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コラム

テレワークを再考する:”オフィス回帰”をどう捉えるか(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、20241月にセミナー「テレワークを再考する:”オフィス回帰”をどう捉えるか」を開催しました。

新型コロナウイルス感染症の影響で、テレワークが急速に広まりました。テレワークでの仕事の進め方に慣れた人も多かったのではないでしょうか。

しかし今、多くの企業がオフィス回帰を模索しています。テレワークの長所・短所を改めて評価すべきタイミングと言えます。

セミナーでは、企業がテレワークとどう向き合うと良いかを考えるために、研究知見を基に、テレワークの特徴を深掘りしました。

講師は、ビジネスリサーチラボ代表の伊達洋駆とフェローの能渡真澄です。伊達と能渡は共著でテレワークに関する論文も書いています。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

伊達・能渡 (2021)の研究紹介

能渡:

オフィス回帰が進む中で、テレワークと出社の選択は重要なテーマです。私の講演では、テレワークと出社の違いに焦点を当て、それぞれに相性の良い仕事の種類について、研究知見を基に解説します。

まず、伊達・能渡(2021)[1]の研究を紹介します。この研究は、本日の登壇者である伊達と私が共同で実施したものです。この研究では、テレワークや出社における「自分に対する評価への納得感」に焦点を当てて、テレワーク下での評価への納得感の形成を取り上げています。

論文が公開された当時、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、多くの企業がテレワークを導入しました。この急速な変化の中で、従業員には「自身の仕事が適切に評価されているか」と不安を感じる問題がありました。

突然のテレワーク導入により、従業員と企業の両方が慣れないやり方で仕事を進めていく必要に迫られ、従業員は「テレワーク下で互いの状況がよくわからない中、自分の仕事の成果は、これまで通り評価してもらえるのか」と、不安になることが多かったのです。

こうした背景を踏まえて、テレワークと出社における評価への納得感と形成プロセスを調査したのが我々の研究です。特にこの研究では、同僚や上司とのコミュニケーションが「仕事に関してよくわからない」感覚を指す不確実性を減らし、評価への納得感を高めるプロセスに着目しました。

この研究で示されたことは、主に二つあります。

ひとつは、テレワークと出社の両方において、上司の「コミュニケーションの質」が重要であることです。「質」とは、上司が正確で有益な情報を伝えることを意味します。良質なコミュニケーションにより、従業員は有用な情報が得られ、評価に対する納得感が向上するプロセスが、テレワークと出社の両方で確認されました。

もう一つの結果として、テレワークと出社勤務では、効果的なコミュニケーションの特徴が異なることも示されました。

テレワークでは、上司によるタスク志向のコミュニケーションが評価の納得感を高めることに有効でした。「タスク志向のコミュニケーション」とは、仕事の具体的な内容に焦点を当てたコミュニケーションを指します。仕事内容に焦点化したコミュニケーションにより、従業員は「自分がどのように思われているか」に関する不確実性を減らすことができ、その結果、評価への納得感が高まったのです。

対して、出社では、上司とのコミュニケーションの頻度が高まることが、評価の納得感を高める要因となっていました。出社では、頻繁なコミュニケーションにより「自分がどう思われているか」に関する不確実性が減り、評価への納得感を高めるプロセスが示されたのです。

加えて、論文には紙幅の関係で掲載できませんでしたが、実は、「様々な指標について、テレワークと出社のどちらがより良い状態なのか」に関する比較分析も行っていました。

この検証では、表にある組織や仕事、キャリアに関する様々な指標を用いて、テレワークと出社の状況を比較しました。しかし、これらの指標の得点について、「一方がより高い、優れている」という結果は示されませんでした。

このことから、テレワークと出社は、単純に比較して「こっちのほうが良い」と優劣を決めることはできないと考えられます。

近年のテレワーク研究の概観

能渡:

我々の研究に限らず、新型コロナウイルス感染症の流行以降、テレワークに関する研究は飛躍的に増加しました。ここでは、最近の研究知見をいくつか見ていき、テレワークと出社のそれぞれの特徴をさらに探求していきます。

