2025年6月20日
ビジネスと研究の架け橋:研究知見をビジネスの現場で活かす
ビジネスリサーチラボには、大学院の博士課程で専門的な訓練を積んだフェローが複数在籍しています。各々が異なる専門領域の知見とスキルを活かし、日々クライアントワークを中心に業務に従事しています。
研究者としての訓練を経た者が、ビジネスの現場でどのようにそのスキルを活用して価値を生み出しているのか。「専門性を丁寧に織り込みながら、クライアントにとっての価値を最大化する」バランスを模索する過程には、専門性を持つ者がビジネスに貢献するための重要なヒントが詰まっています。
本コラムでは、マネージャーの藤井貴之とチーフフェローの能渡真澄の二名でビジネスリサーチラボの実務を振り返りながら、「研究とビジネスの違い」や「クライアントとの対話を通じて生まれる発見」、さらには「ビジネスの現場で専門性を発揮する意義とコツ」など、実践の中で直面した悩みと気づきを語り合います。
「研究の知見をビジネスにどう還元するか?」という問いに向き合う本コラムが、専門性の活かし方を考える一助となれば幸いです。
クライアントワークと研究活動の違い
藤井:
最初に、学術の知見を生かしつつビジネスの現場で貢献するということについて、私と能渡さんの経験から話していければと思います。ビジネスリサーチラボの中で私たちが担う仕事について整理してみると、大きくは「クライアントワーク」「情報の収集・研究レビュー」「セミナーでの登壇」「研究知見の発信」といったことがあります。これらの仕事と研究活動との違いについて、能渡さんの経験や考えを聞かせていただけますか。
能渡:
ビジネスリサーチラボでの業務全体を通して、研究活動との大きな違いを感じるのは、高めるべきクオリティの側面です。研究者として学術的な実証研究を行い論文を書く際には、「理論整理や分析検証をできる限り充実させて洗練されたものに仕上げる」方向で、クオリティを追求する方向性を取りがちな印象があります。一方、当社の仕事でクライアントと向き合いタスクに取り組む上では、そのアプローチはあまり合わないと感じることが多いです。
その違いが生まれる大きな理由は、アウトプットに期待されるものが異なるからだと考えています。クライアントは、私たちのアウトプットに対して「自分たちはそれをうまく使えそうだ」と自信と意欲を感じられ、実際に施策に落とし込めることを期待している場合がほとんどです。
というのも、多くの場合、クライアントは我々のアウトプットとその報告や解説を受け取った後、自分たちで理解・解釈を深めて、現場に落とし込んだり、対策につなげる方法を考えたり、必要に応じて社内の関係者に自ら説明し施策実行を説得するプロセスが待っています。
そのため、私たちが研究者にとってのハイクオリティ、つまり内容が豊富で高度に洗練された理論整理を追求しすぎると、専門的すぎて一般にはわかりにくい、クライアントにとってピンとこない、使いにくいアウトプットになってしまいます。
藤井:
ありがとうございます。クライアントを想定して仕事をするという点が大きいですね。研究活動では、特定の誰かを想像してその人に向けて結果を出していくという経験はあまりなかったと思います。指導教員や研究者を相手に分析結果を報告することはあっても、「お客さん」のような一般の人向けに分析結果を報告する機会はなかなかありませんでした。
ラボの仕事をしていく上で、このクライアントの視点を持つことが非常に重要になるのだなと私も感じていました。
能渡:
もうひとつ、定量研究では想定する母集団や研究対象者の属性を広く取ることが多いと思います。特定の年代や集団に着目する領域を除いて、多くの研究では、特定の対象者を想定せず「一般成人全体」と広い属性を母集団に想定することがほとんどでしょう。クライアントワークはその逆で、それぞれのクライアントにフィットする理論的なメカニズムや現場に有益な情報を追求する、いわゆる個別具体的なアプローチで進めていく点が大きな特徴と言えます。
藤井:
クライアントという観点ともう一つは、「ビジネス」という側面が研究との大きな違いとしてあると思います。研究だと、スケジュール感は割と大きなスケールで、卒業論文や修士論文などは数年単位にもなります。一方で、クライアントワークではもっと短い単位で進むことが多く、プロセスごとに納品をすることもあり、「1週間後にはこれを提出」といったことが求められるスケジュール感になります。この進め方の違いも大きいと感じています。
能渡:
