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組織サーベイの質問項目を洗練する:良い項目と悪い項目の見分け方(セミナーレポート)

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ビジネスリサーチラボは、20247月にセミナー「組織サーベイの質問項目を洗練する:良い項目と悪い項目の見分け方」を開催しました。

組織サーベイは、従業員の現状や対策すべきポイントをデータドリブンに見出す有効な取り組みです。しかし、測定する質問項目ひとつひとつの作りが甘いと、分析結果に深刻な影響を及ぼし、サーベイを実施した意味が失われてしまいます。

本セミナーでは、悪い項目が生み出す問題点を統計的・実務的な観点で整理し、その見分け方や良い項目を作るコツについてお伝えします。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

はじめに

本題に入る前に、本日のセミナーで用いる用語「概念」「定義」「項目」について整理しておきます。

「概念」はサーベイで測定する事柄を一言で表したラベルを指し、「定義」はその概念が何を意味するかを説明する文章です。

「項目」は、実際にアンケートで測定される質問内容を指します。

次に、本日の解説では「概念を捉える項目は複数用意するのが良い」という前提があることを押さえてください。

サーベイでデータを集める際、一つの概念に対して複数の項目を用意し、その回答を平均などで合算して得点を算出する方法が、有効で望ましいとされています。

本日は、上記の表のように「ある概念を測定する際、複数の項目を用いる」ことを想定して、以降の解説を進めていきます。

良い項目が持つ2つの特徴

本日の話題の良い項目・悪い項目を取り上げるにあたって、まずは「良い項目とは何か」を整理していきます。

良い項目とは、2つの特徴を満たす項目といえます。

  • 概念の定義に沿った内容を質問していること

これは、項目が概念の定義を適切に反映していることを意味します。

この中には、さらに「一つ一つの項目が、概念の定義と一致しているかどうか」と「複数の項目全体が、その定義を包括的かつ網羅的に捉えているかどうか」の2側面があります[1]

  • 項目への回答から算出される得点が、個人差を正確に反映していること

これはやや抽象的な話になりますが、項目への回答から算出された得点が、概念の状態や実態を正確に表していることを意味します。

例えば、仕事のやる気を測定する場合、やる気がある人では高得点、やる気がほどほどの人では中程度の得点、やる気がない人では低い得点となっているならば、得点がやる気の状態をうまく表していると言えます。

やる気に関する個々の違いを得点の高低が反映している、これが「個人差を反映する」ということです。

これらの特徴を備えた良い項目で測定すると、測定したい概念の実態をうまく捉えたデータが得られます。

そのデータを分析することで、組織の実態に合った集計・分析ができ、適切な意思決定につながる結果が得られるわけです。

「悪い項目」が生み出す問題

続いて「悪い項目が生み出す問題」について、そのような項目で測定した場合にどのような事態が生じるのか解説します。

悪い項目が生み出す問題を大まかに整理すると、良い項目でデータを測定した場合と逆の展開となります。

つまり、悪い項目で測定すると、測定したい概念と違った事柄のデータが得られ、そのデータを分析すると、実態とは違った集計・分析結果が得られてしまいます。

結果を解釈する際はその問題に気づきにくく、実態と違った結果をもとに誤った意思決定をしてしまうかもしれません。

この問題を細かく見るため、よく見る悪い項目パターン3種を取り上げ、「何が悪いのか」と「どういった問題が生じるか」をセットにして見ていきましょう。

なお、以降で挙げる悪い項目パターン3種は「『熱意をもち、集中して業務に取り組んでいること』と定義した仕事のやる気を測定するためのもの」という設定です。

1.定義に合っていない質問をしている

最初の悪い項目例は「定義に合っていない事柄について質問している」パターンです。

このパターンは、例えば以下のような項目で仕事のやる気を測定しています。

なお、アンケートへの回答は、各項目に対して「1:まったくあてはまらない,2:あてはまらない,3:どちらともいえない,4:あてはまる,5:とてもあてはまる」で答えていただく構成を想定しています。

【以下の内容は、普段のあなたにどの程度あてはまりますか】

  • 仕事に熱意を感じている
  • 上司との関係は良好である
  • 私の職場は働きやすいと思う

これらの項目のうち、最初の項目は定義通り「仕事への熱意」を質問しており問題ないのですが、2つ目の項目は「上司との関係」、3つ目の項目は「職場の働きやすさ」と、定義「熱意をもち、集中して業務に取り組んでいること」と異なる事柄を質問しています。

