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コラム

仕事を任せる:権限委譲を進めるために

コラム

本コラムでは、仕事を任せることをテーマに「デリゲーション」という考え方を紹介します。先行研究から得られた知見をもとに、仕事を任せることの効果、その実践が難しい理由、促進のための切り口を説明します。

仕事を任せることの意義と難しさ

本コラムにおける「仕事を任せる」とは、部下や後輩に自分の仕事を渡すだけではなく、権限も委譲することを指します。仕事を任せる重要性は、多くの人が認識しているところでしょう。

仕事を任せると、任せられたほうは裁量が高まります。裁量が高まることには、さまざまな効果があります。例えば、仕事の裁量が高まることでエンゲージメントが高まったり[1]、仕事上の創意工夫をこらしたり[2]、心理的安全性が高まったりします[3]

仕事を任せることの効果は学術的にも検証されています。しかし、現実には仕事をうまく任せられない人や、自分が仕事を任せてもらえていないと感じる人も多いのではないでしょうか。仕事を任せることは、いざ実践してみようとすると、一筋縄にはいきません。

本コラムでは、仕事を任せるとはどういうことか。なぜ人に仕事を任せるのは難しいのか。仕事を任せるために何をしていけばいいのかを解説します。

これらの点を検討するために、「デリゲーション」という考え方を手がかりにします。デリゲーションはビジネス実務でも利用される言葉ですが、学術研究も進められています。本コラムでは、デリゲーションの議論を参考にしながら、仕事を任せることの内実に迫ります。

デリゲーションとは何か

「デリゲーション」は、日本語に訳すと「委任」が近いかもしれません。学術的には、「特定の仕事に対して責任を負うように、上司が部下に権限を与えること」と定義されています[4]。まさに仕事を任せることを意味するのがデリゲーションです。

デリゲーションを進める上司の下で働く部下は、どのような状態にあるかを確認しましょう。例えば、部下が仕事の進め方を自分で判断するように勧められている。仕事の問題を自分で解決するように促されている。重要な判断と実行の権限を委譲してもらっている。こうしたことに当てはまるのが、デリゲーションの高い上司の下にいる状態です[5]

デリゲーションに似て非なる概念に「コンサルテーション」があります。これは日本語に訳すと「協議」に近いかもしれません。コンサルテーションとは、部下に影響のある決定を行う前に、部下からアイデアや懸念を聞き出すことを意味します。

デリゲーションとコンサルテーションは異なる概念です。デリゲーションでは、意思決定の権限が部下に移っています。対して、あくまでも上司の下に権限が残っているのがコンサルテーションです[6]。今回はデリゲーションに注目します。

デリゲーションの4つの段階

部下に対して権限を委譲することを含むデリゲーション。1986年から2010年までに提出された論文をもとにすれば、デリゲーションは4つの段階に分けられます[7]

  1. 上司が委譲できる権限の種類を理解すること。全てを部下に放り投げるのではなく、何を委譲していくのかを検討するところからデリゲーションは始まります。
    • 例)プロジェクトの事前計画を任せよう
  2. 誰に対して権限を委譲するのかを考えること。そのタスクを遂行できる人を見つける必要があります。委譲する相手が仕事の内容とフィットしていなければなりません。
    • 例)プロジェクトの中身を何度か経験したAさんであれば、計画するための情報を持っているはず
  3. 選ばれた人がタスクの条件を受け入れること。デリゲーションは上司から部下に押し付けるものではなく、上司と部下の共同作業です。
    • 例)「プロジェクトの内容も分かりはじめたころですし、計画を任せたいのですが、どうですか」と聞く
  4. 上司が権限を委譲し、委譲された人がタスクを完了するのを信じること。これは権限委譲後の段階です。上司から部下に対して権限を委譲したのはいいものの、結局、細かく管理してしまうとデリゲーションとは呼べません。
    • 例)Aさんが計画を作り終えるまで見守る

デリゲーションにおいて権限は部下に移っています。部下に任せた仕事の進め方や内容、品質など、口を出したくなることもあるかもしれません。しかし、そこはぐっとこらえて、「うまくやり遂げてくれるだろう」と信じるのが大事です。

デリゲーションを難しくする要素

デリゲーションは重要でありながらも、実際に仕事を任せられている人は必ずしも多くありません。デリゲーションは、なぜ難しいのでしょうか。この点を、学術研究をもとに考えます。