その違いは日々実感しますよね。私たちの仕事に続く形でクライアント側に種々の細かい動きが計画されている点は、ビジネスの大きな特徴だと思います。それに応じる形で、アウトプットの納期がより短期間で区切られやすいところもあります。
加えて、納期遅れが絶対に許されないことも重要だと思います。納期に遅れると、我々の信用が失墜するのは言うまでもないですが、それ以上に、クライアントに悪影響を及ぼす大きな問題となります。我々のアウトプットが届かないことで、仕事をご依頼くださった方や部署が自社内で仕事や調整をしにくくなってしまい、クライアント側のスケジュールを修正する必要が出る可能性もあります。スケジュール遵守の責任は非常に大きいですよね。
藤井:
そうですね。学生としての研究活動であれば、「1週間後にゼミで報告」といった設定はありますが、間に合わなくても「来週に出せばいい」と許されるかもしれません。それはビジネスにおける締切の重要性とは全く違うところで、研究の場からビジネスの場に移行するときの大事なポイントだと感じています。
セミナーや情報発信における工夫
藤井:
クライアントワークと研究活動の違いについて考えてきましたが、もう一つの重要な仕事として、セミナーでの登壇やコラムでの情報発信があります。これらも学術的な知見をもとに話題を設定し内容を構成していきますが、学会発表などでの研究報告との違いはどのようなものでしょうか。
能渡:
研究者が行う研究報告の特徴として、通常は自分と受け手が同レベルか、受け手が上の知識水準を持っていることを想定すると思います。自分よりも知識のある先生や専門家が読むであろうということを念頭において、研究報告はされがちです。
それに対して、実務家に向けたセミナーや情報発信では、受け手は我々の領域における専門知を持っていない方が大半で、知識にギャップがあります。「このくらいの内容ならわかるだろう」と、深く考えず自分たちの水準で知識を語っても理解していただけません。
受け手である実務家の方々は、それぞれの業界や分野において豊富なドメイン知識を持っている方々です。そのドメインは私たちの専門領域と異なることがほとんどで、我々が研究に基づいて抽象的な話をしても、基本的にはうまく伝わりません。こういった知識のギャップについてよく考えて調整する必要があるのが、セミナーや情報発信の特徴だと思います。
藤井:
確かに聞き手が誰なのか、その人がどれくらい知識を持っていて、こちらが話す内容をどれくらい理解してもらえるかというのは重要な観点ですね。私もコラムを執筆したりセミナーで登壇する機会がありますが、どれくらい細かい話をするかはいつも悩むところです。
例えばコラムで学術知見について引用文献を脚注としてつける際、自分が一般的な読者だったらどう感じるかを考えます。学術的に必要とされるような情報を厳密に記載している記事は、「ちゃんと調べて書いている」ということを示す反面、読みやすさを失ってしまうことにもつながります。
「こんな知見があります(文献A)、〇〇分析を使って有意な関連が示されました(文献B)」という形で情報を提供しても、その分析が何をしているのか分からない人もいるかもしれません。分からない単語が出てきたり、学術的な表現で説明されていると、読み辛さを感じたり、内容を上手く咀嚼できず、情報発信の意義が薄くなってしまいます。これはクライアントワークの報告書にも通じるところですが、読み手やクライアントに価値を感じてもらえるという点は、研究報告とは異なる意識すべき点だと思います。
能渡:
実務家向けに情報発信をする際に特に感じるのは、私たちが専門領域において「これくらいが、面白さを感じられる十分な情報量だ」と思う水準は、一般的には情報過多だということです。例えば、研究でショートレポートを書くときに「情報を削りすぎたかな」と感じることがありますが、実務家向けにはまだそれでも情報が多すぎる感触があります。
論理的に構成されて筋が通った知見を正確に伝えることはもちろん大切です。しかし、それだけでは実務家の方々には「情報が多い、話が長い」と感じられ、せっかくの知見を受け取っていただけなくなります。
知見から必要なエッセンスを抽出し、受け手のニーズに合う情報を強調して「この部分が実務において有用で、興味深いといえます」とまとめていくことも、コラムやセミナーでの情報発信のコツと言えるでしょう。
藤井:
学術的なベースがあるからこそ提供できる知見の面白さを、専門外の人にも難しすぎない形で伝えられると良いですよね。情報発信やクライアントワークにおいて専門性が発揮される部分だと思います。
