2026年1月28日
職場の熱量の差とうまく付き合う:チームのパフォーマンスを引き出すために
ビジネスリサーチラボは、2025年11月にセミナー「職場の熱量の差とうまく付き合う:チームのパフォーマンスを引き出すために」を開催しました。
同じチームで働いていても、誰もが同じ熱量で仕事に取り組むわけではありません。こうした「熱量の差」は、価値観や動機づけの多様性を反映する一方で、時に摩擦や誤解の原因にもなり、多くのリーダーが頭を悩ませるテーマです。
また、熱量の差を感じたチームへ「全員のやる気を高めよう」と対策を講じても、その手ごたえを感じられないこともあるでしょう。背景には、やる気の源泉や熱量のあり方が、人それぞれ異なることが影響しています。
本セミナーでは、「熱量の差」がどのように生まれ、そしてその差を縮められるのかを、学術研究をもとに解説しました。また、それぞれの学術研究をもとに、実務的なアプローチについても整理しました。
はじめに
チームのリーダーを担当される方や、人事施策の立案を検討される担当者の方は、チームとしての目標達成やパフォーマンスを高めようと、日々尽力されていることと思います。しかし、熱量がなかなか高まってこないメンバーはどうにも出てきてしまうもので、「メンバー全員が積極的・意欲的に働いている職場」を生み出すことの難しさも、実態として存在しています。
そこで、今回のセミナーでは、こうしたチームの中に生じる積極的な行動の量や、チームでの活動へ意欲的に取り組む度合いを「熱量」と仮定し、チームのメンバー間に生じる「熱量の差」について、様々な観点から掘り下げていきます。特に、この熱量の差を、マネジメントの視点でどう向き合い、対応すると良いのか、様々な学術研究をヒントに考えていきます。
熱量が低い人がいるチーム内に潜むリスク
熱量が低い様子を「目撃すること」の効果
まず、チームに生じている熱量の差によって、いくつかの問題が起きる可能性について、2つの観点で紹介します。チームに熱量の差が生じることが、どのような問題に発展する可能性があるのか、その隠れたリスクを知っておくことで予防につなげることができます。
まず、チームの中で熱量が低い人を見かけた他のメンバーに生じる影響です。ここで、熱量高くチームに所属するメンバーが、熱量の低いメンバーを見たときの反応を想像してみます。即座に賞罰を加えるような行動を起こすことは少ないまでも、「手を抜いているのか?」「不公平ではないか」といった具合に、ネガティブな印象をもつであろうと想像できます。
こうした、熱量が低く見える行動を目撃した従業員に生じる問題について、当社のメンバーが発表した研究から紹介します[1]。この研究では、問題行動や非生産的な行動を職場で見た従業員に、次の2つのプロセスで影響を生じると示しています。
1つ目は、熱量の低い様子の目撃が「ストレッサー」となり、ネガティブな気分が高まって、職場満足度を下げるという「感情・ストレス」プロセスです。2つ目は、「熱量が低く見える従業員が放置されている状況」であると受け取り、「不公正だ」と感じることで、組織に対する反感が生まれるという「認知・公正感」プロセスです。
つまり、熱意の高いメンバーが低いメンバーを目撃すると、ストレス反応が強まるだけでなく、組織への反感が生まれます。このことから、熱量が高い人の満足度が落ち、組織へのネガティブ評価にも波及するリスクがあるのです。
熱量の低いメンバーの評価は悪くなりやすい
もう1つの観点は、メンバー間での関係性や評価に関して生じるリスクです。具体的には、チームのメンバーに対する評価のなかでも、特にルール違反と思しき行動をとる人への評価が厳しいものになりやすい、という現象があることを紹介します。これは、学術研究において、「黒い羊効果」と呼ばれています。
現象のイメージをつかんでもらうため、名前に使われている羊の例を想像してみましょう。まず「黒い羊」とは実際に存在するもので、体毛が白い羊の種でも、遺伝的な理由で体毛が黒い羊が生まれることがあります。こうした黒い羊が、もし白い羊の群れの中にいると、非常に目立つことが想像できるでしょう。つまり、ある個体の「黒」という特徴が、周囲の「白」によって、より際立つということになります。