このように、定義に合っていない事柄を質問している項目は、悪い項目の代表例です。

定義に合っていない項目で測定した場合に生じる問題は2つあります。

ひとつは、算出される得点が実態を反映しなくなり、その得点を解釈した結果、現状把握を誤る可能性が生まれます。

例えば、仕事に対するやる気が実際にある人が回答する場面を考えてみましょう。

これらの項目のうち、2つ目の項目「上司との関係は良好である」と3つ目の項目「私の職場は働きやすいと思う」については、やる気の高さと関係なく、上司との関係性や職場環境で回答が行われます。

確かに、やる気が高い人の中には上司との関係の評価が高く、働きやすい職場だと感じている人もいるでしょうが、そうでない人も十分にいると考えられるわけです。

定義と異なる事柄を質問する項目は、測定したい概念とは関係のない理由で回答が変わるため、その回答から算出される得点は、測定したい概念の実態と異なるものになってしまいます。

もうひとつの問題は、算出した得点で相関分析など関連性の分析をした際、関連の強さが過小評価されることです。

関連性の分析とは、二つの指標の関係性や、ある指標が他の指標にどのくらい影響を与えるかを評価する分析を指します[2]

この分析はとても有効な手法ですが、定義と異なる事柄を質問する悪い項目でデータを取ってしまうと、その分析で示される関連の強さが小さくなる問題が生じるのです[3]

関連の強さが小さく評価されると、サーベイで示されるはずだった有効な打ち手を見落とす可能性が高まります。

例えば、仕事のやる気を高めることを目的にサーベイを実施し、「仕事のやる気の高さと強く関連する指標を探る」ために、関連性の分析の一種である相関分析を実施したとします。

ここで、仕事のやる気について定義と異なる事柄を質問した悪い項目で測定すると、相関分析で示される関連の強さの指標(相関係数)が小さめに算出されます。

そのため「仕事のやる気との関連性が弱い」という結果が示されやすくなりますが、その結果を解釈する際はその問題を考慮せず、「分析で関連が弱いと示されたのだから、仕事のやる気との関連は実際に弱いのだろう」と解釈するでしょう。

もし「測定がうまくいっていないせいで関連が弱く計算されただけ」ならば、有効な打ち手を見落としていることになります。

良い項目で測定していたら把握できたはずの有効な打ち手が、悪い項目で測定したために見過ごされてしまう可能性が高まるわけです。

このように、定義と異なる項目で測定したデータで指標の得点を算出すると、その後の分析にも悪影響を及ぼし、有効な打ち手を見過ごさせ、サーベイの意義が失われる恐れがあります。

2.ひとつの項目で、複数の事柄や仮定を含む質問をしている

二つ目の悪い例は「ひとつの項目の中で、複数の事柄を質問したり、仮定を含んだ文章で質問している」パターンです。

このパターンは、仕事のやる気に対して、以下のような項目を用いて測定がされます。

【以下の内容は、普段のあなたにどの程度あてはまりますか】

  • 仕事に対して、情熱を感じている
  • 熱意をもって仕事に取り組んでおり、仕事に無我夢中になる
  • 集中できる仕事を任されたら、モチベーションがわいてくる

これらの項目について、2つ目の項目は「熱意を持って仕事に取り組んでいる」ことと「仕事に無我夢中になる」ことの2つの事柄について質問しています。

ひとつの項目の中で複数の事柄を質問したものはダブルバーレル項目と呼ばれ、悪い項目の代表例です。

また、3つ目の項目は「集中できる仕事を任されたら」と英語のifのような仮定を含む質問になっており、これも避けた方が良い項目例となります。

複数の事柄や仮定を含んだ項目で測定したとき、生じる問題は2つあります。

ひとつは、最初の悪い項目と似ており、算出される得点が実態を反映しなくなり、現状把握を誤る可能性があることです。

このパターンでは、特に「あてはまる」など肯定的な回答をする人で回答がおかしくなる特徴があります。

例えば、仕事のやる気が高い人が2つ目の項目に回答する際、「仕事には熱意を持って取り組んでいる自信があるが、無我夢中かと言われると、そこまででもない」と考えるかもしれません。

