満足度調査やエンゲージメントサーベイなど、いわゆる「組織サーベイ」を実施する企業が増えています。組織サーベイとは、従業員を対象にしたアンケート調査で、従業員の心理や行動を可視化するものです。本稿では、組織サーベイにできることや、設計時の注意点、対策に活かすためのポイントなど、組織サーベイに関する基本知識を解説します。

※本コラムは、2022年1月に開催した「人事のための組織サーベイ入門」の内容をもとに編集・再構成しています。 

 

組織サーベイには「パッケージ型」と「オーダーメード型」が存在する

組織サーベイには大きく分けて二つの種類があります。一つがパッケージ型、もう一つがオーダーメード型です。

パッケージ型は、あらかじめ質問項目や計算式がセットされており、あとは実施するだけの状態です。商品名がついている既製品です。その商品を購入することを決定すれば、規定の質問が従業員に対して配信され、回答期間が終わり、自動的に計算がなされてアウトプットが出てきます。

パッケージ型の長所は、元から質問項目と計算式がセットされているため、手軽に導入することができる点です。商品にもよりますが、パッケージ型は比較的安価に実施できます。一方、短所として、パッケージ型を導入してみたはいいものの、自社が抱える課題や目的に合っていない可能性があります。

オーダーメード型は、自社の課題に応じてオリジナルの質問項目を作り、課題や目的に沿った分析を行うものです。オーダーメード型の長所は、自社の課題や目的に合ったサーベイを行うことができることにあります。ただし短所として、パッケージ型と比較すると、工数や費用が多くなります。

また、オーダーメード型の実施には一定の専門知が必要です。内製してもうまくいきにくく、加えて、実行できる外部機関も多くないのが実態です。

 

組織サーベイは「成果指標の把握」と「影響指標の特定」ができる

組織サーベイを実施することで、一体何ができるのかについてお話します。その前に、成果指標影響指標という二つの言葉を紹介します。

「成果指標」とは、人や組織の目指すべき状態を表した指標のことです。例えば、エンゲージメントが高い状態や、会社に愛着を感じている状態などが挙げられます。

成果指標に正解はありません。何を目指すのかは、それぞれの会社で決める必要があります。例えば、エンゲージメントを高いことが成果指標であるという会社もあれば、会社への愛着を高めることが重要だ、という会社もあるように、さまざまな成果指標があり得ます。

「影響指標」は、成果指標に影響する要因を指します。例えば「うちの会社では、エンゲージメントが高いのが良い状態である」と考え、図の通り、エンゲージメントを成果指標としたとします。この場合、過去の研究を参照すれば、周囲からの支援を得られているか・仕事の裁量があるか・多様なスキルを活かす仕事にアサインされているか、といったことが、エンゲージメントに対する影響指標の候補になります。

 

成果指標と影響指標という言葉を知っていると、組織サーベイで何ができるのかが説明できます。一つ目は成果指標を把握すること、二つ目が影響指標を特定することです。

 一つ目の「成果指標の把握」ですが、自社の成果指標は今どのような状態にあるのか。目指すべき状態に対して、自社はどの程度近いのかを検証することができます。例えば「うちの会社ではエンゲージメントはどれぐらい高いのか」などが分かります。

二つ目の「影響指標の特定」ですが、自社の成果指標を高めていこうとするときに、どの影響指標が重要になるのかが分かります。重要な影響指標が分かれば、成果指標を高めるための対策が見えてきます。

例えば、エンゲージメントという成果指標を高めるために、周囲からの支援が重要であると分かったとします。すると、周囲からの支援が得られるような施策を社内で行う必要があります。

成果指標の把握と影響指標の特定の両者が揃わないと、組織サーベイの意義が薄れます。例えば、成果指標だけ分かっても、対策として何をすべきかが分かりません。逆に、影響指標だけ分かっても、今、自分たちがゴールにどの程度近いのかが分かりません。自社で実施する組織サーベイでは、両者ができているかを改めてチェックしましょう。

 

