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コラム

組織サーベイ成否の鍵は「仮説」にある 効果的な仮説構築のポイント(セミナーレポート)

コラムセミナー・研修

ビジネスリサーチラボは、20235月にセミナー「組織サーベイ成否の鍵は『仮説』にある 効果的な仮説構築のポイント」を開催しました。

効果的な組織サーベイを実施し、アクションにつなげるには、適切な「仮説」の構築が重要です。良い仮説をもとにサーベイを実施すると、精度の高い測定・分析ができ、対策にもつながります。

では、組織サーベイにおける仮説は、どう作ればよいのでしょうか。本セミナーでは、当社代表取締役の伊達洋駆と、フェローの能渡真澄が、特に2種類の仮説と定義について、その意味や考え方を解説しました。

※レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

登壇者

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

能渡真澄
株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー。信州大学人文学部卒業、信州大学大学院人文科学研究科修士課程修了。修士(文学)。価値観の多様化が進む現代における個人のアイデンティティや自己意識の在り方を、他者との相互作用や対人関係の変容から明らかにする理論研究や実証研究を行っている。高いデータ解析技術を有しており、通常では捉えることが困難な、様々なデータの背後にある特徴や関係性を分析・可視化し、その実態を把握する支援を行っている。

 

 

 


なぜ「仮説」が重要なのか

仮説はデータ分析の指針となる

伊達

まず、仮説の重要性と、初めに押さえておくべきことをお話します。

仮説はデータ分析に先立って立てるものであり、ある種の予測です。そして、データ分析を通じてそれが当てはまるのかどうかを検証します。例えば、「上司からの仕事上の助言は、部下のエンゲージメントを高める」「営業部より開発部の方が、上司からの仕事上の助言が多いだろう」といった仮説が挙げられます。

仮説を立てることが、なぜ組織サーベイの質を高めるかというと、一つ目に、仮説があると質問が作りやすくなります。二つ目に、仮説は分析の枠組みになり、分析がしやすくなります。三つ目に、仮説を立てると「原因」を理解しやすくなり、解決策を検討しやすくなります。

仮説の基盤はリサーチ・クエスチョン

伊達

ただし、前提が何もない中で仮説を立てるのは難しいものです。仮説を立てるためには、リサーチ・クエスチョンを設定する必要があります。リサーチ・クエスチョンは、ここでは「データ分析を通じて解明したい問い」を意味します。

リサーチ・クエスチョンに対する予測が仮説です。その意味で、リサーチ・クエスチョンは仮説を考える基盤になります。

例えば、「部下の満足度を高める要因は何か」というリサーチ・クエスチョンを立てたとします。これに対して、「上司の変革型リーダーシップが、部下の満足度を高める」「仕事の自律性が、部下の満足度を高める」といった仮説を立てることができます。

仮説立案の注意点

伊達

仮説について注意すべき点があります。仮説を立てた後に、それを支持する情報だけを集めてしまうことです。自分たちの主張を正当化するために、仮説を立てることは避けるべきです。

ある特定の結論を裏付けるために、都合の良い情報だけを選び出していくことを「チェリー・ピッキング」と呼びます。例えば、定期面談は有効だったという仮説を立てたとします。様々な指標を分析した上で、向上している指標だけを取って、「定期面談には効果がありました」とするのは問題です。

チェリー・ピッキングを避けるべき理由は、いくつかあります。例えば、適切な現状認識ができません。誤った現状認識に基づく意思決定もまた誤る可能性があり、社員が不利益を被る可能性や、人事が信頼を失う可能性があります。また、「チェリー・ピッキングを行ってもいい」という認識が組織に蔓延すると、モラルも低下します。

データを分析した結果、事前に立てた仮説が棄却されることはあります。しかし、何も落ち込むことはありません。自分たちの考えを改め、施策を修正すれば良いのです。

そもそも仮説が棄却されるというのは、元々思い描いていた考えと異なる結果が出たということです。データ分析を行った甲斐があったとも捉えられます。

仮説構築のフレームワーク:2つの仮説を捉える

1.組織サーベイにおける 「2つの仮説」 の枠組み

能渡

私からは、組織サーベイにおける2つの「仮説」の枠組みと、それに付随する2つの「定義」についてお伝えしていければと思います。まず、サーベイにおける2つの仮説の枠組みについて紹介します。

