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コラム

越境学習の壁を乗り越える:社会心理学的アプローチ

コラム

越境学習では、ホームとアウェイを往還する中で、当たり前だと思っていたことへの疑問を呈し、組織変革や事業開発につなげることが可能です。しかし、実際にはアウェイに行こうとしない人がいたり、アウェイで学んだことをホームで活かそうとすると反発にあったりと、2つの難所があります。

本コラムでは、内集団と外集団に関する研究を参照し、いくらかの思考実験を行って、実践的なヒントを得ることを狙います。アウェイに行く人が増え、ホームでその学びをうまく活かせるようになることで、越境学習の促進に役立てば幸いです。

周囲の態度がアウェイに行く鍵に

内集団とは自分が属していると感じるグループ、外集団とは自分が属していないと感じるグループのことです。私たちは皆、国籍、人種、宗教、職業、趣味など、様々な内集団と外集団を持っています。時には、もっと偶然の共通点でも内集団や外集団ができあがることがあります。

ある研究では、外集団に対する態度の形成について、外集団の友人の数(接触効果)と、内集団の友人の態度(社会化効果)の影響を調べました[1]

民族的に多様な2つの学校の1,170人に対し、友人関係と民族に対する態度を尋ねるアンケートを、1年間に5回行いました。これによって、接触効果と社会化効果を分けて検討することができました。

その結果、外集団の友人の数は外集団への態度に影響しませんでしたが、内集団の友人の態度が本人の態度に影響を与えていることがわかりました。つまり、外集団への態度は、外集団との接触よりも、内集団内での態度の社会化によって形成されるということが明らかになったのです。

この研究をもとに考察を進めると、まず、アウェイに行くためには、アウェイの知り合いを増やすよりも、ホームの人々のアウェイへの態度が重要だと分かります。自分の身近な人がアウェイに肯定的であれば、自然とアウェイに行く行動が広がるかもしれません。

裏を返せば、ホームの中でもアウェイに肯定的な態度を持つ人と積極的につながるようになれば、アウェイに行くことへの心理的なハードルが下がる可能性があります。アウェイに行くことに前向きな社内の輪を広げていくことが、アウェイへの理解を深めるきっかけになるでしょう。

周囲の影響はやはり強い

続いて、「拡大接触仮説」に関する過去20年間の研究成果をメタ分析した論文を手がかりに、アウェイとの関係を考えてみましょう[2]

拡大接触仮説とは、あるグループに属する人(内集団)が、別のグループ(外集団)の人と友人関係にあることを知るだけで、その外集団に対する態度が良くなるという考え方です。

必ずしも自分自身が直接外集団の人と友達になる必要はなく、内集団の誰かに外集団の友達がいることを知るだけでも、外集団への偏見が減ったり好意的な態度が増えたりするのです。

この論文では、20年間に発表された拡大接触仮説に関する115件の論文、248のデータを分析しています。そうしたところ、拡大接触と外集団への態度の関連性はそこそこ強く、直接接触の影響を除いても、拡大接触だけで態度改善の効果があることがわかりました。

また、拡大接触の効果は、実際の接触よりも「感じた」接触、つまり主観的に感じた接触の方が強いことも見えてきました。これは興味深い発見です。

拡大接触は、外集団に対する不安を減らしたり、「外集団も自分たちのことを良く思っている」という認識を高めたりすることで、偏見の減少につながっていると考えられます。

この知見を越境学習の文脈に応用すると、自社の社員がアウェイに行っている事例を数多く目にすることが、アウェイに対する社員の態度を好転させる上で重要だと言えます。

たとえ自分自身はアウェイに行ったことがなくても、同僚がアウェイの人々と関わり、活躍している様子を知ることで、アウェイへの漠然とした不安が和らぎ、より開かれた見方ができるようになります。

そのためには、越境学習に取り組む社員の体験を社内に広く共有する工夫が求められます。座談会や報告会、社内報など、様々なチャネルを活用して、アウェイでの出来事を臨場感たっぷりに伝えていきましょう。

アウェイへの偏見を否定する

アウェイに対する偏見を是正することは、アウェイに行くことを増やすでしょう。そのことに含意をもたらす研究を紹介します[3]

研究では、否定を使ったコミュニケーションが、外集団に対する態度を変える効果的な方法かどうかを調べました。否定を使ったコミュニケーションとは、例えば、「その人たちは嘘つきではない」というようなものです。

否定を含む外集団に関するメッセージは、そのメッセージによって最初の外集団に対する態度が強く矛盾させられる人ほど、外集団に対する態度をより変化させるのではないかと予想されました。

少しわかりにくいかもしれませんが、例えば、ある外集団を嘘つきだと思っている人に、「その人たちは嘘つきではない」と伝えると、もともと持っていた考えを変えるのではないかということです。

