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『越境学習入門』HRアワード2022書籍部門 最優秀賞 受賞に寄せて

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このたび、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(石山恒貴・伊達洋駆 著, 日本能率協会マネジメントセンター)がHRアワード2022書籍部門 最優秀賞を受賞しました。今回、このような栄誉ある賞をいただきありがとうございます。非常に嬉しい気持ちでいっぱいです。 

HRアワードとは: 企業や個人の成長を促す取り組みを「企業人事部門」「書籍部門」「プロフェッショナル部門」の部門を設けて表彰する制度。主催は日本の人事部「HRアワード」運営委員会(HRビジョン株式会社)、後援は厚生労働省。2022年の選考委員長は学習院大学の守島基博氏が務めた。書籍部門では、多くの候補作の中から入賞作品が選ばれ、入賞作品に対して『日本の人事部』の会員24万人が投票を行う。その後、選考委員会の審査を経て、最終的に最優秀賞と優秀賞が決定される。

(左から)共著者の石山恒貴先生、ライターの井上佐保子さん、編集者の根本浩美さんと、授賞式にて。

 『越境学習入門』の制作に関わってくださった皆様にお礼を申し上げます。本書は、共著者の石山恒貴先生、ライターの井上佐保子さん、編集者の根本浩美さんというチームで制作しました。日本能率協会マネジメントセンターの皆様には出版だけでなく、その後の普及に至るまで様々な形でご尽力いただいています。そして『越境学習入門』を手に取ってくださった方々、HRアワードの書籍部門において投票してくださった方々に感謝いたします。

本書については、これまで多くの感想をいただいています。その反響の大きさには著者の一人として驚くばかりです。また、HRアワードの受賞に関する情報がリリースされるや否や、私のもとに多くのお祝いのメッセージやメールが届きました。こうした出来事からも、様々な方に支えられていることを改めて感じる次第です。『越境学習入門』のこのたびの最優秀賞は、著者だけでいただいたものではないと感じています。

今回の受賞作である『越境学習入門』の企画は、2020年まで遡ります。この年に、経済産業省が主導するプロジェクトに共著者の石山先生と一緒に参加することになりました。プロジェクトでは、越境学習の効果を可視化し、評価する仕組みを作ることを目的に掲げていました。今思えば、非常に挑戦的な取り組みだったと思います。

それまで、越境学習を巡っては、越境学習者(越境学習を体験した当事者)が、自分自身の体感として意義・効果があると感じてはいたものの、具体的にどのような効果があるのかと尋ねられると、言葉に詰まってしまう状況でした。そうした状況の中で越境学習者を増やしていくために、効果の可視化は重要です。効果をより高めていく支援を行う上でも、効果が可視化されているのは望ましいと言えます。経済産業省のプロジェクトでは、多くの越境学習者、越境学習者の上司、人事の方々、越境学習者を支援する伴走者、そして越境学習を支援する事業者の方々にインタビューを行いました。インタビュアーを務めたのは法政大学大学院の石山研究室の方々です。片岡亜紀子さん、北川佳寿美さん、谷口ちささん、水元孝枝さん、あらためて感謝申し上げます。

当プロジェクトでは、インタビューで収集した生の声を分析しました。加えて、越境学習に関する研究知見をレビューし、インタビューの分析結果とレビューの結果を合わせて「ルーブリック」(=評価表:主に高等教育で用いられることが多い)を作成しました。越境学習のルーブリックを作ることによって越境学習の効果を可視化できただけではなく、その効果を検証できるようになりました。越境学習のルーブリックについてはWebサイトに公開されており、『越境学習入門』の中にも収録されています。

プロジェクトの中で得たものは実に多くありました。越境学習についてもたくさんの発見がありました。それらの発見を書籍という形に収めて世に問うことができないだろうかという問題意識が『越境学習入門』につながっていきました。

本書の中では、越境学習の中で起こることとして「葛藤」を鍵概念に設定しています。越境学習のプロセスにおいては葛藤が複数回起きることになります。シンプルにお伝えすると、越境先で新たな環境に飛び込むと、これまで培ってきた経験やスキルがなかなか通用せずに悩みます。これが第1の葛藤です。さらに、越境体験を終えて自分の組織に戻ってくると、慣れ親しんだはずの組織に対して違和感を覚えます。これが第2の葛藤です。こうした葛藤は、越境学習の原動力として機能します。葛藤は鍵概念として、本書の中でも重要な位置を占めています。これは、経済産業省のプロジェクトから引き継がれたものになります。

一方で『越境学習入門』の制作プロセスを通じて現れた発想もあります。その中でも大きかったのが「冒険」というメタファーです。本書では、越境学習を「冒険」に例えて説明しました。

「冒険」の発案者はライターの井上さんです。井上さんの功績は非常に大きいと考えています。越境学習について私と石山先生から説明を一通り申し上げた後に、井上さんから「冒険」という見方を提示していただいたと記憶しています。「冒険」は、越境学習の危うくて大変である、その一方で楽しくてわくわくする性質をうまく捉えた良いメタファーです。越境学習の世界観を伝えていくために、「冒険」というメタファーは大事な要素でした。

『越境学習入門』は、書籍のみで完結するものではありません。手に取って実際に読んでいただいたら、その後にぜひ越境に挑戦していただきたいと思います。越境というと一見、大それたことに思うかもしれません。しかし、身近な越境もあるものです。本書の中でも身近な越境の例を多数ちりばめています。“慣れ親しんだホームを出て、多少もやもやするようなアウェーに出てみよう”というのがこの本の趣旨です。もし周囲に越境しようか迷っている方がいたら、この本を手渡して、ぜひ背中を押していただければ幸いです。

越境学習は、本書の中で触れているとおり、様々な効果をもたらします。それと同時に、ワークとライフをより豊かなものにすることに貢献するでしょう。今回の受賞を励みに、越境学習についてはもちろん、それ以外の知見についても積極的に発信していきたく存じます。あらためて、このたびはありがとうございました。

 

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