このように、複数の事柄をひとつの項目内で質問すると、一方にあてはまるがもう一方にあてはまらない場合、回答に困ってしまいます。

その際、ある人は「何とも言えないから、どちらともいえない“」を選ぶかもしれませんし、「とりあえず熱意はあるからあてはまる」と答えるかもしれません。

あるいは、「質問全体を肯定できないからあてはまらない」を選ぶ可能性もあるでしょう。

このように、「困った際にどのように回答するかの個人的判断」という仕事のやる気の定義とは関係のない理由で、回答が歪んでしまうのです。

同じような問題は3つ目の項目「集中できる仕事を任されたら、モチベーションがわいてくる」でも生じます。

というのも「そもそも、集中できる仕事を任される機会がない」人は、この質問に回答しようがないのです。

仮定を含む質問では、仮定を満たすことがない人が回答に困ってしまい、「そもそもその状況がありえないからどちらともいえない/あてはまらない」を選ぶかもしれませんし、「その状況があったと仮定するなら、熱意は出そうだからあてはまる」と答えるかもしれません。

この項目でも、「仮定を満たさない質問をどう考えて回答するかの個人的判断」という、仕事のやる気の定義とは関係のない理由で回答が歪む問題が生じます。

こうして、ひとつの項目内で複数の事柄や仮定を含む質問をすると、仕事のやる気の大きさと関係がない理由で回答が変わります。

その結果、やる気の高さの高低に対応しない回答がされてしまい、その回答を合算して得られる得点は、やる気の高さの実態を反映しなくなるわけです。

また、このパターンの悪い項目が生むもうひとつの問題は、最初のパターンと同じく、算出した得点で関連性の分析をした際、関連の強さが過小評価されることです。

関連性の分析における過小評価は、概念と関係のない理由で回答がぶれることで生じるため、二つ目のパターンでも同様の問題が起きるわけです。

先ほど確認した通り、関連の強さが過小評価されると有効な指標を見落とす可能性が高まり、サーベイの意義を損ねる重大な問題となります。

3.定義を拡大解釈した事柄を質問している

最後の悪い項目例は「定義を拡大解釈した事柄を質問している」パターンです[4]

このパターンは、仕事のやる気に対して、以下のような項目の質問をしがちです。

ここで再確認ですが、仕事のやる気の定義は「熱意をもち、集中して業務に取り組んでいること」です。

【以下の内容は、普段のあなたにどの程度あてはまりますか】

  • 集中して仕事に取り組んでいる
  • 仕事のやり方を工夫している
  • 自分の仕事が好きである

このパターンは、仕事のやる気の定義を超えて、やる気が高い人が持つ特徴について質問している点に問題があります。

例えば、2つ目の項目の「仕事のやり方を工夫」は、確かにやる気が高い人は仕事に対する工夫をすることが多いかもしれませんが、「やり方を工夫する行為はやる気なのか」と考えると、判断が難しいところがあります。

同様に、3つ目の項目の「仕事が好き」も、仕事にやる気がある人の多くが感じることかもしれませんが、「仕事が好きなことはやる気なのか」と考えると、こちらも判断が難しいところです。

項目を概念や定義と照らし合わせて考えてみると、質問している事柄が定義通りといえるかは難しいところがあり、定義を拡大解釈した項目だと見えてきます[5]

このパターンの悪い項目で測定したとき、生じる問題は2つあります。

ひとつは、算出される得点の意味が、測定したい概念を超えたものになることです。

定義を拡大解釈した項目を含めて得点を算出すると、その得点は、当然ながら定義を超えた様々な特徴を含むことになります。

先の例では、仕事のやる気の項目として「集中して仕事に取り組む」「仕事のやり方を工夫」「仕事が好き」といった事柄を質問していました。

これらを平均などで合算して得られる得点は、仕事のやる気の定義を超えて、ポジティブな特徴を多様に含むものになっています。

言い換えると、「ある特定の概念を捉えているというより、総合的になんとなく良い状態の度合いは捉えている」ような得点になってしまうのが、この悪い項目パターンの特徴となります。

概念のラベルは「仕事のやる気」ですが、その中身は「様々な良い事柄を混ぜ込んだ、総合ポジティブ度」になっているわけです。

もうひとつの問題は、算出した得点を用いた関連性の分析において、関連の強さが過大評価されやすくなり、有効な打ち手がどれなのか判断できなくなる可能性が高まることです。

関連性の分析では、関連の強さを比べて「ある指標に対して、どの指標がより強く関連するか」を分析でき、それによりKPIに位置づけた指標を高める有効な要因はどれかを検証できますが、その比較が難しくなるということです。