前提として、組織サーベイと仮説の関係として、サーベイには仮説が不可欠だといえます。仮説構築には、サーベイの内容やその後の対策に繋がるポイントを含むからです。言い換えると、実は、仮説を設計している段階で、既に対策まで見据えた動きになっているのです。

そのうえで、仮説構築のフレームワークとして、2つの仮説を考える必要があるということを示します。次の図をご覧ください。

そもそもサーベイをするということは、何か果たしたい成果があるわけです。そのために、「ここが分からなくては」という疑問点が、リサーチ・クエスチョンとして取り出されます。このリサーチ・クエスチョンに対して、「疑問を晴らすのに必要な要素はこれ」と推測するのが、仮説を作る行為です。

そして、仮説を作るうえで重要なのが、図に示した4つの要素を押さえるということです。要素の詳細は追って1つずつ説明していきますが、なぜこれらを定める必要があるのかをひとことで述べると、仮説の検証を適切に行うためです。

仮説とは「ある現象や状況に対して実証的に検証できる推測」と定義されています。言い換えると、検証できなくては、仮説ではないのです。ここでいう「検証できる」とは、データ分析などで仮説が正しいかを確かめられるということです。

仮説や定義を定めずに組織サーベイを行った場合、仮説の検証方法やデータ分析、その解釈がいきあたりばったりになります。その結果、分析や検証結果がもつ意味が不明瞭に、有効な対策を考えることもできません。

その意味で、このようなサーベイは失敗に終わる、ということになりかねないのです[1]

2.理論仮説と概念的定義

理論仮説=リサーチ・クエスチョンへの答えの推測

能渡

以降では、図に示した要素の詳細を、それぞれ説明していきます。まず、「理論仮説」と「概念的定義」についてです。これらは、「何をとらえるか」を定める仮説と定義といえます。

理論仮説とは、一般的に考えられる仮説に対応するものです。リサーチ・クエスチョンに対して考えた答えを、特定の概念や、何らかの事柄を指す言葉で述べたものとなります。

例えば、「部下の満足度を高める要因は何か」といったリサーチ・クエスチョンを持ったとします。このとき、「上司の変革型リーダーシップが部下の職務満足を高める」と、自分の予測を特定の概念や事柄を指す言葉で述べているものが、理論仮説です。

この理論仮説に関して考えるポイントは、様々な解決の可能性を考えて、仮説として定めるということです。リサーチ・クエスチョンを解決する事柄は様々なものが考えられます。「今回のサーベイでは、その中のどの側面を切り取るか」というところを議論していくというのが理論仮説です。

例えば、部下の満足度を高める要因にも、様々なものがあり得ます。そのなかで、「今回のサーベイでは『上司』に着目しよう」と考え、上司の要因を測定、検証すると定めたとしましょう。

すると、上司が持つ特徴にも、変革型リーダーシップや、部下とのコミュニケーション、エンパワーメントなど、様々なものが考えらます。その中から、「では今回は変革型リーダーシップに着目してみよう」と決めていくわけです。

このような形で、最初に仮説を考える際は、様々な仮説のひとつひとつがどういった概念や事柄を取り上げるのか、それを言葉で理論仮説として形作る必要があります。

概念的定義=取り上げた概念の具体的な内容

能渡

次に、「概念的定義」とは、どんな事柄を捉えるのかの詳細を定めるものです。理論仮説で取り上げた事柄・概念の内容がどういったものかを、何を含めて、何を含めないのか、具体的に示すのが、概念的定義です。

例えば、上司の変革型リーダーシップを扱うと考えたとしても、まだ様々な要素があります。そこで、「今回は特に、目的やビジョンを指し示す行為と、個性に配慮する声掛けの2つに絞ろう」と定めるようなことです。

これは、ある事柄について、測定する側面と測定しない側面を決めることでもあります。再び例に沿うと、変革型リーダーシップと一言で言っても、人によっては部下の支援よりもカリスマ性に注目する場合もあります。このように多様な側面がある中で、どの側面を測定するのかを決めるということです。

ある仮説で取り上げた概念や事柄はどういったものなのかについて、組織サーベイに関わる全員が共通認識を持てるように、内容を詳しく定義するということが、概念的定義で考えることとなります。

理論仮説・概念的定義を考えるコツ

能渡

理論仮説や概念的定義を考えるコツは、サーベイの目的達成を意識することです。サーベイの目的を達成するためには、目標達成に向けて仮説で取り上げた概念や事柄が、有効だと考えられることに加えて、何らかの対策が可能なことが必要です。

