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なぜ仕事を任せられないのか:マイクロマネジメントの心理とその処方箋

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悪い結果につながると分かっているのに、どうしてもなくならない現象というものがあります。その一つがマイクロマネジメントです。マイクロマネジメントとは、組織のあらゆる側面を過剰に管理することです。そして不必要に過剰な管理や監視をして従業員のフラストレーションを高める干渉的な上司は、マイクロマネージャーと呼ばれます。

上司の細かすぎる指示や進捗チェックは、部下の自律性と自主性を奪います。部下のやる気は低下し、ただ言われたことだけをやるだけの状態に陥ってしまうのです。さらに、部下は「自分は信頼されていない」と感じるため、上司への不信感が高まります。

本コラムでは、部下に仕事を任せることの意義は分かっているのに、さまざまな事情から干渉をやめられない上司が、マイクロマネジメントを手放すためにはどうすればいいのかを考えていきます。

マイクロマネジメントの症状と悪影響

部下の仕事を管理することは、上司の職務です。ではどのような状態になってしまうと、上司のマネジメントは適切な職務の範囲を超えてマイクロマネジメントになってしまうのでしょうか。

マイクロマネジメントの可能性が高い上司の特徴として以下のことが挙げられています[1]

  • 特定のプロジェクトの監督に過剰な時間を費やし、何をどのようにすべきかを厳格に指示する。
  • 不安感が強く、自分より下の人間のパフォーマンスを信用することを恐れている
  • 無意味な細部にこだわる。
  • 部下より早く出社し、遅くまで残っている。休暇中も頻繁にオフィスに電話をかけてくる。
  • 過剰な頻度で不必要な状況報告書を要求する。あまりに多忙なため、自分の承認を待つ間にプロジェクトに遅れが生じることが多い。
  • あまりに多くのプロジェクトを引き受けるため、どの仕事も完了させられない。忙しすぎて部下と会う時間もなく、指導することもできない。
  • 部下が信用を得ることを嫌うため、自分だけで上司のオフィスに出向く。上司が自分を素通りして直接部下の一人のところに行くと怒りを感じる。
  • 部下のミスを嫌い、めったに褒めない。その一方で、自分のミスや欠点を認めない。

このすべてに当てはまるということはさすがに珍しいかもしれませんが、いくつかについては、思い当たる節がある人もいるのではないでしょうか。

上司のマイクロマネジメントが部下に対して悪い影響を及ぼすことは、研究で明らかにされています[2]。例えば、以下のような例が報告されています。

  • 部下は上司からの頻繁な指示や確認に強いプレッシャーを感じるため、仕事への意義や魅力を見失い、職場でのエンゲージメントが低下する。
  • 部下は自分の能力が低く見られていると感じるため、上司との信頼関係が悪化する。
  • 部下が新しいアイデアを提案するリスクを避けるようになり、部下の創造性や業務の質が低下する。

つまり、マイクロマネジメントは、部下の仕事や職場に対する向き合い方や、仕事の質に悪影響を与えます。また、上述のような上司の監視の動きは、上司自身の仕事の負荷が高くなるという意味でも、避けるべきマネジメント方法なのです。

研究知見を見ずとも、マイクロマネジメントが良くないものであることは、これまでの経験から肌で感じてもいるのではないでしょうか。自分の仕事について上司にいちいち口出しされたときにはやる気が下がり、仕事を任せられたときには、プレッシャーではあったものの、やりがいが感じられたというのはよくあることです。

また、任せられた仕事を自分で管理していくことが成長につながった経験もあるでしょう。加えて、自分の能力を信頼し、仕事を任せてくれた上司に対してポジティブな印象を持ち、良い関係を築いてきたこともあるかもしれません。そうした経験から、マイクロマネジメントをせずに部下に任せることの価値に気づけるのではないでしょうか。

失敗を恐れる上司

短期的・危機的な状況以外では、悪いことずくめと言っても過言ではないマイクロマネジメントはなぜなくならないのでしょうか。その大きな理由に、上司も評価される対象で、失敗や、成果を上げられないことを恐れているというものがあります[3]