先ほど述べた通り、定義を拡大解釈して質問する項目のパターンでは、それらの項目を合算した得点は総合的なポジティブ度合いを表すものになりがちです。

その指標は「回答者が総合的に良い状態か否か」を捉えたものになるため、ありとあらゆる指標と関連しやすくなり、また関連の強さも大きく評価されることが多くなります。

たいていの指標と強い関連が示されやすくなるため、様々な指標との間で計算される関連の強さに違いが出にくくなり、比較しづらくなる事態が生じるというわけです。

例えば、「仕事のやる気を高めるには上司サポート、学習風土、権限移譲のどれが有効か」を確かめるべくサーベイのデータで関連性の分析をした結果、上司サポート、学習風土、権限移譲はすべて仕事のやる気と同程度に強い関連が示される、といったことが生じます。

その結果、「どの指標も仕事のやる気と強く関連があり、すべて重要と解釈できる」状態になり、どれが有効な打ち手か判断することが難しくなるのです。

良い項目を見抜く・作るコツ

それでは、良い項目を見抜く・作るためには、どうすれば良いのか。

ここからは、そのコツを5つ紹介します。

(1)概念の定義を把握・整理する

最初のコツは、項目よりも先に「概念の定義を把握・整理する」ことです。

良い項目を考えるには、まず定義について考えることが不可欠となります。

測定する概念について、それぞれがどういった定義なのか、つまり「どういった事柄を捉えているか」の情報を、しっかり確認しましょう。

サーベイで測定される各指標の定義がわからない場合は、担当者に質問するなどして、何を測定しているかはっきりさせるべきです。

また、自分で項目を作る際は、概念の名称を決めて満足せず、「それが何を捉えるものなのか」、定義を明文化することが重要となります。

(2)項目が概念と相関しそうか考える

二つ目のコツは、「項目が、それが捉えようとしている概念と相関しそうか考える」ことです。

良い項目は、それが捉えようとしている概念の状態が良好な人において、回答がポジティブになる関係性があります。

仕事のやる気の測定を例にすると、「実際に仕事のやる気が高い状態にある人ならば、やる気を測定する項目の回答もポジティブになる」ということです。

これを統計的な観点で言い換えると、「概念の状態と項目への回答が相関する」となります。

概念と項目が相関しそうかを事前に考えることで、良い項目と悪い項目を見分けることができ、相関しなさそうならば悪い項目だと判断できます。

「概念の状態と項目への回答が相関しそうか」を考える際は、下のように、概念の状態を縦軸、項目への回答を横軸にして四分割した図をイメージするのが有効です。

右にある四分割の図では、四分割はそれぞれ下記のような構成になっています。

  • 右上(橙色):仕事のやる気が高く、項目もあてはまると回答している人の箇所
  • 左上(青色):仕事のやる気は低く、項目にはあてはまると回答している人の箇所
  • 左下(橙色):仕事のやる気が低く、項目もあてはまらないと回答している人の箇所
  • 右下(青色):仕事のやる気は高く、項目にはあてはまらないと回答している人の箇所

この四分割の図について、「青色のところに該当する人が少ないか」を考えれば、概念と項目に相関がありそうかを推測できます[6]

青色は、「概念の状態は低いが、項目にはあてはまる(概念× / 項目○)」と「概念の状態は高いが、項目にはあてはまらない(概念○ / 項目×)」と、概念と項目のどちらか一方のみが○となっている箇所です。

「ここに該当する人はほとんどいなさそうだ」と考えられるなら、概念と項目は相関していそうだと言えます。

少なさのさじ加減は、「そういう人はいるにはいるだろうが、ほとんどいない/少数派だろう」と思える程度で十分で、「そんな人は一切いない」ほど厳しく考える必要はありません。

先ほど挙げた悪い項目「上司との関係が良好である」を例に考えてみましょう。

この場合、四分割左上の「仕事のやる気は高いが、上司との関係は良好でない」という人や、右下の「仕事のやる気は低いが、上司との関係は良好である」人はどの程度いそうかを考えることになります。

すると、左上「仕事のやる気は高いが、上司との関係は良好でない」は、仕事にやる気があるからこそ上司に食ってかかって対立してしまい関係が悪い人が想像でき、一定の人数が存在しそうだと考えられます。

