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コラム

テレワーカーの評価に対する納得感:伊達・能渡(2021)に基づいて

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2020年に始まった新型コロナウイルス感染症の世界的な流行は、働き方に大きな変化をもたらしました。多くの組織で、テレワークが導入されるようになったのです。

テレワークの普及は、働く人々にプラスの影響を与えた一方で、新たな課題も生み出しました。例えば、上司と部下のコミュニケーションのあり方や、人事評価の方法などです。

特に、テレワークでは部下の様子が見えにくくなるため、「自分の成果が正当に評価されるだろうか」と不安を感じる人が少なくありません。評価への納得感をいかに高めるかは、テレワーク時代の重要な人事課題です。

そのような問題意識のもと、私(伊達洋駆)は当社チーフフェローの能渡真澄と共著で論文を執筆しました[1]。本コラムでは、論文の内容を紹介しながら、テレワークでの評価をめぐる現状と、上司に求められるマネジメントのあり方について考察します。

テレワーク下の評価をめぐる現状

新型コロナウイルス感染症が世界中で広がり始め、多くの組織がテレワークを取り入れるようになりました。今までは会社に行くのが当たり前だと思っていた働き方が、がらりと変わってしまいました。

テレワークが広がったことで、働いている人たちの生活には大きな変化が起きました。毎日会社に通う大変さからは解放されました。仕事と家庭の両立がしやすくなったと感じる人もいます。

一方で、上司や同僚とうまく連絡が取れなくて困っているという声も聞こえてきます。家でコツコツと仕事をしていると、孤独感や疎外感を覚える人もいるようです。

働き方が変わったことは、人事評価の方法にも影響を与えています。オフィスで働いていれば、上司は部下の仕事ぶりをすぐ近くで見ることができました。必要なときには声をかけることもできました。

しかし、テレワークになると、部下の様子が分かりにくくなります。少なくとも、そのように感じられるものです。「今の自分の成果が正しく評価してもらえるだろうか」と不安に思う部下も多いのです。

テレワークへの反応や評価への納得の度合いは、人によって違います。環境の変化に適応している人がいる半面、戸惑いを隠せない人もいます。評価への納得感についても、受け止め方は人それぞれです。

こうした状況を踏まえて、私と能渡は、次のようなことを疑問に思いました。テレワークという新しい働き方の中で、部下が評価に納得するためには何が必要なのだろうか。上司は部下の納得感を高めるために、どのようなコミュニケーションを取ればよいのだろうか。

コロナ禍は予想外の出来事でしたが、コロナ後の時代も、テレワークとオフィスワークを組み合わせたハイブリッドな働き方が続く可能性があります。テレワークにおける評価のあり方について再考し、マネジメントの方針を立てることが求められます。

テレワークにおける人事評価への納得感

オンラインの実態調査を実施

テレワークにおける人事評価に対する納得感は、どのようなことに影響されるのでしょうか。論文では、この疑問に答えるために、調査を行いました。

調査は、正社員として働く日本人472名(男性304名、女性168名、平均年齢43.31歳)を対象に、202110月にウェブアンケートで行われました。回答者の約3分の1に当たる153名がテレワーカーで、残りの319名が非テレワーカーでした。

アンケートでは、テレワークの頻度や、その環境で感じる仕事の柔軟性、メンバーの物理的な距離、コミュニケーションツールの種類と頻度など、テレワークの特徴を捉える質問を用意しました。

さらに、上司とのコミュニケーションの量や質、情報共有の頻度とその重要性の認識、部下の感じる仕事や人間関係への不安、人事評価への納得感なども聞いています。テレワークの実態を様々な角度から把握する内容になっています。

上司とのコミュニケーションの質が重要

回答データをもとに、私たちは統計分析を行いました。人事評価への納得感とそれに関係する要因を結ぶモデルを描き、テレワーカーと非テレワーカーの間で違いがあるかを探りました。

分析の結果、人事評価への納得感と強い関連があったのは、上司とのコミュニケーションに関する項目でした。具体的には、部下の納得感に影響を与える要因として、上司とのコミュニケーションの「質」の高さが挙げられました。情報のやりとりが明確で、的確に行われていると感じているほど、部下は評価に納得しやすい傾向が見られました。

上司とのコミュニケーションの「量」の多さよりも、「質」の高さの方が評価への納得感につながっていたのです。このことから、上司と部下は単に頻繁にやりとりをすればよいわけではなく、一回一回の対話の中身を充実させることが大切だと言えます。

面白いのは、テレワーカーと非テレワーカーで傾向が違っていた点です。テレワーカーの方が人事評価への納得感が高いことが分かりました。

一見、直観に反する結果です。これはおそらく、テレワークへの切り替えが、自分の働き方を根本から見直すきっかけになったことが関連しているのかもしれません。いつものオフィスワークでは意識しなかった仕事の進め方や成果物の管理方法、評価の視点などについて、改めて上司とすり合わせる必要に迫られたはずです。