まず、テレワーク研究でよく取り上げられるのが「仕事の裁量」です。仕事の裁量とは、従業員が自分で仕事のやり方やスケジュールを決定できる権利を指します。

仕事の裁量が大きい職種はテレワークに適していると先行研究では述べられています。仕事の裁量が大きく自分で仕事のスケジュールややり方を決められるほど、テレワークのポジティブな効果が高まることが、多くの研究で示されています[2]。つまり、従業員が自主的に判断しやすい環境にある仕事は、テレワークに適しているのです。

また、個人の業務進捗が他のメンバーの業務に影響を与えないタイプの仕事が、テレワークに適しているという研究があります。このような仕事の特徴は「相互依存性が低い」と表現されます。

相互依存性とは、一人のメンバーの作業ペースや進捗が、他のメンバーの仕事にどれだけ影響を及ぼすかという性質です。製造業などを例に挙げると分かりやすいかもしれません。工場で製品を作るとき、前の工程が完了しないと次の工程の作業が進められません。このような仕組みを持つ仕事は相互依存性が高いと言えます。

テレワークと相性の良い仕事は相互依存性が低いものです。個々の業務の進捗が他のメンバーの業務に影響を与えにくい方が向いています。実際に、テレワーカーが他メンバーの仕事ペースに影響するようなタスクに従事するほど、精神的に燃え尽きてしまうことが示されています[3]

さらに、チームでの対話にオンラインツールを取り入れにくい職場の場合、出社が適していると言えます。ここで言うオンラインツールとは、メール、チャット、ビデオ会議システムのようなウェブコミュニケーションのためのシステムを指します。

オンラインツールの利用が難しい職場では、テレワークだとチームワークの良い効果が得にくくなります。そうした職場はテレワークには不向きで、出社を推奨する理由となります。究によると、オンラインツールの利用度が低いチームでは、メンバーが互いに離れた場所で働いているほど、チームワークを発揮した行動が低下する傾向が見られます[4]

オンラインのコミュニケーションツールが導入されていない、あるいは、そういったシステムは導入されているもののうまく活用できていない職場では、テレワークは不向きです。

テレワーク/出社に合う仕事

テレワークや出社に適した仕事の特徴について、様々な研究を参照してきました。再確認として、「テレワークと出社のどちらかが優れている」という単純な答えは存在しないことをお伝えしておきます。それぞれの働き方に合う仕事や職場があるだけです。

それを踏まえて、テレワークと出社、それぞれに適した仕事の特徴について考えてみましょう。

まず、テレワークに適している仕事は、周囲との調整が少なく、一人で集中して取り組めるようなものです。

テレワークが効果を発揮する職場や仕事の条件について、研究知見を整理すると、タスク志向のコミュニケーションが主であり、業務において裁量が与えられ、また相互依存性が小さい仕事がテレワークのポジティブな効果を高めていました。

言い換えれば、仕事内容により焦点を当てて、自分で判断して進められる、または自分の業務ペースが他のメンバーに影響しない仕事が、テレワークに適しています。メンバー間での調整が少なく済み、自分の仕事に集中しやすく、自身の考えや方法で能動的に進められる仕事は、テレワークに向いていると言えるでしょう。

逆に、出社に適した仕事には、どのような特徴があるのでしょうか。テレワークに適した仕事の特徴とは逆の特徴が挙げられます。

出社が望ましい仕事は、周囲との調整が頻繁に必要とされるもので、チームで協力して成果を高めていくような仕事が、出社に適していると言えます。

出社時の成果が高まる職場や仕事の条件としては、上司や同僚とのコミュニケーションの頻度が重要であることが我々の研究で示されていました。さらに、オンラインツールによるコミュニケーションがうまく機能しない職場は出社に適しており、そのような職場では対面での会話や情報交換が重視されていると考えられるでしょう。

まとめると、各メンバーの独断で進めず、メンバー間での密な調整や連携が求められる仕事は、出社がより適しているということです。

以上を踏まえて、テレワーク・出社に合う仕事を分けるポイントを考えると、ひとつは「自律的に仕事を進められるかどうか」です。周囲に影響されず主体的にどんどん進められる仕事は、テレワークに向いているといえます。