なぜなら、否定を含むメッセージは物事を柔軟に考える力を高め、この力が高ければ、最初は外集団に対して否定的な態度を持っていた人ほど、外集団に対する態度が良くなる可能性があるからです。ここで言う物事を柔軟に考える力とは、様々な観点から物事を考えることを意味します。

分析の結果はどうだったのでしょう。否定を含むメッセージは、それが最初の態度と反対の内容である場合、外集団に対する態度をより大きく変化させ、この効果は物事を柔軟に考える力の高まりによって引き起こされていることがわかりました。つまり、予想通りの結果が得られたのです。

この知見は、アウェイに対する社内の偏見を解きほぐしていく上で重要な示唆を与えてくれます。社員がアウェイに抱きがちな先入観を取り上げ、それを否定していくことで、アウェイへの見方を柔軟化し、より肯定的な態度へと変容を促せる可能性があります。

これまでアウェイに行った社員に、当初抱いていたアウェイのイメージと、実際に行ってみて感じたこととの違いを語ってもらうのが効果的でしょう。例えば、「アウェイの人たちは閉鎖的だと思っていたが、実際は私の話に真摯に耳を傾けてくれた。アウェイは閉鎖的ではない」といった具合に、偏見を否定するメッセージを発信していきます。

こうしたメッセージに触れることで、アウェイに懐疑的だった社員の考えが揺さぶられ、より開かれた見方へと導かれていきます。偏見に反する情報に接することで、「アウェイにはこんな面もあるのか」と気づかされ、多面的な理解へと近づいていけます。

ただし、偏見を否定するメッセージを発信する際には、否定される側の心情にも配慮する必要があります。頭ごなしに「あなたの考えは間違っている」と決めつけるのは逆効果です。

偏見を持つことは自然な心の作用であることを認めた上で、新たな視点を提案するようなトーンが求められます。聞き手の尊厳を尊重しましょう。

仲間でもそうでなくても異論には抵抗

ここまでアウェイに行くことを増やすための含意を引き出してきましたが、ここからは、ホームで学びを活かす際にヒントとなる知見に注目しましょう。

米国の政治的な状況の中で、内集団と外集団からの意見の対立に対する人々の反応を調べた研究を見ると、人がいかに異なる意見に抵抗しやすいかがわかります[4]

米国政治においては、民主党と共和党の対立があり、各党内の小グループ間でも緊張が高まっているとされています。このような状況の中で、内集団のメンバーが内集団および外集団からの意見の対立をどのように受け取るかを理解した研究です。

これまでの研究では、内集団の逸脱者に対する否定的な反応として「黒い羊効果」が示されている一方で、内集団からの批判に対する肯定的な反応として「集団間感受性効果」が示されています。

研究の結果、黒い羊効果と集団間感受性効果の両方が見られました。参加者は、内集団のメンバーが外集団を批判するよりも、内集団のメンバーが内集団を批判する方がより否定的に反応しました。また、参加者は、内集団のメンバーよりも外集団のメンバーが内集団を批判することに否定的に反応しました。

批判の種類も検討されています。興味深いことに、建設的な批判と侮辱的な批判のどちらにおいても同じような傾向が見られました。ここで紹介した効果は批判の性質に関係なく起こるということです。

この研究から、越境学習に対する示唆として、まず、アウェイで学んだことをホームで活かそうとする際、社内から反発を受けるのは自然なことだと理解できる点があります。

黒い羊効果により、たとえ建設的な提案であっても、社内の常識に疑問を呈することは「逸脱者」とみなされ、否定的な反応を招きやすいのです。また、集団間感受性効果を裏返せば、アウェイの慣習や価値観をあまり褒めちぎるのも有効ではないでしょう。

共通点を探って協力を増やす

ホームで学びを活かすのが難しいことは分かりました。しかし、その上でどうすれば良いのでしょうか。一つの視点を提供してくれる研究があります。

人々が複数の社会的な集団に属していることに注目し、共通の集団に属している数が協力的な行動に与える影響を調べた研究です[5]

人は複数の社会的アイデンティティを持ち、ある集団では一致し、他の集団では乖離しています。この研究では、協力行動における集団共有の効果が加法的であるかどうかを検証しました。

共通の集団に属している数が多いほど、協力が増えるという予想を立てました。自分と同じ集団、混ざった集団、自分とは違う集団のメンバーとペアになり、社会的ジレンマ・ゲームを行ったところ、この予想を支持する結果が得られました。

この効果は、実験で作られた集団にも元から存在した集団にも当てはまり、ある程度は安定した現象であると考えられます。社会的な集団を共有するメンバーに対して、人はより協力する可能性があります。

研究知見を応用的に解釈すると、アウェイで得た学びを社内で活かす際は、相手との共通点を見出すことが大事になりそうです。

例えば、「上司は数字ばかり気にして、部下の苦労を分かっていない」と相違点に目を向けるのではなく、「お客様第一という思いは会社全体で共有しており、上司と私は同じ会社の仲間だ」と意識する/してもらうことが、拒絶反応を和らげるのに役立つかもしれません。