また、テレワーカーの方が非テレワーカーよりも、仕事の柔軟性を感じており、上司とのコミュニケーションの量や質、仕事への積極性も高い傾向が見られました。「細かい指示は受けられないかもしれないが、その分、自律的な働き方ができる」といった認識が、テレワーカーの納得感を後押ししている可能性もあります。

人間関係に関する情報不足が納得感を下げる

一方で、人事評価への納得感を下げる要因として浮かび上がったのが、「関係不確実性」です。上司や同僚から自分がどう見られているのか分からない状態が続くと、評価に納得感を覚えにくいようです。

特にテレワーカーでは、孤独感の高まりや会社での何気ない会話の減少が、「今の働きぶりを評価してもらえているのだろうか」といった不安を大きくしているのかもしれません。評価をする上司の顔が見えないことで、不公平感を覚える部下もいると考えられます。

テレワークの広がり具合という観点でも、納得感に影響する要因に違いが見られました。テレワークが当たり前になったチームでは、コミュニケーションの「量」以上に、「質」が問われます。特に、仕事の進め方や評価基準に関する具体的な情報共有、いわゆる「仕事中心のコミュニケーション」が重視されるのです。

メンバーが物理的に離れている以上、進捗管理の目的が明確で、やりとりが的確に行われる必要があります。漠然とした指示を好む上司のもとでは、テレワークによって部下の不安が高まりやすいと言えます。

テレワークにおけるコミュニケーションでは、ツールの使い方のうまさも問われます。テレワークでは、チャットやオンライン会議などを積極的に活用することが、上司と部下の情報共有をスムーズにしていました。

一方、オフィスワークでは、テクノロジーに頼り過ぎると逆効果になります。仕事の性質や必要なコミュニケーションの質を踏まえた、ツールの使い分けが求められます。

以上のように、人事評価への納得感を高める共通の鍵は「上司とのコミュニケーションの質」でありながら、テレワークか非テレワークかによって効果的なマネジメントのあり方が異なることが分かります。

テレワークでのコミュニケーションのポイント

仕事の中身に踏み込んだ対話が大切

上司は部下の人事評価への納得感を高めるために、どのようなコミュニケーションを心がければよいのでしょうか。

調査では、部下の不安を解消し、納得感を高めるのに効果的なのは、雑談など関係性を重視したやりとりよりも、仕事の「中身」に踏み込んだ対話だということが分かりました。仕事の進み具合や成果、評価の基準などについて、具体的に意見を交わすことが求められているのです。

これまでのオフィスワークでは、仕事の合間の立ち話など、自然な形で交流が生まれる機会があったのかもしれません。それが、お互いの理解を深めるのに役立っていた部分も大きいでしょう。あるいは、オフィスワークはそのように感じやすいという言い方もできます。

いずれにせよ、テレワークではお互いが「見えない」(と感じる)からこそ、「見える化」が重要になります。コミュニケーション不足が生む問題を避けるには、仕事の手順や成果物、評価の基準に関する情報共有を、意識的に増やさなくてはなりません。

例えば、この仕事はどういう目的で、どんな手順で進めればよいか。求められる成果物の質はどの程度か。上司が重視しているのは、スピードか、それとも正確性か。こうした点について、都度共有を行います。

オンラインでのコミュニケーションでは、ウェブ会議などを活用し、資料を画面共有しながら、ポイントを視覚的に説明することもできます。部下の理解度(そして、理解できた感覚)が高まるでしょう。

部下からすれば、仕事に関する情報を得られるようにすることが、納得感を高める近道です。テレワークでは、仕事の進捗管理の透明性が問われています。

仕事以外の話題も適度に交える

とはいうものの、上司とのコミュニケーションが「仕事の話」一色になるのも考えものです。適度に雑談を交えることで、部下との心理的な距離を縮める努力も必要でしょう。

時には仕事と関係のない話題で盛り上がる。ある種の「余白」が信頼関係の土台を作ることでしょう。ただし、加減が大事で、度が過ぎれば「仕事の邪魔」になりかねません。

調査を通して見えてきたのは、テレワークと非テレワークでは、求められるコミュニケーションのスタイルには異なる点があることです。

テレワークでは、ITツールを使った密なやり取りが功を奏します。リアルタイムでのチャットやウェブ会議に加え、クラウドでのファイル共有など、同期・非同期のコミュニケーション手段を重ねることが有効です。手間を惜しまず報告・連絡・相談を徹底し、認識のズレを抑える工夫が欠かせません。

一方、非テレワークにおいては、対面での対話を軸に、補助的にオンラインツールを活用するのがよいでしょう。例えば、膝を突き合わせて話すことで、テレワークでは得にくい一体感を作り出すことができます。

テレワーカーと非テレワーカーの両方を部下として抱える上司は、高度なコミュニケーション力が問われています。メンバーの働き方や仕事の特性を見極め、臨機応変に対話のあり方を変えていく柔軟性が重要になります。

脚注

[1] 伊達洋駆・能渡真澄(2021)「テレワーク下で評価への納得感はどのように形成されるか」『日本労働研究雑誌』第6312号、63-75頁。


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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