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コラム

バーンアウトを防ぐ:心が折れる前に知っておきたい理論と実践

コラム

働く人のメンタルヘルスへの配慮が、組織運営における重要なテーマとなっています。そのなかでも注目されているのが「バーンアウト」、いわゆる燃え尽き症候群です。「なぜあの社員は急に元気を失ってしまったのか」「そこまで忙しくないはずなのに、どうして燃え尽きてしまったのか」現場で働くマネージャーや人事担当者であれば、一度はこんな話を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

バーンアウト(燃え尽き症候群)はある日突然に起こるように見えますが、その影には長期間にわたり蓄積した様々なストレス要因が潜んでいます。そうしたリスク要因を正しく理解し、初期段階で兆候を察知することができれば、深刻な事態に至る前に手を打つことも可能です。

このコラムでは、バーンアウトを引き起こすリスク要因にはどのようなものがあるのか、そして現場で早期発見に活かせるポイントは何かを解説します。日々の職場に当てはめて考えられる具体例を交えながら、従業員の「燃え尽き」を未然に防ぐための実践的な知見をお届けします。

まずバーンアウトとは何か

バーンアウトは単なる疲労や、やる気の低下ではなく、仕事に関連した慢性的なストレスによって引き起こされる心理的な症候群です。「情緒的消耗」、「脱人格化(またはシニシズム)」、「個人的達成感の低下」という3つの特徴が相互に影響し合いながらバーンアウトは進んでいきます[1]

  • 情緒的消耗:感情的エネルギーの枯渇によって心の余裕がなくなり、仕事に対して強い疲労感や無気力感を抱く状態
  • 脱人格化(またはシニシズム):仕事で関わる人に冷淡で機械的な対応を取るようになることや、仕事に対して「どうせうまくいかない」などと、冷笑的で、否定的な態度をとる状態
  • 個人的達成感の低下:自分の仕事が無意味に感じられたり、役に立っていないと感じたりすることで、自己効力感が損なわれ、無力感が強まる状態

バーンアウトがもたらす影響は、身体に心に仕事にと多岐にわたります。身体的には、心血管疾患などの重大な病気のリスクが高まったり、慢性的な痛みや疲労感、頭痛、不調が日常生活に支障を与えるようになります。心理的な影響としては、不眠症や抑うつ状態が生じやすくなり、長期的にはうつ病の発症につながるケースもあります。

仕事においても看過できない影響があります。仕事への満足感や意欲が低下し、モチベーションの喪失、欠勤の増加、離職、さらには生産性の低下やミスの増加といった形で、組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼします。また、同じ仕事内容でも主観的な負担感が増し、「この仕事は過酷すぎる」と感じるようになる傾向も確認されています。健康的に働き続けるためには、バーンアウトへの対策は重要です。

バーンアウトをもたらす負荷のメカニズム

表面的には「仕事が大変だから疲れきってしまった」と単純に見えるかもしれませんが、その裏には目に見えにくいさまざまな「負荷」が折り重なっています。仕事量の多さだけでなく、感情的なストレスやサポートの欠如といった要素がエネルギーを静かに奪っていくのです。

仕事の要求度と仕事の資源(JD-Rモデルの構成要素)

まず、バーンアウトを考える上で、「仕事の要求」と「仕事の資源」という二つの視点が重要です。「仕事の要求」と「仕事の資源」は、仕事におけるストレスとモチベーションの両面を説明するJD-Rモデル(Job Demands-Resources model)の重要な要素です

JD-Rモデルでは、どのような仕事にも必ず存在する2つの要素(仕事の要求度と仕事の資源)に着目し、それらのバランスが従業員のバーンアウト(燃え尽き症候群)やワーク・エンゲージメント(仕事への没頭・愛着)に影響を与えることを示しています[2]

仕事の要求とは

仕事の要求とは、従業員が仕事上で「やらなくてはならないこと」や対処すべき負担のことであり、持続的な肉体的・精神的努力を要求し、特定の生理的・心理的コストを伴う仕事の側面を指します。具体的には、大量のタスクや対人トラブルへの対処、役割の曖昧さなどがあります。

仕事の資源とは

仕事の資源とは、仕事をしていくのに役立つ働きやすさの材料であり、仕事の目標達成に役立ち、仕事の要求を減らし、個人の成長と発達を刺激する可能性のある仕事の側面を指します。具体的には、上司や同僚からのサポートや、仕事の裁量を与えられること、適切なフィードバックや評価が得られることなどがあります。

