ビジネスリサーチラボ

open
読み込み中

コラム

アンケート以外のデータ収集方法:縦断的調査、実験室実験、生理学的指標、IAT、日誌法、経験サンプリング法の紹介

コラム

本コラムでは、学術研究で用いられる、データの測定方法について解説します。適性検査や組織サーベイなど、学術的な方法を用いてデータを集める試みが、近年は人事の領域において浸透しつつあります。その多くは、いわゆるアンケートの形式をとる「質問紙調査」と呼ばれる手法ですが、学術研究では、そのほかにも多くの方法が開発されています。

本コラムでは、質問紙の利点と限界を振り返ったうえで、限界に対処するために利用可能な方法について、最新の研究事例と共に紹介します[1]

質問紙法の特徴

質問紙法の特徴について確認します。アンケート調査とほぼ同義ですが、様々な項目を用意し、その回答をもって、回答者個人や想定する集団の傾向を確認することに用います[2] 

質問紙法は、目的や測定内容により、いくつかの種類が存在します。最も一般的なものは、同時期に多くの人に1度だけ(=横断的)、自分自身について回答を求める(=自己報告式)形式のものです。今回は、この意味での質問紙法を想定し、利点や限界を確認していきます。

横断的な自己報告式の質問紙法は、回答者と実施者の双方にとって、実施時のコストが低いという魅力があります[3]。質の良いデータを集める工夫は必要ですが[4]、調査目的に沿った測定項目を用意できれば実施可能です。他にも、個人情報の記入を求めず、非対面で回収することによって、匿名性を確保できる点も重要です。組織サーベイをはじめ、横断的な自己報告式の質問紙は多くの場面で活用されています。

利点の一方で、いくつかの限界もあります。代表例が次の3点です。

  1. 因果関係には迫れない:一時点で回答していることから、仮説として設定していた成果指標と影響指標に数値的な関連がみられたとしても、両者に別の関係性が生じている可能性を排除できません[5]
  2. 「社会的望ましさ」の影響を受ける:自己報告の形式によって、データの質が下がる可能性については、いくつかの報告があります[6]。代表的なものが、自分の本音よりも社会的に望ましい回答を選んでしまう可能性です。
  3. 記憶が変容してしまう:回答者に自身の経験を尋ねる際、単に思い出せないだけではなく、当時の様子とは違いが生じる可能性が指摘されています。

上記の限界を踏まえて、それを補う測定方法が開発されています。以降では、その具体例を、研究事例を交えて紹介します。

因果関係に迫る測定方法

まず、「①因果関係について迫れない」という限界に対応することを目指す方法です。前提として、因果関係の有無を示すためには、いくつかの条件を満たす必要があります[7]。横断的な測定では、それらの条件を十分に満たすとは言えないのです。

想定した成果指標と影響指標が、原因と結果の関係にあるのかどうか、より検証を深める必要があります[8]。具体的には、縦断的な調査実験室実験による方法が挙げられます[9]

縦断的調査

縦断的な調査とは、同じ回答者に、時間をおいて複数回の回答を求める方法です。先に影響指標を測定し、時間的に後の回答機会で成果指標に関する項目を測定することで、一時点で回答を求めた場合に比べて、原因と結果の関係にあるのかを測定することに近づけることができます。

例えば、中国の製造業に従事する社員を対象に、コーチングの効果を検証した研究[10]があります。他の多くの研究が、上司によるコーチングが部下に及ぼす影響を検討するなかで、この研究は、上司が行うコーチングが、自分自身に及ぼす効果について検証しており、興味深い内容です。

この研究では、最初のアンケートと、その1か月後に行った2度目のアンケートの結果を用いています。分析の結果、上司が最初のアンケートで評価した役割による負荷の大きさが、2度目のアンケートで回答した疲労感に影響することが示されました[11]。つまり、コーチングに積極的な上司は、そのことが原因で「仕事が多い」と負担が増えて、それによって疲れたりする傾向があったのです。

実験法

実験法では、仮説を検証する側が様々な手続きを用いて、想定する影響指標の程度が異なる条件を用意します。もし、影響指標の程度に応じて、成果指標に一定の変化が現れるなら(例えば、影響指標を高めた条件では成果指標が低い、あるいはその逆など)、影響指標が成果指標に一定の効果を持っている可能性を示すことができます[12]

