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コラム

善悪の分かれ道:同じ創造力がなぜ時に破壊的になるのか

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私たちは創造性を発揮する様々な場面に遭遇します。アイデアを生み出し、問題を解決する能力は、人間の尊い特性の一つとして称えられることが多いでしょう。しかし、この創造性という力は、常に肯定的な結果をもたらすとは限りません。時に、他者を傷つけるための巧妙な手段を考案したり、職場での陰湿ないじめの方法を工夫したり、あるいはSNS上での効果的な誹謗中傷を考え出したりするなど、創造的思考が破壊的な目的に向けられることがあります。この現象は「悪意の創造性」と呼ばれます。

悪意の創造性は、創造的思考の本質である新規性(独自性)と有効性(目的達成への適合性)を備えながら、その目的が他者への害や損害に向けられている点に特徴があります。私たちは創造性を議論する際、その建設的側面にばかり光を当て、この破壊的側面を見過ごしやすいのですが、近年の研究では、この悪の創造性への関心が高まっています。

どのような要因が悪意の創造性を刺激するのでしょうか。どのような個人がこうした創造性を発揮しやすく、どのような環境がそれを助長するのでしょうか。本コラムでは、最新の研究成果を基に、悪意の創造性を促進する多様な要因を検討します。

悪意の創造性は犯罪経験で高まる

ルーマニアのオラデア刑務所で服役中の男性受刑者130名を対象に、パーソナリティ特性と悪意の創造的思考との関連を調査した研究があります[1]。研究者たちは「人を傷つける」「嘘をつく」「策略を用いる」という3つの側面から悪意の創造性を測定し、マキャベリズム(自分の目的のために他者を操作する傾向)、ナルシシズム(自己愛)、サイコパシー(共感性の欠如)というダークトライアドと呼ばれる性格特性との関連を分析しました。

調査の結果、初めて犯罪をした年齢が若い(16歳から20歳)受刑者は、「人を傷つける」タイプの悪意の創造性が顕著に高いことが判明しました。また、犯罪回数が多い受刑者ほど「人を傷つける」創造性が高いことも分かりました。要するに、早期から犯罪に関わり、その経験が長期にわたる人ほど、他者を害する創造的な方法を考え出す能力が高まっていたのです。これは経験を通じた学習プロセスを示唆しています。犯罪行為を繰り返すうちに、より効果的に被害者を傷つける方法を習得していくのかもしれません。

予想外だったのは、暴力犯罪者と非暴力犯罪者の比較結果です。暴力犯罪者の方が「人を傷つける」創造性が高いと考えられますが、実際には非暴力犯罪者の方が「人を傷つける」「策略を用いる」創造性が高かったのです。この意外な結果について研究者たちは、暴力犯罪者は衝動性が高いため、創造性を用いた計画的な行動を取ることが少ない可能性を指摘しています。暴力犯罪者は感情の赴くままに行動する傾向があり、洗練された策略を考える前に行動に移ってしまうのかもしれません。

パーソナリティ特性と悪意の創造性の関係については、マキャベリズムが「人を傷つける」「嘘をつく」創造性を最も強く予測することが判明しました。マキャベリズムの高い人は冷静で戦略的な思考ができるため、他者を害するための創造的な方法を考案しやすいと考えられます。一方、ナルシシズムやサイコパシーは悪意の創造性との関連が見られませんでした。これらの特性を持つ人々は、自己中心的であったり衝動的であったりするため、創造的な計画を立てるよりも直接的な行動を選択すると考えられます。

自己効力感(自分の能力に対する信頼)については、「嘘をつく」創造性との関連が確認されました。自分の能力に自信がある人ほど、嘘をつくための創造的な方法を考え出しやすいようです。自信が欺瞞行動を後押しする可能性を示唆しています。

状況で引き出される悪意の創造性

悪意の創造性は、犯罪者のような集団だけに見られる現象でしょうか。一般の人々も、置かれた状況次第で悪意の創造性を発揮してしまう可能性があります。アメリカの研究者グループによる実験研究は、環境の社会的手がかりが悪意の創造性を引き出す過程を明らかにしました[2]

