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コラム

ボイスを奨励する職場づくり:社員からの提案を活性化する

コラム

職場において、社員が自発的に意見や提案を行うボイスは、組織の発展に欠かせない要素です。しかし、ボイスを促進するためには、様々な要因を考慮する必要があります。

本コラムでは、ボイスを奨励する職場づくりのポイントについて、先行研究に基づいて解説します。リーダーの役割、公正感、社員の心理的要因、ストレス管理など、複数の観点から考察を行います。

また、ボイスを促進する上で、沈黙の意味と価値についても触れます。ボイスと沈黙のバランスを取ることの重要性を議論します。

本コラムを通じて、組織がボイスを奨励する職場環境を整備するための示唆を得ることができれば幸いです。社員が自由に意見を述べられる職場づくりに向けて、一緒に考えていきましょう。

ボイスの採用がエンゲージメントに

リーダーが社員のボイスを採用することが、社員の自尊心と仕事への熱意にどのような影響を与えるかが調査されています[1]。中国の企業を対象に206名の社員を2回のオンライン調査で行いました。結果、リーダーがボイスを取り入れると、社員の自尊心と仕事への熱意が向上することがわかりました。

社員がリーダーに認められることで、自分の存在価値が高まり、それが仕事に対する意欲を引き出します。研究結果に基づけば、社員の合理的な意見や提案をリーダーが採用することが、社員の組織に対する自尊心を高め、結果的にワーク・エンゲージメントを促進することが示されました。

研究によれば、中国では上下関係が強調される文化があるため、リーダーが部下のボイスを採用することに対して抵抗があるそうです。これは日本でも似ている企業があるかもしれません。しかし、リーダーが部下の声を尊重することで、社員のエンゲージメントが向上することが確認されました。リーダーが社員のボイスを積極的に取り入れることの意義がうかがえます。

ボイス拒否後には感謝を表明する

とはいえ、すべてのボイスを採用できるわけではありません。リーダーが部下の提案を拒否する際の対応が、その後のボイスにどう影響するかを調べた研究があります[2]

研究では、リーダーが感謝の意を表明すると、提案を拒否することに伴うネガティブな影響が緩和されることがわかりました。部下は引き続き提案を行う意欲を維持しやすくなります。

1つ目の研究では、オンラインプラットフォームで募集した中国人社員190名を対象に、シナリオ実験を行いました。参加者は、リーダーの提案拒否の程度(高/低)と感謝表明の程度(高/低)で4つの条件に無作為に割り当てられ、その後、ボイスの自己効力感、上司との関係(LMX)、ボイスへの意欲を測定しました。

2つ目の研究では、中国の大学のMBA学生とその部下を対象に、2回の調査を行いました。1ヶ月目に部下のボイスを測定し、2ヶ月目にリーダーの提案拒否、感謝表明、ボイスの自己効力感、LMX、その後のボイスを測定しました。

これらの結果、リーダーの感謝表明が部下の自信と、関係性を保つ効果が確認されました。提案が拒否されても、感謝の意を示すことで、部下はリーダーに認められていると感じます。部下は次回も提案しやすくなります。

リーダーは提案を拒否する際、必ず感謝を示しましょう。これによって、部下の意欲や関係性が維持されます。感謝の文化を根付かせることで、組織全体の提案活動が活発化する可能性もあります。

公正感とボイスは密接な関係に

公正感が社員のボイスに与える効果について紹介しましょう[3]。研究では、対人的な公正感、手続きの公正感、結果の公正感がボイスにどう影響するかを検証しました。対人的な公正感はボイスと強い関係があることがわかりました。

手続きの公正感が高い場合、対人的な公正感の影響が弱まることがわかりました。結果の公正感が低いと、対人的な公正感と手続きの公正感の影響が強まります。つまり、結果が不公正だと感じる場合、社員は公正な扱いを求めてボイスを取る傾向があります。

この研究は、社員のボイスを促進するためには、公正な環境が必要であることを示しています。対人関係や意思決定プロセスの公正さを確保することで、社員のボイスを促進し、組織の健全な発展を支えることができます。

公正感を高めてボイスを促す

ボイスを増やすためには、公正感の向上が鍵となります。対人的な公正感、手続きの公正感、結果の公正感をそれぞれどう高めれば良いのでしょうか。

対人的な公正感を高めるには、上司と部下のコミュニケーションを円滑にし、部下の意見を尊重することが大切です。また、ハラスメントや差別を防止し、全ての社員が平等に扱われる環境を整えます。

手続きの公正感を確保するためには、意思決定プロセスを透明化し、社員の参加機会を増やすことが有効です。人事評価や昇進・昇格の基準を明確にし、公平性を担保することも求められます。

結果の公正感への対応としては、賃金や福利厚生など、処遇面での公平性を確保することが必要です。社員の努力と貢献度に応じた評価と報酬体系を整備することで、結果の公正感を高めることができます。

これらの取り組みを通じて、社員が公正感を持ち、心理的に安心してボイスを発することができる環境を築くことができます。

本音と建前の乖離がボイスを減らす

社員が表面上は組織の価値観に従っているように見せかけながら、内心ではそうでない状態を「適合性のファサード」と言います。このような状況が、社員のボイスや職務満足にどう作用するのでしょうか[4]

台湾の大手製造企業と公的機関の社員を対象に行った調査によれば、適合性のファサードを持つ社員は、外面的な行動と内面的な思考の矛盾から職務満足が低下することが確認されました。

また、この矛盾が感情的な疲労を引き起こし、その結果、ボイスが減少することが示されました。感情的な疲労は、社員が仕事に対する意欲を失う原因となります。社員が自由に意見を発言できる環境を提供し、本音と建前の乖離を減らすことで、社員のボイスを促進することが求められます。

