ビジネスリサーチラボ

open
読み込み中

コラム

データ分析のアウトプットイメージ

コラム

ビジネスリサーチラボでは、企業向けにデータ分析のサービスを提供しています。主なサービスとして、組織サーベイと社内データ分析があります。これらを提供する過程で、調査報告書や分析報告書を作成します。その一部を抜粋したのがアウトプットイメージです。

本コラムでは、データ分析のアウトプットイメージを紹介します。ビジネスリサーチラボがクライアントにどのような成果物を提供しているのかを示します。アウトプットイメージを見ることによって、3つのことが分かります。

1に、ビジネスリサーチラボのサービス内容をイメージしやすくなります。第2に、分析のレベルを確認することで品質を把握できます。第3に自社の課題に応えるサービスかを判断しやすくなります。

ビジネスリサーチラボがアウトプットを作成する際に、特に重視している要素の話から始めましょう。3つあります。「理解可能性」「実践性」「正確性」です。

  • 理解可能性:結果がクライアントにとって理解しやすいことを意味します。どんなに正確な分析を行ったとしても、それがクライアントに理解されないものであれば、改善にはつながりません。
  • 実践性:分析結果が具体的な行動につながることを指します。データ分析は一般的には手段であり、目的ではありません。それが現実的な解決策に結びつくことが重要です。
  • 厳密性:正確な分析を行っていることを意味します。ただし、厳密性はあくまで一つの要素であり、他の要素とバランス良く進めることが求められます。

以降、アウトプットイメージの紹介を進めます。成果指標に関する分析、成果指標と影響指標の関連検証、影響指標に関する分析、自由記述の内容の分析、対策案の列挙という5つのパートに分けて説明します。

なお、「成果指標」は人や組織の目指すべき状態であり、いわゆる従属変数に相当します。対して、「影響指標」は独立変数に該当し、成果指標を促進または阻害する要因を指します[1]

1.成果指標に関する分析

まず、成果指標の分析についてアウトプットイメージを見ていきましょう。今回は、「エンゲージメント」を成果指標に定めたとします。また、エンゲージメントは、「没頭感」「満足感」「活性感」「愛着心」の4つの要素から構成されています。各要素は次のとおり仮に定義します。

  • 没頭感:仕事に熱中し、集中していること
  • 満足感:仕事に対して内面的な喜びや達成感を覚えていること
  • 活性感:エネルギッシュで活動的に仕事に取り組んでいること
  • 愛着心:会社に対して親しみや愛情を感じていること

1-1.自社と他社の比較

成果指標に関する分析として、クライアント(アウトプットイメージの中では「貴社」と表記します)と他社の比較を行います。

比較を行うために、例えば、クライアントが実施した同じ項目を含む調査でウェブモニター調査を行います。クライアント企業の業種や業界、従業員数、地域を考慮して実施します。

モニター調査の回答データとクライアントの回答データをもとに、各成果指標の平均値を比較します。

他社と比較する意義は、自社の強みと弱みを理解し、どこが優れていてどこに改善が必要かを把握することです。さらに、比較結果を経営陣に報告することで、改善につなげやすくなります。また、比較結果を社員に示すことで、意識改革や行動改善に働きかけることも可能になります。

他社比較のアウトプットイメージを示しました。エンゲージメントの4要素について、クライアントと他社の比較をしています。クライアントと他社の平均値に統計的に有意な差があるかを、t検定と呼ばれる手法で確認します[2]。さらに、その差がどれだけ大きいのか、つまり「効果量」を算出します[3]

アウトプットイメージの例では、クライアントと他社を比較すると、「没頭感」と「活性感」が他社に比べて低い傾向が見られます。これらの要素はまだ伸ばせる余地があり、今後高める必要があることが読み取れます。

なお、クライアント向けに提出するアウトプットの背後で、応用的な分析を行うことも珍しくありません。別の分析でも検証を加えることで、アウトプットの内容が頑健なものであるかを確認しています。

1-2.今年と昨年の比較

 先ほどは、自社と他社を比較しました。続いて、今年と昨年を比較します。ビジネスリサーチラボでは、クライアントから連続してご依頼いただくことも増えている影響で、昨年と今年で同じ要素を比較する場合があります。

昨年と今年を比較する理由は主に3つです。第1に、実施した対策の効果を定量的に評価できること。第2に、望む方向に変化しているかを確認できること。第3に、望ましくない方向に進んでいる指標を見つけられることです。

今年と昨年の比較結果を見てみましょう。アウトプットの構造自体は先ほどと同じです。分析結果があり、考察を行っています。右側には図があります。分析としては、潜在差得点モデルを用いて、今年と昨年の回答データを比較しています[4]