この研究では「社会的情報処理理論」という考え方を基盤に、私たちの行動や態度が環境の社会的手がかりに影響されることを前提としています。研究者たちは、明示的なルールや指示である「フォーマルな手がかり」と、暗黙の社会規範や同調圧力など周囲の雰囲気を感じ取る「インフォーマルな手がかり」の両方が、悪意の創造性にどう作用するかを検証しました。

第一の実験では、大学生213名を対象に「フォーマルな手がかり」の影響を調べました。参加者には大学のイベントを計画する課題が与えられましたが、その目的と達成手段について異なる指示が与えられました。目的は「大学の誇りを高める(善意的)」か「ライバル大学を傷つける(悪意的)」のいずれかで、達成手段も「善意的」か「悪意的」のいずれかが指示されました。

実験の結果、目的と手段がともに悪意的である場合、参加者は最も高いレベルの悪意の創造性を示しました。独創性と悪意の両方が最大化したのです。このことから、明確に悪意的な目標と手段が示されると、個人の性格や能力に関わらず、悪意の創造性が促進されることが分かりました。

第二の実験では、大学生115名を対象に「インフォーマルな手がかり」の影響を調べました。この実験では、参加者は大学内の交通費値上げ問題に対する創造的な解決策を考える課題に取り組みましたが、事前に他者のブレーンストーミングセッションを観察する機会が与えられました。このブレーンストーミングは善意的または悪意的なアイデアを含み、さらに一部の条件では異論を唱える人物が存在するように設定されました。

この実験でも、インフォーマルな手がかりが個人特性を超えて悪意の創造性を予測することが示されました。善意的なブレーンストーミングの中に悪意的な意見を述べる人物がいる場合、参加者の独創性と悪意がともに高まりました。これは、集団の中に少数でも悪意的な声があると、それが「許容される行動」として認識され、悪意の創造性を促進する可能性があります。

両実験から得られた知見は、社会的な状況要因(特にフォーマルおよびインフォーマルな手がかり)が、個人の性格や能力を超えて悪意の創造性を引き起こす要因になりうるということです。私たちは普段、自分の行動は自分の意思で決めていると思っていますが、実際には周囲の環境から受け取る様々な信号に影響されているのです。

この研究は、創造性が状況次第で悪意的な方向へ転じる可能性を実証しました。例えば、職場で上司が「競合他社を出し抜く」という目標を掲げると、従業員は競合他社に害を与えるための創造的な方法を考案するかもしれません。また、チーム内の一人が非倫理的なアイデアを出しても誰も異議を唱えなければ、そうした行動が暗黙のうちに認められ、より多くの悪意の創造性を生み出す可能性があります。

侮辱的管理によって高められる

職場における上司の振る舞いは、部下の行動や感情に影響を及ぼします。パキスタンの研究では、上司による「侮辱的管理」が部下の悪意の創造性を促進するかどうかを検証しました。侮辱的管理とは、上司が部下に対して行う継続的な敵対的言動を指し、侮辱、嘲笑、脅迫、プライバシーの侵害などが含まれます。

研究者たちはパキスタンの公立病院で働く297名の若手医師を対象に調査を行いました[3]。彼らは「感情イベント理論」を基盤として、職場でのネガティブな出来事(侮辱的管理)が従業員の感情的反応を引き起こし、それが行動(悪意の創造性)へとつながるというプロセスを想定しました。

調査の結果、予想通り侮辱的管理は部下の悪意の創造性に直接的な正の影響を示しました。上司からの虐待的な言動を多く受ける医師ほど、「人を傷つける」「嘘をつく」「策略を用いる」といった悪意の創造性を発揮する傾向があったのです。

このプロセスにおいて「心理的契約違反」が重要な役割を果たしていることも明らかになりました。心理的契約とは、雇用関係において明文化されていない相互期待のことを指します。例えば、従業員は「頑張って働けば公正に評価される」と期待し、雇用者は「従業員は会社の利益のために尽力する」と期待しているかもしれません。侮辱的管理はこうした暗黙の期待に違反し、部下に怒りやフラストレーションといった強い感情的反応を引き起こします。

