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コラム

困難を乗り越えるチームの秘訣:チームレジリエンスとは何か

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予測が難しく変化の激しい時代においては、チームの力が試されます。そのような中、チームレジリエンスに関心が集まっています。チームレジリエンスとは、チームが逆境や困難な状況に直面した際に、その機能を維持または向上させる能力を指します。

チームレジリエンスは、もともとスポーツ科学の分野で注目されてきましたが、近年では心理学や経営学など、様々な領域に広がりを見せています。先行きの不透明さが増すほど、チームレジリエンスの重要性は高まるといえます。

一方で、チームレジリエンスをどのように高めていけば良いのかについては、まだ手探りの状態にあります。効果的な手法の確立が急がれる分野だと言えるでしょう。

本コラムでは、チームレジリエンスに関する最新の研究をいくつか紹介しながら、このテーマについて多角的に考えていきます。チームレジリエンスの重要性や、それを高めるための手がかりについて解説します。チームづくりの参考になれば幸いです。

チームレジリエンスに注目が集まる

文献を数や内容から分析する手法を用いて、チームレジリエンスに関する研究の動向を幅広く調べた論文があります[1]。その論文によると、チームレジリエンス研究は、心理学、経済学、社会科学、スポーツ科学など様々な分野で行われており、特に2020年の論文の数が最も多かったことが明らかになりました。

なお、最も引用されているのは、トップレベルのスポーツチームを対象に、チームレジリエンスの概念を体系的に定義づけた研究です[2]。この研究では、スポーツの枠を超えて、様々なチームに応用できる洞察が提供されており、その点が高く評価されています。

チームレジリエンスの研究は、まだ発展途上の段階でありながらも、様々な領域に広がりを見せています。今後も、このテーマに関する研究は増加していくことが予想されます。組織のパフォーマンス向上やメンバーのウェルビーイング向上の観点からも、重要な分野になっていくのではないでしょうか。

不安定な場合に重要性が増す

チームレジリエンスは、どのような場合に特に重要になるのでしょうか。この点について興味深い知見を提供している研究があります[3]

この研究は、情報システムのプロジェクトに着目し、新型コロナウイルス感染症の影響下にあった2020年を「不安定な環境」、それ以前の2019年を「安定した環境」と位置づけています。そして、それぞれの環境下で、チームレジリエンスがプロジェクトの成功にどのような影響を与えるかを比較しています。

ポルトガル企業における情報システムのプロジェクトチームを対象に、アンケート調査を実施したところ、チームレジリエンスとプロジェクトの成功の間には正の相関が見られ、その関連性は不安定な環境下でより強くなることが明らかになりました。不確実性が高まるほど、チームレジリエンスがプロジェクトの成否を左右する要因になるということです。

安定した環境では、計画通りに物事が進む可能性が相対的に高く、多少の障害があってもプロジェクト全体への影響は限定的です。一方、先の読めない不安定な状況では、想定外の問題にどう対処するかが勝負どころとなります。その局面での対応を誤れば、プロジェクトの失敗につながりかねません。その後の巻き返しも難しくなるでしょう。

この研究の知見は、情報システムのプロジェクトという枠組みを超えて、様々な分野に応用できる示唆に富んでいます。先の見通せない時代を生き抜くためには、チームレジリエンスという「武器」を磨き上げる必要があります。

予想外の事態をいち早く察知し、臨機応変に対処法を編み出す。しなやかな強さを備えたチームを育成することが、ますます重要になってくるはずです。

チームの関係性の質が鍵を握る

続いて、アジア太平洋地域のヨットレースに参加するチームを対象に、レース中のチームの様子を細かく分析した研究を紹介しましょう[4]。この研究は、チームレジリエンスの要因について、ヒントを与えてくれます。

研究では、レースを5つの段階に分けて、それぞれの段階でチームが直面した問題とパフォーマンスの関係が詳しく調べられています。各段階におけるメンバーの心理状態や人間関係の変化についても丹念な聞き取りが行われました。

分析の結果、チームメンバー同士の関係性の質が、どの段階においても重要な役割を果たしていることが明らかになりました。チームが順調に進んでいるときはもちろん、予想外の問題が起きて緊張が走る場面でも、お互いを信頼し合える関係があれば、前を向いて進み続けることができるのです。人間関係の強さが、チームレジリエンスを支える基盤になっていました。

さらに興味深いのは、「感情の共有」と「率直なコミュニケーション」が、レース中のどの場面でも効果を発揮していた点です。喜びも悔しさも、メンバー同士で言葉にして伝え合う。そのような細やかなやりとりの積み重ねが、困難を乗り越える原動力になっていました。

優れたチームをつくるには、能力の高い人材を集めるだけでは足りません。成果を重視するあまり、メンバーの気持ちを無視していないか。効率を優先するあまり、話し合う機会を奪っていないか。日頃のチームづくりを見直すきっかけにもなる研究です。

チームが分断されていると問題

チームの中に亀裂が生じると、困難な状況に立ち向かう力は損なわれます。そのリスクについて警鐘を鳴らす研究があります[5]

この研究は、中国のさまざまな業界の5つのチームを対象に、情報の分断がチームレジリエンスに与える影響を調べたものです。ここでいう情報の分断とは、メンバー間の情報の偏りによって起こる、チーム内の小グループ化を意味します。