JD-Rモデルが示す2つのプロセス

JD-Rモデルは、上記の仕事の「要求」と「資源」がそれぞれ異なるメカニズム(経路)で従業員に影響を与えると説明しています。そのメカニズムとは、健康障害プロセスと動機づけプロセスという2つのプロセスです。前者は主にネガティブな影響の経路、後者はポジティブな影響の経路といえます。それぞれ順に見ていきます。

健康障害プロセス(バーンアウトに至る経路)

健康障害プロセスは、仕事の要求が高すぎる場合に起こるメカニズムです。例えば、大量の仕事をこなさなければいけなくなると、従業員は通常以上の努力を強いられます。この過度の努力のために、身体的・精神的エネルギーが消耗し、疲労感やストレス反応の蓄積につながるのです。

例えば、厳しい売上目標に追われる営業担当者がいるとしましょう。目標達成のプレッシャーから休む間もなく働き続け、しかも上司や同僚からの十分な支援も得られないとなれば、やがて心身のエネルギーは尽きていきます。その結果、慢性的な疲労や情緒的な疲弊を感じ、「もう頑張れない…」というバーンアウト状態に近づいてしまうのです。

健康障害プロセスでは、このように仕事の要求が過大になることで個人の資源(エネルギー)が枯渇し、その結果ストレス反応が起き、さらに健康を害したり意欲を失ったりするという一連の流れが起こります。

動機づけプロセス(ワーク・エンゲージメントに至る経路)

動機づけプロセスは、仕事の資源が充実している場合に働くメカニズムです。十分な資源に支えられた職場では、従業員の成長したい、自立して働きたいといった思いが満たされ、仕事そのものに対するやりがいを感じるようになります。その結果、仕事に対する活力や情熱(ワーク・エンゲージメント)が高まり、創意工夫や業績向上といったポジティブな成果が生まれやすくなります。

JD-Rモデルにおいてバーンアウトは、健康障害プロセスの最終産物と言えます。しかし、適切な資源があれば高い要求によるストレスが和らぐ(緩衝効果)こともJD-Rモデルは示唆しています。健康障害プロセスによって起こるネガティブな影響は、豊富な資源の投入による動機づけプロセスによって、その連鎖を断ち切ることが可能なのです。

バーンアウトのリスクを高める要因

それでは、エネルギーが消耗とストレスの蓄積によって健康が損なわれる健康障害プロセスにおいて、バーンアウトのリスクを高める要因を見ていきます。近年の実証研究によれば、バーンアウトには仕事や組織環境に由来する要素と、個人の特性や生活習慣に関連する要素の双方が影響していることが明らかになっています。

仕事や組織に関するリスク要因

仕事や組織に関するリスク要因としては、労働時間の長さといった業務自体の負荷や、人間関係における感情面の負荷などが挙げられます。オランダのサービス産業に従事する労働者を対象とした、仕事の要求とバーンアウトの関係についての調査では、次のような結果が示されました[3]

この研究では、過剰な業務量、時間的プレッシャー、対応に苦労する顧客と接するなどの感情的に負担のかかる業務といった「仕事の要求」が、バーンアウトを促進することが分かりました。さらに、そのバーンアウトの結果として健康問題を引き起こし、離職意向を高めるというつながりも明らかにしています。

例えば保険会社では、既存顧客の契約更新やクレーム対応、新規顧客獲得のための営業など幅広く膨大な業務を抱えているでしょう。しかも月末や期末には営業ノルマの達成が厳しく求められ、締め切りが迫ってきているというプレッシャーを感じる状況に追い込まれることもあります。

そしてさらに新規顧客獲得のための営業では、断られたり嫌な対応をされたりしても、笑顔と丁寧な態度を保つ必要があります。このような負荷が積み重なると、バーンアウトに陥る危険が高まり、さらに従業員の健康問題を発生させ、離職という結果につながってしまう可能性があるのです。

タイの大学教員を対象に行った研究でも、労働時間が長いことがバーンアウトを引き起こすことが示されています。長時間労働は、感情的なエネルギーが枯渇し疲れ果ててしまう状態である情緒的消耗と、無感情で非人間的な対応をとる状態である脱人格化につながることを示しています[4]

また、給与が自分の仕事や役割に対する達成感・有能感・自己効力感の喪失である、個人的達成感の低下に影響を与えているという結果も得られています。経済的・社会的報酬の不足が、支援の欠如という認識を引き起こし、個人的達成感を低下させるといえます。

頑張って長時間働いているのに、それに見合う報酬が得られなければ、仕事の目標達成のモチベーションは上がらず、自分の成長意欲も刺激されません。努力と報酬の間に不均衡がある場合では、バーンアウトの可能性が高くなると言えます。

