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コラム

レッドテープ認識を動かす視点:手続き・心理・文化・動機

コラム

職場には、数多くのルールや手続きが存在します。稟議書、経費精算、新規プロジェクトの承認プロセスなど、日々の業務は決められた手順に沿って進められます。これらのルールは、組織の公平性や透明性を保ち、円滑な運営を支えるために不可欠なものです。

しかし、時として私たちは、これらのルールを「形式的で、過度に複雑で、非効率なもの」、専門的に言えば「レッドテープ」だと感じてしまうことがあります。同じルールであるにもかかわらず、ある人にとっては当然の手続きが、別の人にとっては耐え難い障壁に見えるのは、なぜでしょうか。

本コラムでは、組織のルールが「レッドテープ」として認識される背景にある、様々な要因を紐解いていきます。手続きの負担感だけでなく、その手続きがもたらした「結果」が私たちの認識をどう変えるのか。あるいは、職場での孤立感といった個人の「心理状態」が、ルールへの見方にどう結びつくのか。国ごとの文化や制度といった、より大きな「文脈」が、私たちの集合的な感覚をどう形作っているのか。そして、公共の利益に貢献したいという個人の「動機」が、煩雑な手続きへの耐性にどう関わるのか。

これらの問いを探ることで、レッドテープという現象が、単にルールの多さや複雑さだけの問題ではなく、私たちの内面や、私たちを取り巻く環境と関わっていることを明らかにしていきます。

レッドテープ認識は手続負担と結果の好ましさに影響される

手続きが煩雑であればあるほど、人はそれをレッドテープだと感じやすくなるというのは、直感的に理解できることです。しかし、私たちの認識は、手続きの負担だけで決まるのでしょうか。手続きを経た末に得られる「結果」が、私たちのルールに対する評価を左右することはないのでしょうか。この問いを検証するために、ある実験が行われました[1]

この実験では、大学のコース登録という、多くの人が経験するであろう状況を想定した短い物語が用いられました。参加者である公共行政修士課程の学生たちは、いくつかのグループに分けられ、それぞれ少しずつ内容の異なる物語を読みます。物語の主人公は、必修科目を履修しようとしますが、そのクラスはすでに満員です。

ここから、物語は二つの軸で分岐します。一つは「手続きの長さ」です。あるシナリオでは、担当者にメールを一本送るだけで手続きが進む「短い手続き」が描かれます。別のシナリオでは、電話をかけたり、オフィスに直接足を運んで書類に署名したりといった、追加の手間がかかる「長い手続き」が描かれます。

もう一つの軸は「手続きの結果」です。あるシナリオでは、最終的に主人公は希望のクラスに登録できるという「肯定的な結果」を迎えます。別のシナリオでは、残念ながら登録できなかったという「否定的な結果」に終わります。

これら二つの軸を組み合わせることで、「短い手続きで、肯定的な結果」「短い手続きで、否定的な結果」「長い手続きで、肯定的な結果」「長い手続きで、否定的な結果」という四種類の物語が用意され、参加者はそのいずれか一つを読んだ後、主人公が経験した手続きが、どの程度レッドテープであったかを評価しました。

分析の結果、手続きが長いほど、そして結果が否定的であるほど、レッドテープの評価が高くなるという、予想通りの関連が見られました。しかし、ここで浮かび上がったのは、手続きの長さと結果の好ましさが、それぞれ独立して、しかも同程度の強さでレッドテープ認識と結びついていたという点です。例えば、「短い手続きで、否定的な結果」に終わった場合のレッドテープ評価は、「長い手続きで、肯定的な結果」が得られた場合の評価と差が見られませんでした。

このことから分かるのは、私たちが手続きを評価する際、その負担の大きさと、もたらされた結果の好ましさを、いわば天秤にかけているような状態であるということです。たとえ手続きがシンプルであっても、望まない結果になれば、私たちはそのプロセス全体を「融通が利かない、非効率なもの」と断じてしまうことがあります。逆に、多くの手間を要する手続きであっても、最終的に満足のいく結果が得られれば、その負担感はいくぶん和らぐのかもしれません。

