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コラム

上方影響力:部下から上司に働きかける

コラム

組織の中では、上司と部下がお互いに影響を与え合っています。上司は部下に対して影響力を使い、部下がどのように行動するかを導きます。これを下方影響力と呼びます。

他方で、部下も上司に対して影響力を使うことで、自分のニーズを満たしたり、組織の決定に関わったりすることができます。これは上方影響力と言います。

本コラムでは、特に上方影響力に注目して、その効果や影響を与える要因について見ていきます。

初めに、上司の上方影響力が部下の心理や行動にどう影響するかを説明します。次に、部下が上方影響力を使うことでどんな効果があるのか、またそれを決める要因は何かを議論します。

重要な決定を行う際の上方影響力と下方影響力の使い分けや、組織の雰囲気と影響力の使い方の選択についても取り上げます。最後に、これらの研究から得られる実践的なヒントをまとめます。

上方影響力のペルツ効果

上司がその上司から信頼と支持を得ていることは、部下へのリーダーシップをより効果的に発揮するために重要です。この現象は「ペルツ効果」と呼ばれます。

ペルツは、ミシガン州の工場で働く監督者と従業員を対象に調査を行いました[1]。監督者には、その上司との関係や上方影響力について、従業員には、監督者の行動や仕事満足度についてアンケートを取りました。

その結果、上司から支持されている監督者の下では、部下の士気や仕事満足度が高いことがわかりました。上方影響力が強い監督者ほど、部下に対してより効果的なリーダーシップを発揮できるということです。

上方影響力の強い監督者は、利益をもたらすのに十分な力を持っていると部下に思われています。上方影響力の強い監督者は会社の資源をより多く動かすことができ、上司の決定にも発言力を持っているからです。

そのような監督者が部下に支援や配慮を示した場合、部下はそれを単なる監督者個人の行動ではなく、会社からのバックアップを伴うものだと受け取るかもしれません。監督者の行動の背景に会社の支援があると実感することで、部下の満足度や好意的な態度につながります。

ペルツ効果を実証した結果

ペルツ効果はその後、研究者によって追試されています。例えば、看護師と電力会社の職員を対象に、上方影響力、上司の行動、部下の職務満足と組織内統制感などを測定する調査を行ったものがあります[2]

その結果、上司の上方影響力が強い場合、上司の配慮的・支援的行動や課題志向的行動が、部下の組織内統制感を高める効果がより強くなることが示されました。

部下の個人的な統制感や対人的な統制感の強さを統制しても、ペルツ効果が見られたことから、ペルツ効果は部下の性格特性によるものではなく、上司の行動による影響であることが確認されています。

なお、看護師では上司の行動と部下の職務満足の関連においてもペルツ効果が見られたのに対し、電力会社ではこの関連が見られませんでした。これは、職種や組織文化の違いが影響している可能性があります。

上方影響力の発揮は脅威に感じる

部下が上司に上方影響力を行使する際に、「主観的な脅威」を感じることが分かっています。そのことに焦点を当てた研究を紹介しましょう[3]

研究では、週に20時間以上働いている社会人学生に調査票を配りました。上司とのコミュニケーションの仕方や、上司との関係の質、そして部下が上方影響力を行使する時に感じる脅威などについて質問をしました。

上司とのコミュニケーションの仕方や、上司との関係の質が、部下の脅威の感じ方と関係していることがわかりました。

例えば、上司と個人的な話をよくしたり、会社のルールや上司の期待に沿った行動をよくとったりしている部下は、上方影響力を行使する時にあまり脅威を感じませんでした。また、上司との関係が良好な場合も、部下は上方影響力を行使する時の脅威を感じにくいようです。

部下が上方影響力に脅威を感じるのは問題です。脅威を感じると、部下は上司に積極的に提案をしなくなるかもしれません。会社が部下の提案を促そうとしても、部下はリスクを心配して、上方影響力の行使を控えてしまいます。

例えば、部下が「失礼だと思われるかもしれない」「批判的だと思われるかもしれない」と感じたり、上司との関係が悪くなるかもしれないと感じたりすると、上方影響力の行使を避ける可能性があります。