業務の負荷だけでなく、組織内での人間関係がバーンアウトの形成に密接に関連していることも示されています。アメリカの小規模な私立病院の看護師たちを対象とした研究では、仕事の中で求められる役割や期待が矛盾した状態である「役割葛藤」や、上司とのネガティブな関わりの影響が検討されています[5]

役割葛藤は別々の人から矛盾する指示を受けたり、全く異なる方針をもったグループの両方に所属して仕事をしていたりすることによって生じます。例えば、上司からは「とにかく早く仕上げろ」と言われるのに、品質管理部門からは「時間がかかっても品質を最優先に」と言われるなどがあります。矛盾する指示や期待に挟まれるため、自分の判断に自信を持てなかったり、相反する要求を同時に満たそうとすることで、不安や緊張が高くなってしまいます。この状態が情緒的消耗を引き起こすのです。

また、上司とのネガティブな関わりも、情緒的消耗に強く関係する要因でした。この研究では、上司と同僚それぞれの、ネガティブな関わりとポジティブな関わりの頻度とバーンアウトの関係を検討しています。この研究の興味深い点は、ほとんどの人間関係がポジティブに評価されており、その中でも上司とのネガティブな関わりはとても少ない状態だったのに、バーンアウトへの影響が確認されたことです。

この結果が意味することは、継続的で不快な関わりがわずかであっても、上司との不快な関係は情緒的消耗のレベルに影響を与える可能性があるということです。上司から叱責されたり、ため息などの言葉にされない否定的表現をされることは、頻繁ではなくても、部下に強いストレスを与えます。

上司は従業員の仕事の負担や評価に大きく関係する存在ですから、人間関係の影響だけではなく、仕事上の負担としても作用している可能性があります。特定の部下にだけ大量の仕事を割り振って、無理な締切を押し付けたり、指示があいまいで責任の所在が不明確であったりといったことは、人間関係のストレスでもあり、仕事の負荷のストレスでもあります。上司との関係はバーンアウトにおいて見逃してはいけない重要な要因であると言えます。

個人に関するリスク要因

バーンアウトは仕事に関連した慢性的なストレスによって引き起こされるものですが、そのリスクを個人的な要因がさらに増加させることも報告されています。その1つとして、生活習慣の乱れや経験の少なさといった、ストレスが蓄積しやすい土台を個人がもっていることが、仕事のストレスがバーンアウトにつながるかどうかに影響します。

台湾の医療従事者を対象とした2年間の縦断的研究では、勤務時間の長さだけでなく、睡眠不足や運動不足といった生活習慣の乱れがバーンアウトと関連することが示されました[6]。従業員のメンタルヘルスを守るためには、勤務体制の見直しだけでなく、健康行動の促進も大切であることを示している結果であると言えます。

この研究では、従業員の年齢もバーンアウトと関連することも指摘され、経験年数の浅い若年層ほどバーンアウトに陥りやすい可能性が示されました。労働時間と給与がバーンアウトに関係することを示したタイの大学教員を対象に行った研究でも、若い教員は情緒的疲労を経験しやすく、経験が浅い教員ほど脱人格化の危険性が高いことが示されています[7]

若手は高いモチベーションをもって働いていたとしても、業務経験が少ないため、自信を持てないまま仕事に取り組むことになります。そうすると、小さな失敗にも「自分には向いていないのでは」と感じやすくなってしまいがちです。

また、まだ会社における対人スキルが未熟なために、顧客や同僚、上司との関係構築がうまくいかないことも出てきます。仕事の範囲や裁量が限られており、自分で状況を改善できる手立てが限られていることも、バーンアウトの危険を高めると考えることができます。

バーンアウトの発生を未然に防ぐ取り組み

ここまで紹介してきたように、バーンアウトのリスクを高める要因は様々です。過重な業務や不明確な役割、職場内の人間関係の質、さらには生活習慣に至るまで、多岐にわたる要因に注意が必要です。

一方で、バーンアウトは避けられない現象ではありません。近年の研究では、適切な職場環境や個人の対処行動によって、バーンアウトの発生を抑制し、むしろポジティブな仕事への関与(ワーク・エンゲージメント)を高めることが可能であることが示されています。

上司による仕事の資源の提供

バーンアウトを緩和するうえで、まず重要なのが「仕事の資源」です。これは単に職場をやさしい雰囲気にするためだけのものではありません。仕事をスムーズに進めたり、心のエネルギーを持続させるための、極めて実践的な要素です。指導をしてくれたり、情緒的に支えとなってくれたりする相手が資源の提供者いえます。