レッドテープの認識は、ルールの客観的な性質だけで決まるのではなく、私たちがそのルールを通じてどのような経験をしたかという、主観的な評価によって左右されるのです。

レッドテープ認識は組織要因に加え疎外感で説明される

同じ組織に属し、同じ規則の下で働いていても、ルールに対する感じ方には個人差があります。ある人はそれを「業務を円滑に進めるためのガイドライン」と捉える一方で、別の人は「創造性を縛る足かせ」と捉えるかもしれません。この違いは、どこから生まれるのでしょうか。組織の規模や、公的部門か民間部門かといった構造的な要因が、レッドテープの感じやすさと関連することは以前から知られていましたが、個人の内面、すなわち心理的な状態もまた、この認識を形作る上で大きな要素となりうることが、ある調査によって示されました[2]

この調査は、ニューヨーク州の公的機関および民間企業の上級管理者を対象に行われました。調査では、組織全体のルールがどの程度レッドテープであると感じるか、人事関連の規則がどの程度業務の妨げになっているかと尋ねると同時に、個人の心理状態を測定しました。ここで光が当てられたのが「疎外感」です。

疎外感は二つの側面から捉えられました。一つは「職場における疎外感」で、これは自分の仕事や組織に対して誇りを持てず、どこか他人事のように感じてしまう状態を指します。もう一つは「職場外における疎外感」で、これは社会や他者との関わりの中で感じる無力感を指します。

分析の結果、とりわけ「職場における疎外感」が、レッドテープの認識と強い正の関連を持つことが明らかになりました。自分の働く組織から心が離れてしまっている管理者ほど、組織のルールを「過剰で非効率なもの」と見なす度合いが高かったのです。

この結びつきの強さは、組織が公的部門であることや、組織規模が大きいことといった、従来からレッドテープの源泉と考えられてきた要因と比べても、決して見劣りするものではありませんでした。一方で、職場外での疎外感は、職場での疎外感やその他の要因を考慮に入れると、レッドテープ認識との結びつきは見られなくなりました。

この結果が示唆するのは、仕事とそれ以外の生活とでは、人の心理は切り分けられている可能性です。社会全体に対して無力感を抱いていたとしても、それが直接、職場のルールに対する評価に結びつくわけではないようです。日々の職場での経験を通じて育まれる、組織との一体感や仕事への誇りが、ルールをどのように受け止めるかを決めます。組織への帰属意識が低く、仕事に意義を見出せない状態では、たとえ合理的なルールであっても、それは自分を縛る不快な制約として映ってしまうのかもしれません。

民間のレッドテープは公式制度より文化や汚職と関連する

これまで、個人の経験や心理がレッドテープの認識をどう形作るかを見てきました。しかし、私たちのルールに対する感覚は、より大きな社会的・文化的な枠組みの中にも位置づけられています。国が異なれば、政府の規制や手続きに対する人々の基本的な態度も異なります。ある国では当たり前の手続きが、別の国では耐え難い負担と感じられるかもしれません。民間企業が感じるレッドテープの度合いが、国ごとの制度的な背景によってどう異なるのかを調べる、比較研究が行われました[3]

この研究は、世界経済フォーラムや世界銀行などが収集した、世界各国のデータを統合して分析したものです。分析の枠組みとして、「公式な制度」と「非公式な制度」という二つの概念が用いられました。「公式な制度」とは、法律や政府の形態、事業を始めるのに必要な手続きの数といった、明文化されたルールの体系を指します。一方、「非公式な制度」とは、文化的な価値観、伝統、政治的な思想、あるいは汚職の蔓延といった、文章にはなっていないものの人々の行動を規定する暗黙の規範を指します。

分析の結果、興味深いパターンが浮かび上がりました。事業開始の手続きの数が多い国や、法の執行が非効率な国では、確かに民間企業が感じるレッドテープは強いものがありました。これらは「公式な制度」が関連していることを示しています。しかし、モデルに「非公式な制度」の要因、すなわち文化や汚職のレベルなどを加えると、これらの公式な制度の結びつきは弱まるか、あるいは統計的に意味のあるものではなくなってしまいました。

代わってレッドテープ認識との間に強く安定した結びつきを見せたのが、非公式な制度です。とりわけ、政府の役割は小さい方が良いとする保守的な政治思想が強い国、汚職が蔓延している国、個人の自律性を重んじる個人主義的な文化を持つ国では、企業経営者は政府の行政手続きをより大きな負担、すなわちレッドテープとして認識していました。