組織サーベイの設計は「成果指標の定義」と「影響指標の列挙」から始める

組織サーベイの設計について見ていきます。組織サーベイの設計では、成果指標の定義影響指標の列挙を行う必要があります。

一つ目の「成果指標の定義」ですが、自社では人や組織がどのような状態であることが望ましいかを定義します。定義は人事部内だけで行うのではなく、経営者やマネジャーと共に、丁寧に議論しながら行います。

例えば、人事部内で「会社への愛着を高めることが大事である」と定義して組織サーベイを設計・実施し、分析結果を経営者に発表したとします。経営者から「うちの会社では、従業員が仕事に打ち込んでくれればいいので、会社への愛着はそんなに要らない」と言われてしまったら、どうでしょうか。

後から成果指標の定義が覆されると大変です。設計時点で経営者やマネジャーとすり合わせすることが重要です。ここで丁寧に議論すれば、組織サーベイに対して経営者やマネジャーが当事者意識を持ってくれるという利点もあります。

二つ目の「影響指標の列挙」ですが、一つ目で定義した成果指標を促したり妨げたりする要因を考えるステップです。言葉でいうと簡単ですが、実際に行おうとすると非常に難しい段階です。

難しい理由は、影響指標の候補を挙げようとすると、二つの知識が必要になるからです。一つは実践知で、もう一つは学術知です。これら両方を用いながら、影響指標に当たるものは一体何かを考えていく必要があります。

また、打ち手がないような影響指標を挙げてしまっては意味がありません。例えば、育成担当者が、採用に関する影響指標を挙げても、権限の範囲外です。そこに問題があると分かっても、手の打ちようがないかもしれません。

そうならないために、自分たちの権限や、会社として予算を投じて対策を実行することができ、その対策によって高めることができる影響指標を挙げていかなければなりません。

 

概念の定義を明確に定め、複数の質問項目を準備する

続いて、質問項目を作る際の注意点です。前提として、質問項目を作っていく際には、概念項目を区別する必要があります。

「概念」とは、測定したいもののことを指します。例えば「エンゲージメント」「周囲からの支援」「仕事の裁量」といったものです。対して「項目」は、概念を測定するための質問項目と回答選択肢を指します。「概念を測定する項目がある」という関係になっています。

良い項目を作るためには、概念の定義を明確に定めることが重要です。例えば、成果指標としてエンゲージメントを置いた場合、エンゲージメントの定義をしっかり行うということです。

エンゲージメントと一口に言っても、「会社への愛着」を表しているのか、「仕事に打ち込むこと」を表しているのか。この二つはどちらもエンゲージメントという言葉で語られることの多い内容ですが、会社への愛着と、仕事に打ち込むことは、意味として異なります。学術的にも、会社への愛着は「組織コミットメント」、仕事に打ち込むことは「ワークエンゲージメント」と呼ばれます。

経営者は会社への愛着をエンゲージメントと呼び、人事部は仕事に打ち込むことをエンゲージメントと呼んでいるような状態だと、後で苦労します。質問項目を考えるときにも、いくつも定義があると、どんな質問にすればいいのか分からなくなります。

概念の定義を定めた後は、1つの概念につき、3つ以上の項目を準備します。複数の質問で聞くことで、測定の精度が高まるためです。複数の項目を考える上では、「その概念が高い人」の心理や行動の特徴を考えてみましょう。

ひとつ例を挙げます。「仕事エンゲージメント」という概念を測定したいとします。それに対して「仕事に熱心に打ち込んでいる」「自分の仕事に誇りを持っている」「自分の仕事に没頭している」などの形で、仕事エンゲージメントが高い人の特徴を挙げ、項目に落としていきます。

 

分析によって成果指標を把握し、影響指標を測定する

回答データをどのように分析すればよいのでしょうか。これまでのお話の中で、組織サーベイにできることとして、「成果指標の把握」と「影響指標の特定」の二つを挙げました。これらを導き出すような分析を実施しましょう。