上司が提供できる仕事の資源とは具体的には、業務に対する適切なフィードバック、上司からの支援などがあります。仕事の資源は、バーンアウトのリスクを下げると同時に、仕事への活力や没頭感といったポジティブな心理状態であるワーク・エンゲージメントを高める要因になることが明らかになっています。

具体例としてまず考えられるのが、1on1ミーティングの定期開催など、適切なフィードバックと指導の体制を整備することです。週1回または隔週を目安に30分程度、上司と部下が対話する時間を確保します。

さらに、フィードバックの機会で、どのような内容を伝えるかという点も重要です。1つの案として、1on1ミーティングの前半で業務の進捗や課題を確認し、具体的な行動に対して評価や助言を返します。たとえば、営業職の部下が新規顧客獲得のアプローチを工夫して電話件数を増やしたものの、成果に結びつかなかった場合を考えてみましょう。

「件数を増やす工夫はとても良かったです。その努力がチームの活性化にもつながっていますよ」とポジティブな点をまず認めた上で、「次は顧客ごとに優先すべき話題を考えてみると、成果につながりやすいかもしれないですね」と具体的な改善点を提案します。できていないことを一方的に指摘するのではなく、成果とプロセスをバランスよく振り返るやり取りを通じて、部下の自信と前進のエネルギーを高めることができます。

次に、上司からの指導的な支援です。部下の成長を促すと同時に、仕事上の困難を乗り越える手助けをする役割を担います。タスクの量や進め方を一方的に決めるといった単なる指示命令ではなく、部下の思考や判断を引き出し、自律的な成長を促すことや、部下の仕事への主体的な取り組みを促進することが求められます。

具体的な行動としては、1on1ミーティングの後半で「今困っていること」や「達成感を感じたこと」について部下が自由に話せる時間にします。こちらでも、営業職の部下を例にあげてみましょう。

新規顧客獲得で成果が出ず落ち込んでいる場合には、話を聞いた後に「自分なりに、特に工夫した点は何でしょう?」と問いかけ、部下に自分自身の取り組みや強みを再確認させます。その上で「今後もう一歩できそうなことは何があると思いますか?」と、一緒に考えることによって、部下は前向きな挑戦の方向性を見出しやすくなります。特に、情緒的消耗を経験しやすい若い従業員や経験の浅い従業員は、優れた対処法をまだ身につけていない可能性が考えられるため、重点的に対応していく必要があります。

なお、こうした支援スキルは日常業務のなかで誰しも身につくものではないため、マネージャー向け研修や優れた上司のロールモデルを設定することが、組織には求められます。研修内容には、傾聴の技術や肯定的なフィードバックの方法、心理的安全性を高める会話の練習などを組み込むと効果的です。

同僚による仕事の資源の提供

同僚とのポジティブな関係は、ストレスの緩衝材として非常に重要です。実証結果としても、日々の小さな困りごとを相談したり、共感やねぎらいを受けたりすることは、情緒的な安定感につながるだけではなく、脱人格化を軽減し、さらに個人的達成感を高める効果があることが示されています[8]

たとえば、チームビルディングや対話の場を設けることが、同僚同士の信頼関係を深め、職場での協力体制を強化するうえで重要です。ただし、これを自然発生的に期待するのではなく、組織として交流の場を設け、「支援し合える文化」を明確に醸成することが大切です。

具体的な方法としては、月に1回のランチ会やカジュアルミーティングを開くほか、プロジェクト終了後には感謝や学びを共有する振り返り会を行うことが挙げられます。また、業務とは直接関係のないオンラインカフェを開催し、日常業務では話せないような話題を共有する場をつくることも効果的です。

相手との信頼できる関係づくりの第一歩は、お互いを知ることです。同僚は仕事上での人間関係ではありますが、業務時間中にはできないコミュニケーションを促進することが、業務時間中のコミュニケーションの改善にもつながります。

同僚の中でも、特にまだ若い人や経験が浅い人を支援することも大切です。これまでに紹介してきたように、業務経験の少なさや、会社における対人関係の未熟さ、仕事の裁量の少なさから、新人はバーンアウトの危険性が高い人たちと考えられるからです。そこで有効なのが、オンボーディング期間中のバディ制度といった、同僚がサポーターとなり日常的に声をかける仕組みの導入です。

入社から3か月間は、経験豊富な社員を新人のバディとして配置し、週に2回程度は必ず声をかけて困りごとや不安を聞く時間を設けます。これにより、問題や悩みを早期に共有できる環境を整えることができます。

逆に、年長者や勤続年数が長い従業員は、経験を通じて、状況に応じた問題解決や感情調整が可能になることで、同じ環境でもバーンアウトへの抵抗力が高まると考えられます。バディ制度は、経験者が身に着けた問題解決や感情調整の方法を、経験が浅い人に伝授することを可能にする機会となります。