例えば、「朝に運動することで、仕事パフォーマンスが高まる」という仮説を検証するとします。検証方法の1つとして、一定期間「朝に運動する条件」と「運動しない条件」を設定して従業員をランダムに割り振り、実験前後でパフォーマンスを比較する方法を取ります。

これにより、参加者がもともと朝に運動する人かどうかに関わらず仮説検証を行うことができます[13]。また、参加者を2つの条件にランダムに割り振ることは、パフォーマンスに影響する他の要因の効果を(例えば、色々なことに積極的に取り組む度合い)、2つの条件で同程度にそろえることにつながるので、より厳密な検証ができます[14]

具体例として、上司が部下に対して、少ない報酬で仕事を与える、あるいは長時間の労働を強いるといった搾取的な対応をとる原因を検証した研究があります[15]。研究の結果としては、部下が熱心に働くほど、上司は搾取的な対応をとる可能性があると報告されています。この研究では、どのような方法を用いたのでしょうか。

まず、参加者を二つの群に分けます。一方の群には、「熱心に自分の仕事に取り組む」ような仮想の人物の説明を、もう一方の群には、「あまり熱心に働かない」仮想の人物の説明をしました。その上で、それぞれの群に同じ質問を用意して、「搾取的なアサインメント」をどの程度するかを測定したのです。

その結果、より熱心に働いている人の説明を受けた群の参加者の方が、もう一方の群に比べて、より搾取的な対応をとる程度が高いことが分かりました。つまり、部下が熱心に働く程度が異なる場合、搾取的な対応をとる程度に違いが生じると考えられます。

社会的望ましさに対処する測定方法

続いて、「②『社会的望ましさ』の影響を受ける」ことに対処する測定法を紹介します[16]。この限界の原因の1つは、回答者が測定概念と関係しない意思を回答に反映できることです。真剣に考えて回答してもらうことは重要ですが、「望ましい回答をしよう」と歪んでしまうと、回答者の考えや特徴を正確に知ることができません。

そこで提案されたのが、回答者の思考した内容を反映せずとも、個人の特徴を測定する方法です。例えば、生理学的指標と、IATImplicit Association Test;潜在連合テスト)があります。

生理学的指標

生理学的指標とは、脳波や心拍など、身体的な反応を測定するものの総称です。これらの方法を用いると、言葉による質問や回答に頼らずにデータを得ることが可能であるため、回答者の意図による回答の歪みが抑えられます。近年、性格や思考といった心理的な現象を検証するために、多くの研究で生理学的指標が用いられています。

生理学的指標に関する研究例として、仕事のパフォーマンスと、概日リズムの関係を検証したものがあります[17]。概日リズムとは、いわゆる体内時計のことで、人が生物として、日中は活動し夜は眠るという1日の流れを持っているということです。研究では、本来寝ている時間に働く夜勤の際に(つまり概日リズムと不一致な活動時に)、認知的なパフォーマンスが落ちるという結果が報告されました。

この研究では、まず「アクチグラフ」という専用の機械を参加者に装着してもらい、日中の活動量や実験以前の3日間の睡眠時間を測定しています。これは、研究者が直接確認できない生活環境で、概日リズムに沿って活動していたか、そして、十分な休息を取っていたかを確認し、実験の条件を整えるためです。アクチグラフを用いたことで、自己報告に頼らずに測定できています

また、実験室で課題をこなす合間には、体温や心拍数といった生理学的指標も併せて測定しています。分析の結果、深夜にかけて体温や心拍が低下するのと連動して、パフォーマンスも低下することが確認されました。このことから、2つの指標が、パフォーマンスを予測するのに適した指標であると主張されています。

IATImplicit Association Test;潜在連合テスト)

IATとは、「潜在連合テスト」という日本語訳に表れているように、本人が意識化できていない(つまり「潜在」的な)回答者の特徴を、特別な手続きを用いてあぶりだす方法です。ここでは、パソコンを用いて実施する場合を想定して、その手続きについて、図を挙げながら紹介していきます[19]

上の図のように5つの単語を並べて提示します。そのうえで、「ターゲット語」として提示された1つの単語が、2つの単語を組み合わせて示された「分類」のどちらにより近いと思うか、選んで回答します。パソコンのキーを「分類」に一つずつ割り当てて、どちらかのキーを押すことで回答できるようにします。

この作業を何度か繰り返した後、途中で「分類」を形成する単語を入れ替えて(図の例では、「他人+好き」と「自分+嫌い」に入れ替える)、同様の作業を繰り返します。そして、測定者は回答時間を記録します。