上方影響力と下方影響力の使い分け

ここまで、上司が部下に与える影響力(下方影響力)と、部下が上司に与える影響力(上方影響力)について、別々に議論してきました。しかし、実際の組織では、これらの影響力が複雑に絡み合っています。

特に、会社の戦略を決める際の関わり方という観点から、中間管理職の上方影響力と下方影響力の効果の違いに注目した研究があります。中間管理職を対象に、戦略に影響を与える力の程度と会社の業績の関係を調査しました[4]

戦略に影響を与える力の程度は、各中間管理職の自己評価に基づいて測定されました。一方、会社の業績は、投資利益率、売上高の伸び率、市場シェアなどの指標で評価されています。

分析の結果、中間管理職の上方影響力にバラつきがあるほど、会社の業績が高いことがわかりました。戦略を作る過程では、様々な上方影響力がある方が状況に合った意思決定につながっているのです。

一方、下方影響力については、中間管理職の間で一貫性が高いほど、会社の業績が高いことがわかりました。戦略を実行する過程では、情報共有や協力的な行動が会社全体で一貫している必要があるということです。

中間管理職がバラバラに部下に影響力を行使していては、せっかくの戦略も現場に浸透せず、実行も滞ってしまいます。戦略を実行する際には、中間管理職の足並みがそろっていることが重要です。

これらの知見から、戦略を作る段階と実行する段階に応じて、中間管理職の影響力の使い方を使い分ける必要性が見えてきます。

上方影響力の発揮に失敗した後

部下が上司に上方影響力を行使しようとしてうまくいかないこともあります。そうした場合、どのような行動を取るのでしょうか。

部下が影響力行使に失敗した後、同じ上司に再度影響力を行使するのか、それとも影響力行使をあきらめるのかが調査されています[5]。具体的には、影響力行使からの撤退、同じ上司への再度の影響力行使、上司以外への影響力行使の3つの行動に注目し、それぞれの行動の決め手を探っています。

調査の結果、部下は、影響力行使に失敗した後も、同じ上司に再度上方影響力を行使する傾向があることがわかりました。最初の試みが失敗に終わっても、簡単にはあきらめずに、再チャレンジするのです。

ただし、再チャレンジの決定は、単なる粘り強さではなく、むしろ合理的な判断に基づいていることが示唆されています。目標の重要性が高く、上司との関係の質が低い場合に、部下は再度の影響力行使に踏み切りやすいのです。

目標の重要性が高ければ、部下はその目標をあきらめきれません。会社にとって重要な目標の達成に向けて、部下は粘り強く上司に働きかけようとします。

また、上司との関係の質が低ければ、部下は上司との関係悪化をさほど恐れないはずです。上司からの信頼が元々低い状態では、もはや失うものはないと考えるのかもしれません。

一方、目標の重要性が低く、上司との関係の質が高く、仕事の経験が少なく、影響力行使のコストが高いと認識されている場合、部下は影響力行使をあきらめる傾向がありました。

重要でない目標にこだわる必要はありませんし、上司との良好な関係を壊してまで影響力を行使するのは得策ではありません。

仕事の経験の浅い部下は、影響力行使の技術や会社の理解が不足しているため、失敗を恐れて撤退しやすいと言えます。影響力行使のコストが高いと認識されていると、そのコストに見合う見返りが期待できなければ、部下は影響力行使をあきらめるでしょう。

興味深いことに、仕事の経験の少ない部下は、上司以外の人に影響力を行使しやすいことも示されました。上司以外への影響力行使が政治的にリスクの高い行為だという認識が不足している可能性があります。

多くの会社において社内で影響力を行使する際には、上司を介することが基本となるでしょう。上司を飛び越えて他の人に働きかけることは、会社の秩序を乱す行為とみなされる恐れがあります。

風土で上方影響力の種類が異なる

会社の雰囲気が部下の影響力の使い方の選択に与える影響について見ていきましょう。会社の雰囲気の性質(合理的か政治的か)が、部下の影響戦術(上方影響力の行使)を決めるかどうかを、実験的な方法で検証した研究が出されています[6]