同様に、「仕事のやる気は低いが、上司との関係は良好である」は、普段の仕事で熱中・集中はしていないが、馬が合うため上司との関係は良いといった人が、一定数いそうだと考えられます。

以上より、「青色に該当する人がほとんどいなさそう」とは考えにくく、この項目と概念はあまり相関しなさそうだと見なすことができ、悪い項目だと判断できるわけです。

なお、この作業は一人で行うと個人の経験則で偏りが生じやすいため、数名で議論しながら進めるのが良いでしょう。

(3)項目を見て、概念を推測できるか考える

三つ目のコツは、「各項目を見て、概念を推測できるか考える」ことで、項目から考えていくことがポイントとなります。

ある種のクイズのように、「この項目は、どの概念を捉えたものか」をひとつひとつ見ていくことで、項目が概念に合っているか判断できます。

サーベイが測定する種々の概念とその定義をまとめた表を用意して、各項目がどの概念を測定するためのものか推測してみましょう。

その中で、どの概念に含まれるかまったく推測できなかったり、推測を誤る・悩むような項目があれば、それは悪い項目の可能性があります。

そのような項目があったら、担当者に相談したり、項目を作成しているならば項目を調整するのが良いでしょう。

(4)ひとつの項目で2つ以上の事柄や仮定・時を含む質問をしていないか見る

残る2つのコツは、簡単な確認・作問で終わるものですが、有用な手続きです。

そのひとつは、「ひとつの項目の中で、2つ以上の事柄や、仮定・時を含んだ質問をしていないか確認する」ことです。

ひとつの質問の中で複数の事柄を問うていないか、仮定や条件・時を表す表現がないか、サーベイに含まれる項目をひとつひとつ見て確認しましょう。

また、項目を作るときはそういった表現を避けましょう。

(5)ほぼ定義そのままの項目が1つあるか確認する

「ほぼ定義そのままの1項目を入れる」ことは、特に項目作成時に使えるため、紹介します。

例えば、「熱意をもち、集中して業務に取り組んでいること」と定義した仕事のやる気について、「熱意をもって仕事に取り組んでいる」といった項目を含める手続きになります[7]

概念の定義内容をほぼそのまま質問するような項目を1つ入れることは、安全策として有効です。

まず、ほぼ定義そのままの内容を質問することになるため、当然ながら、その項目は定義に沿った内容になります。

加えて、「複数の項目で概念を適切に捉えられていない」ことが分析などで示された際、この1項目が使えます。

通常はそのような事態になったら、「項目を合算してその概念の得点を作るのは不適切だから、その概念は集計・分析をあきらめる」と判断することが多いです。

他方、ほぼ定義そのままの1項目の回答データがあれば、「今回は、その1項目の回答をその概念の得点として代替的に用いる」と、妥協案ではありますが、概念を復活させることができます。

サーベイの項目を作成する際は、最初にほぼ定義そのままの1項目を入れておくのが良いでしょう。

なお、このような項目は必須ではないため、既存のサーベイにそういった項目がないことを不安に感じる必要はなく、「あったら一安心」程度といったものです。

QA

Q:「概念を複数の項目で尋ねるべき」という前提が関係者に伝わりづらくて困ることが多く、結局は1項目で聞いてしまいがちです。1項目でなく複数の項目で測定すべきだとお客様を説得する良い方法はありますか。

複数の項目で概念を測定するメリットは2つあり、ひとつは「概念を様々な質問で包括的に測定できること」、もうひとつは「回答者の個人差をより細かく捉えられること」で、特に後者が説明に使えます。

例えば、「1:あてはまらない~5:あてはまる」の5個の選択肢を持つ1項目で測定した場合、得点のバリエーションは1,2,3,4,5点の5種類しかありません。

それに対して、例えば3項目で測定すると、回答を平均した得点のバリエーションは1点から5点まで1/3点刻みで13通りとなります。

このように、項目を増やすと回答者の状態がより細やかに得点に現れるようになり、個々の従業員の違いがより詳しく把握できるわけです。

加えて、このバリエーションの細やかさは分析精度を高めることも期待でき、データ分析の有効性を高めることにもつながります。

これらのメリットは分析に慣れていないと気付きにくく、説得材料として有効と考えられます。

Q:組織サーベイの内容について「良くない項目かも」と疑問に感じても、これまでそのサーベイでデータを蓄積して打ち手を検討してきた経緯があり、項目の変更や修正ができなさそうで気がかりです。そのような場合にできることは何かありますでしょうか。