これらの手続きのうち、「分類」の作成方法に工夫があります。その詳細は、データ分析の行程と併せて紹介します。分析では、途中で入れ替えた「分類」の単語のセットのうち、どちらの組み合わせの時に、ターゲット語への回答時間が短いかを比較します。

もし一方の組み合わせの回答時間が、逆のときよりも短い場合、回答者にとってはその組み合わせが自然で、判断にかかる負荷が少ないと考えられます。つまり、回答時間が短かった単語同士の組み合わせに合致した思考やイメージを、回答者が持っていると推定することができるのです。

IAT の研究例として、組織の多様性に関する施策が、組織のパフォーマンスに及ぼす効果を検討したものがあります[20]。具体的には、アメリカの体育協会に所属するチームが行う、セクシャルマイノリティ(以下、LGBT)への支援に注目したものです。

研究では、IATが、チームのメンバーがもつLGBTへの偏見の度合いの測定に用いられています。偏見を持っていない方が社会的に望ましいため、自己報告の形式では回答に歪みが生じると予想されます。これを防ぐため、主観を反映しにくいIATが用いられています。

分析の結果、チームのメンバーが偏見を持っていない場合、チームがLGBTを積極的に支援するほど、第三者機関によるチームのパフォーマンスの評価が高いことが確認されました。

記憶の変容に対処する測定方法

最後に、「③記憶が変容してしまう」ことに対処する測定方法を紹介します。人の記憶は、記憶する段階や保存している過程、あるいは思い出すときの状況が影響して、様々に変容します。認知心理学による実験や、法学の証言などをうけ、記憶の扱いには、学術研究でも長らく注意が払われてきました。

近年は技術的な進歩により、ほぼリアルタイムで行動のログをとることも可能になってきました。それらのなかから、学術的に用いられている方法として、日誌法・経験サンプリング法について解説します。

日誌法あるいは経験サンプリング法

日誌法と経験サンプリング法はどちらも、検証したい出来事の有無や心情の変化について、日常生活を送る中で記録・測定する方法です。回答者は、測定の開始時点に研究目的などの説明を受け、普段通りの生活を送ります[21]。数週間から数か月程度の期間で測定を行い、生活中に起きた出来事や感情の変化などを、あらかじめ決めておいた体裁に沿って記録していきます。

2つの方法の違いは、体験を測定するタイミングです。日誌法では、回答者へ記録用紙等を事前に渡しておいて、半日毎や1日毎といった一定のペースで記録を求めます。一方、経験サンプリングでは、事前に提出してもらったメールアドレス等によって、一定のペース、あるいはランダムなタイミングで、測定者側から回答者に通知を送ります。回答者は、通知を受けた時点からなるべく早く、指定された質問内容に回答を行います。

経験サンプリングの研究例として、テレワークにおけるオンライン会議が、疲労感に及ぼす効果を検証したものがあります[22]。結果として、オンライン会議の時間や頻度よりも、カメラを有効にし、自分の姿が見えるかどうかが、疲労感に影響することが報告されています。

この研究は、テレワークの浸透した企業に勤める従業員を対象にしています。従業員は、日常業務を送る傍らで研究に参加し、参加期間中は毎日、「オンライン会議があったか」を研究者に報告しました。そして、会議があった場合には、カメラをオンにしたかどうか、会議の時間、および、その日の疲労感とともに報告しています[23]

方法の限界

質問紙の限界点に対応する測定法を紹介してきました。ただし、これらの方法についても、やはりいくつかの限界があります。コスト、侵襲性、生態学的妥当性という3つの観点から考えていきます。

コスト:厳密な測定方法ほどコストがかかる

最初の限界点は、コストです。横断的な自己報告式の質問紙法には、コストが低いという利点がありました。それに比べると、本コラムで挙げた測定法は、いずれも実施コストが大きいと言えます。

測定を行う側と回答者の双方にとって、データ測定に関わる人的コストが求められます。例えば、縦断的に調査を行う場合、回答者は複数回にわたって回答する必要があります。測定者も、個人情報や匿名性に気を付けながら、それらのデータを紐づける必要があります。そのため、データ管理や分析手法も複雑になります。日誌法と経験サンプリングが、その最たるものといえるでしょう。

また、実験法、生理学的指標、IATも、1度の機会とはいえ、拘束される時間としては比較的長くなります。もちろん回答者によって事情は異なりますが、特にビジネスパーソンを対象としたデータを収集する場合、所要時間は実施上のボトルネックになり得ます。