調査では、この心理的契約違反による感情的反応が、侮辱的管理から悪意の創造性への道筋を媒介していることが確認されました。言い換えれば、上司からの虐待的言動は部下の感情を害し、その結果として部下は創造的な方法で「仕返し」をしようとする可能性があるのです。

この研究ではある種の性格特性が持つ保護的な効果も明らかになりました。研究者たちは「ライト・トライアド」と呼ばれる肯定的な性格特性を調査に含めました。ライト・トライアドは、カント主義(他者を手段ではなく目的として扱う考え方)、人道主義(人類全体の福祉を考える姿勢)、人間への信頼(他者に対する基本的な信頼感)という3つの特性から成ります。

分析の結果、ライト・トライアド特性が高い人は、侮辱的管理を受けても悪意の創造性を発揮しにくいことが分かりました。これらの肯定的特性は、虐待的管理が悪意の創造性を引き起こす負の連鎖を緩和する緩衝材として機能します。

悪意の創造性は接近動機で高まる

心理学では人間の行動を動機づける要因として、「接近動機」と「回避動機」という2つの基本的な動機づけを区別しています。接近動機とは報酬やポジティブな成果を得るために行動する傾向、回避動機とはネガティブな結果や危険を避けるために行動する傾向を指します。

中国の研究者グループは、これらの動機づけのタイプが悪意の創造性にどのような影響を与えるかを3つの研究を通して検証しました[4]。一般的に、接近動機はポジティブな創造性を促進し、回避動機はそれを抑制するとされていますが、悪意の創造性においてもこの関係が当てはまるかどうかは未解明でした。

第一の研究では、中国の成人208名を対象にオンライン調査を実施し、接近・回避動機の特性と悪意の創造性の関係を検討しました。参加者には架空の復讐シナリオに対して悪意ある創造的なアイデアを生成する課題が与えられ、そのアイデアの数(流暢性)と独創性が評価されました。

分析の結果、接近動機の高い人ほど悪意の創造性も高いという正の相関が見られました。一方、回避動機の高い人は悪意の創造性が低いという負の相関が確認されました。ポジティブな結果を追求する傾向が強い人ほど、皮肉にも悪意の創造性も高いということが分かったのです。

この関係をより厳密に検証するため、研究者たちは第二の研究として実験室実験を行いました。大学生65名を対象に、報酬の獲得(接近条件)または報酬の減少回避(回避条件)という形で動機づけ状態を実験的に誘導し、悪意の創造性課題のパフォーマンスを測定しました。

実験の結果、接近動機づけ群の方が回避動機づけ群よりも悪意の創造性が有意に高くなりました。これは実際の動機づけ状態を操作しても、接近動機が悪意の創造性を促進することを示す証拠です。

第三の研究では、動機づけとともに「目標未達成(no closure)」の状態が悪意の創造性に与える影響を検討しました。大学生111名を対象に、「成功した体験」か「失敗した体験」を想起させて動機状態を誘導した後、悪意の創造性課題を実施しました。

この実験でも接近動機群は回避動機群より悪意の創造性が高くなりましたが、新たに「目標未達成」条件下では、成功条件に比べて悪意の創造性が向上することが判明しました。特に回避動機の下では、目標未達成状態が接近動機(成功条件)と同程度の悪意の創造性を引き出すことが分かりました。目標未達成という状態は、回避動機が持つ悪意の創造性抑制効果を打ち消す作用があるのです。

これらの研究から、接近動機が悪意の創造性を促進する一方、回避動機はそれを抑制すること、また目標未達成状態があると回避動機の抑制効果が緩和されることが分かりました。

なぜこのような結果になるのでしょうか。研究者たちは、接近動機が柔軟な認知経路を活性化し、多様な選択肢を探索する傾向を促進するためではないかと考察しています。報酬を追求する心理状態は、それが善意的であれ悪意的であれ創造的思考全般を促進するのです。一方、回避動機は注意を狭め、リスク回避的な思考を促すため、冒険的な創造的アイデアが生まれにくくなると考えられます。