当然ながら、サーベイの目的達成にほとんど有効でなさそうな事柄を取り上げても意味はありません。また、仮に有効そうな事柄であっても、対策によって変化させにくいものであったなら、仮説でそれを取り上げる意義は薄くなります。

ここで、上司の変化型リーダーシップという概念について、有効で、対策可能な側面を選び出した例を挙げてみます。

変革型リーダーシップはおおまかに、目標やビジョンを指し示す行為、部下の個性に配慮する声掛け、あるいは部下からの尊敬獲得、といった側面があります。これらの側面は、様々なアウトカムに有効であることが研究で示されています。

これらについて対策可能性を考えてみると、前者の2つは上司の振る舞いや行動なので、マネジメント研修などにより、そのような行動をスキルとして獲得していくということで、対策は可能なわけです。

一方で、部下から尊敬を集めるという点に関しては、上司のふるまいでなく部下側の認識です。この概念が成果を高めるといった分析結果が出ても、「部下側の認識を変える」ような対策は考えにくいでしょう。

このように、成果に対して有効だという分析結果が出たとしても、対策がとれないならば意味は薄いので、サーベイ内容に入れないと判断するができるのです。このように、仮説で取り上げる概念や事柄を考える際には、有効性に加えて対策可能性にも着目して選んでいくのが良いでしょう。

このようにして、取り上げる概念や事柄を考えることはできますが、他方で「理論仮説全体の文章は、どう考えればよいか」と悩んでしまう場合があるかもしれません。理論仮説の構築は、リサーチ・クエスチョンと対応して考えられます。

以下の表はその例です。

なお、この表の内容は、多くの実務家が使いやすいように思い切って単純化させたものです。経験を重ねていくとさらに洗練された仮説を立てることができるようになるでしょう。

3.作業仮説と操作的定義

作業仮説=具体的な検証結果の予測を述べた仮説

能渡

次に、「作業仮説」と「操作的定義」について説明します。作業仮説とは、「理論仮説の内容は、最終的なデータ分析結果としては、このように表れるだろう」と、検証結果を推測する形で述べた仮説です。

例えば、理論仮説として、「上司の変革型リーダーシップは部下の職務満足を高める」と考えたとします。このとき、「2つの指標間に正の関連がみられる」という具合に、どんなデータ分析の結果が得られるかを想定する、ということです。

作業仮説に関して考えることは、実行するデータ分析の方法と、予測される分析結果です。

例えば、「上司の変革型リーダーシップは部下の職務満足高める」という理論仮説を検証する方法の代表例として、回帰分析を行うことが考えられます。そして、「回帰分析をすると、理論仮説に従えば、この得点間に正の関連が出るだろう」と予想が立てられます。

このように、サーベイ設計の時点で、データ分析方法やその結果まで考えていくことが、作業仮説で考えるべきことです。

作業仮説を考えて、分析方法や想定される結果を見通すことのメリットとして、サーベイ実施後の対策案まで想定できることが挙げられます。

「上司の変革型リーダーシップは部下の職務満足を高める」という理論仮説を基に考えてみましょう。この理論仮説を作業仮説にすると、「上司の変革型リーダーシップ得点と部下の職務満足得点の間に、正の関連がある」となります。

この作業仮説が不支持だった場合を考えてみると、それは、「上司の変革型とリーダーシップ得点が高くても、職満足得点が高い部下だけでなく、低い部下も沢山いる」ような状況であり、2つの要因に関連がない状況が分析結果で描かれるだろうと予測できます。

すると、「変革型リーダーシップについて対策する意義は薄い」「対策を考える際は、変革型リーダーシップは考慮しなくてよい」と判断すればよいと考えられます。

逆に、仮説が支持であれば、「上司の変革型リーダーシップが高まるにつれて、部下の職員満足も高まる」という関連が示されていることになります。そのため、「変革型リーダーシップの対策を実施するのが良いだろう」と意思決定をすることになるでしょう。

さらに掘り下げると、理論仮説の時点で変革型リーダーシップの内容をしぼりこんでいるため、より具体的に「ビジョンの提示や激励の声かけといった行動を増やす対策を行えばよい」と考えられます。