情報発信する際に、相手がどれくらいの知識を持っているかという観点と、こちらから提供する情報の「面白さ」や「気づき」を促す部分のバランスも大切だと思います。これはセミナーやコラムで専門性を発揮しやすい点ではないでしょうか。
能渡:
データ分析でも同様のことがあると感じました。分析において面白いと感じるポイントや視点について、研究的な観点をそのまま話してもなかなか伝わりません。「何をどのように示すことで、ニーズに合う面白さを引き出せるか」を考えることが重要になります。
それと同時に、藤井さんが指摘した「提供する情報の面白さや気づきを促す」観点も、常に考える必要がありますね。より良い思考や判断に向けて、データ分析の手法に加えてマインドを伝えることで、視野を広げていただくことはいつも念頭に置いています。
クライアントワークやセミナーなどでの情報発信では、受け取る側がどういった考え方や立場、ニーズを持っているかに思いを馳せることが非常に重要です。これがないと、自分たちの専門性を発揮しても何も理解されず終わってしまいます。相手に必要なことを見定めながら、自分たちに何ができるか、より有効性の高いニーズを持つための考え方をどうお伝えしていけるかを考えていくことがポイントになりますね。
最適な価値を生み出す思考法
藤井:
クライアントには目的があって、例えば人事の方であれば施策を進める上でデータ分析の結果を活用したいといった意図があると思います。その目的に貢献するために価値ある情報を提供することが重要です。
学術研究では「どんな過去の研究知見に基づいてこの分析を選択したのか」といった情報も大事だったりしますが、クライアントにとってはそれほど重要でないこともあります。裏側ではしっかりとした方法で分析しつつも、クライアントに伝える際には必要な情報なのかを考慮し、情報の粒度を調整して提供するという、このバランスが大切だと感じました。
能渡:
クライアントとの間には知識のギャップがあるため、嫌な言い方をすれば、私たちが手を抜いても気づかれない部分があるかもしれません。しかし、気づかれないところにこそ専門性を発揮してきちんとしたものを提供していくことが、専門家としての矜持だと思っています。
それとは少し別の観点として、クライアントに向けた価値提供を考える上で見落としがちなのが「予算」の存在です。クライアントワークでは、当然ですがサービスに対する対価をいただいています。
専門家として業務にあたる際には「予算に応じたサービス」を提供することも求められます。予算規模に応じて、実行内容の調整を考えねばならないということです。というのも、もし予算が多くないプロジェクトで過剰なアウトプットを出してしまうと、その後により予算が大きいプロジェクトがあったら、先の過剰なアウトプットを超えるものを生み出す必要が出てきます。それができなければ、クライアント間でサービスに不均衡が生じてしまうわけです。
そのため、予算に応じたアウトプットを模索する必要がありますが、同時に専門家として手を抜くことはしません。予算の制約がある中でも、最大限クライアントの期待に応えるために何ができるか。実行内容に限度がある中で、どういった価値を提供できるのか。それを考え抜いて実行することが、クライアントワークの醍醐味だと思います。
藤井:
そうですね。予算や時間などの制約の中で、価値ある情報をどう提供するか、その塩梅は難しいです。クライアントが本当に求めていることをしっかり把握することも大事ですし、社内の業務としてチームでどう進めていくかも考える必要があると思います。
能渡:
ここまでの話を踏まえると、最適な価値を生み出すポイントは、やはり「クライアントを意識すること」と言えますね。クライアントにどんな知識があり、何を課題に感じており、何を求めているかを踏まえて、限られた時間と予算の中で出せる最大限の価値を模索することが重要です。
藤井:
クライアントが求める価値は一様ではなく、先方社内の施策を決めるための情報を求めている場合もあれば、仮説を検証するためのデータ分析技術を求めている場合もありますね。
クライアントの求めるものを探って、実行内容とすり合わせていくことが大切ですが、打ち合わせで聞き取りをする以外に、どのようにクライアントのニーズを把握できるでしょうか。一つは、打ち合わせで話をしながらすり合わせることですが、例えばデータ分析の結果を説明する際に、クライアントの反応は一つの手がかりになるかと思いました。
能渡:
クライアントの特徴的な反応は、分析結果を報告する際によく見られます。例えば、データや統計記号が豊富に記載されたスライドをお見せすると、理解に苦しむ辛い表情をされる方をたびたび見ます。これは当然で、込み入った情報を一目で理解するのは、よほどデータに慣れた方か専門家でなければ難しいです。