例えば、この結果を見ると、満足感と活性感については昨年より上昇していることが分かります。愛着心は上昇していますが、高止まりしていると言えます。

 なお、差のp値や信頼区間などの値は専門的になりすぎるため、アウトプットイメージでは省略することもあります。しかし、弊社の中で当然、その情報は持っています。詳細なデータが求められるケースでは、補足資料として結果を提出することも可能です。

2.成果指標と影響指標の関連検証

成果指標とそれに影響を与える要因、すなわち影響指標との関連を検証します。

影響指標についても例を8つ挙げておきます。「上司の支援」「自律性」「コミュニケーションの頻度」「職務の明確さ」「仕事の意義」「適切な労働時間」「目標設定」「挑戦的な仕事」です。これらは仮の例です。

成果指標と影響指標の関連検証には2つの意義があります。第1に、何が成果に影響を与えているのかを特定できます。どの影響指標を高めれば成果指標が向上するか検討できます。第2に、影響指標と成果指標の関連の強さを把握できます。関連の高い影響指標から順に対策を立てると、効果が期待できます。

企業のリソースには限りがあります。すべての影響指標を一度に向上させることはできません。成果指標と影響指標の関連を検証することで、どの影響指標から優先的に手をつけるべきかを考えられます。

具体的なアウトプットイメージを紹介しましょう。2つの例を用意しました。それぞれの例において、成果指標が異なります。

2-1.成果指標と影響指標の重回帰分析

1つ目の例は、「没頭感」という成果指標に対して、どの影響指標が関連しているかを検証したものです。重回帰分析という分析手法を用いています[5]。分析結果によれば、「自律性」「仕事の意義」「挑戦的な仕事」が「没頭感」に有意に関連していることがわかります。

それぞれの関連の強さを比較すると、「仕事の意義」と「没頭感」が相対的に強く関連しています。各影響指標が「没頭感」になぜ関連しているのかを考察することも重要です。考察を行うことで、分析結果が理解しやすくなります。

2つ目は「愛着心」という成果指標との関連を検証した例です。結果、「上司の支援」「自律性」「コミュニケーションの頻度」が「愛着心」と有意な関連があることが明らかになりました。ここでも同様に、分析結果に加えて、それぞれの影響指標が「愛着心」に関連する理由を考察しています。

なお、成果指標と影響指標の関連については分析結果における数値上の情報に加えて、理論的にも関連が想定されるかなど、総合的に考察を掘り下げています。その上で、より良い状態に少しでも近づくための実践的な提案をしています。

2-2.成果指標と影響指標のモデル検証

続いて、構造方程式モデリングを用いたアウトプットイメージを示します。成果指標と影響指標の関連をモデルにまとめて、データをもとにモデルの妥当性を確認します。

この方法は有用で、分析結果を一目で理解し、社内で共有することができます。すべての分析結果を詳細に追う時間がない人にとって、全体像や対策を打つべきところがすぐに把握できるのは大きな利点です。

「活性感」「満足感」という2つの成果指標に対して、いくつかの影響指標が関連するモデルを検証した例を挙げています。分析結果としてモデルがデータに対して妥当であることが分かりました。

構造方程式モデリングを用いる際にはモデルを構築する必要があります。モデルは、十分に確立された理論や概念モデルなどを参考にしたり、他の分析結果をもとに検討したりします。クライアントと議論しながらモデルを洗練化させた上で検証することもあります。

2-3.時系列データに基づく関連検証

成果指標と影響指標について時系列データを収集できていることもあります。その場合には、時系列データの特徴を活かした分析を行います。

一例として、潜在差得点モデルを用いたアウトプットを示します。昨年と今年など、2回のデータをもとに分析するようなケースです。

分析例では、成果指標の変化と影響指標の変化の関連を確認しています。例えば、没頭感の変化と、自律性や仕事の意義の変化が関連しているのがわかります。個人内の変化を捉えて検証することで、より有効な対策立案に近づくことができる分析です。

3.影響指標に関する分析

成果指標と関連する影響指標が特定できたら、それぞれの影響指標について属性比較を行います。これにより、どの属性に改善の余地があるかを見つけることができます。

どの属性が低いか高いかが見えれば、対策を打つべき層がわかり、改善の余地がほとんどない層を避けて、対策のためのリソースを効率的に配分できます。

3-1.分散分析による属性比較

具体例を挙げましょう。年代で影響指標を比較した例であり、分散分析という手法を用いています[6]

仕事の価値観を20代、30代、40代、50代、60代で比較すると、30代が他の年代に比べて低いことがわかりました。これはさまざまな理由が考えられます。例えば、子育てや家庭の事情などが影響している可能性があります。

この情報から、仕事の価値観を高めるための対策は30代を優先的に実施したほうが良いと考えることができます。

3-2.t検定による属性の特徴把握

成果指標と関連する影響指標について各部署の特徴を明らかにしたい場合があります。そうした場合に、例えば、1標本のt検定を行い、効果量を算出することがあります。

こうした分析を行うことの意義は、先ほどと同じく、対策のターゲットを明確にすることです。より効果的で効率的な対策の実行のためには、対策を実行する層を特定する必要があります。