加えて、「他のメンバーとの調整コストが大きいか」も重要と言えます。多くのコミュニケーションが交わされ、各々の仕事ペースが互いの仕事に影響するような仕事は、各々の状況を頻繁に共有してすり合わせる必要があり、調整コストが高いと言えます。テレワークは、この調整コストが低い仕事でより有効性を発揮できます。

テレワークや出社に適した仕事を考える際には、まず自律性と調整コストの二つのポイントを基準にすると良いでしょう。これらを踏まえて、それぞれで効果的な働き方を考えることが重要です。

テレワークの有効な進め方

伊達:

私の講演では、テレワークに焦点を絞り、どのように進めると良いかをお話します。テレワークに関する研究は以前から存在しますが、特にコロナ禍以降、研究が急増しています。

念の為、私の立場を明確にしておくと、私は、社会全体がテレワークに移行すべきだとは思っていませんし、逆に全員がオフィスに戻るべきだとも考えていません。各企業が、仕事の特徴や状況に応じて判断すれば良いというのが私の立場です。

4つの視点からテレワークをどのように効果的に活用するかについてお伝えします。

自律性を活かす

1つ目ですが、テレワークは仕事の進め方や目標設定を自分で決めやすくするため、社員の仕事に対する自律性が増すという特徴があります。離れて働くため、各自の裁量に委ねるより他にないという言い方もできるかもしれません。

仕事の自律性が高まると、新たなアイデアや工夫を凝らす機会が増え、結果としてパフォーマンスの向上につながることが研究によって示されています。

テレワークを効果的に活用する上で、仕事の自律性をどう活かすかが重要です。そのためには、まずセルフマネジメントが不可欠でしょう。

自分自身で日々のタスクを計画し、優先順位をつけ、実行に移すタイムマネジメントが求められます。また、短期的、中長期的な目標を設定し、自身で進捗をチェックすることも大切です。

仕事の自律性が高まると、時間の使い方を自分で決めることができます。新しいアイデアを練ったり、新しいアプローチを試したり、新しいソリューションを生み出したりするために時間を使いたいところです。

新しいスキルを学ぶ時間や、既存の知識をアップデートすることにも、時間を投じれば、テレワークの意義がより高まります。

集中力を高める

テレワークのもう一つの特徴として、同僚や上司が身近にいないため、話しかけられることが少なく、周囲の会話による仕事の中断も減ることが挙げられます。これにより、作業に集中しやすくなります。

集中しやすい環境を最大限に活用するために、自分自身の作業環境を整えることが求められます。例えば、適切な照明、快適な椅子、必要な機材の準備などがあります。オフィスのような環境を自宅に作ることはコストがかかるかもしれませんが、会社の支援も得ながら環境を整えましょう。

次に、デジタルツールの活用があります。さまざまなツールやアプリを使い、自分が集中すべき仕事を特定することが集中力を高めることにつながります。

自分にとって最適なペースや勤務時間の配分を見つけることも重要です。自分が最も集中できる時間帯を知り、それに合わせて仕事を計画することで、生産性を高めることができます。

集中力を維持するためには、心身の健康も欠かせません。健康が損なわれると、集中力も低下します。テレワークを実践する際には、健康増進の取り組みもあわせて行いましょう。例えば、定期的な休憩や運動などが挙げられます。

仕事と生活を調和させる

テレワークを効果的に進めるためには、社員のワークライフバランスへの配慮が不可欠です。

テレワークの中でも特に在宅勤務では、仕事とプライベートの境界が曖昧になりがちです。これにより、仕事と家庭の間での葛藤が生じやすく、メンタルヘルスに悪影響を及ぼすことが実証されています。

ただし、仕事と生活を調和させるのは容易ではありません。例えば、時間や場所を意識的に設計することが重要です。自宅において作業スペースを設け、仕事用の場所とそれ以外の場所を分けることで、仕事と休憩のモードを切り替えやすくなります。