部下が仕事を適切に進め、成果を出せるように管理することが上司の仕事ですから、部下の仕事の出来が上司の評価につながります。そして上司は、部下の多くが自分と同じ経験やスキルを持っているわけではないと認識しています。

プレイヤーからマネージャーに昇進することによって、今まで自分が手掛けていた仕事に直接関わるのではなく、自分よりも経験不足な人たちに任せて、自分はマネジメントに回らなければいけなくなります。しかし、その経験不足な人たちの仕事が自分の評価に直結してしまうとなれば、部下の失敗は怖いものです。部下に任せるべき仕事でも自分でやってしまったり、細かく口出しをしてしまうことは安心につながるでしょう。

仕事を管理することは、自分でその仕事をこなすよりも難しい場合が多く、多くの人はプレイヤーからマネージャーにうまく転身を果たすことができません。そして、新しいマネージャーとしての仕事をこなせない場合、自分が携わっていた仕事を現在行っている部下に対して、マイクロマネジメントを行うことになってしまうのです。

やりたいわけではないけれど、どうしようもなくマイクロマネジメントに陥ってしまっている人が、マイクロマネジメントから抜け出すためには何が必要なのでしょうか。個人がとれる対応と、組織がとれる対応を考えてみましょう。

仕事を部下に任せるために上司自身ができること

部下に対する自分の信頼感を高める

まず、個人がとれる対応を紹介します。「部下に任せても期待する成果を出せる。」と部下を信頼できれば問題は解決しそうですが、これがなかなか難しいことです。信頼というものは自分だけでなんとかできるものではありません。

信頼できるかできないかを決める要因は、信頼する人(上司)の要因、信頼される人(部下)の要因、文脈的要因の3つに分類できます[4]3つの要因をそれぞれ見ていきましょう。

この3つの中で最も大きな影響をもつものが、信頼される人(部下)の要因です。具体的には、部下の専門知識や実績、性格の誠実性、評判などがあります。部下が専門知識が豊富でこれまでの実績もあり、計画性や責任感もある人柄で、評判も良ければ信頼できるというわけです。

中長期的には部下に成長してもらって、信頼できる人だから仕事を任せられるとなることは大切です。しかし、部下に成長してもらうためにも、まず部下に仕事を任せ、経験を積んでもらう必要があるのに、それができないというジレンマが発生しているのです。

多くの上司は、部下の能力を伸ばすことを重要な目的として、仕事を任せる必要があることを認識しています。しかし実際には、上司は重要な仕事を、能力を伸ばす必要がある部下に任せることを控えてしまいます。成長につながるような重要な仕事は、必要な専門知識を既に持っている、能力開発が必要のない部下に与える傾向が強いことは研究でも明らかにされています[5]

「仕事を任せることによって、能力の開発をしなければいけない部下には、仕事を任せられない。能力開発を行う必要がない、十分な能力を持った部下には、能力開発につながる仕事を任せられる」というジレンマがあるのです。

他者を変えることが難しいのならば、自分はどうでしょうか。信頼と関係する信頼する人(上司)の要因としては、文化的背景やパフォーマンス(自己評価または観察されたパフォーマンス)、基本的に他者を信頼しやすい性格か、コミットメントのレベル、エンゲージメント、自己効力感などがあります。

自分がこれまで身を置いてきた文化は変えられません。また、長い歳月をかけて作り上げてきた性格や考え方も、変えることは容易ではありません。残念ですが、信頼する人(上司)の要因も簡単には変えられないものが多いのが現実です。

では文脈的要因はどうでしょうか。文脈的要因は信頼する側とされる側が共有する環境的な要素です。信頼できるかどうかと関係している要因として、チームのコミュニケーションや内集団帰属感、共有メンタルモデルが挙げられます。

内集団帰属感とは、従業員が自分の部署やチームに対してもつ、集団の一員であるという意識のことです。共有メンタルモデルとは、チームのメンバーが、タスクや状況、目標に関する共通の理解を持つことを指します。

