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コラム

人事データ分析の失敗を科学する:よくある問題とその対策(セミナーレポート)

コラムセミナー・研修

人事データや組織サーベイに基づく施策立案の潮流が高まる中、「上手くいかない」「予期せぬ事態に見舞われた」「どうすれば良いか分からなくなった」という相談をいただくことが増えています。

本コラムでは、こうした人事データ分析に関する「失敗」やその失敗を防ぐ方法について、データ分析を学術界と産業界の両方で行ってきた、株式会社ビジネスリサーチラボの伊達洋駆と正木郁太郎の対談形式でご紹介します。

※本コラムは、2021年10月に開催した「人事データ分析の失敗を科学する:よくある問題とその対策」の内容をもとに編集・再構成しています。

登壇者

正木 郁太郎 株式会社ビジネスリサーチラボ テクニカルフェロー
東京大学大学院人文社会系研究科博士後期課程修了。博士(社会心理学:東京大学)。2021年現在、東京女子大学現代教養学部心理・コミュニケーション学科心理学専攻専任講師。組織のダイバーシティに関する研究を中心に、社会心理学や産業・組織心理学を主たる研究領域としており、企業や学校現場の問題関心と学術研究の橋渡しとなることを目指している。著書に『職場における性別ダイバーシティの心理的影響』(東京大学出版会)がある。

 

 

 

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。

 


よくある失敗事例とその対策

伊達:

本日は、人事データ分析で陥りやすい失敗と、失敗を防ぐ方法という2点についてお話します。

まず、正木さんから、さまざまな企業で人事データ分析を行っていく中で、うまくいかないケースというのを、正木さん自身が経験したことあるものでもいいですし、あるいはよく聞くものでも構いませんので、一つ挙げていただけますか。

ケース1)難しそうで中断してしまう

正木:

私は、企業と共同研究をすることもあれば、アドバイザーとして関わることもあるのですが、「難しそうだから途中で諦めてしまった」という失敗例を紹介します。

人事が持っているデータは非常に豊富です。その結果、どこから着手したらいいか分からないという状況に陥ります。さらに、自分たちなりに手探りに分析してみても、この方法でいいのか自信がない。分析の結果が出ても、それが何を意味しているのか分からず、結局やめてしまったという例も、何社か具体的に思い当たります。

では、どうすればその失敗を防げるのでしょうか。主には2点かなと思います。

1点目が、最初は高度な分析しないこと。時系列の分析や、AI・機械学習に関する話、あるいは計量経済学の方が使われるような因果関係を特定する分析。いろんなもの世の中に存在しますが、最初は、解釈が簡単な部分からスタートしてみましょう。具体的には、平均と相関係数などを出して、そこから考えるということをやっています。

2点目が、やりたいことの明確化。分析結果から何をどう読み取るか、自分が明らかにしたいもの、その仮説を検証するためにはどんな分析で、どんな数字の結果が出てくればいいかを明確にします。

まずは、何と何の間に相関があればいいか、あるいはどの間に平均値の違いがあれば、あるいはなければいいのか、などを考えます。手元でダミーの数字でグラフを作り、「こういうものが出したい」というところまで具体化すると良いでしょう。

伊達:

ありがとうございます。相関を見るだけからも多くのこと分かりますもんね。そういう簡易な分析の結果をながめながら、感じたことを言語化して列挙していくことが大事です。

例えば、これらの指標は、本来高い相関が得られてもおかしくないのに、今回のデータだとあまり出ていないときに、「違和感がある」といった感想を抱くはずです。それをメモすると、次の分析に進みやすくなります。自分ができなくても、分析ができる人に伝えることで、「それなら、こんな分析をしたらいいかもしれない」と発展できます。

ケース2)予想した結果が出ない

伊達:

私からも似たような文脈での失敗として思い当たるものを挙げます。報告しなければならないのに結果が出ないというケースです。とりわけ、すでに存在するデータを分析する場合に、起こり得るケースです。

前提として、きれいな分析結果は一発では出せません、ということをおさえておく必要があります。データ分析の結果だけを見ると、最初から狙いを定めたかのような印象を持つかもしれませんが、さまざまな試行錯誤や、結果が妥当なのかの検証を背後で行っています。

また、思うような結果が出なかったということ自体も一つの情報になるという考え方も持つのが有効です。例えば、上司と部下の関係がエンゲージメントを促している、という仮説を立てたとします。データを用いて分析し、上司と部下の関係はエンゲージメントと無関連でした、という分析結果が出たとします。