ただし、回避動機の下でも目標未達成という状態に置かれると、その抑制効果が減少します。これは失敗や挫折の経験が、安全志向の認知から脱却させ、より冒険的な思考、すなわち悪意の創造性を含む創造的思考を促進するためかもしれません。

衝動と挑発が悪意の創造性を高める

私たちは時に衝動的な行動を取ることがあります。よく考えずに行動してしまい、後から「なぜあんなことをしたのだろう」と振り返ることもあるでしょう。こうした衝動性は、悪意の創造性とどのように関わるのでしょうか。アメリカの研究者グループは、「潜在的攻撃性」「計画性の低さ」「挑発的状況」という3つの要因が悪意の創造性に与える影響を実験的に検証しました[5]

潜在的攻撃性とは、本人が意識していない無意識的な攻撃性の傾向を指します。攻撃性が潜在的な場合、本人はその行動を攻撃的とは認識せず、むしろ合理的だと感じています。こうした人は、他者の行動に敵意や悪意を感じ取りやすく、攻撃的な行動を自己正当化しやすい傾向があります。

計画性の低さは衝動性の一要素で、行動を起こす前の計画性や熟慮性の低さを指します。計画性が低い人は、行動の結果をあまり深く考えず、倫理的・道徳的な制約に捉われずに衝動的な行動をとります。

挑発的状況とは、攻撃的または敵対的な反応を誘発する状況のことを指します。例えば、誰かから侮辱されたり、不当な扱いを受けたりした場合などです。

研究者たちは「特性活性化理論」に基づき、潜在的攻撃性という個人特性が挑発的状況によって活性化され、さらに計画性の低さがその効果を促進するという交互作用モデルを提案しました。

実験では、アメリカ中西部の大学生138名が参加し、潜在的攻撃性を測定するテストと計画性を測定する尺度に回答した後、挑発的な状況(他の学生に対して密かに仕返しをする課題)か善意的状況(他の学生を密かに手助けする課題)のいずれかに割り当てられました。参加者はその状況に対して創造的なアイデアを出すよう求められ、それらのアイデアは悪意と独創性の両面から評価されました。

実験の結果、潜在的攻撃性が高く、計画性が低いほど、悪意の創造性のアイデア数が多くなることが確認されました。一方、善意的状況では彼ら彼女らの悪意の創造性は抑制されていました。

この結果は、悪意の創造性の発現において個人の特性と状況の組み合わせが重要であることを意味しています。潜在的攻撃性の高さや衝動性だけでは悪意の創造性は必ずしも発揮されません。攻撃性を活性化させる挑発的な状況があり、なおかつ行動を慎重に考える計画性が低い場合に、悪意の創造性が最も発揮されやすくなります。

例えば職場で上司から不当な扱いを受けた場合(挑発的状況)、潜在的な攻撃性が高く計画性が低い人は、上司に対する「創造的な仕返し」を考えつく可能性が高まるということです。一方、同じ人でも協力的な環境であれば、そうした悪意の創造性は抑制されるでしょう。

脚注

[1] Szabo, E., Kormendi, A., Kurucz, G., Cropley, D., Olajos, T., and Pataky, N. (2022). Personality traits as predictors of malevolent creative ideation in offenders. Behavioral Sciences, 12(7), 242.

[2] Gutworth, M. B., Cushenbery, L., and Hunter, S. T. (2018). Creativity for deliberate harm: Malevolent creativity and social information processing theory. The Journal of Creative Behavior, 52(3), 305-322.

[3] Malik, O., Shahzad, A., Waheed, A., and Yousaf, Z. (2020). Abusive supervision as a trigger of malevolent creativity: Do the Light Triad traits matter? Leadership & Organization Development Journal, 41(8), 1119-1134.

[4] Hao, N., Qiao, X., Cheng, R., Lu, K., Tang, M., and Runco, M. A. (2020). Approach motivational orientation enhances malevolent creativity. Acta Psychologica, 203, 102985.

[5] Harris, D. J., and Reiter-Palmon, R. (2015). Fast and furious: The influence of implicit aggression, premeditation, and provoking situations on malevolent creativity. Psychology of Aesthetics, Creativity, and the Arts, 9(1), 54-64.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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