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コラム

静かな退職 Quiet Quitting:その実態と対策(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、20243月にセミナー「静かな退職 Quiet Quitting:その実態と対策」を開催しました。

「静かな退職」という言葉を聞いたことはありますか。コロナ禍以降、静かな退職は世界的に話題を呼びました。

静かな退職は、実際に退職することではありません。仕事に対して最小限の努力しかしない社員を取り上げた言葉です。

この静かな退職について解説するセミナーを行います。特にお話したのは、次の点です。

  • 静かな退職とは何か?
  • 関連する研究知見はあるか?
  • 静かな退職はなぜ起きるか?
  • 静かな退職を防ぐには?
  • 社員の貢献をより高めるには?

講師はビジネスリサーチラボ代表の伊達洋駆が務めました。確かなエビデンスをもとに最新動向の理解を深めませんか。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

静かな退職の意味するところ

まずは、「静かな退職」について掘り下げていきましょう。この概念は近年、特に注目を集めているテーマの一つです。静かな退職とは、一体何を意味するのでしょうか。

皆さんは、静かな退職という言葉をいつ初めて耳にしましたか。私自身で言えば、新型コロナウイルス感染症が世界中に流行した後に、この言葉を知りました。皆さんは、それ以前から、この言葉に馴染みがありましたか。

静かな退職の中には、「退職」という語が入っていますが、実際に会社を去るわけではありません。自分の仕事に対するコミットメントを制限したり、意欲を抑えたりすることを指します。退職はしないものの、仕事に全力を尽くさない状態です。

静かな退職は、与えられた仕事をこなしつつも、それ以上の責任や役割を避けるという意味合いで用いられます。必要最低限の仕事は遂行しますが、追加の努力や時間を割くことはありません。皆さんの職場にも、このような状態にある人はいるでしょうか。

静かな退職には、大きく3つの側面があります。

  • 1つ目は「離脱」で、これは仕事からの意識的な撤退を意味します。例えば、仕事を避けるような行動をとったり、極力休憩を多く取ったりすることです。
  • 2つ目は「主体性の欠如」で、新たな仕事の増加を嫌がる傾向や、自らの意見を述べることを避ける状態を指します。
  • 3つ目に「意欲の欠如」があり、これは仕事へのやりがいを感じられない、モチベーションの低下を意味します。

静かな退職という概念は、2000年代後半に登場しましたが、特に新型コロナウイルス感染症の流行以降、世界的な注目を集めるようになりました。この状況は、特に若手世代が、自分の時間や私生活を大切にし、過剰な労働に警鐘を鳴らす発言や動画をソーシャルメディアで広めたことから加速しました。

この現象は、Z世代の仕事観の一つとして捉えられることもあります。Z世代は、デジタルネイティブの世代で、およそ1990年代半ばから2000年代初頭にかけて生まれた人を指します。

なお、静かな退職は、日本の文脈においては「ぶら下がり社員」と似たニュアンスがあるかもしれません。ぶら下がり社員も、積極的には仕事に取り組まず、最低限の責任を果たす状態です。

静かな退職を抑制するには

企業は従業員の静かな退職にどのように対処していけば良いのでしょうか。静かな退職を引き起こす原因を理解することが重要です。原因を把握することで、適切な対策を講じることが可能になります。

過重労働

静かな退職の背後には、どのような要因があるのかというと、一般的には、仕事に対する健康や幸福、プライベートでの人間関係や個人の尊厳を犠牲にすることへの抵抗があります。これらの要素は従業員にとって大切なものであり、それを犠牲にしてまで働きたくないという気持ちが静かな退職を引き起こす一因です。

特に、過剰な労働は静かな退職に直結する要因としてしばしば指摘されます。労働の負荷が高い場合、従業員は情緒的に消耗し、仕事に対する前向きな姿勢を失って、撤退的な行動をとるようになるのです。

したがって、企業は従業員が過剰な労働によってエネルギーを枯渇させることなく、仕事に対する意欲を維持できるよう、労働負荷を適切に管理する必要があります。

例えば、働き方改革を推進し、長時間労働の是正、業務プロセスの改善や効率化を図ることが挙げられます。また、すべての業務において常に最大限の努力を求めるのではなく、業務の優先順位を設定し、負荷の高すぎる状況を避ける工夫も求められます。