一つ目の成果指標の把握ですが、自社が人や組織の目指すべき状態に対して、どれぐらいに近いのかを検討します。成果指標の把握においては、「比較」がポイントになります。例えば、社内のどの部署で成果指標が高いかといった部署間比較や、役職間、今年と昨年など、様々な切り口で比較を行うことができます。

このような比較を行う場合、t検定・分散分析などの統計分析をすることをお勧めします。グラフなどで一見すると平均値に差があるように見えても、統計的に意味のある差かどうかは分からないからです。

組織サーベイは、分析結果をもとに対策を講じるため、判断の誤りはできるだけ少ないほうが良いものです。統計分析をすることで、少なくとも統計分析を行わないケースよりも、判断の誤りを減らすことができます。

二つ目の影響指標の特定ですが、列挙した影響指標の候補のうち、自社ではどの影響指標が成果指標を特に高めるのかを分析します。これについても、例えば回帰分析という統計分析の方法を用いて特定すれば、判断の誤りが少しでも減らせます。

影響指標の特定はとても重要です。自社にとって重要な影響指標が分かると、どの影響指標から先に高めていく必要があるのかという優先順位が分かります。

全ての影響指標を高めていこうとすると、コストが膨大にかかります。まずどこから対策を講じていくべきなのかを考える上で、成果指標に対してどの影響指標が重要なのかを明らかにすることが有効です。

影響指標については、「伸びしろ」も意識する必要があります。例えば、下図では、5点満点のうち、周囲からの支援が4.25で、仕事の裁量が2.36となっています。

仮に、周囲からの支援が影響指標として重要だと分かったとしても、伸びしろがありません。すでにある程度支援は充実していて、この先、高めていくのが難しいということです。他方で、仕事の裁量については、まだまだ伸ばす余地があります。

このように、平均値が高いと、それ以上高めていくことが大変ですが、平均値が低いと、まだまだ伸びしろがあります。「重要でありながら、伸びしろがある影響指標」を特定し、それを高める対策を打つというのが組織サーベイの基本です。

 

組織サーベイの結果を対策につなげるための5つのポイント

最後に、対策につなげるポイントについて紹介します。

一点目は、組織サーベイを設計する段階で、経営者やマネジャーを巻き込むこと。成果指標を定義したり、影響指標を列挙したりする際に声をかけるということです。

「うちの会社の成果指標は何だと思いますか」とヒアリングしたり、一緒にワークショップやディスカッションなどを行い、アイデアを出し合ったりしてもいいでしょう。事前に巻き込んでおくと当事者意識が高まり、分析結果を出たときに、それらを受け止めやすくなります。

二点目は、分析結果を経営層やマネジャーに報告する際、まずは分析結果を見てもらい、現在、会社や従業員がどういう状態にあるかを、自分たちなりの言葉で表現してもらうことです。

いきなり対策を考えてもらうのではなく、現状の理解というフェーズを挟むと、対策を考えやすくなります。現状理解をするときに、人事と経営層、人事と現場がすり合わせを行うということも重要です。

三点目は、対策を検討する際、小さなものから大きなものまで、様々なレパートリーを挙げることです。短期的に実行できるものや、中長期的になら実行できるかもしれないというものなど、対策にも種類があります。

少数の対策しか挙がらないと、それらがなかなか実行できないという事態も生じ得ます。小さいものから大きなものまで、さまざまなレパートリーを挙げるのが良いでしょう。

四点目として、対策を講じる際、現場にいきなり「こういう対策をしてください」と言ってもなかなか動いてくれません。そこで、まずは人事部内で対策を実行してみるのが大切です。

例えば「個人面談を実施して、上司部下関係をより良好なものにしていこう」という対策を挙げたとします。それを人事部内で実施してみるのです。その上で、「普段コミュニケーションが図れない内容まで話せるようになり良かった、これを現場でもやってほしいです」と伝えると、実行される可能性が高まります。