研究に即して説明すると、黒い羊効果とは、あるルールから外れたことについて、同じ集団に属する人(内集団)を評価する場合は、別の集団に属する人(外集団)を評価するよりも、厳しく評価・排斥してしまう現象を指します。言い換えるならば、内集団のメンバーであるがゆえに、その逸脱への評価が厳しくなるという、認知バイアスの一種が生じる可能性が報告されています[2]。
黒い羊効果の主要なメカニズムとして、身内のメンバーの逸脱が、集団の評判や自己評価を脅かすためだと考えられています[3]。前提として、熱量の低いメンバーのしわ寄せによって業務負担が増え、それに不満を感じること自体は正当なものです。一方で、他のメンバーによって、自分やその所属集団の評価が落ちることを危惧することから、上述の正当な不満だけでなく、必要以上に感情的な反発や評価の厳しさが上乗せされてしまうことがありうる、ということです。
この現象はマネジメントの視点にとって、熱量の差がメンバー間の断絶につながることに気を付けるべき、という含意をもたらします。もちろん、会社やチームとして定めた基準やルールを守ってもらうことは前提であり、熱意の高い人を正当に評価することを緩める必要はありません。そのうえで、評価や対応が「他メンバーとの比較だけで過度に厳しくなっていないか」を点検する視点が重要になります。
例えば、熱量の低いメンバーに「より厳しく接するようになる」という効果は、無意識に誰にも生じやすいバイアスであるという側面がポイントです。つまり、業務規則やその罰則などの「組織の認識」として定められている以上に、メンバー間の不仲がエスカレートするリスクがあるのです。
また、熱意の低い行動が「意図的な手抜き」だと判断された場合には、黒い羊効果が生じやすい可能性を指摘する研究結果もあります[4]。黒い羊効果を介して、メンバー間の深刻な断絶が生じれば、その後の改善や復活のチャンスも得にくくなるため、マネジメントの立場では、状況を冷静に俯瞰する必要があるということも、研究からの含意といえるでしょう。
「熱量の差」が生じるメカニズムを考える:各論と対策
「個人の熱量」を記述する研究テーマより
ここからは、チームの「熱量の差」に介入するうえでどのようなアプローチがありうるのか考えていくために、そのヒントとなる知見を紹介していきます。まずは、個人が持つ「熱量」が、研究テーマとしてどのように扱われているのかを紹介していきます。
学術研究においては、個人の「熱量の高さ・低さ」に注目するテーマとして、いくつかの要因が提唱されています。今回はその中から、代表的な一例として、ワーク・エンゲイジメントを取り上げます。
ワーク・エンゲイジメントとは、端的にいうと、仕事に関するポジティブで充実した心理状態のことです。その状態は、仕事を通じて活力を得られるか(活力)、仕事に対して熱意を持てているか(熱意)、仕事をしているときに夢中になれるか(没頭)という3側面があるとされています。
このワーク・エンゲイジメントは、その上昇と低下(バーンアウト)のメカニズムを説明する代表的な理論体系として、JD-Rモデルという理論があります。このモデルをもとに、どうすればマネジメントの観点でエンゲイジメントを高めることができるかというアプローチを、当社のコラムから概要を抜粋して2つ紹介します[5]。
一つ目は、「仕事の資源」を厚くすることです。仕事の資源とは、与えられた仕事の達成を助ける要素のことです。例えば、自律性が高いことや、上司・同僚からの支援が得られていること、あるいは仕事が成長機会を提供していることなどです。これらの資源が潤沢になっていれば、活力や没頭が高まり、パフォーマンスの向上にもつながります。例えば、上司や同僚からのサポートを増やしたり、自律性や成長機会などの資源を与えると良いでしょう。
もう一つは、「挑戦的な要求」を適度に設計することです。ここに含まれる「仕事の要求」とは、その仕事を達成するのに求められる要素のことです。例えば、特定のスキルや労力、そのタスクの難易度などが該当します。
こうした要求の中でも、仕事を通じて新しいことに挑戦するような要求があれば、エンゲイジメントが高まるといわれています。ただし、過大な要求は消耗も招くため、さきほどの「資源」の提供とバランスをとりながら、業務を設計することが肝心です。
また、ここでお伝えしたアプローチは、「エンゲイジメントが低い人」のみに有効ということではありません。つまり、チーム全体の運営の視点でもあり、メンバー全体のエンゲイジメントを底上げすることにつながるのです。そこで、紹介したアプローチのうち、重視すべきだと感じたものから、日ごろのマネジメントに取り入れてみるのが良いでしょう。