人としての尊重

静かな退職を促進するもう一つの要因として、従業員を単なる「商品」のように扱う企業文化があります。そのような企業では、従業員が自己肯定感を欠き、自分が人として適切に評価されていないと感じることが多くなります。その結果、組織に対する愛着や働く意欲が低下し、静かな退職へとつながります。

この状況を変えるためには、従業員一人ひとりの感情や状況を真摯に尊重し、個々の価値を認めて支援することが不可欠です。従業員が組織から尊重されていると感じると、自然とその組織のために尽力したいという意欲が湧いてきます。反対に、尊重されていないと感じると、そのような意欲は生まれにくいものです。

具体的には、従業員のキャリア目標を理解し、それに沿った支援を提供しましょう。また、従業員の声を聞く機会を設け、フィードバックをもとに改善を進めることも有効です。これによって、従業員は自分が尊重され、自分の意見やキャリアが大切にされていると感じ、静かな退職を抑制できます。

静かな退職に至る動きは、従業員のエネルギーや意欲が枯渇することによって生じます。従業員のエネルギーを維持し、意欲を保つためには、労働の負荷を適切に管理し、また、個々の従業員を尊重することが求められます。

組織的離脱の知見から考える

静かな退職は2000年代後半に登場した表現で、世界的に注目を集め始めたのは2022年以降です。しかし、この概念に似た現象は以前から学術的な議論の対象となっていました。

静かな退職という言葉自体は新しいかもしれませんが、長い間、学問的に検討されてきたトピックでもあります。その意味で、静かな退職は新しくもあり古くもある概念であるとも言えます。

学術的な議論で「静かな退職」に対応するのは、「組織的離脱」という概念です。組織的離脱とは、仕事の役割を避けたり、仕事にかける時間を最小限にしたりすることを指します。静かな退職の定義とよく似ているのが分かります。

組織的離脱は静かな退職より先に研究が進められてきており、静かな退職に関する理解を深める上でも役立ちます。まず重要な点として、組織的離脱は、組織に対して意図的に危害を加える行動ではないことが示されています。組織的離脱は、組織に対する攻撃ではなく、むしろ組織から距離を置こうとする動きです。

一口に離脱と言っても、物理的離脱と心理的離脱の2つがあります。物理的離脱は、文字通り組織から物理的に離れることを指します。例えば、欠勤や遅刻、離職などです。他方で、心理的離脱は、組織への関与や献身を減らすことを意味します。静かな退職は、2つの離脱のうち、心理的離脱により近い概念と考えられます。

静かな退職という現象は、学問的に探求されてきた組織的離脱をもとに捉え直すことができます。このことから、静かな退職を一部の世代や特定の時期に特有の現象と単純化して捉えるのは危険であることが分かります。世代論や時代論に還元しないことが重要です。

組織的離脱の要因と対策

先ほど、静かな退職に対処するためにその要因に注目し、対策を検討しましたが、ここからは組織的離脱についても同様に、学術的な議論をもとに要因を探り、対策を考えてみましょう。

職務重要性

組織的離脱を防ぐための要因の一つに、「職務重要性」があります。これは、従業員が自身の職務を重要であると感じるほど、組織を離れる可能性が低くなることを意味します。

職務重要性という言葉は専門的に聞こえるかもしれませんが、その意味するところは明快です。自分の仕事が有意義であり、価値があると感じることです。仕事に意義を見出している人は、組織的離脱が低いことが分かっています。

この背景には、職務重要性がモチベーションを向上させることがあります。職務重要性が高い場合、積極的に仕事に取り組む意欲が生まれ、組織的離脱が起こりにくくなります。

静かな退職を促すのはエネルギーが枯渇するからだと述べましたが、職務重要性が高まることによってエネルギーが充電され、組織的離脱から遠ざかることが分かります。

職務重要性を高めるために、従業員が自身の仕事を通じてどのような貢献ができているのかを理解するように促しましょう。自分の仕事の社会的な影響や、組織の目標達成への貢献度、キャリア形成への影響を把握することによって、自身の仕事に対する価値を認識できます。