バーンアウトの早期発見と進行防止

バーンアウトの3つの特徴である「情緒的消耗」「脱人格化(シニシズム)」「個人的達成感の低下」は、深刻化した場合には同時に現れやすい傾向があります。しかし、初期段階ではそのうちのいずれか一つが先行して現れるケースも少なくありません。

たとえば、最近非常に疲弊しているにもかかわらず、仕事への熱意は失われていない社員がいることもあるでしょう。また、さほど消耗しているようには見えないのに、皮肉めいた言動が目立つようになることもあるでしょう。このような、バーンアウトの特徴が部分的に発生している状態は、将来的な変化を示す早期警告サインになりうることが報告されています。

北米の大規模大学に勤務する管理部門スタッフを対象とした縦断研究では、「情緒的消耗」と「脱人格化(シニシズム)」の強さが一貫していないパターンを示した従業員の危険性が指摘されました。つまり、バーンアウトの特徴のうち一部には問題がなくても、別の特徴では深刻な問題が生じている場合があり、そのようにバーンアウトの一部の特徴だけが顕在化している状態でもリスクが高いことを示唆しています。

この研究では、「情緒的消耗」と「脱人格化(シニシズム)」のどちらかだけが強い従業員は、組織の公平性が欠けていると感じている場合には、1年後にバーンアウトに移行しやすい傾向があることが示されました[9]。しかし、結果はネガティブなものだけではありませんでした。バーンアウトに移行する傾向がみられた一方で、組織の公平性を感じている従業員は、むしろワーク・エンゲージメントへと移行する傾向が強いことも明らかになっています。

この結果は、職場における公平性の認知が、バーンアウトへの「転換点」になる可能性を示唆すると同時に、バーンアウトの「情緒的消耗」「脱人格化(シニシズム)」「個人的達成感の低下」という側面がそろってしまう前に、まだ一部分だけで問題が見られる時点で対処をすることの重要性を示しています。

従業員がどのような負荷を抱え、どのような反応を見せているかを丁寧に見極め、バーンアウトの危険性の高い従業員を早期に察知することは、バーンアウトを未然に防ぐための重要な観察ポイントとなるでしょう。組織としてバーンアウトを見過ごさず、予防的に対処していくことが、従業員の健康を守り、持続的な組織運営の基盤となるはずです。

脚注

[1] バーンアウトの基本的な知識については、当社の別のコラムでまとめております。適宜参照ください;バーンアウトを正しく理解する:働く人と組織を守るための基本整理

[2] JD-Rモデルとワーク・エンゲージメントの関係については、当社の別のコラムでまとめております。適宜参照ください;エンゲージメントを高めるメカニズム:JD-Rモデルの知見から

[3] Schaufeli, W. B., & Bakker, A. B. (2004). Job demands, job resources, and their relationship with burnout and engagement: A multi-sample study. Journal of Organizational Behavior, 25(3), 293–315.

[4] Pakdee, S., Cheechang, P., Thammanoon, R., Krobpet, S., Piya-Amornphan, N., Puangsri, P., & Gosselink, R. (2025). Burnout and well-being among higher education teachers: Influencing factors of burnout. BMC Public Health, 25(1), 1409.

[5] Leiter, M. P., & Maslach, C. (1988). The impact of interpersonal environment on burnout and organizational commitment. Journal of Organizational Behavior, 9(4), 297–308.

[6] Chu, W. M., Ho, H. E., Lin, Y. L., Li, J. Y., Lin, C. F., Chen, C. H., … & Tsan, Y. T. (2023). Risk factors surrounding an increase in burnout and depression among health care professionals in Taiwan during the COVID-19 pandemic. Journal of the American Medical Directors Association, 24(2), 164-170.

[7] 脚注4Pakdee et al., 2025)と同じ

[8] 脚注5Leiter & Maslach, 1988)と同じ

[9] Maslach, C., & Leiter, M. P. (2008). Early predictors of job burnout and engagement: A longitudinal study. Journal of Applied Psychology, 93(3), 498–512.


執筆者

西本 和月 株式会社ビジネスリサーチラボ アソシエイトフェロー
早稲田大学第一文学部卒業、日本大学大学院文学研究科博士前期課程修了、日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。修士(心理学)、博士(心理学)。暗い場所や狭い空間などのネガティブに評価されがちな環境の価値を探ることに関心があり、環境の性質と、利用者が感じるプライバシーと環境刺激の調整のしやすさとの関係を検討している。環境評価における個人差の影響に関する研究も行っている。

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