人的コストとは別に、金銭的なコストも考えられます。例えば、生理学的指標や実験法では、特定の環境を再現するために、実験室や機材を整備する必要があります。近年は機材の低価格化が進んできたものの、日常的に使う用具で代替しにくいため、経費がかかります。

侵襲性:倫理的な配慮が必要

次の限界点は、「侵襲性」です。これは、たとえば過去の辛い経験などを尋ねた場合など、回答者に生じる心理的に負担をすることを指します[24]。横断的な自己報告式の質問紙では、例えばトラウマティックな体験などを尋ねる場合を除いて、その多くは侵襲性が低いと考えられます。

一方で、生理学的指標や実験法で用いる器具の中には、視覚や聴覚などの五感に対する刺激を与え、その反応を測定するものがあります。そのような場合、侵襲性の程度について丁寧に確認することが必要になります。

生態学的妥当性:厳密さと現実らしさのバランスをとる

最後の限界点は、「生態学的妥当性」と呼ばれるものです。これは、測定側が集めたデータや分析結果、あるいは、測定の手続き自体が、本来の現象をきちんと反映できているか、その程度を指すものです[25]

例えば、業務の進め方を事前に計画することが、提出する資料の出来によい効果をもたらすかを、実験法によって検証するとします。もし、この実験の設定が、1つの業務だけが与えられていたり、作業に集中できるように専用の個室を与えられていたら、「それでよいだろうか?」と疑問に思いませんか。

実際には、好まずとも業務を並行して進めざるを得ない状況は起こりえますし[26]、オフィスワークでは作業環境を自由に変えられない従業員も少なくないでしょう[27]。このように、現象を反映していない検証の設計では、生態学的妥当性が低くなります。

測定方法の生態学的妥当性が低いと、得られた結果が実際の場面と一致していない可能性があります。これでは、結果から考案した施策も、意味の薄いものになりかねません。

本コラムで紹介した測定法の中では、特に実験法や、生理学的指標、IATを用いる際、生態学的妥当性を検討する必要があります。それらの方法では、特別な環境を設定するためです。測定結果をゆがめる要因(社会的望ましさなど)の影響を極力取り除くため、いわば人工的な環境を作る必要があり、実際の環境とかけ離れるリスクがあるのです。

とはいえ、生態学的妥当性の問題は、すべての測定法に言えることでもあります。例えば、質問紙法は、回答者が実際に経験したことの報告を求めているため、生態学的妥当性が比較的高いといえますが、心理尺度などの「項目」に沿って回答を求めると、当時の細かい状況がそぎ落とされた限定的な内容で、現象を理解することになります。

データ測定としての厳密さと、日常的な場面を反映できているかという生態学的妥当性は、部分的にトレードオフの関係になっています。データを用いて現象を理解しようとする場合には、一度の検証で満足せずに、多角的に検証を行うことが重要です。

おわりに

本コラムでは、質問紙調査をはじめ、いくつかの測定方法を紹介してきました。重要なことは、いずれの測定方法にも優れた点と限界点があるということです。そこで、異なる測定方法を組み合わせて実施することが有効です。

例えば、段階を分けて組み合わせることができます。仮説が明確ではない段階では、まず横断的な質問紙を実施して、あたりを付けます。その後、特定の成果指標と影響指標に注目し、日誌法や実験法を用いて、より測定の精度を上げて検証するのです。

さらに、より高度な測定を行う例もあります。あるグループには新しい方針で仕事を進めてもらい、従来の方法で仕事を進めてもらった別のグループと比較するという、フィールド実験の手続きをとる例です。この期間中に、日誌法や経験サンプリング法を併せて実施することで、最終的な成果指標の比較だけでなく、過程で生じた感想なども知ることができます。

このように、それぞれの測定方法の特徴を踏まえ、多角的・段階的に検証を進めていくことが、データ分析を活かす上では重要です。

 

脚注・引用文献

[1] 質問紙に限らず、収集したデータに対して、様々な分析手法を実施することで、実態の把握や想定した仮説の真偽を確かめることができます。本コラムでは、データの取得に限定して紹介しますが、分析の方法に関しては当社の他コラムを参照ください。

[2] 学術研究では「個人についての様々な種類の情報を研究者が収集するために使用する項目の集合」と表現され、採用する質問項目の精度などの研究もおこなわれています。例えば次の論文が参考になります。

小塩 真司 (2016). 心理尺度構成における再検査信頼性係数の評価「心理学研究」 に掲載された文献のメタ分析から 心理学評論, 59(1), 68-83.