日々のルーティンを確立することも有効です。規則正しい生活が送ると、ワークライフバランスが実現しやすくなります。仕事の進め方を含めたスケジュール管理を徹底しましょう。

さらに、仕事以外の時間の過ごし方も工夫の余地があります。仕事が終わったら、仕事から心身を離してリフレッシュします。出社していた時は通勤時間がモード切替の役割を果たしていたかもしれません。テレワークでは切り替えを意識する必要があります。

家庭のある方にとっては、家庭内での役割分担や協力が大事です。家族間で負担を分散し合いながら、お互いに支援し合うことが、テレワークにおけるワークライフバランスの向上に寄与します。

社会的孤立を防ぐ

最後に、テレワークにおいてよく指摘される問題であり、適切な対策が必要なポイントを紹介します。それは「社会的孤立」です。

テレワークを行うほど、仕事のフィードバックを得ることが難しくなり、周囲からのサポートも減少する傾向があることが分かっています。テレワークには社会的孤立を引き起こすリスクがあります。

コミュニケーション、サポート、フィードバックが得られにくくなることは仕事の進行を妨げるばかりではなく、精神的な健康にとっても良くありません。

テレワークを実施する上で、同僚や上司とのコミュニケーションを充実化し、社会的孤立を防ぐ必要があります。

そのために、コミュニケーションの機会を作り出しましょう。例えば、定期的なミーティングを設けます。ウェブ会議のように顔の見える形でコミュニケーションを取っていきます。

週報や月報の作成も有効です。それほど長いものでなくても構いません。同僚が何に取り組んでいるかを把握できれば、コミュニケーションのきっかけが生まれます。

また、デジタルツールも積極的に利用すると良いでしょう。例えば、チャットツールを活用して、日常的な情報交換や気軽な質問を行います。これにより、非同期でありながらも会話が交わせます。

バーチャルオフィスのようなオンライン上のシステムを導入することも一つの方法です。リアルタイムにお互いの状況や様子が確認できます。コロナ禍以降、ツールの種類が増え、機能も高まっています。

非公式なコミュニケーションを積極的に増やすことも心がけましょう。例えば、オンラインで休憩時間やランチタイムを共有したり、仕事以外の話題で交流したりする機会を作ります。話しかけやすい雰囲気が生まれ、関係が築かれていくことで孤立感を軽減できます。

また、クイズやゲームなどのアクティビティを通して、チームビルディングを図るのも一つです。雑談のような非公式なコミュニケーションは、チームメンバー間の関係がまだ浅いときに特に効果的です。新しいメンバーが加わった際は、非公式なコミュニケーションの機会を意識的に作ります。

さらに、社会的孤立を防ぐために、上司と部下のコミュニケーションも行う必要があります。個々の部下の悩みやニーズを把握し、それに対応します。

上司から部下に対するフィードバックの提供も重要な役割を果たします。テレワークでは、出社時と比べてフィードバックが減りがちなので、意識的に補うようにします。部下の仕事の進捗について確認し、フィードバックする時間を設けると良いでしょう。

共に学び合うことを促進するのもおすすめです。例えば、勉強会を開催し、お互いの仕事のノウハウや、仕事を通じて得た発見を共有することができます。

このような機会を設けることで、コミュニケーションが促進されると同時にスキル開発も行えます。いわば一石二鳥の効果があります。

共同でプロジェクトを実施することも、コミュニケーションの創出に役立ちます。例えば、異なる部門のメンバーが参加する横断的なプロジェクトを立ち上げることで、自然とコミュニケーションが生まれます。

ジレンマとさらなる活用に向けて

ただし、ここまでの説明を踏まえ、テレワークを行う上での難しさを感じるかもしれません。テレワークでは、十分なコミュニケーションを取ることが社会的孤立を防ぐために必要ですが、他方で、テレワークの長所として集中しやすい環境があります。

これらはある種のジレンマを生み出します。コミュニケーションを取ることが集中を妨げる可能性があり、逆に集中しすぎるとコミュニケーションが減って孤立をもたらし得ます。これらのバランスを上手く取ることが、テレワークにおけるポイントです。