知識や経験が異なる人同士では、価値観や問題意識にズレが生じやすくなります。そのズレが埋まらないまま放置されると、意思疎通はうまくいかず、連帯感は損なわれていきます。お互いの強みを認め合えなくなり、建設的な議論ができなくなるのです。そうした分断が進行すると、チームはバラバラになり、困難への対応力を失ってしまいます。

5つの組織に所属する62のチームを対象に調査を実施したところ、実際に、情報の分断とチームレジリエンスの間には統計的に有意な負の関連が認められ、予想通りの悪影響が裏付けられました。

ただし、分析ではもう一つ、興味深い発見がありました。上司と部下の良好な関係や、同僚同士の活発なやりとりがあれば、情報の分断がもたらす悪影響は和らげられるというのです。コミュニケーションがスムーズで、チームの一体感が保たれていれば、考え方の違いを乗り越えられる可能性が示唆されたと言えます。

声を上げられる風土が強化の要因に

チームレジリエンスを高めるためには、メンバーが自由に意見を言える雰囲気づくりが大切だと指摘されています。理論と実証の両面から、この点を検討した研究を見てみましょう[6]

研究では、資源保存理論に基づいて仮説が立てられています。自由に意見を言える雰囲気があると、様々な意見が出てきて、問題解決に役立つアイデアがチームに蓄積されます。また、チームで情報を詳しく共有することで、チームレジリエンスが促進されると考えられます。

米国の公的機関に所属する研究開発チームのデータを用いて、仮説の検証が行われました。その結果、仮説は支持されることが確認されました。

自由に意見を言い合える雰囲気があれば、メンバーは失敗を恐れずに新しいことにチャレンジできます。失敗を責めるのではなく、そこから学べることを皆で話し合うようなオープンな雰囲気があれば、困難にも負けずに立ち向かえるようになります。失敗から得た教訓をチームで共有し、次の挑戦に活かしていくことも可能になるでしょう。

この研究で注目すべきは、自由に意見を言い合える環境が、メンバーの能力開発にも良い影響を与えていた点です。自分の意見が尊重されていると感じれば、新しい力を身につけようという意欲が高まるのです。

チームレジリエンスの高め方

チームレジリエンスを高めるには、どのような取り組みが有効なのでしょうか。ここまで紹介した研究知見をもとに、具体的な方策を考えてみましょう。大きく3つの対策が考えられます。

  • 1つ目は、メンバー間の関係性の質を向上させることです。そのために、週に1回程度、30分程度の時間でも構いませんので、メンバーがリラックスして交流できる場を設けることが有効です。お弁当を持ち寄って雑談をするような時間を作るのも一案です。
  • 2つ目は、メンバー間の活発な情報交換を促進することです。例えば、毎日15分程度の全体ミーティングを行い、各メンバーの業務進捗や課題を共有するのも良いかもしれません。また、チャットツールなどを活用し、メンバーが気軽にコミュニケーションを取れる環境を整備することも大切です。
  • 3つ目に、意見を言い合える雰囲気づくりも求められます。ここではリーダーの役割が大きいと言えます。リーダー自身が率先して自らの失敗を開示し、そこから学ぶ姿勢を見せることが効果的でしょう。リスクを取って意見を述べることは勇気のいることですが、リーダーの行動を見ることで、メンバーもリスクを取りやすくなるはずです。

個人を追い込まないように注意

本コラムでは、チームレジリエンスを高める取り組みの重要性を前提に、様々な知見を紹介してきました。その前提自体に誤りはないとは思いますが、注意すべき点もあります。

それは、チームレジリエンスと個人のレジリエンスが必ずしも同じではないという点です。チームとしては困難を乗り越えられたとしても、そのプロセスで個人が疲弊してしまうケースがあり得るのです。

チームレジリエンスを発揮するプロセスにおいて、メンバーを追い詰めてしまっては本末転倒だと言えます。過度なストレスは、バーンアウトやメンタルヘルスの問題を引き起こしかねません。チームレジリエンスを追求する際には、メンバーのウェルビーイングとのバランスを図ることが不可欠です。

困難を乗り越えることが美徳とされ、個人的な苦労を口にすることがはばかられるような雰囲気になると、メンバーの不調に気づきにくくなります。チームレジリエンスを高めることと同時に、メンバーの心身の健康状態に気を配り、過度な負荷をかけすぎないように留意することが求められます。

脚注

[1] Gercek, M., and Yilmaz, D. (2022). A bibliometric analysis of team resilience research. Akademik Arastirmalar ve Calismalar Dergisi (AKAD), 14(26), 228-240.

[2] Morgan, P. B. C., Fletcher, D., and Sarkar, M. (2013). Understanding team resilience in the world’s best athletes: A case study of a rugby union World Cup winning team. Psychology of Sport and Exercise, 14(4), 549-559.

[3] Varajao, J., Fernandes, G., and Amaral, A. (2023). Linking information systems team resilience to project management success. Project Leadership and Society, 4, 100094.

[4] King, E., Branicki, L., Norbury, K., and Badham, R. (2024). Navigating team resilience: A video observation of an elite yacht racing crew. Applied Psychology, 73(1), 240-266.

[5] Han, Y., Tang, B., Li, X. M., Yang, G. S. R., and Yang, L. (2023). Research on the relationship between informational team faultline and team resilience: Team leader member exchange and team member exchange as mechanism. Journal of Multidisciplinary Healthcare, 16, 3585-3597.

[6] Brykman, K. M., and King, D. D. (2021). A resource model of team resilience capacity and learning. Group & Organization Management, 46(4), 737-772.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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