悪影響を懸念するとボイス減少

社員がリスクを感じると、ボイスが減少することがあります。例えば、上司に恥をかかせないようにすることや、発言がキャリアに悪影響を及ぼすという懸念が挙げられます。こうした懸念が社員の防衛的沈黙や建設的発言にどのように関連するかを調査しました[5]

トルコのヘルスケアと教育部門で働く494名を対象に調査を行ったところ、パワーディスタンス(上司との上下関係の差)が大きい場合、社員はボイスによるキャリアへの悪影響を懸念し、防衛的沈黙を選ぶ傾向が強いことが確認されました。

また、積極的な性格の社員は、上司を困らせない方法で建設的なボイスを行う傾向があることがわかりました。上司に恥をかかせないようにする信念を持つ社員は、公の場ではなくプライベートな場で意見を述べる傾向がありました。また、発言することがリスクだと感じる社員は、自己防衛のために沈黙を選ぶことが多いことが確認されました。

組織としては、社員のボイスに対する恐れを和らげるための取り組みが必要です。上司は社員のボイスを歓迎し、その価値を認識する姿勢を示しましょう。社員が安心して発言できる環境を整えることが大事になります。

懸念を減らすためにできること

ボイスを増やすためには、いくつかのポイントに注目し、社員の懸念を減らさなければなりません。

まず、心理的安全性の確保が不可欠です。社員が自由に意見を述べられる環境を整えるために、上司は部下の意見に耳を傾け、失敗を恐れずにチャレンジできる雰囲気を作ります。上司自身がボイスを行う姿を見せるのも良いでしょう。

次に、多様な意見を歓迎する文化の醸成が重要です。異なる背景や価値観を持つ社員の視点を尊重し、建設的な議論を奨励することで、アイデアが生まれる土壌ができあがります。多様性を受け入れる姿勢を職場全体で共有することが、ボイスを増やします。

小さな成功体験の積み重ねも有効です。社員から出たアイデアを実際に実行に移し、成果を出していくことで、社員のボイスに対する自信が高まります。たとえ小さな意見であっても、それを大切にし、実現させていきます。

社員のボイスに対するフィードバックの提供も忘れてはいけません。アイデアの良い点を具体的に伝えるとともに、改善点についてもアドバイスを与えます。社員の成長を促すフィードバックを心掛けることで、ボイスが生まれます。

ストレスが高いとボイスを控える

職場のストレスが社員のボイスに与えるインパクトについても研究があります[6]。研究では、55の出版論文と3つの未発表研究のデータを統合してメタ分析を行い、職場のストレス要因とボイスの関係を検証しました。

結果、職務上のストレスや社会的なストレスが高いと、社員のボイスが減少することが明らかになりました。また、ボイスは業績評価や創造性、変革の実行といったパフォーマンス指標と関連があることがわかりました。

職場のストレス要因が高いと、社員はストレスから身を守るためにボイスを控える傾向があります。例えば、仕事の量が多すぎる場合や、上司との関係が悪化している場合、社員は発言する余裕がなくなり、ボイスが減少します。

この研究は、職場のストレス管理が社員のボイスを促進するために重要であることを示しています。例えば、仕事の負担を適切に分配し、上司と社員の関係を良好に保つことが求められます。

良質な沈黙にも目を向ける

ボイスが奨励される職場は、多くの利点をもたらします。社員が自由に意見や提案を発信できることで、新たなアイデアや改善点を得られます。また、社員にとっても自尊心やエンゲージメントの向上につながるでしょう。

しかし、ボイスを奨励していくことにはリスクも伴います。例えば、いつも意見を求められる環境では、社員がプレッシャーを感じます。プレッシャーの中では、質の高い意見を出す余裕がなくなります。

逆に、沈黙にも意味と価値がある場合があります。例えば、熟考をしているがゆえの沈黙を通じて、意見を述べる前に深く考える時間を確保することで、質の高い意見や提案が生まれます。

周囲の反応や変化を見極めるための観察の沈黙もあり得ます。これも、適切なタイミングで意見を述べるために重要です。

無邪気にボイスの奨励を推進していくと、場合によっては、沈黙の価値を見過ごす可能性があります。質の低下やストレス、浅い対話の増加が生じるかもしれません。深く考える時間が奪われると、組織の判断が曇ります。このことに注意を払う必要があるでしょう。

脚注

[1] Li, L., Zheng, X., and Zhang, Q. (2022). Does leaders’ adoption of employee voice influence employee work engagement?. Personnel Review, 51(2), 683-698.

[2] Zhu, Y., Long, L., Zhang, Y., and Wang, H. (2023). Remember to say “thanks” when rejecting others: the moderating role of leader gratitude expression in the relationship between leader voice rejection and employees’ subsequent upward voice. Asia Pacific Journal of Management, 1-28.

[3] Takeuchi, R., Chen, Z., and Cheung, S. Y. (2012). Applying uncertainty management theory to employee voice behavior: An integrative investigation. Personnel Psychology, 65(2), 283-323.

[4] Chou, H. H., Fang, S. C., and Yeh, T. K. (2020). The effects of facades of conformity on employee voice and job satisfaction: The mediating role of emotional exhaustion. Management Decision, 58(3), 495-509.

[5] Sahin, S., Cankir, B., and Arslan, B. S. (2021). Effect of implicit voice theories on employee constructive voice and defensive silence: A study in education and health sector. Organizacija, 54(3), 210-226.

[6] Ng, T. W. H., and Feldman, D. C. (2012). Employee voice behavior: A meta‐analytic test of the conservation of resources framework. Journal of Organizational Behavior, 33(2), 216-234.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

#伊達洋駆

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