変革のために爪を隠す

ホームでの学びを活かす際に発生する抵抗への対処を別の角度から考えてみましょう。支配的な集団が社会の変化に直面したときに何を脅威と感じ、受け入れがたい態度をとるのかについて検討した研究が参考になります[6]

象徴的脅威理論では、集団間の価値観やルールの違いそのものが脅威や否定的な態度を引き起こすとされてきました。しかし、この研究では、そうした違いが将来的に大きくなるか小さくなるかの予想、つまり、外集団同化期待こそが、脅威を感じるかどうかを決める重要な要因だと主張しています。

特に支配的な集団にとって、支配的ではない外集団が自分たちのルールに同化するかどうかは、上位の分類における自らの代表性を維持することに関わる重大な問題です。外集団の同化が見込めないとき、代表性を失うことへの脅威を感じ、受け入れがたくなりやすいのです。

2つの実験を通じて、支配的な集団の人々は、外集団の同化への期待が低いほど、自集団の代表性への脅威と捉え、外集団との接触や多様性の許容に否定的になることが示されました。一方、同化への期待が高い場合、この脅威は和らぎました。

この知見は象徴的脅威理論を広げるものです。単に違いを見つけるだけでは不十分であり、違いの変化の予想こそが重要なのです。

この研究が示す内容をもとにすれば、越境学習でホームに戻った後、学びを活かそうとすると、「私たちのやり方を否定するのか」という既得権益層の危機感に細心の注意を払う必要があると言えます。

アウェイで得た知見を全面に押し出せば、「社風が変わってしまう」「我々の居場所がなくなる」といった不安を刺激しかねません。変革の爪は隠しながら、水面下で少しずつ変化を起こすべく働きかけることが求められるでしょう。

良し悪しの論理にはしない

ホームで学びを活かす際に、周囲にそのことをどう伝えると良いのでしょうか。そのことを考える上で役立つ研究を見てみましょう。

道徳性がグループのまとまりを支える社会的なつなぎ役として機能するという考えにもとづいて、人々が内集団のルール違反者を外集団のルール違反者よりも厳しく判断する状況とその理由を探った研究です[7]

研究によれば、人々は、外集団のメンバーに比べ、内集団のメンバーが他の内集団のメンバーに対して問題を起こした場合、より厳しく判断する傾向があります。

この差は、内集団の社会的なまとまりへの心配によって生じており、道徳的なルール違反の場合、特に人に対する被害の大きいルール違反で顕著に表れます。

道徳は内集団のメンバーを結びつける社会的なつなぎ役として機能し、内集団の道徳的なルール違反者に対する厳しい判断は、内集団の社会的なまとまりを守ろうとする動機によって引き起こされています。

この知見を参考にすると、アウェイで得た学びを社内に持ち込む際は、安易に「これが正しい」「これは間違っている」と述べるのは得策ではないと言えます。良し悪しの文脈にしないということです。

むしろ、例えば、「経済合理性の観点から見ると、このアプローチも検討に値する」といった形で、道徳とは別の論理を据えるのが賢明でしょう。効率性や競争優位性などの切り口から提案を行うことで、社会的結束への脅威を最小化し、感情的な反発を少しでも回避することを狙うと良いでしょう。

脚注

[1] Bracegirdle, C., Reimer, N. K., van Zalk, M., Hewstone, M., and Wolfer, R. (2022). Disentangling contact and socialization effects on outgroup attitudes in diverse friendship networks. Journal of Personality and Social Psychology, 122(1), 1-15.

[2] Zhou, S., Page-Gould, E., Aron, A., Moyer, A., and Hewstone, M. (2019). The extended contact hypothesis: A meta-analysis on 20 years of research. Personality and Social Psychology Review, 23(2), 132-160.

[3] Winter, K., Scholl, A., and Sassenberg, K. (2021). A matter of flexibility: Changing outgroup attitudes through messages with negations. Journal of Personality and Social Psychology, 120(4), 956-976.

[4] Reiman, A. K., and Killoran, T. C. (2023). When group members dissent: A direct comparison of the black sheep and intergroup sensitivity effects. Journal of Experimental Social Psychology, 104, 104408.

[5] Ugurlar, P., Dorrough, A. R., Isler, O., & Yilmaz, O. (2023). Shared group memberships mitigate intergroup bias in cooperation. Social Psychological and Personality Science.

[6] Danbold, F., and Huo, Y. J. (2022). Welcome to be like us: Expectations of outgroup assimilation shape dominant group resistance to diversity. Personality and Social Psychology Bulletin, 48(2), 268-282.

[7] Tang, S., Shepherd, S., and Kay, A. C. (2023). Morality’s role in the Black Sheep Effect: When and why ingroup members are judged more harshly than outgroup members for the same transgression. European Journal of Social Psychology, 53(7), 1605-1622.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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