そこで焦ってしまわずに、「そうか、上司との関わりについては影響が与えられなかったのか」「何故だろう」と考えると良いのです。例えば、「仕事の性質上、上司からの影響が少ないのかもしれない」あるいは「他の要因がもっと強い影響を及ぼしているのかもしれない」などに思いが至るはずです。

結果が出なかったとき、なぜ出なかったのかを考えると、新しい仮説を立てられます。新しい仮説に基づいて、もう一度分析してみてください。思った結果が出ないことは、前に進むチャンスにもなります。

ケース3)回答率が低い

伊達:

他にも実践的にあり得るのが、サーベイの回答率が低いケースです。回収率を高めていくために、工夫できることはありますか。

正木:

この点は、全体的な話と、個別具体的なテクニカルな話の2点が思い当たります。

まず、個別具体的かつテクニカルな話ですが、質問項目の数を減らす、答えやすくするなど、回答の負荷を減らすことですね。回答の際、何を聞かれているのかよく分からない、長い、疲れた、答えないというケースはいくらでもあり得ます。

「答える側が答えやすいかどうか」と「分析の都合上しっかりした分析ができる調査設計」、このせめぎ合いの中で、折衷点を探していく事です。

次に、全体的な話です。「何に使われるか」あるいは「何のためになるのか」をきちんと伝えることです。難しいポイントですが、回答する側がこれをわからないと不安になって答えないという場合があります。

以前、ダイバーシティの調査をある企業で行った際、この手の調査にしては多い、回答率90パーセント超えという珍しいことがありました。

その時、何があったかというと、直接の窓口になっていただいた社員・部署の方だけではなく、マネジメント層の方にも、全面的にバックアップしていただきながら、アンケート調査の趣旨説明を実施しました。

私からきちんと書面化したものを提供すると同時に、会社の意向も伝えていただきました。「会社としては色々な人にとって働きやすい会社を目指す」「それにあたって、現状を理解できてないところがあるので、正直に考えを教えてほしい」と。

「これがその後どう使われるのか」っていうところまで分かってくると、自分事になって、未回答者が減っていくと感じています。

伊達:

私からも2点だけ提案します。一つ目が、「評価の懸念」に気を配ること。このアンケートに回答したことで自分の人事評価に影響があるのでは、と少しでも考えてしまうと、回答が嫌になります。例えば、「評価・異動には用いません」という意向を明言する必要があるかなと思います。それにより、余計な不安を減らすことができます。

二つ目は、本質的で全体に関わる対策ですが、アンケートを1回きりで考えないことです。例えば、回収率が20パーセントの会社があるとします。なぜそうなったのかヒアリングすると、過去の組織サーベイが影響していることが多いのです。

1年に1回アンケートを採っているが、回答した社員に調査結果のフィードバックをしていない」とか「どう活かされたか分からない」となれば、次の組織サーベイの回収率は下がります。「答えても意味がない」いう無力感を覚えるからです。

各回の組織サーベイのフィードバックを実施する。これも長い目で見ると、回収率を高めていく方法だと思います。 

分析実施上の悩ましいポイント

「仮説検証」について 

正木:

「仮説を立てることと、データを見るスタンスについて、どう考えるといいでしょうか」という質問をいただきました。

私の場合、仮説を立てて失敗しても、「では、なんだろう」と新しい仮説を立てます。仮説を持たずに最初から探索的というよりは、仮説を作るが、それを捨てる勇気も同時に持っておくというのが大事です。

伊達:

賛成です。一回一回の仮説は、その都度、本気で考えます。「この仮説は支持されるだろう」、「この理論に裏付けられている」「しかも、現場の方々も納得している」と。ただ、仮説が棄却されることもあります。

データ分析の失敗やうまくいかない状態は楽しめば良いと考えています。例えば、練りに練った仮説と異なる結果が出たときに、「これは面白いことになってきた」というマインドでデータ分析をすると、新たな発見につながります。

正確さ」と「わかりやすさ」のバランス

伊達:

厳密な方法を追い求めることは可能ですが、やればやるほど、伝えるときに分かりにくくなってしまう。このようなトレードオフの関係性について悩む方もいると思います。正木さんは正確さと分かりやすさの両立をどのように行っていますか。

正木:

ビジネスの現場でのフィードバックでは、正確さを追求した分析を裏側ではやりつつ、表に出す結果に関しては、分かりやすさ100パーセントでやることのほうが多いです。

例えば、相関関係・散布図・平均値など、分かりやすいところで結果が出るに越したことはありません。報告書のアウトプットの中では、そうした結果を出しています。

ただ、こちら側の気持ちとしては、「平均ではそうだが、このパターンではどうか」といった、その結果への「ツッコミ」を、うきうきしながら待っているところもあります。できるならば、こちらから補足する前に聞いていただきたいところです。 