汚職とレッドテープの結びつきは想像に難くありません。手続きが意図的に遅らされ、非公式な支払いを要求されるような環境では、ルールが搾取の道具に見えるでしょう。また、個人主義的な文化では、集団の規律よりも個人の自由が尊重されるため、政府による一律の規制が、煩わしい制約として感じられやすいのかもしれません。

この研究から導かれるのは、レッドテープの認識が、目に見えるルールの数や複雑さといった客観的な側面だけで決まるものではないということです。その国に根付く文化や政治風土、社会の透明性といった、目に見えない非公式な規範が、人々がルールをどう解釈し、どう感じるかに関わっています。

公共サービス動機が高いほどレッドテープ認識は低くなる

組織のルールが、ある人には乗り越えるべき課題に見え、別の人には意欲を削ぐ障害に見えるのは、その人の持つ「動機」の違いに起因するのかもしれません。とりわけ、利益追求が主目的ではない公的機関において、職員が抱く「公共サービス動機(Public Service MotivationPSM)」、すなわち、公共の利益に貢献し、社会の役に立ちたいという内発的な欲求が、組織のルールに対する認識とどう関わるのかを探る研究があります[4]

この研究は、米国の州政府で保健・福祉サービスに携わる管理者を対象とした全国調査のデータに基づいています。調査では、人事や予算、調達といった業務領域で感じるレッドテープの度合いを測定すると同時に、PSMのレベルを複数の側面から尋ねました。PSMの側面とは、例えば、公共政策の立案プロセスに魅力を感じるか、市民としての義務感が強いか、あるいは他者への共感の念が深いか、といった点です。

分析から明らかになったのは、全体としてPSMのレベルが高い管理者ほど、組織内のレッドテープを低いレベルで認識しているという関連性でした。様々な組織的要因(階層の多さや権限の集中度など)を考慮に入れても、この結びつきは維持されました。公共のために働きたいという強い思いは、煩雑な手続きを乗り越える上での精神的な支えとなり、ルールを「障害」ではなく「目的を達成するための一過程」と捉えることを促すようです。

PSMの様々な側面の中でも、とりわけレッドテープ認識との間で最も安定した結びつきが見られたのは、「公共政策立案への魅力」でした。多様な利害関係者の意見を調整し、妥協点を探りながら政策を形作っていく、そのプロセス自体にやりがいを感じる管理者ほど、付随する手続きをレッドテープだと感じにくいという結果です。

公共政策が複雑なプロセスを経て成立することを深く理解している人は、その過程で必要となる様々なルールや調整を、目的達成のために不可欠なものとして、より肯定的に受け入れられることを示唆しているのかもしれません。

この結果は、「帰属理論」という考え方で説明することができます。この理論によれば、人は物事の原因を、自分自身の内的な要因か、あるいは自分ではコントロールできない外的な要因のいずれかに帰属させて解釈します。PSMが高い人は、組織のルールに直面したとき、その背景にある公平性の担保や説明責任の遂行といった正当な目的を理解し、その原因を内的に帰属させるのかもしれません。

結果、ルールはレッドテープではなく、正当な手続きとして認識されます。逆にPSMが低い人は、同じルールを、自分を妨げる外的な障害とみなし、それに対して無力感や不満を抱きやすいというわけです。

脚注

[1] Kaufmann, W., and Feeney, M. K. (2014). Beyond the rules: The effect of outcome favourability on red tape perceptions. Public Administration, 92(1), 178-191.

[2] Pandey, S. K., and Kingsley, G. A. (2000). Examining red tape in public and private organizations: Alternative explanations from a social psychological model. Journal of Public Administration Research and Theory, 10(4), 779-799.

[3] Kaufmann, W., Hooghiemstra, R., and Feeney, M. K. (2018). Formal institutions, informal institutions, and red tape: A comparative study. Public Administration, 96(2), 386-403.

[4] Scott, P. G., and Pandey, S. K. (2005). Red tape and public service motivation: Findings from a national survey of managers in state health and human services agencies. Review of Public Personnel Administration, 25(2), 155-180.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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