メンバー間の「ばらつき」を捉える研究テーマより
続いては、チーム内の「熱量の差」を、熱量に「ばらつき」が生じている状態と捉え、その差をなくしていくことのヒントとなる研究知見を紹介します。具体的には、チーム内で「何を良しとするか」についての合意度、すなわち組織やチームにおける「風土」について、その一貫性や強度を測定する「風土の強度(Climate strength)」というテーマです[6]。
風土の強度とは、そのチームの風土について、成員どうしの認識がどれだけ揃っているかという、「ばらつき」の小ささを測る指標です。数量的な説明については割愛しますが、このばらつきが小さいほど、風土の強度が強く、一貫性が強いといえます。
研究によれば、「風土の強度」が高いほど、チームとして求める様々なパフォーマンスが高まりやすいと指摘されています。例えば、職場での安全管理を重視する風土が一貫していることで、実際に事故の少なさにつながっていることや、「革新的なことに挑戦する」という風土が一貫していると、メンバーの満足度も高いといった具合です。
その理由として、風土の強度が、メンバーに自分たちが置かれている状況を明確化する作用が指摘されています。ある目標や認識について、一貫性が高いということは、そのチームとして「何が期待されているのか」が明確になります。期待されている行動が明確になることで、それぞれのメンバーはその行動をとりやすくなるため、実際に成果へと結びつきやすくなるということです。
こうした風土の強度を高める要因の一つが、メンバー間の交流です[7]。研究では、交流の頻度が高いことで、メンバー同士での目標や認識が共有されることが指摘されています。日常的な対話や共同作業の中で出来事の解釈の擦り合わせがおき、各メンバーの認識が揃っていくことを通して、強度が高まっていくのです。
この研究知見を踏まえると、チームリーダーや人事担当者としては、メンバー間の交流をいかに促進できるかが、熱量の差を生じさせない、あるいは解消していくポイントといえます。まず、交流の「機会」を増やす方法として、タスクにおける相互依存性を高めることが考えられます。
例えば、メンバー毎に細かくタスクを分割するよりも、2~3人の小グループに、ある程度粒度の大きい状態でタスクを委譲します。これは、単に交流機会を創出するだけでなく、タスクの進め方や基準を早期に共有・浸透させることで、後工程での手戻りや修正の手間を減らせるメリットがあり、ハイパフォーマーにとっても働きやすいチームの環境を整えることができます。また、熱量の低いメンバーにとっては、基準を肌感覚で学ぶ機会となり、結果としてチーム全体の視座が揃う効果が期待できます。
あるいは、交流の「質・内容」の観点で、チームでの定例会議を工夫するという方法も考えられます。メンバー同士の状況を定期的に知る機会があれば、一定の交流頻度を確保することができます。さらに、交流の場としての役割を高めるために、全員が進捗報告や相談ができるように発言機会を設ける、そのために、小チームごとの会議や、発言内容をあらかじめまとめておくなど、チームの規模と定期的に使える時間とのバランスに応じた工夫も考えられます。
「認識のずれ」の影響を示唆する研究テーマより
最後に、メンバー同士の考え方や認識の違いによって熱量の低さが生まれる、言い換えるならば、熱量が低く見える可能性を示す研究知見を紹介します。冒頭で、黒い羊効果という認知バイアスを紹介しましたが、それも踏まえて、俯瞰的・客観的な視点でアプローチするヒントとするために取り上げます。ここで取り上げるのは「制御焦点理論」と呼ばれる研究テーマで、人の動機付けの種類を分類・解説する内容の1つとして、近年注目が集まっているものです。
制御焦点理論とは、人の目標への向き合い方や捉え方を、2つのタイプで捉える理論です。1つ目は、目標の捉え方として、理想や進歩することを重視し、何かを得ること(獲得)の有無に敏感なタイプである「促進焦点」です。2つ目は、義務感やリスクの有無を重視し、行動によって損失が生じるかどうかに敏感なタイプである「防止焦点」です。
