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成果指標と影響指標:組織サーベイの基本用語

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組織サーベイにおいて、「成果指標」と「影響指標」の設定は重要な役割を担います。これらの指標は、組織の現状を把握し、改善の方向性を明らかにします。

本コラムでは、成果指標と影響指標の考え方や設定方法について、具体例を交えながら解説します。組織サーベイを通じた目標達成と継続的な改善に向けて、成果指標と影響指標を活用する方法を探っていきます。

成果指標と影響指標の定義とは

成果指標とは、組織や個人が目指すべき状態や目標を表す指標のことです。組織が「どうなりたいのか」を示すのが成果指標だと言えます。

組織サーベイにおいては、エンゲージメント、イノベーション行動、キャリア自律などが成果指標の例として挙げられます。これらの指標は、組織にとって望ましい状態を表しており、改善に向けた取り組みの対象となります。

他方で、影響指標は、成果指標に影響を与える要因を示す指標です。成果指標を改善するためには、どのような条件を整えれば良いのかを表すのが影響指標です。

エンゲージメントを成果指標とした場合、例えば、影響指標としては、仕事の意義、目的の明確さ、上司からの承認、能力開発の機会、人間関係の良好さ、ワークライフバランスの実現度、報酬の適切さなどが考えられます。

あくまで本コラムのために作った架空の例ではありますが、これらの要因が改善されることで、エンゲージメントの向上につながると期待できます。

成果指標と影響指標を設定する目的は、組織の現状把握と改善策の立案にあります。成果指標を測定することで、組織が目指す方向性と現状とのギャップを明らかにできます。

そして、影響指標を分析することで、成果指標を改善するための具体的な施策を検討することができます。成果指標は「何を目指すのか」を示し、影響指標は「どうやって目指すのか」を示しています。

成果指標は、組織の望ましい状態を表すものであるため、組織のビジョンや戦略と密接に結びついているべきです。成果指標の設定に際しては、組織が目指す姿を明確にし、それを反映した指標を選ぶことが重要です。

例えば、イノベーションを重視する組織であれば、イノベーション行動やクリエイティビティなどが成果指標として適切かもしれません。一方、顧客満足を重視する組織であれば、顧客志向やマーケット理解などが成果指標として選ばれることでしょう。

影響指標は、成果指標を改善するための具体的な手がかりを提供してくれます。影響指標を特定することで、組織は限られた資源を効果的に配分し、成果指標の向上につなげることができます。

例えば、エンゲージメントが低い原因が能力開発の機会の不足にあるとわかれば、その領域に注力して改善策を講じることができます。逆に、能力開発の機会とエンゲージメントが関連していないのであれば、他の要因を探る必要があります。

このように、成果指標と影響指標の関係性を理解することは、組織のパフォーマンス向上に向けた取り組みにおいて重要です。

成果指標は、組織が目指すべき方向性を示す羅針盤のような役割を果たします。対して、影響指標は、その目標に到達するための具体的な手段を提供します。両者を適切に設定し、その関係性を明らかにすることで、組織は改善策を立案し、実行することができます。

成果指標と影響指標はなぜ必要か

組織サーベイを実施する際、成果指標と影響指標を定めることは重要です。しかし、現実には、これらの指標を設定できていない組織サーベイは少なくありません。

成果指標がないと、組織サーベイの目的が曖昧になります。調査を通じて何を達成したいのかが不明確になり、得られた結果を元に、具体的にどのような改善を目指すべきかが判断できません。

例えば、ある企業がエンゲージメントを向上させたいと考え、組織サーベイを実施したとします。しかし、成果指標としてエンゲージメントを設定していなかったため、分析結果からはエンゲージメントの現状や目標とする水準が見えてきませんでした。

他方で、影響指標がないと、成果指標の高低がどのような要因によって引き起こされたのかを特定することが難しくなります。組織が抱える課題の原因を明らかにすることができず、効果的な施策を打てないのです。

例えば、先ほどの企業がエンゲージメントを成果指標として設定したものの、影響指標を設定していなかったとします。データ分析の結果、エンゲージメントが低いことが明らかになったものの、その原因が職場環境なのか、マネジメントの問題なのか、あるいは他の要因なのかがわかりません。そうなると、具体的な改善策を講じることができません。

さらに、適切な指標設定なしに得られたデータは、組織の実態を正確に反映していない可能性があります。そのようなデータに基づいて意思決定を行うことは危険です。また、組織が実施した施策の効果を評価することができず、貴重な資源を無駄に費やすことになりかねません。

成果指標と影響指標をどう定めるか

成果指標を設定するためには、まず、組織の目標や戦略、ビジョンを明確にすることが出発点となります[1]。組織がどこを目指しているのか、どのような価値を提供したいのかを知らなければ、指標の方向性は定まりません。

影響指標の設定には、多角的な知識が必要とされます[2]。学術研究の知見、実務経験に基づく知識、過去の調査結果から得られた知見など、様々な情報源を活用して、成果指標に影響を与える要因を幅広く洗い出していきます。洗い出した要因を整理・分類し、測定可能で組織が制御可能な指標を定義します。

成果指標と影響指標の関連を検証する

成果指標と影響指標を設定したら、その関連性を検証する必要があります。組織サーベイを実施し、成果指標と影響指標のデータを収集します。データの信頼性や妥当性を確保するため、必要なサンプルサイズを確保し、測定尺度の適切さにも留意しましょう[3]

次に、収集したデータを用いて、統計的な分析を行います。重回帰分析[4]や構造方程式モデリング[5]などの手法を用いて、影響指標が成果指標に与える影響の大きさを定量的に評価します。

例えば、エンゲージメントを成果指標、仕事の意義、目的の明確さ、上司からの支援、能力開発の機会を影響指標とした分析を行ったとします。分析を通じて、仕事の意義と上司からの支援がエンゲージメントに強い影響を与えていることが明らかになりました。

この場合、仕事の意義を明確にするような支援や、マネジメント力の強化に注力することで、エンゲージメントの向上が期待できます。限られた資源を、より大きな効果が見込める施策に振り向けることが賢明です。

以上の通り、成果指標と影響指標の設定は、組織サーベイを通じて問題点を特定し、効果的な改善策を立案する上で欠かせません。本コラムを参考に、それぞれの組織に適した指標設定を行い、データに基づくマネジメントを推進していただければと思います。

脚注

[1] 成果指標の定め方の詳細は「良い成果指標を定めるための4つのステップ」を参照。

[2] 影響指標の定め方の詳細は「組織サーベイの効果を引き上げる 影響指標の設定方法とチェックポイント」を参照。

[3] 心理尺度の作成方法については「心理尺度の作り方・考え方:組織サーベイの質問項目作成のポイント」を参照

[4] 人事のためのデータ分析入門:「回帰分析~要因を見出すための分析~」(セミナーレポート)

[5] 構造方程式モデリングとは何か 指標の全体像を描くプロセスモデルを解析する(セミナーレポート)


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

#伊達洋駆

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