上司の部下に対する信頼が高いほど、上司のデリゲーションは高まることを実証した研究が参考になります[8]。部下への信頼とは、上司が部下に対してリスクを取ろうという意思を持っていることを意味します。例えば、部下の言動を監視できなくても部下を安心して見ていられるという状態です。部下への信頼が高いほど、上司のデリゲーションは進んでいくと明らかになりました。

この研究が教えてくれることがあります。上司から見ると、デリゲーションは不確性が高く、リスクテイクが含まれているのです。

不確実性とは、必要な情報が不足していることを指します。自分で仕事を行うと、ある程度どうなるのかの予測がつきやすいものです。それに対し、部下に任せると、結局どうなるかが分かりません。部下に仕事を任せると、上司にとって不確実性が高い状態になります。

また、デリゲーションにおいては上司がリスクを取らなければならない側面もあります。部下に任せた仕事が失敗に終わる可能性もあります。意に沿わない進め方をすることもあるでしょう。思うようなパフォーマンスが上げられないこともあります。また、上司が責任をとらなければならないかもしれません。このように仕事を任せることにはリスクが伴います。

人は基本的に不確実性とリスクを好まず、それらはストレスになります。できる限り回避しようとします。そのため、デリゲーションは難しいのです。デリゲーションの難しさの背後にあるのは不確実性とリスクです。

デリゲーションの促し方

デリゲーションを促すにはどうすればよいのでしょう。デリゲーションに関する3つの要因を参考に、デリゲーションの促し方に迫ります。

(1)LMX

デリゲーションに関する1つ目の要因は、「LMX」(Leader-Member Exchange)です。LMXは上司と部下の関係性の質を意味します。LMXが高いほどデリゲーションが行われることが検証されています[9]

LMXが高いと上司と部下の関係が良く、互いに信頼し合っている状態になります。上司が「この部下のためならリスクも取れる」と感じ、デリゲーションが進みます。逆にLMXが低いと、そんなリスクはとれないと、デリゲーションが抑制されます。

LMXを高めるために、上司側にできることと部下側にできることがそれぞれあります[10]。まず、上司側にできることは3つあります。

  1. 部下がうまくいったときに褒め、うまくいかなかったら指摘する
  2. 上司が魅力的な目標を立て、部下を刺激して引っ張る
  3. 部下がうまくいくことを上司が期待する

部下側にできることは3つあります。

  1. さまざまな知識を身につけて、能力を高める
  2. 熱心かつ楽観的に仕事に取り組む
  3. うまくいかなかったときに周囲のせいにしない

デリゲーションの第二段階は誰に仕事を任せるか考えることでした。上司も人間です。LMXが高い部下に仕事を任せようとします。デリゲーションを進めるためには、上司と部下の関係構築が大切なのです。

(2)目標の一致

デリゲーションを促す2つ目の要因は「目標の一致」です。目標の一致がデリゲーションを促すことが明らかになっています[11]

目標の一致とは、上司から見たときに部下が仕事の目標にコミットしていると思うことを指します。目標に向けて部下が頑張っていると思うほど、上司は仕事を任せる傾向があります。

部下が目標にコミットしていると、上司にとってデリゲーションに際した不確実性が下がります。仕事を任せても、目標に向けて進めてくれるだろうと見込みが立つためです。部下が目標にコミットしていると、上司はリスクテイクもしやすくなります。目標にコミットしていれば、仕事を任せたとしても大コケはしないだろうと思えます。

目標の一致も、上司と部下のそれぞれから促進できます。まず、上司からできることです。3つのステップがあります。

  1. 目標を立てること。目標が無ければコミットも何もありません。達成するために頑張りたいと思える目標にします。目標が魅力的でないとコミットするための負荷が大きくなります。例えば、今の自分にすぐにはできないが、手を伸ばせば届きそうな目標が良いでしょう。
  2. 目標を部下に伝え、受け入れてもらうこと。目標は立てるだけでは不十分で、部下に伝えていかなければなりません。しかし、一度伝えたからといって、部下が即座に目標を受け入れるわけではありません。その目標が部下や職場にとってどのような意味を持つのかを、部下と一緒に考えましょう。
  3. 目標に向けて部下の意欲を喚起すること。日々の仕事に追われていると、目標の優先順位が下がります。上司は目標を繰り返し口にし、さらには、目標達成の意義を時々振り返って伝える必要があります。部下が目標に向けて進んでいる場合には、ポジティブフィードバックを行うのも有効です。

他方で、部下から目標の一致を促す場合には、まず職場の目標を理解しなければなりません。その上で、目標を意識しながら働いていることを上司に見せることが大事です。目標に近づいた際には、上司に進捗を報告すると良いでしょう。こうした行動により、目標の一致を上司に感じてもらうことができます。