とはいえ、忙しい日々の中で、自分の貢献を振り返る時間を持つのは容易ではありません。そのため、定期的にリフレクションの時間を設けたり、上司や同僚との間で相互に貢献を認め合うフィードバックの機会を持ったりすることが有用です。こうした取り組みを行えば、自分の仕事が重要で価値があるという実感を持つことが可能です。

感情労働

仕事の意義や価値を高めることの重要性は大きいのですが、それによって過度な労働負担が生じると、精神的疲労が増大し、結果的に組織的離脱が促されることになりかねません。たとえその仕事が重要であっても、過度に取り組むことは逆効果です。

特に注意が必要なのは、感情労働です。感情労働とは、自身の感情を管理し、表現する必要がある職務を指します。例えば、顧客に対して笑顔で接する必要がある業務や、感情的なサポートが求められる業務などが挙げられます。

感情労働を長期間続けることで、結果としてエネルギーの枯渇を引き起こすことがあります。これは、従業員の組織的離脱の一因となり得ます。

感情労働の悪影響を軽減するためには、マインドフルネスが有効であるとされています。マインドフルネスは、現在この瞬間に集中することを目的とした実践であり、深呼吸や食事の際に味わいを十分に感じることなどを含みます。心身に意識を向けることで、感情労働による負担を緩和し、エネルギーの枯渇を防ぐことが期待されます。

障害的ストレス

組織的離脱を引き起こす、さらなる要因としてストレスを上げることができます。特に、人間関係のトラブルや、非効率な官僚的処理、または不公平な扱いなどを含む「障害的ストレス」の影響は実証されています。

障害的ストレスに直面すると、否定的な思考を繰り返し巡らせることがあります。これをネガティブな反芻と言いますが、ネガティブな反芻は組織的離脱を高めます。

この対策としてはまず、ストレスの影響を減らしましょう。例えば、定期的に休憩を取ることや、適切な労働負荷を保つことが大切です。さらに、同僚や上司との良好なコミュニケーションもストレス軽減に役立ちます。お互いに共感し、支援し合う関係を築くことで、ストレスの緩和が期待できます。

タスク管理能力を向上させることも一策です。仕事を適切に管理できれば、常に仕事が残っていると焦ることも少なくなります。

次に、ネガティブな反芻を減らすためには、意識的に気分転換を図ります。早めに仕事を切り上げて趣味に打ち込むなど、リフレッシュできる活動を取り入れると良いでしょう。

職場では、ポジティブなコミュニケーションを交わすようにします。成功体験を共有し、互いに励まし合うことで、ネガティブな思考パターンを断ち切ることができます。

上司部下関係

上司と部下の関係も組織的離脱に関連します。ここで取り上げたいのは、「リーダーの偽善」という概念です。これは、上司の言っていることと行動が一致しない状態を指します。

上司が言葉ではあるべき姿や理念を説く一方で、実際の行動ではそれを守っていない場合です。リーダーの偽善があると、部下は上司を信頼できなくなり、組織的離脱につながってしまいます。

さらに、リーダーによる「えこひいき」も問題です。特定の部下だけを好ましく扱い、資源や機会を不公平に配分する行動を指します。そうした行動は、他の部下に不公平感を与え、モチベーションの低下や組織への帰属意識の減少をもたらし、やはり組織的離脱を高めます。

上司と部下の関係についての問題を防ぐために、上司が一貫性のあるマネジメントスタイルを持つことが大事です。しかし、上司も人間です。常に一貫性を保つことは容易ではありません。気分や状況によって、以前と異なる対応をすることもあるでしょう。

おすすめなのは、マネジメント方針を明確にし、それを部下と共有することです。自分の価値観や行動基準を可視化した上で、それに基づいてマネジメントを行うことによって、一貫性のあるマネジメントを維持することが可能です。

ここまで来て、皆さんの中には気づいた人もいるかもしれません。静かな退職と組織的離脱の要因について挙げてきましたが、個人の要因ではなく、職場環境や上司の振る舞いなど、外部の要因が関与しているということです。

静かな退職や組織的離脱の傾向が見られる場合も、その責任を個人に帰するのではなく、職場全体で解決策を模索することが必要になります。そのことが状況をより良いものにする方法なのです。