このように、作業仮説をしっかり組んでおくことで、サーベイを設計している段階で、その後の対策案まで見通しが立てられるようになるのです。

操作的定義=「どうやって測定するか」を定める定義

能渡

では、操作的定義について説明します。これは、理論仮説で取り上げた概念や事柄の測定方法を定める定義です。つまり、概念的定義に合わせて測定内容を決めていくということになります。

操作的定義が必要な理由として、概念的定義を設定したとしても、その測定法にも様々な種類があるためです。

例えば、行動や振る舞いを測定するとして、多くはアンケートで自己報告してもらう方法を取りますが、何らかのツールをつかって実際の行動を直接記録するといった方法も考えられます。

さらには、アンケートの中でも、どんな質問でどのような内容で聞くかといった次元での違いも考えられます。このように、ある概念を測定するには様々なものがあるので、それを定める操作的定義が必要となるのです。

再び、上司の変革型リーダーシップを例にしていきます。概念的定義を、次のように定めたとします。なお、この例では、上司の様子を部下に回答してもらうと定めたとします。

  • 「部下のやる気を引き出して、業務遂行に導く行為」と定義する
  • ビジョン提示や声掛けなど、部下に対する直接的行動に限る
  • 部下からの尊敬獲得やカリスマ性発揮といった間接的側面は除く

アンケートで測定する場合、定義と照らし合わせ、使用する項目を決めていくことが必要です[2]。すると、次のような項目は含めないほうが良いといえます。

  • 上司は、革新的なアイデアを発信するよう努めている
  • 上司は、部下が楽しく仕事できるようサポートしている

一つ目は、この行為が部下に対する直接的な働きかけなのか、あいまいな内容となっています。二つ目は、「サポート」という語の意味内容が広く、ビジョン提示や声掛けを超えた支援行為を含む可能性があります。いずれも、このサーベイにおける変革型リーダーシップの定義とはずれた内容であり、修正・削除すべき項目です。

逆に、次のような項目は、概念的定義にも即しており、適切な項目といえるでしょう。

  • 上司は、魅力的なビジョンを部下に伝えている
  • 上司は、部下への期待をポジティブに伝えている
  • 上司は、部下の強みが活かせるよう部下と意見交換している

4. 理論仮説・作業仮説から見える分析方法

能渡

最後に、理論仮説と作業仮説を立てることで、分析方法が見えてくるという点を紹介します。実は理論仮説が一つ定まると、そこから考えられる作業仮説と分析方法も、ある程度決まってくるのです。

次の表は、理論仮説から、作業仮説と分析方法を対応させた一例です。このように、作業仮説で述べる検証方法は、理論仮説からおおよそ見通すことができます。また、こちらも実務家向けに簡略化した内容であり、分析に詳しくなるほど、より正確な検証方法を考えることができます[3]

仮説を立てる6つの工夫

伊達

再び私からお話します。仮説を立てる方法について紹介します。

まず、多くの仮説を挙げてから絞り込んでいくという進め方が有用です。初めに挙げた仮説が最良の仮説であるというケースは少ないからです。多くの仮説を挙げると、視野が広がります。

多くの仮説の中から、より良い仮説を選び取っていくことで、結果的に質の高い仮説になります。そこで、多くの仮説を挙げるのに有効な、6つの工夫を皆さんに共有します。

一つ目が、社員の話を聞くことです。社員の意見は、仮説を考える上で大事な情報源です。リサーチ・クエスチョンを質問に分解し、社員に尋ねてみましょう。意見や感想、懸念や提案が得られるはずです。現状に合った仮説を立てることができます。

二つ目が、書籍や論文を読むことです。学術書やビジネス書、学術論文など、様々な資料に目を通しましょう。仮説を考えるための視点、アイデア、知識を得ることができます。過去に行われた実証結果や、既存の理論、ビジネス書に収められている実践知などに基づいて仮説を考えていきます。

三つ目が、ブレインストーミングです。仮説を1人で挙げるのは大変です。集団で考えると良いでしょう。例えば、現場のマネージャーと一緒にブレストをしてみましょう。1人ではたどり着きにくい角度からの仮説を挙げられます。

四つ目が、他社の事例を集めることです。リサーチ・クエスチョンに対して、他社がどんな取り組みをしているか調べます。同業他社に限らず、幅広く調べるようにしてください。自分たちが考えていなかった角度から、仮説を考えることができます。

五つ目が、現有データを分析することです。会社には様々なデータが保管されています。例えば、過去の組織サーベイの回答データがあるかもしれません。そうしたデータを分析してみると、仮説を立てるヒントが得られます。