(3)感情知能

デリゲーションを促す要因の3つ目は「感情知能」です。学術研究によれば、上司の感情知能が高いほど、上司はデリゲーションを行います[12]。感情知能とは、自分や他者の感情をモニターし、自分の思考や行動の指針にする能力を指します。

前述のとおり、デリゲーションは不確実性とリスクテイクを伴います。不確実性やリスクテイクは、不安や焦りを芽生えさせます。こうした感情に振り回されると、デリゲーションは生まれません。逆に言うと、感情をうまくコントロールできれば、不確実性やリスクがあっても、心を落ち着けて進められます。そのため、感情知能が高いと、デリゲーションが促されるのです。

感情知能を高めるための切り口をいくつか紹介します。

  1. 自分が今どのような感情を抱いているかを意識すること。自分を俯瞰できないと、感情に飲み込まれます。自分の感情を認識することは、感情知能を高める上で必要です。
  2. 自分の感情が他者に対して与える影響を知ること。例えば、自分が怒ったなら、相手はどのような気持ちになり、その結果、仕事はどうなるかを考えます。自分の感情は他者に影響を及ぼし得ます。特に役職が上がると影響力も大きくなります。
  3. ネガティブな感情を吐露しないこと。ネガティブな感情を表明すると、周囲に負の影響が生まれます。自分の中にネガティブな感情が湧いても、それを即座に出さず、立ち止まることが求められます。もちろん、全てを我慢すべきということではありません。ストレス発散の機会も作りましょう。
  4. 他者に対して情緒的なサポートを提供すること。例えば、同僚、後輩、部下などが困っていそうなときに相談に乗ります。とりわけ、ストレスフルな状況にいる人には積極的に声をかけましょう。
  5. 感情知能を高めるための研修を受けること。感情知能は育成が可能です。感情知能を身につける場を求めましょう。

 

本コラムでは、仕事を任せられる上司や、任せてもらえる部下になるために必要なことを、デリゲーションという考え方をもとに解説しました。デリゲーションを進める際の参考にしていただければと思います。

 

執筆者

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。

 

 


[1] Xanthopoulou, D., Bakker, A. B., Demerouti, E., and Schaufeli, W. B. (2007). The role of personal resources in the job demands-resources model. International Journal of Stress Management, 14(2), 121-141.

[2] Lichtenthaler, P. W., and Fischbach, A. (2016). Job crafting and motivation to continue working beyond retirement age. The Career Development International, 21(5), 477-497.

[3] Frazier, M. L., Fainshmidt, S., Klinger, R. L., Pezeshkan, A., and Vracheva, V. (2017). Psychological safety: A meta-analytic review and extension. Personnel Psychology, 70(1), 113-165.

[4] Bass, B. M. 1990. Bass and Stogdills handbook of leadership (3rd ed.), New York: Free Press.

[5] Yukl, G. and Lepsinger, R. (1990). Preliminary report on validation of the Managerial Practices Survey. In Clark, K. E. and Clark, M. B. (eds.) Measures of Leadership, Leadership Library of America: West Orange, NJ.

[6] Yukl, G., & Fu, P. P. (1999). Determinants of delegation and consultation by managers. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 20(2), 219-232.

[7] Bell, R. L. and Bodie, N. D. (2012). Delegation, authority and responsibility: Removing the rhetorical obstructions in the way of an old paradigm. Journal of Leadership, Accountability and Ethics, 9(2), 94-108.

[8] Han, S. (2014). Goal Orientation and Leaders Empowering Behavior: Mediating Effect of Trust. Seoul National University, Theses.

[9] Ansari, M. A., Aafaqi, R., and Ahmad, Z. A. (2009). Perceived delegation and work outcomes: The moderating role of cultural orientations in the Malaysian business context. Academy of Management, August, 1-28.

[10] Dulebohn, J. H., Bommer, W. H., Liden, R. C., Brouer, R. L., and Ferris, G. R. (2012). A meta-analysis of antecedents and consequences of leader-member exchange: Integrating the past with an eye toward the future. Journal of Management, 38, 1715-1759.

[11] Yukl, G. and Fu, P. P. (1999). Determinants of delegation and consultation by managers. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 20(2), 219-232.

[12] Rahman, M. S. and Bhattacharjee, S. (2014). Role of emotional intelligence in delegation and empowering leadership: An empirical study on Bangladesh. The Chittagong University Journal of Business Administration, 29, 15-32.

#伊達洋駆

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