静かな退職は本当にだめか

最後に、静かな退職は本当に問題なのかを考えてみましょう。これまでの議論では、静かな退職やそれに対応する組織的離脱という概念を、一般的に避けるべきものとして扱ってきました。

確かに、これらの行動には特に組織にとって好ましくない側面が存在するのも事実です。しかし、静かな退職という現象が全て悪であると断言できるでしょうか。

静かな退職は、最低限の仕事をこなし、それ以上の努力を避けることを意味します。これを冷静に捉えると、最低限の仕事はしています。求められた役割は遂行しているのです。

また、組織側が従業員に対して過剰な仕事量や難易度を課していることもあり得ます。もし従業員が自身の精神的な健康を守るために組織的離脱を選んでいるとすれば、これは自己保存の合理的な行動と考えられるかもしれません。

さらに、組織的離脱を通じて、仕事以外の活動に時間を割く余裕ができ、自己啓発や新しい分野の学習など、キャリアの再考や開発に役立つ可能性もあります。

職業生活が長期化する現代において、一生を通じて仕事だけに全力を注ぐというのは現実的ではありません。ライフステージや個人の状況に応じて、ある時期に、意図的に仕事から距離を置くことも、個人にとっては戦略的な選択です。

組織的離脱は、従業員にとってワークライフバランスを改善する機会となり得ます。組織側からの圧力や期待が緩和されることで、総体として、より満足のいく人生を送ることが可能になるかもしれません。

また、そもそも「離脱」という表現を批判する研究もあります。離脱というのは、組織側からの視点で評価しているだけです。従業員が組織を離れるのは、他に魅力的な選択肢が存在するからで、従業員にとっては前向きな変化である可能性があります。

組織的離脱が個人や組織にもたらす影響は一概には評価できません。たとえ組織的離脱が発生したとしても、従業員個人の問題にせず、組織の環境や体制に問題があると捉えることで、職場環境を見直し、改善するチャンスになります。

Q&A

Q:組織的離脱のメリットに注目する視点は新鮮でした。組織的離脱には良い面もあれば悪い面もあると理解すると良いでしょうか。

組織的離脱は、ある状況では個人にとって良い選択かもしれません。しかし、組織にとっては必ずしも望ましいわけではない可能性があります。ただし、組織的には良くないものと認識されやすい組織的離脱に対しては、むしろポジティブな側面を意識するぐらいでちょうど良いと言えます。

Q:組織的離脱を行う従業員と、多くの授業から離脱する大学生との違いはありますか。

ある程度の類似点があると言えます。どちらも、仕事あるいは授業に対して余計なエネルギーを使わないようにしています。しかし、組織に対する貢献や恩返しという点は、大学生ではそこまで一般的ではないかもしれません。

Q:静かな退職とバーンアウトの違いは何ですか。

静かな退職は、職務への努力を抑えることを指します。一方、バーンアウトは、感情的な疲弊を示します。バーンアウトが静かな退職を促すという関係は検証されており、両者は異なる概念ですが、関連性はあります。

Q:ホワイトカラーの静かな退職をどのように防ぐことができますか。

職場における仕事をより魅力的にし、従業員に自主性と充実感を感じてもらうことが重要です。そのために、仕事の意味や目的を明確にし、従業員が自ら積極的に業務に取り組みたいと感じる環境を作り出しましょう。

Q:相手を尊重することで若手の自己肯定感も高めることができるでしょうか。

自分自身の評価と他者からの評価は異なるものですが、他者から評価されていると本人に伝わると、自己肯定感が高まる可能性があります。他者から尊重されると、自身の価値を認識するからです。自己肯定感が低い人にとっては、自信を回復し自分の価値を改めて認識する手助けとなるでしょう。

Q:心理的離脱と物理的離脱に働く要因は異なりますか。

心理的離脱と物理的離脱は異なる要因によって引き起こされます。心理的離脱は仕事や組織との関係性に関わる要因が中心ですが、物理的離脱については離職研究によれば、より広範な要因が関わっています。組織内外の様々な状況が絡み合って物理的離脱が起こります。


登壇者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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