そのような場合、細かい数字を一つ一つ説明するのではなく、「この図は結果の全体像で、この場で詳細を理解されなくてもいったんは大丈夫です」と一言添えた上で、「全体として、分析結果ではこういった傾向が示されており、この数字にそれが表れています」と要点を絞って説明します。論文の結果報告のようにできる限りの情報を正確に伝えようとするスタンスではなく、情報を選別してお伝えする方がよくご理解いただけますね。
藤井:
クライアントが理解しやすい情報提供をすることで、提供した情報を実際に活用してもらいやすくなり、それ自体が価値につながりますね。
また、クライアントとの知識のギャップを埋めるという観点も重要です。分析結果を報告する前に「こういった分析をするとこういったことがわかります」という知識を提供することで、クライアントの方に「こんなことがわかるのか」と視野を広げてもらうことも大事だと思いました。
能渡:
確かに、クライアントにデータ分析に関する知識を事前に知っていただくのも有効ですよね。当社では、これまでにデータ分析のコラムやセミナーを通じて、データ分析の知識や統計学の観点を幅広く提供しています。これも広い意味では事前の知識提供になっていると思います。
藤井:
まとめると、クライアントにとっての最適な価値を生み出すために、まず根本にあるのは「クライアント中心の思考」ですね。クライアントの知識レベル、抱えている課題、そして求めている価値を正確に把握することが大事であると。その上で、予算や時間といった制約条件を踏まえながら、専門家としての品質は保ちつつ、情報の粒度や伝え方を調整していくということですね。そして、一方的な情報提供ではなく、クライアントとのコミュニケーションも重要ということでした。
「クライアントを理解し、制約の中で専門性を活かし、クライアントとコミュニケーションする」という3つの要素が大事だといえそうです。これらの視点を意識して、クライアントの役に立つ価値提供をしていきたいと思います。
当社の仕事で必要なスキルや特性
藤井:
最後に、ここまでの話を踏まえて、ビジネスリサーチラボの業務を行っていく上で必要なスキルについて考えてみたいと思います。まずは能渡さんの考えを聞かせていただけますか。
能渡:
はじめに、当然ですが「専門性」は持っていなければいけません。私たちは専門家としてクライアントに価値を提供しているわけですから、ビジネスリサーチラボのフェローは高い専門性を持ち、さらに向上させていくことが求められます。
それに合わせて、「批判的に考え続ける力」は重要でしょう。目の前の課題に対して仮説を立てたりアイデアを見いだしたとき、それらを支えるエビデンス収集に躍起にならず、否定材料や懸念事項に目を向けて、他にどんな可能性があるかを常に考え続ける姿勢が必要です。
クライアントが「こういうことをやりたい」とおっしゃった際には、学術的な枠組みや知見を念頭に置きつつも、様々な可能性を広げて考える必要があります。クライアントの課題意識やアイデアに対して専門的な観点で捉え直すと同時に、自身の専門領域の常識や慣習にも縛られずに批判的思考を続けて、学術知と実務知のベストな落としどころを探っていく。この思考を続けられるタフネスと思考力は、専門家が提供できる大きな価値であり、我々に必要なスキルだと思います。
藤井:
ありがとうございます。確かに研究の領域で活動していると、批判的思考が身につきますね。論文を読むときも「いや、こうじゃないか」と考えながら読むことは、一般的ではない特殊な視点かもしれません。
研究者の場合、自分の関心のあるテーマを徹底的に調べるといったことや、一つのことをじっくり進める側面があり、強みでもあると思います。ただ、そのことにこだわりが強いとクライアントワークではうまくいかないこともあります。じっくり取り組む力を持ちつつも、柔軟に対応できることが必要なスキルだと思います。
能渡:
柔軟性を持つことはとても大切ですね。専門家としてのプライドが強すぎると「学術的にはこれが正しい、そこから外れる考えは受け入れがたい」と頑固になってしまうことがあります。しかし、クライアントが実務の現場で感じている疑問や関心は、現場を深く知らない専門家に見えていない実態を反映した部分も数多くあるでしょう。
専門性に基づいた思考と判断は備えつつも、現場の感覚を受け入れる柔軟さは持つべきです。自分の専門領域にないアイデアに対して「その視点は考えたことがなかった。改めて学術的・理論的に整理して捉え直してみよう」となれる姿勢が必要になると思います。