まずは、サーベイの担当者に疑問を感じた項目について確認してみるのが良いでしょう。

「この項目は○○の点で疑問があるが、大丈夫か」と尋ね、担当者がその項目の意図や背景を踏まえて十分に説明できるならば、問題ないと判断してよいと考えられます。

もしも説明が不十分だとしたら、その悪い項目を除外して他の項目を合算した得点を用いるなど、悪い項目を除く対応を検討すべきでしょう。

なお、ご自身が項目作成者で項目の変更・修正の権限があるなら、上位者に素直に理由を説明し、悪い項目の修正に取り組むべきだと思います。

脚注

[1] 概念の定義については、当社コラム「心理尺度の作り方・考え方 組織サーベイの質問項目作成のポイント」で詳しく解説しています。

[2] 関連性の分析は、代表的なものとして相関分析や回帰分析があります。それぞれの内容は、以下の当社コラムで解説しています;「人事のためのデータ分析講座 相関分析 ~2つの指標の関連を検証する~(セミナーレポート)」「人事のためのデータ分析講座 回帰分析:有効な影響指標を探る方法を学ぶ(セミナーレポート)」

[3] この現象は、複数項目である概念の得点を算出する際の信頼性(α係数)が低くなることに起因し、統計学では「相関の希薄化」と呼びます。詳しくは、当社コラム「組織サーベイにおける精度の高い測定の考え方と実践」で解説しています。

[4] なお、社会心理学における態度測定では、「概念に対して、その定義を満たす人の周辺的な特徴(主に行動)を質問する項目を複数作る」アプローチをとります。これは、態度という心理学の概念に想定される特徴に応じた測定の手続きであり、この場合は悪い項目ではありません。なお、態度測定的な項目の作成は、概念を捉える種々の特徴を適切に定義して項目に反映する必要があり、専門的な指導・訓練を受けていても作問が非常に難しい職人技です。そのため、実務家向けにはこのアプローチをお勧めしておらず、本セミナーでは敢えて悪い項目パターンとして取り上げています。態度測定について詳しく知りたい方は、以下の文献の第1章「心についての構成概念の測定 態度測定法」をご参照ください。清水 裕士・荘島 宏二郎 (2017). 心理学のための統計学3 社会心理学の統計学 誠信書房

[5] 仕事のやる気の定義のうえで「やる気が高い人における業務実践や、仕事に対するポジティブな感情も、やる気として含める」と決めているなら、ここで挙げた2つの項目は定義に含まれる事柄となり、悪い項目とは言えなくなります。なお、学術的な観点では、「仕事のやり方を工夫」はジョブ・クラフティング、「仕事が好き」は職務満足の代表的な項目であり、今回の定義における仕事のやる気に近い学術概念はワークエンゲイジメントが有名なことから、これらは別の概念であり「仕事のやり方の工夫や仕事が好きな感情の項目を、やる気の定義に含めるべきではない」と判断できます。脚注4で述べた「概念を捉える種々の特徴を適切に定義し、項目に反映する高度な専門スキル」とは、このような学術概念や理論背景の知識・理解を活用した区別や判断の能力を指します。

[6] なお、仕事のやる気の概念に対して「集中して仕事ができない」などやる気がない状態を質問するような項目を逆転項目と呼びますが、その場合は橙色の箇所に該当する人が少ないかを考えます。

[7] ここでは、定義内容に「熱意を持つ」「集中する」と2つの特徴があり、そのまま項目にすると二つの事柄をひとつの項目で質問してしまいます。そのため、熱意と集中を統合したひとつの語句を考えるかいずれかの語句内容を選んで、項目にする必要があります。ここでは、「やる気とは、仕事に対する『感情面の特徴』を捉えることを第一とした概念である」と考え、その特徴を捉えている「熱意を持つ」について、定義そのままの1項目としています。


登壇者

能渡 真澄
株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー。信州大学人文学部卒業、信州大学大学院人文科学研究科修士課程修了。修士(文学)。価値観の多様化が進む現代における個人のアイデンティティや自己意識の在り方を、他者との相互作用や対人関係の変容から明らかにする理論研究や実証研究を行っている。高いデータ解析技術を有しており、通常では捉えることが困難な、様々なデータの背後にある特徴や関係性を分析・可視化し、その実態を把握する支援を行っている。

 

 

 

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