この2つのタイプは、両方の側面として人それぞれに備わりつつ、いずれかが優勢になることで個人を特徴づけると考えられています。また、そうした個人の特徴のほかに、タスクの構造や評価フレーム次第で、どちらのモチベーションになるのかが規定される、という点も指摘されています。
こうした制御焦点理論を踏まえて、今回のテーマに含意のある結果を示した研究を紹介していきます[8]。研究では、大学生に対する努力目標の伝え方を変えることで、さきほどの促進焦点と防止焦点を規定しました[9]。その後、3回の課題に続けて取り組んでもらうように求めるのですが、この課題の説明の仕方が研究の含意にもつながるため、少し細かく説明します。
具体的には、「第三課題は第二課題よりも注意力が必要なので、成績全体における比重が高い」と説明する優先順があるパターンと、「第二課題と第三課題はどちらも同程度に注意力が必要なので、成績全体における比重は同じ」と説明する優先順がないパターンです。こうした課題の説明の仕方と、先ほど説明した制御焦点の違いを組み合わせ、計4つの条件で課題の成績を比較したのです。
その結果、「優先順位がある」と説明されたときの第三課題の成績は、防止焦点の参加者のほうが、促進焦点の参加者よりも高いという結果が確認されました。この結果はさらに、「資源管理理論」という視点から解説されています。
資源管理理論とは、人が集中力や注意力などの有限だと考える自分の資源を、獲得・維持・温存しようとする心理的なメカニズムを説明するものです。そのメカニズムの1つとして、資源が必要になるタスクの予想が立っていると、後続の重要課題に配分するために、それに先行する課題では資源を温存する傾向があると指摘されています。
さきほどの研究では、防止焦点をもって課題に取り組むように指示された参加者たちが、この資源管理のメカニズムを働かせていたことも確認されました。つまり、第三課題の優先順が高いと説明された場合に、促進焦点の考え方を持った参加者たちよりも、「第二課題では注意力を温存しよう」という意図が強く働いていたのです。
この研究結果を直接的に解釈するならば、防止焦点によって課題に取り組むことは、優先順に応じたリソース配分が高まる、と考えることができます[10]。ただし、チームの「熱量の差」を懸念する場面に落とし込むと、周囲との違いから「熱量が低い」と認識されるメカニズムが垣間見えるのです。
まず、防止焦点に基づく進め方によって、熱量が低く見えることが予想できます。例えば、締切厳守や正確性重視といった目標の立て方・進め方を重視するメンバーは、防止焦点の傾向が強いといえます。そうしたメンバーにとって、活動量を増やしたり、新しいことへ挑戦するなどの熱量高くふるまう進め方は、ミスのリスクを伴うように思えてしまうのです。
こうした考え方から、防止焦点が強いメンバー、あるいは、防止焦点を重視するような課題・指示・指導のもとにある状況では、行動が控えめになりがちでしょう。つまり、より熱量の高いメンバーや、活動量を重視する状況との対比により、結果として熱量が低く見える可能性があるのです。
また、リソースの配分や認識のズレによって、熱量の低さが生まれることも予想されます。先ほどの研究では、防止焦点的なタスクの進め方では、タスクの優先順位に応じてリソースが配分されやすいと確認されました。複数のタスクを抱える場合、その優先順位を考えることは言うまでもなく重要です。しかし、もしチームの他のメンバーとのあいだで優先順位の認識が揃っていないと、「熱量が低い」と評価されることにつながる恐れがあります。
なぜなら、あるメンバーにとって「優先度が高い」と考えるタスクを、別のメンバーが「優先度が低い」と評価した場合、両者の間で活動量やリソースの配分が(防止焦点の傾向があればなおさら)大きく異なるはずです。つまり、あるメンバーの主観的なリソース配分が、チームとしての目標や優先度の認識とズレが生じている場合、あるいは、その認識のズレが周囲のメンバーの負担につながる場合、周囲からは「熱量の低さ」として顕在化し、メンバー間の不和につながりかねません。これは個人のスタイルの問題ではなく、チームや組織としての優先順位の合意形成不足という、構造的な課題です。
このように、特定のメンバーとの対比の中で「熱量が低い」と評価される可能性があることには、マネジメントの視点として注意が必要です。そこで、こうしたメカニズムをマネジメントではどう対応していけばよいのか、2つのポイントに分けて考えていきます。