藤井:
その対応ができる方がクライアントワークで専門性を発揮しつつ、うまく進めていけるのだと思います。研究者として持っているプライドや大切にしている信念はありつつも、目的はクライアントに価値ある情報を提供することです。そのためには、時にはプライドを脇に置く割り切りも必要かもしれませんね。
能渡:
話を変えて、研究者は自分の研究に没頭して寝食を忘れることすらありますが、仕事として学術知を提供する上では異なるアプローチが必要です。それを考えるうえで、コスト意識は非常に重要だと思います。
特に、「タスクにおける適度な時間と労力」は常に考える必要があります。とにかくクオリティを上げようとする熱意はもちろん大切ですが、予算とスケジュールの制約の中で、どういった内容でクライアントにご満足いただけるかを見定めて、時間と労力を管理することも重要です。
これに関連して「タイムマネジメント」も欠かせないスキルでしょう。研究者は一つのテーマに深く没頭する性質がありますが、クライアントワークでは限られた時間内で成果を出すことが求められます。各タスクにどの程度の時間を割り当てるか、どの段階で調査を区切るかといった時間配分の判断が重要になります。
藤井:
そうですね。クライアントの期待に応えることが目的で、その期待をしっかり理解し、予算やスケジュールといった制約の中で最良の情報を提供することがクライアントワークの要点だと思います。
能渡:
また、コスト意識について補足すると、「社内で互いに協力を求める上で相手にコストをかけている」という周囲のメンバーにかけるコストの観点も大切です。研究者は気軽に研究を手伝う人も多くて忘れがちですが、同僚にサポートを求めるときも、相手の時間や手間といったコストがかかっていることを意識する必要があります。
藤井:
確かに研究者のコミュニティや、大学のゼミのような場ではお互いに議論し合い、高め合うことに多くの時間を費やしますが、その時間を「コスト」と意識することはないように思います。これはビジネスリサーチラボの業務を行うにあたり、意識が必要で重要な観点ですね。
これに関して、コミュニケーションの観点も挙げておきたいと思います。クライアントとのコミュニケーションももちろん大事ですが、社内でのコミュニケーションも大切です。自分だけで考えていくと、クライアントのニーズをうまく捉えられなかったり、クライアントにどう伝えようかに悩み、行き詰まることも多いです。
私たちはそれぞれが異なる専門性を持っていますので、周囲に相談したり、情報共有をすることで悩みを解消できることもあります。相手の状況を考慮し、思いやりながらうまくコミュニケーションできることは、業務をスムーズに進める大きな要素と言えそうです。
能渡:
加えて、当社で働くうえでは「知的好奇心」も重要だと思います。これは研究者が持つ根本的な資質でもありますが、クライアントワークにおいても欠かせません。クライアントワークにおいて「なぜ現状はそうなっているのか」「どうすれば改善できるのか」など、取り組む事柄に対する好奇心や探求心を持ち続けることで、表面的な分析に留まらず、本質的な価値を掘り下げて模索できるようになります。また、新しい領域のプロジェクトに取り組む際も、この知的好奇心があることで学習意欲を維持し、短期間で必要な知識を習得することにつながります。
藤井:
その通りですね。研究とビジネスの文脈の違いを意識することで、そうしたスキルを身に着けていくために、日々学んでいく姿勢をもって業務にあたることが大事だと思いました。
プロフィール
藤井 貴之 株式会社ビジネスリサーチラボ マネージャー
関西福祉科学大学社会福祉学部卒業、大阪教育大学大学院教育学研究科修士課程修了、玉川大学大学院脳情報研究科博士後期課程修了。修士(教育学)、博士(学術)。社会性の発達・個人差に関心をもち、向社会的行動の心理・生理学的基盤に関して、発達心理学、社会心理学、生理・神経科学などを含む学際的な研究を実施。組織・人事の課題に対して学際的な視点によるアプローチを探求している。
能渡 真澄 株式会社ビジネスリサーチラボ チーフフェロー
信州大学人文学部卒業、信州大学大学院人文科学研究科修士課程修了。修士(文学)。価値観の多様化が進む現代における個人のアイデンティティや自己意識の在り方を、他者との相互作用や対人関係の変容から明らかにする理論研究や実証研究を行っている。高いデータ解析技術を有しており、通常では捉えることが困難な、様々なデータの背後にある特徴や関係性を分析・可視化し、その実態を把握する支援を行っている。