分かりやすい結果から「もっと知りたい」と思っていただきたいのです。そうしたら「待っていました」と資料を出します。そのような考え方で臨んでいることが多いかもしれません。

そのようなやりとりに、自分と一緒にやっている企業の方が慣れてきたら、最初から正確なものをどんとぶつけていきます。

また、専門的なことは伝えるのが難しく、理解する側にも負荷がかかることも考慮しています。分析のプロフェッショナルではない方に使っていただくには、分かりやすさに寄せる必要があると、少なくともビジネス場面では割り切って考えています。

伊達:

フィードバックの場で、「なんだかよく分からない」ところから「分かった」になるのは大事です。しかし、「分かった」だけで終わってしまうと、対策を打つところにたどり着きません。次の対策を一緒に考えられるようにすることが、一層重要だと思います。

また、これまでデータ分析を行ってきた経験からすると、「文章」が分かりやすければ、高度な分析結果の表を載せたとしても通じる感覚があります。どんな結果が得られたのかを、文章化します。具体例を交えて伝えるなど、文章だけでも分かるようにするというアプローチもあります。

Q&A

Q1. 人事・組織のデータ分析を学ぶ上で適切な本、あるいは社会人が本で学ぶ以外の方法あるでしょうか。

正木:

私自身は、いわゆる一般的なデータ分析のノウハウは習ってきたものの、それを組織データに当てはめるにはカスタマイズが必要で、その点は独学です。

その上で、まず学び方について。特に社会人の方は、目的意識や「何がしたいか」を明確に持つことが重要です。その上で必要な分析方法を探して学ぶという順序のほうが習得しやすいと思います。

まず「しっかり勉強しなくては」と統計本をもとに勉強するという方向になりがちです。しかし、それでは飽きてしまいます。また、基礎で言われている話を、応用的なデータに当てはめようとしたとき、どうすればいいか分からないという問題に直面します。

どういうデータをもとに、どういう問題に挑んでいきたいのかを明確化してください。それを持てることが、現場にいらっしゃる方の強みです。

本の選び方については、何より文章が分かりやすいものがよいと思います。また、人に関わるデータに応用的な方法を当てはめるとどうなるかというところまで分かりやすく書かれている本が良いと思います。

伊達:

統計ソフトの本もお勧めです。実際に手を動かしながら学んでいくことも、一つのスタイルです。そのような本では、使い方を説明する際に、分析自体の話が記載されており、エッセンスがまとまっています。

Q2. 定量的な分析と定性的な分析の結果が異なった場合の解釈はどのようにすればよいか。

正木:

食い違っている理由の説明がつけばよい、と考えています。これも良くあることだと言えますが、定量も定性も、それぞれの結果は決してうそではありません。結果が食い違った理由を踏まえて、その理由・その問題をつぶせるような新しい分析や調査に移っていくということができればよいでしょう。

伊達:

実際にこのような状況は起きますよね。一番良くないのは「定量と定性のいずれかが正解」といった発想に立つことです。「自分の実感値と違う」「いや、数値でこうなっている」と喧嘩になってしまいます。

例えば、一旦両方とも「正解」だと考えて、二つの側面が出てきたのはなぜかを考えてみるといいでしょう。食い違いが出てくるほうが、解釈は深まります。

Q3人事組織データの分析として「意外な」「面白い」結果を導き出している研究はあるか。

伊達:

そうですね。例えば、手続き的公正に関する研究があります。評価の手続きに公正感を覚える方が、概してポジティブな結果が生まれます。しかし、リスクを恐れず新しいことをやるのが好きな人にとっては、この結果が逆転します。手続きが公正な制度では何をすればどうなるのかが分かりすぎるため、居心地が悪くなってしまうのです。

このように、一般には「良い」傾向があるものの、特定の人には合わないという結果を見ると、面白いと感じます。

終わりに

正木:

人事データの分析は、「完璧なものはない」と感じています。いろんなデータを組み合わせる、複数の人でやる、あるいは一度失敗しても少しずつ改善する。その繰り返しで、限界を見据えつつどう前進するか、これが重要です。

伊達:

本日のセミナーに参加していただいた、その問題意識が大事だと考えています。「データ分析は失敗するかもしれない」と気にかけ続けることが、精度の高い分析結果を生み出せる原動力になるはずです。

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#正木郁太郎 #伊達洋駆 #人事データ分析

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