上記のアウトプットを見てみましょう。全社のコミュニケーション頻度の平均スコアが3.50です。各部署がこの全体平均と比べて有意に高い/低いかを検証します。

分析例では、人事部、品質管理部、開発部などが全体平均よりもスコアが高いことがわかる一方で、経理部、情報システム部、営業部、購買部などが全体平均よりも低いことがわかります。分析結果をもとに、高い/低い部署の共通点を考察するのも有益です。

4.自由記述の内容の分析

自由記述のテキストを分析した例を考えてみましょう。新しい見解や改善策を見つけやすい分析です。

4-1.自由記述のコーディング

例えば、「この1ヶ月において、上司からの仕事上の助言で最も嬉しかったものは何ですか」という質問に対して、多くの回答がありました。

回答をコーディングした結果、6つのカテゴリーを抽出できました。コミュニケーションの改善、タスクの効率化、チームワークの促進、スキルアップ、モチベーション向上、リーダーシップ育成です。これらが嬉しいと感じたアドバイスの種類となります。

4-2.他指標と自由記述を組み合わせた分析

カテゴリー分類の適切さを検証するため、複数名で回答をカテゴリーに分類し、分類の一致率を確認することもできます。さらには、他の指標と組み合わせて集計することで示唆が得られます。

例えば、先ほどの6カテゴリーに該当する回答者数を、エンゲージメントスコアが高まったグループ(上昇)、変わらなかったグループ(維持)、低くなったグループ(減少)の3グループに分けてみます。

これをカイ二乗検定という手法で分析すると、エンゲージメントを高めるには、どの種類の助言が特に有益かを検討できます[7]

5.対策案の列挙

最後に、対策案の提示について紹介します。データ分析そのものは目的ではなく、分析結果を通じて人や組織をより良い状態にすることが目的です。分析結果を対策につなげていくことが重要となります。

対策の実行はクライアントが担いますが、ビジネスリサーチラボは対策の方向性や方針を提示する役割を果たしています[8]

対策案をまとめたアウトプットの例を挙げましょう。「上司支援」が成果指標と関連していることがわかったとします。そうなると、上司支援を増やすための対策案を検討する必要があります。

アウトプットイメージの中では、リーダーシップ研修の実施、上司と部下の定期的な面談の推奨、上司による部下の成長支援の推進といった対策を案として挙げています。

他にも、「コミュニケーション頻度」が成果指標に影響を与えるという結果が出た場合、コミュニケーションツールの導入、非公式なコミュニケーションの促進、チームビルディングの推奨といった対策が考えられます。

これらの対策案をフィードバックし、クライアントと議論をします。その結果、どの対策を選び、細部をどう作り込むかはクライアントに委ねられています。

 

本コラムでは、ビジネスリサーチラボのデータ分析において、どのようなアウトプットが出てくるか、例を挙げながら紹介しました。ビジネスリサーチラボに依頼する際にもそうですが、自社で分析を行う際にも参考になると幸甚です。

 

脚注

[1] 成果指標と影響指標の詳細については、例えば、次のコラムが参考になります。ビジネスリサーチラボの組織サーベイ支援 12のステップ

[2] t検定の詳細を理解するために次のコラムをご活用ください。人事のためのデータ分析入門:「統計的に有意」とは何か(セミナーレポート)

[3] 効果量については次のコラムにて詳述しています。効果量とは何か:「差の大きさ」を評価する指標

[4] 潜在差得点モデルの詳細は次のコラムを参照してください。潜在差得点モデルとは何か

[5] 回帰分析の詳細は次のコラムをご確認ください。人事のためのデータ分析入門:「回帰分析~要因を見出すための分析~」(セミナーレポート)

[6] 分散分析の詳細は次のコラムを参照してください。一要因分散分析とは何か

[7] カイ二乗検定の詳細は次のコラムを参考にしてください。カイ二乗検定とは何か

[8] 対策案の検討については次のコラムをご参照ください。データ分析の結果をもとに対策案を導出するためのコツ


執筆者

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

能渡真澄
株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー。信州大学人文学部卒業,信州大学大学院人文科学研究科修士課程修了。修士(文学)。価値観の多様化が進む現代における個人のアイデンティティや自己意識の在り方を、他者との相互作用や対人関係の変容から明らかにする理論研究や実証研究を行っている。高いデータ解析技術を有しており、通常では捉えることが困難な、様々なデータの背後にある特徴や関係性を分析・可視化し、その実態を把握する支援を行っている。

#能渡真澄 #伊達洋駆

社内研修(統計分析・組織サーベイ等)
の相談も受け付けています