実験参加者に合理的な会社の雰囲気と政治的な会社の雰囲気のシナリオを無作為に割り当て、上司に影響を与えるためにどのような影響戦術を使うかを尋ねました。

シナリオでは、管理者の有能さ、上司の支援、報酬の公正さ、規則の強制という4つの特徴が、すべて肯定的(合理的な雰囲気)またはすべて否定的(政治的な雰囲気)なものとして描かれました。

結果として、合理的なシナリオの回答者は、上司に正確な情報を伝えるなどの合理的な影響戦術を選ぶ傾向が強く、政治的なシナリオの回答者は、取り入ったり、脅したり、仕事を妨害したりするなどの政治的な影響戦術を選ぶ傾向が強いことがわかりました。

管理者が有能で、上司が支援的で、報酬が公正で、規則が合理的に運用されている会社では、部下は建設的な影響力の使い方を選びます。部下は、会社の利益につながる正当な方法で上司に働きかけようとします。

逆に、管理者が有能でなく、上司が支援的でなく、報酬が不公平で、規則が不合理な会社では、部下は操作的で不透明な影響力の使い方を選びやすくなります。会社の目標よりも私的な利益を優先し、時には非倫理的な方法すら辞さない可能性があるのです。

これらの結果は、部下の上方影響力が会社の雰囲気によって引き起こされるかもしれないことを示唆しています。

職場のマネジメントへの示唆

上方影響力に関する研究知見を見てきました。これらの知見から、職場のマネジメントに対して実践的なヒントが得られます。

第一に、マネージャーは自分自身の上方影響力の向上に努めるべきでしょう。上司とのコミュニケーションを密にし、良好な関係を築くことが、リーダーシップの効果を高めるために必要です。定期的に上司と直接話す機会を設けたり、上司の意向をくみ取って仕事に反映させたりすることで、上司からの信頼と支持を得ましょう。

第二に、部下の建設的な上方影響力を促進する組織の雰囲気を作ることが重要です。失敗を許容し、部下の提案を奨励する雰囲気を作り出したいところです。部下の提案に真剣に耳を傾け、採用された提案の功績を部下のものとすることが、部下の脅威の感じ方を和らげることにつながります。

第三に、戦略のプロセスに応じて、影響力の活用方法を使い分ける必要があります。戦略を作る段階では、多様な部下の意見を積極的に取り入れ、変化に適応的な意思決定を心がけましょう。一方、戦略を実行する段階では、一貫した影響力行使を進め、戦略の浸透とスムーズな実行を図ります。

第四に、部下の影響力行使の失敗を、学習のチャンスと捉えましょう。失敗を恐れずにチャレンジを奨励する組織文化を作り出します。失敗の原因を分析し、建設的なフィードバックを与え合うことで、部下の上方影響力をより良い方向に進められます。

第五に、組織の雰囲気と影響力行使の適合性を高めることの重要性を認識した方が良いでしょう。望ましい影響力行使を促進する組織の雰囲気作りに努めることが期待されます。透明性が高く、公正な評価と報酬が行われ、建設的な提案が奨励される組織の雰囲気は、部下の建設的な影響力行使を後押しするはずです。

脚注

[1] Pelz, D. C. (1952). Influence: A key to effective leadership in the first-line supervisor. Personnel, 29, 209-217.

[2] Anderson, L. R., Tolson, J., Fields, M. W., & Thacker, J. W. (1990). Extension of the Pelz Effect: The impact of leader’s upward influence on group members’ control within the organization. Basic and Applied Social Psychology, 11(1), 19-32.

[3] Waldron, V. R., and Sanderson, J. (2011). The role of subjective threat in upward influence situations. Communication Quarterly, 59(2), 239-254.

[4] Floyd, S. W., and Wooldridge, B. (1997). Middle management’s strategic influence and organizational performance. Journal of Management studies, 34(3), 465-485.

[5] Maslyn, J. M., Farmer, S. M., and Fedor, D. B. (1996). Failed upward influence attempts: Predicting the nature of subordinate persistence in pursuit of organizational goals. Group & Organization Management, 21(4), 461-480.

[6] Cheng, J. L. (1983). Organizational context and upward influence: An experimental study of the use of power tactics. Group & Organization Studies, 8(3), 337-355.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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