つまり、チームでコミュニケーションがとれていることが信頼に関係してくるのです。コミュニケーションによって、メンバーが仕事について共通認識をもち、自分たちを一つのチームだと感じている環境では、相手を信頼しやすいということです。

文脈的要因も短期的に改善できるようなものではなさそうですが、もっとも変えられる可能性が高いものだと言えます。信頼がない状況なのに、部下に仕事を任せて成長を促すように自分を仕向けることや、自分の性格やものの考え方などを変えることは困難なことです。

それに比べると、相手を信頼するために、まずコミュニケーションを増やしてみるということは、失敗に直結するリスクが少ないため、比較的取り組みやすい対応といえるでしょう。

業務の進捗だけでなく、悩みやキャリアの希望についても聞く、定期的な1on1ミーティングを実施することはコミュニケーションを増やす一つの方法です。また、話すことが苦手だったり、スケジュールがなかなか合わない部下とは、チャットツールやメールを活用するなどの工夫をすることが、コミュニケーションの増加につながります。

委譲と協議を使い分ける

もっと短期的にマイクロマネジメントを減らせる方法はないでしょうか。部下に任せる「委譲」を行うことに不安を感じるのならば、重要な決定に部下を関与させる「協議」を積極的に行っていくという方法が考えられます。

「委譲」と「協議」の違いは、部下が実際にもつ影響力の程度です。委譲では、意思決定の権限が部下に委ねられます。それに対し、協議では、意思決定の権限は上司が保持します。

事前の承認を得ずに行動を起こす権限など、部下の仕事の進め方に関する自由度や裁量を増やす委譲ができるほどの信頼を部下にもてなくても、意思決定に関与させることなら抵抗感は少なくなります。

まず、上司がすべてを決めて、それが守られているかを細かくチェックすることを止めます。そして、何をどのように進めて、進捗確認をどのようなスケジュールで行っていくのかについて、部下と意見を交わしながら決定し、実行していくのです。

委譲と協議の決定要因を調べた研究[6]では、より多くの委譲が行われるためには、部下の能力が高いこと、上司の目標を部下が共有していること、上司のもとで長く働いていること、部下と上司が良好な関係を築いていること、部下自身もマネージャーであることが関係していることが示されています。

しかし協議については、上司の目標を部下が共有していること、部下と上司が良好な関係を築いていること、部下自身もマネージャーであることが関係していますが、部下の能力と上司のもとで長く働いていることの2つの要因については、より多くの協議が行われるかどうかに影響しないことが示されました。

部下の能力が十分でなく、一緒に働いている時間が短い場合には、委譲は難しいかもしれませんが、協議であれば行われやすいことが示されたのです。委譲よりは劣るかもしれませんが、協議で重要な決定に関与したり、仕事の進め方を組み立てていくことは部下の成長にもつながりますし、進捗をチェックするタイミングを上司と部下で決めておくことはマイクロマネジメントの防止にもなります。

協議を行っていくことは、委譲への準備にもなります。協議の中で、上司と部下の関係性の向上や、目標の共有を進めていくことによって、段階的に委譲を行っていくことができるようになるでしょう[7]

上司の不安緩和と部下への委譲のために、組織ができること

リーダーシップ研修を適切に行う

次に、組織が取り組むことができる対応を紹介します。優れたプレイヤーであった人が、優れたマネージャーとして力を発揮できるとは限りません。また、現在のマネージャーは業務やメンバーの管理をするだけでなく、リーダーシップ[8]を発揮することも求められています。

適切に研修を行い、リーダーシップとは何か、マネージャーには何が求められているのか(何が評価されるのか)を知ってもらう必要があります。役割が曖昧であったり、評価の基準が示されなかったりすると、自分が何を行うべきか分からず、部下に必要以上の口出しをしてしまいます。