[3] 一方で、15分を超えると、回答者は「煩わしい」と感じることが、ビジネスリサーチラボの調査で確認されています。できる限り15分以内に回答できる分量に収めるよう、調査目的や測定内容、回答方法を調整することが望ましいといえます。

[4] どのような工夫をすることで、調査のデータの質を高めることができるかについては、ビジネスリサーチラボの他のコラムをご参照ください。例えば、次のようなコラムがあります。

[5] 例えば、原因と結果が逆転している可能性(逆因果)や、第三の変数による見かけの関係である可能性(偽相関)が残ります。

[6] 例えば、段階的な選択肢の中で「中間」を選ぼうとする傾向や、回答に際して「十分に注意資源を割かない行動」とその検出方法などが検証されています。

  • 増田 真也・坂上 貴之 (2014). 調査の回答における中間選択原因, 影響とその対策 心理学評論, 57(4), 472-494.
  • 三浦 麻子・小林 哲郎 (2016). オンライン調査における努力の最小限化 (Satisfice) を検出する技法――大学生サンプルを用いた検討――. 社会心理学研究, 32(2), 123-132

[7] 高比良 美詠子・安藤 玲子・坂元 章 (2006). 縦断調査による因果関係の推定――インターネット使用と攻撃性の関係―― パーソナリティ研究15(1), 87-102.

[8] 実際には、これら2つの方法を用いたとしても、因果関係を立証できたとは言い切れません。しかし、横断的な調査よりも、実証の精度を一段高めることができます。

[9] 因果関係については、次のコラムも参考になります;因果関係とはなにか? 相関関係との違い・検証方法

[10] She, Z., Li, B., Li, Q., London, M., & Yang, B. (2019). The double‐edged sword of coaching: Relationships between managers’ coaching and their feelings of personal accomplishment and role overload. Human Resource Development Quarterly, 30(2), 245-266.

[11] この研究では着手されていませんが、高比良他(2006)でも述べられているように、因果関係をより厳密に検証するためには、最初のアンケートでも疲労感を測定し、その効果を考慮した分析を行うことが望ましいです。詳細は、当社のコラム「統制とは何か」を参照ください。

[12] 実験法については、より細かい分類もなされています。例えば、普段の作業環境とは異なる専用の部屋(いわゆる実験室)を用意して検証するものを「実験室実験」と呼びます。また、本項で示した具体例のように、仮想的な場面を示すことによって検証するものを「場面想定法」と呼びます。そして、極力普段通りの生活を送りつつ、影響指標に関わる特定の環境のみを変えて検証するものを「フィールド実験」あるいは「準実験」と呼びます。後述する「日誌法あるいは経験サンプリング法」の研究例は、フィールド実験の一例でもあります。

[13] 質問紙法の場合、横断的あるいは縦断的なものであっても、もし「朝に運動している人」がいなかった場合は、仮説検証を行うことができません。

[14] このような手続きを「統制」と呼びます。統制により、例えば「積極的に取り組む程度」がパフォーマンスに強く影響して「朝に運動をしていること」は効果がない可能性などを考慮して検証できます。質問紙法でも統制は可能ですが、事前に影響指標が想定できている必要があり、分析も複雑になります。詳細は、前出の当社のコラム「統制とは何か」を参考ください。

[15] 次の文献のうち、研究3を紹介しています;Kim, J. Y., Campbell, T. H., Shepherd, S., & Kay, A. C. (2020). Understanding contemporary forms of exploitation: Attributions of passion serve to legitimize the poor treatment of workers. Journal of personality and social psychology, 118(1), 121-148.

[16] ここで挙げた方法のほかに、アンケートの中に「社会的望ましさが働いている程度」を測定する項目を、調査目的に関わる項目とは別に組み込む(=統制する)方法もあります。しかし、回答を修正できる程度にも限界が報告されている他、例えば、組織サーベイで導入する場合に、社員に「信用されていない」と受け取られる可能性があるなど、使用には注意が必要です。詳細として、以下の論文が参考になります;登張 真稲 (2007). 社会的望ましさ尺度を用いた社会的望ましさ修正法――その妥当性と有効性―― パーソナリティ研究, 15(2), 228-239.