まず1つは、「活動量」や「挑戦」を重視することを、チームの方向性として示すことです。ここでは、促進焦点と防止焦点という2つのモチベーションを、指示や方針によって規定することができるという点に注目します。
研究では、防止焦点とは逆に、「活動量」や「挑戦」を重視する促進焦点的な考え方を持った場合は活動量が維持される、という結果が確認されています[11]。このことから、チームの状況を「挑戦を称賛する」フレームに切り替えることで、チームとしての熱量を自然に底上げできます。例えば、活動量の多さや挑戦自体、あるいはそこから得た学びを評価対象へ含めたり、リーダーがメンバーとの交流の中で褒める、といった方法が考えられます。
もう1つのポイントは、「優先順位」の設定やその認識について、そのすり合わせをチーム全体で重視することです。研究結果を今一度振り返ると、防止焦点によるタスクの進め方を重視する場合、タスクの優先順に応じたリソース配分が実施されやすい、という結果でした。そして、そのリソース配分は、「熱量の差」として顕在化する可能性がありました。
このリスクを厳密に考えると、対処すべきは「優先順位」の設定であるとわかります。つまり、防止焦点的な考え方や進め方が問題なのではなく、「優先順位」の認識がチーム全体と一致していないことが、「熱量の差」という問題を引き起こすのです。
そこで、適切な優先順位の設定ができるよう、チームの設計を工夫することが対策となります。もし適切な優先順位の設定ができるならば、むしろリソース配分は適切に機能し、より優先度の高いタスクへのリソースの投入、ひいてはそのパフォーマンス向上につなげていけるためです。
その意味で、優先順位の認識合わせを、メンバー全員で丁寧に行っていく、という方針が考えられます。例えば、先に提案したメンバー間の交流や、チームでの定例会議において、優先順の確認を積極的に行うとよいでしょう。交流のなかで、「チームとして何を重視するか」が常に共有されることで、次第にその認識が揃っていくことが期待されます。
おわりに
本セミナーでは、「熱量の差」がうまれる背景やその対策についてみてきました。「個人」として熱量が高まるあるいは低くなるメカニズムだけでなく、目標の合意やメンバー間の評価といった「チーム」の中だからこそ生じる「差」にも目を向けました。
チームとしての熱量には、一体感があることが望ましいといえます。その過程では、様々な「熱量の差」が生じていることも、現実的にはあり得ることです。今回取り上げた背景と対策が、理想とするチームの状態に引き上げるマネジメント戦略の一助になれば幸いです。
Q&A
Q:黒い羊効果と聞くと、熱量が低い人に厳しく接すること自体が悪いようにも感じますが、どう対応するべきなのでしょうか。
黒い羊効果の研究で注意すべき点は、「接し方」というよりも「バイアス」の側面です。あるメンバーの評価が、他のメンバーと比べた評価に引っ張られていないか、という点には注意が必要です。しかし、会社やチームで決めている評価ルールや期待値に照らして、客観的に見て満たしていない部分があれば、その点を適切に指摘したり、評価に反映したりすること自体は必要なマネジメントといえます。
Q:熱量の低い人に配慮しすぎると全体の基準が下がってしまいそうで、どうバランスを取ればよいのでしょうか。
前提として、チーム全体の基準やルールを「熱量の低い人に合わせて下げる」というのは建設的ではないと思われます。まずは、頑張っている人・挑戦している人を評価し、頑張りが報われるよう優先します。一方で、熱量が低く見えるいくつかのパターンを踏まえると、改善すべきポイントを見誤らないように俯瞰する視点も必要です。
例えば、熱量の高い人とそうでない人が、業務上のタスク分担やペアでの仕事などを通じて交流し、お互いの状況を理解できる機会をつくることが考えられます。さらに、指導的な役割を担ってくれた高い熱量の人を、評価項目として加点することで、基準自体は曲げずに、貢献をプラスし、熱量の差を埋めていくアプローチの実現も可能になります。
Q:熱量の低い人が多数派になっている場合や、変化を望まない人が多い場面ではどのようにマネジメントすればよいでしょうか。