自分だけではなく、チーム全体の力を最大限に引き出すリーダーシップをマネージャーが習得できる機会を設ける必要があります。

ミスが許容され、革新や新しいアイデアを受け入れる組織環境を作り出す

ミスが起こるということは、上司がリスクをとって、部下に意思決定の権限を与えているということです。ミスが許されない環境では、上司は部下がミスを犯さないように細かく監視しないと安心できないでしょう。

状況の不確実さと上司のリスク耐性が、意思決定権の委譲に与える影響を調べた研究では、上司がリスクをとることができるタイプであると適切な委譲が行われることを明らかにしています[9]

不確実で変化しやすい仕事の場合には、上司はその仕事に関する情報を完全には把握できず、部下の方が現場の状況をよく知っていて、適切な判断を下せる可能性が高くなります。この場合には意思決定の権限を部下に委譲する方が合理的です。

実験の結果、高いリスク耐性を持つ上司は、不確実性が高い場合に積極的に権限を委譲できるのですが、リスクを回避しようとする上司は権限委譲をためらう傾向が示されました。

この研究は、上司個人の性質としてのリスク耐性について検討していますが、個人の認識と行動は、個人の性質だけでなく、所属する組織の風土にも影響されるものです。

マイクロマネジメントを行ってしまっている上司を変えていくためには、リスクの許容度について組織のレベルでの改善も必要になってくるでしょう。

マイクロマネージャーの中には、他者をコントロールする欲求が強かったり、細部に異様なこだわりをもつために、進んでマイクロマネジメントを行っている人もいるでしょう。しかし、仕事における自律性の重要性を知りつつも、マイクロマネジメントから抜け出せず苦しんでいる人も多いのではないでしょうか。

部下に仕事を任せ、仕事の自律性を高めることが必要だと分かっていても、実行できないのであれば、「やらなくてはいけない」と言うだけでは解決しません。「部下に任せられない理由は何か、その理由を解決するためには何をすればいいのか」ということを、マイクロマネジメントを行っている本人だけでなく、組織全体で検討していく必要があります。

脚注

[1] White Jr, R. D. (2010). The micromanagement disease: Symptoms, diagnosis, and cure. Public Personnel Management, 39(1), 71-76.

[2] 適切なマネジメントについては、当社の別のコラムでまとめております。適宜参照ください;マネジメントの過干渉と放任を防ぐ:部下との「適度」な関わりを実現するために(セミナーレポート)

[3] Manzoni, J., & Barsoux, J. (1998). The set-up-to-fail syndrome. Harvard business review, 76 2, 101-13 .

[4] Hancock, P. A., Kessler, T. T., Kaplan, A. D., Stowers, K., Brill, J. C., Billings, D. R., Schaefer, K. E., & Szalma, J. L. (2023). How and why humans trust: A meta-analysis and elaborated model. Frontiers in psychology, 14, 1081086.

[5] Yukl, G., & Fu, P. P. (1999). Determinants of delegation and consultation by managers. Journal of Organizational Behavior: The International Journal of Industrial, Occupational and Organizational Psychology and Behavior, 20(2), 219-232.

[6] 脚注5(Yukl & Fu, 1999)と同じ

[7] 権限委譲の進め方についてや、権限委譲による部下の自発性と積極性の育成については、当社の別のコラムでまとめております。適宜参照ください;

[8] リーダーシップについては、当社の別のコラムでまとめております。適宜参照ください;リーダーシップの新潮流:謙虚さが拓く可能性

[9] Hamman, J. R., & Martínez-Carrasco, M. A. (2023). Managing uncertainty An experiment on delegation and team selection. Organization Science, 34(6), 2272-2295.


執筆者

西本 和月 株式会社ビジネスリサーチラボ アソシエイトフェロー
早稲田大学第一文学部卒業、日本大学大学院文学研究科博士前期課程修了、日本大学大学院文学研究科博士後期課程修了。修士(心理学)、博士(心理学)。暗い場所や狭い空間などのネガティブに評価されがちな環境の価値を探ることに関心があり、環境の性質と、利用者が感じるプライバシーと環境刺激の調整のしやすさとの関係を検討している。環境評価における個人差の影響に関する研究も行っている。

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