[17] Morris, D. M., Pilcher, J. J., Mulvihill, J. B., & Vander Wood, M. A. (2017). Performance awareness: Predicting cognitive performance during simulated shiftwork using chronobiological measures. Applied ergonomics, 63, 9-16.

[18] なお研究では、参加者自身による自己報告も併せて回収しており、その回答結果とアクチグラフの測定結果に矛盾がないことを確認しています

[19] IATは、コンピューターによって分類用紙を示す方法と、印刷された用紙を用いる方法が提案されています。より詳細な方法については、次の論文が参考になります;潮村 公弘 (2015). 潜在連合テスト (IAT) の実施手続きとガイドライン――紙筆版 IAT を用いた実習プログラム・マニュアル―― 対人社会心理学研究, 15, 31-38.

[20] Cunningham, G. B., & Nite, C. (2020). LGBT diversity and inclusion, community characteristics, and success. Journal of Sport Management34(6), 533-541.

[21] 測定の開始以前とは異なる生活を送るよう求める場合もあります。例えば、回答者本人が抱える問題行動を改善することを目指した介入実験では、日常生活の中で対策を実践してもらうことになります。その効果を厳密に測定するためにも、日誌法や経験サンプリングは使用されます。

[22] Shockley, K. M., Gabriel, A. S., Robertson, D., Rosen, C. C., Chawla, N., Ganster, M. L., & Ezerins, M. E. (2021). The fatiguing effects of camera use in virtual meetings: A within-person field experiment. Journal of Applied Psychology, 106(8), 1137-1155.

[23] この研究では、研究者が企業側と連携しており、日常業務の中でデータ測定を行うことが合意されています。さらに、実験的な手続きとして、意図的にカメラをオン/オフにする条件を、業務に支障のない範囲で従業員に課しています(例えば、クライアントとのウェブ商談では、研究の条件を適用していません)。

[24] 学術研究では、侵襲性を「心的外傷に触れる質問等によって、研究対象者の精神に傷害又は負担が生じること」と定義し、当該の研究にどの程度の侵襲性があったかを測定する心理尺度の開発も進められています。詳細は次の論文が参考になります;奧山 滋樹・高木 源・小林 大介・坂本 一真・若島 孔文 (2016). 侵襲性尺度の開発の試み――信頼性・妥当性およびカットオフ値の検討―― 東北大学大学院教育学研究科研究年報, 65(1), 147-156.

[25] 生態学的妥当性は、学術研究の中で盛んに議論されているテーマです。例えば、その研究史や、生態学的妥当性を測定するツールを開発した論文もあります。

  • Schmuckler, M. A. (2001). What is ecological validity? A dimensional analysis. Infancy, 2(4), 419-436.
  • Naumann, S., Byrne, M. L., de la Fuente, A., Harrewijn, A., Nugiel, T., Rosen, M., van Atteveldt, N., & Matusz, P. J. (2022). Assessing the degree of ecological validity of your study: Introducing the Multidimensional Assessment of Research in Context (MARC) Tool. Mind, Brain, and Education, 16(3), 228-238.

[26] マルチタスクを好むかどうかについては個人差があるものの、マルチタスクが発生すること自体には本人の好みに関係がないことが、次の論文から確認できます;Vveinhardt, J., & Sroka, W. (2022). What determines employee procrastination and multitasking in the workplace: personal qualities or mismanagement. Journal of Business Economics and Management, 23(3), 532-550.

[27] オフィスでのフリーアドレスの占有率が約60%に高まっているという調査結果や、近年の「個室型ワークスペース」の需要の高まりは、オフィスワークでの作業環境に残る不自由さの裏返しと言えるでしょう。次の記事が参考になります;

 

執筆者

黒住嶺

株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー。学習院大学文学部卒業、学習院大学人文科学研究科修士課程修了。修士(心理学)。日常生活の素朴な疑問や誰しも経験しうる悩みを、学術的なアプローチで検証・解決することに関心があり、自身も幼少期から苦悩してきた先延ばしに関する研究を実施。教育機関やセミナーでの講師、ベンチャー企業でのインターンなどを通し、学術的な視点と現場や当事者の視点の行き来を志向・実践。その経験を活かし、多くの当事者との接点となりうる組織・人事の課題への実効的なアプローチを探求している。

#黒住嶺 #人事データ分析

社内研修(統計分析・組織サーベイ等)
の相談も受け付けています