五点目は、小さな対策でもいいので、「組織サーベイで、このような結果が出たので、こういう対策を今後講じていきます」というアナウンスを社内に出すことです。これをしないと、従業員は、アンケートに答えてもどうせ何も変わらない、という無力感を覚えます。

実際、ビジネスリサーチラボが行った組織サーベイに関するオンライン調査では、「アンケートに回答しても何も変わらないと思う」という項目に対し、半分弱ほどの人が「当てはまる」「非常に当てはまる」と回答しています。

そうした事態を避けていくためにも、分析を行ったら対策を立て、対策については、アナウンスを社内で行っていくことが重要です。

 

Q&A:参加者からの質問とそれらへの回答

Q. 組織サーベイの社内フィードバック方法について、何かポイントはありますか。

フィードバックの際によくあるのが、「そんなことは前から知っていた」という反応が出るケースです。これを防ぐには、組織サーベイを行う前の段階で「自社がどういう状態にあると思うか」を、フィードバック相手にヒアリングしておくと良いでしょう。

例えば、「うちの会社のエンゲージメントは高いと思いますか」「エンゲージメントを高めるために、何が大事だと思いますか」など、成果指標と影響指標に関する仮説をヒアリングしておきます。

その上で結果をフィードバックすると、仮説とここが違った、知らなかった新しい発見があった、という反応をいただけます。仮説と結果の突き合わせると、聞き手には楽しさも出てくるのでお勧めです。

Q. 組織サーベイを行ったら、経営や管理職批判につながる、寝た子を起こすと言われ導入できません。どのようにアプローチしたらいいでしょうか。

影響指標の対策可能性を考えると良いでしょう。経営や管理職批判につながるという心配は、対策につながらなくて不満だけが出てくるのでは、という不安に基づいているのではないでしょうか。対策につながるような影響指標があれば、こうした不安を除去できます。

社内で提案する際は「こういう影響指標を測定するのは、この影響指標が重要だとわかったときに、こういう対策を打ちたいからです。この対策であれば、うちの会社でも実施できます」というように、対策可能性の高い影響指標を挙げるようにしましょう。

Q. 個人の回答結果を人事部等に開示するような仕組みのサーベイの場合、社会的望ましさを減じる工夫についてお考えを聞かせてください。

回答結果を人事が見られる状態になっていると、回答者にはいろんな感情が芽生えて、しっかり答えてくれない、忖度してしまいます。それを少しでも減らすためには、用途をはっきりさせましょう。

この組織サーベイの分析結果を何に使うのか、どういうプロセスで用いるのか。裏を返せば、何には使わないのか、例えば評価や人事異動には使わないのであれば、事前に明確に伝える必要があります。

また、結果をもとに改善がなされるのであれば、本当のことを答えて、会社を良くしてもらおうという気持ちになります。一見遠回りに見えても、改善をしてそれをアナウンスするという積み重ねが、社会的望ましさの影響を減らすことになります。

Q. 対策の効果を把握するためのパルスサーベイが流行っていると思います。どれくらいの頻度でやることが適切でしょうか。

回答結果を受け取って、分析をして、対策を練って、実行するのに、どれぐらいの期間を要するのかを考えてみましょう。それが1週間でできるのであれば、1カ月に1回パルスサーベイを行っていってもいいと思います。

しかし、それが12カ月程度かかるのであれば、期間を少し長めに、例えば、四半期に1回などとするのが有効ではないでしょうか。

Q. 若手のサーベイ結果を管理職に説明し終わったところです。この結果をもとに、まずはチーム内で施策について対話してほしいと依頼しましたが、事務局の私としては、もっと支援しないと進む気がしません。

どういう対策が考えられるのかについて、人事部内で仮説を持っておいたほう方がいいでしょう。例えば、「こういう結果が出たなら、こういう対策が考えられる」という具合に、10個程度の対策の案を考えておきます。

すると、どこで煮詰まるのか、こういうヒントを出したほうがいいのでは、ということが分かります。一旦、自分たちで管理職に依頼したことをやってみると、必要な介入が見えてくるでしょう。


講師

伊達洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。

 

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