この場合も、まずは「熱量の高い」メンバーを大切にする基本姿勢は変えないようにしつつ、熱量が低い人の背景や、なぜ変化を望まないのかという理由に目を向けて、改善につなげていきます。メンバーの多数派の熱量が低いという状況を考えると、セミナーで取り上げたうちの「個人の熱量」に関する研究がヒントになります。つまり、マネジメントや組織的な施策によって、個人を介してチーム全体の熱量を底上げするようにアプローチするのが一案です。
脚注
[1] 能渡真澄・伊達洋駆(2024). 非生産的行動の悪影響は目撃者にも及ぶ―非生産的行動の目撃による悪影響の二重プロセスモデル―. 組織科学, 57(4), 73-86.
[2] Bonetto, E., Carsel, T. S., Adam-Troian, J., Varet, F., Keeran, L. M., Lo Monaco, G., & Piermattéo, A. (2023). Group membership and deviance punishment: Are deviant ingroup members actually judged more negatively than outgroup ones? Meta-Psychology, 7, Article
[3] 脚注2の文献(Bonetto et al. ,2023)に同じ
[4] Wang, L., Zheng, J., Meng, L., Lu, Q., & Ma, Q. (2016). Ingroup favoritism or the black sheep effect: Perceived intentions modulate subjective responses to aggressive interactions. Neuroscience research, 108, 46-54.
[5] より詳しい内容は、当社コラムを適宜参照ください;
エンゲイジメントを高めるメカニズム:JD-Rモデルの知見から
[6] González-Romá, V., Peiró, J. M., & Tordera, N. (2002). An examination of the antecedents and moderator influences of climate strength. Journal of applied psychology, 87(3), 465.
[7] He, Y., Payne, S. C., Beus, J. M., Muñoz, G. J., Yao, X., & Battista, V. (2023). Organizational climate profiles: Identifying meaningful combinations of climate level and strength. Journal of Applied Psychology, 108(4), 595.
[8] 外山美樹・ 湯立・ 長峯聖人・ 三和秀平・相川充 (2019). 防止焦点は認知資源の温存効果に優れているのか? 心理学研究, 90(3), 242-251.
[9] 促進焦点では「上位50%に入る」こと、防止焦点では「下位50%に入らない」ことを目指すように伝えました。この手続きが上手く機能したことも、実験課題とは別に確認されています。
[10] 逆に、促進焦点をもって課題に取り組む場合は、活動量が維持される傾向も確認されています。詳細は右記の論文を確認ください;外山美樹・湯立・長峯聖人・黒住嶺・三和秀平・相川充(2018).制御焦点がパフォーマンスに及ぼす影響―学習性無力感パラダイムを用いた実験的検討― 教育心理学研究, 66(4), 287-299.
[11] 脚注10の文献(外山他, 2018)と同じ
登壇者
黒住 嶺 株式会社ビジネスリサーチラボ フェロー
学習院大学文学部卒業、学習院大学人文科学研究科修士課程修了、筑波大学人間総合科学研究科心理学専攻博士後期課程満期退学。修士(心理学)。日常生活の素朴な疑問や誰しも経験しうる悩みを、学術的なアプローチで検証・解決することに関心があり、自身も幼少期から苦悩してきた先延ばしに関する研究を実施。教育機関やセミナーでの講師、ベンチャー企業でのインターンなどを通し、学術的な視点と現場や当事者の視点の行き来を志向・実践。その経験を活かし、多くの当事者との接点となりうる組織・人事の課題への実効的なアプローチを探求している。