六つ目が、専門家に尋ねることです。幅広い知識や経験を持つ専門家に話を聞くと、新たな気づきや洞察を得られます。今まで気づかなかった仮説を挙げることができ、仮説を拡充できます。

実行できそうなものから実行してみてください。様々な視点から仮説を挙げることができるようになります。

QA

Q1. あいまいな課題を仮説へ明確化するにはどんな工夫があるか

能渡

「そのあいまいな課題の要点は、実際にはどういうところにあるか」について、社内で広く意見を募ってみるのが良いでしょう。自由記述で回答を集め、そのデータの中で「ここがポイントになりそうだ」と把握できます。

Q2. 概念的定義と測定項目のズレをどう一致させればよいか

能渡

概念的定義と測定内容のズレは大きな問題です。完全な対策とは言えないものの、尺度を開発する際によく用いられる方法として、11個の項目の内容が測定したい概念からずれていないか、あるいはアンケート全体で網羅的に捉えているのかを、複数のメンバーや関係者間で議論して調整を重ねることは、重要なアプローチです。複数名が「この質問項目で、定義とズレがない内容を網羅的に捉えられている」と納得できれば、定義と一致した項目だといえるでしょう。

伊達

他にも、境界について考えることも大切です。例えば、「職務満足度が高い人はどんな行動をとるか」を挙げていくと、「これは違う」「これはまさに」という具合に、定義からの距離が異なるはずです。一定のラインで「今回はここまでを満足度と呼ぶ」と定義していきます。

Q3. 仮説構築を目指して建設的に議論をするコツはあるか

能渡

関係者全体で、2つのコンセンサスをとることが重要です。まず、「結局、サーベイを通して何がしたいのか」というゴールです。ゴールがあいまいだと議論も拡散してしまいます。加えて、「測定しようと思っているものが何か」についてです。これは概念的定義でもお伝えしましたが、ある概念や事柄がどういったものかについては認識の相違がある可能性があり、そこがかみ合わないと議論が紛糾しがちです。

伊達

「最後は、△△さんに決めてもらいましょう」「〇月〇日までに、このプロセスで決めます」という具合に、「決め方を決める」という方法もありますね。

Q4. 調査に当たって概念的定義を独自に表現することは可能か

能渡

概念的定義を独自なものにして、ユニークな概念とすることは可能だと思います。定義に応じた質問項目をしっかり作りこみ、多くの人が「定義と質問内容がずれておらず、網羅的だ」と納得できるならば、狙った概念を捉えられている最低限の保証はされます。その上で、妥当性を確かめるデータ分析結果まであると、なおよいというのが私の見解です。なお、独自な概念的定義は、内容が拡散して様々な特徴を含めすぎることが多いため、何でもかんでも入れこまないようご注意いただきたいです。

伊達

自社を良くするためのサーベイを考える際には、学術的な概念だけにこだわる必要はありません。自社ならでは事情を考慮して、新規の概念を探索するのも大事です。

Q5. 良質な仮説の根拠はあるか

能渡

個人の主観や思い込みに依らないところに根拠を求めていくのが大事です。学術研究の知見をベースにしたり、複数名の意見で決めていくことが挙げられます。

伊達

なぜその仮説が成立するか、「理由」を説明しようとするのもおすすめです。理由を説明できない仮説は再考すると良いでしょう。


 脚注

[1] ただし、まだ仮説を作れるほど情報がない段階で、予備的に調査を実施する場合もあります。このように、仮説を立てずに調査することを「探索的検証」と呼びます。その場合は、その検証のみで結論を下さず、そこで見いだされた結果を仮説として取り上げて、再度サーベイを行ってその仮説をしっかり検証するのが望ましいです。
[2] 当社コラム「心理尺度の作り方・考え方組織サーベイの質問項目作成のポイント」では、組織サーベイにおいて、概念を定義することの重要性やポイントを、より詳しく解説しています。掘り下げて知りたい方は、併せてご覧ください。
[3] 各種の分析の詳細は、当社のコラムが参考になります。併せてご覧ください;
人事のためのデータ分析入門:「統計的に有意」とは何か(セミナーレポート)
人事のためのデータ分析講座 相関分析 ~2つの指標の関連を検証する~(セミナーレポート)
人事のためのデータ分析入門:「回帰分析~要因を見出すための分析~」(セミナーレポート)

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