なお、テレワークにおけるコミュニケーションの問題に対処する方法として、完全なオフィス回帰ではなく、部分的な出社を取り入れる「ハイブリッド型テレワーク」が注目を集めています。

例えば、週の一部はオフィスで、残りはテレワークで働くといった形で、テレワークとオフィスワークを組み合わせます。

現実的には、テレワークと出社は、どちらか一方を選ばなければならないものではありません。ハイブリッド型のアプローチは増えていることでしょう。

テレワークを行う上で、出社にはない独自の強みを生かし、テレワークならではの発想を広げることもまた有用です。

例えば、テレワークを利用することで、日本全国、さらには世界中の人材と協働できます。テレワークの時差を利用して、グローバルなプロジェクトを効率的に進めることも可能です。

テレワークの進展に伴い、デジタル化が進んだことで、データが豊富に生み出されるようになりました。データドリブンな意思決定を推進することも、テレワークをきっかけに実現できるかもしれません。

テレワークを実施するのであれば、デジタルノマドなど、新しい働き方を探求するのも一つの方向性です。

これらの点は、必ずしも全ての企業や個人に適しているわけではありません。しかし、テレワークの可能性を広げる考え方ではあります。

Q&A

Q:新しい仕組みを作る際、社内の合意形成をしていくのは対面の方が進めやすいと思います。テレワークでも対面と同じようなパフォーマンスを出すためにはどうすれば良いでしょうか?

伊達:

対面でのコミュニケーションは合意形成に役立ちます。お互いの理解や納得感を直接的に感じ取りやすいからです。しかし、アイデアを出す工程は、テレワークの方が有効であるという研究もあります。アイデアを出す段階はテレワークで行い、その後の合意形成を対面で行うという使い分けが良いかもしれません。

テレワークで対面と同等のパフォーマンスを実現した事例ですが、数十人程度のチームであれば、バーチャルオフィスを使うことで、まるで実際にそこにいるかのような感覚を持ちながらコミュニケーションを取って仕事を進められていた企業があります。

能渡:

特に重要なのは、コミュニケーションツールが持つ同期性、つまりお互いが同じタイミングで会話ができる点です。例えば、ビデオ会議システムを使用すると、まさにその瞬間にお互いに情報を交換できるため、対面時と同等の効果を得ることができるかもしれません。

Q:出社回帰を進めるにあたり、社員の不満軽減に繋がるような施策の例はありますか?

伊達:

オフィスに向いている仕事を行うことが不満を軽減する方法でしょう。対面で集まることで効果的に行える仕事を付与すれば良いのです。一方で、オフィスで自律性が高い仕事や相互依存性が低い仕事を行うと、「ここでなくてもできる」「自宅の方が集中して作業できる」と考える可能性があります。

能渡:

自宅で実行できる仕事をしていた人が、わざわざオフィスに来ることに対して不満を抱くことがあります。通勤の手間を無くすことはできませんから、出社する際には別のメリットを提供したいところです。例えば、オフィスに来ることで体をケアできるような施策や気配りをするなどの方法が考えられます。

伊達:

より直接的に、オフィス手当を支給する企業も現れています。これはコロナ禍以前には考えられなかったことで、働き方の変化を示しています。

Q:チーム内でテレワーク相性の違いがある場合の良い考え方はありますか?

伊達:

ダイバーシティの観点から考えてみると、補助線になるかもしれません。テレワークの相性の違いはダイバーシティとして捉えることができます。そうすると、職場のダイバーシティが大きい場合、どうすれば良いか、という問いに置き換えられます。

この問いに対して、まずはしっかりとコミュニケーションをとりましょうと言えますね。お互いの価値観を理解すれば信頼が深まります。その上で、ダイバーシティ風土を醸成することも効果的です。テレワークに対する相性の違いがあることを、ポジティブに受け止める文化を育んでいくのです。

Q:テレワークに合う/合わないは仕事の性質によって異なるという点に納得感がありました。他に、テレワークに合うかどうかを考える切り口はありますか?

能渡:

パーソナリティに基づいてテレワークが合う人と合わない人がいるという研究があります。例えば、「セグメンテーション・プリファレンス」という概念が参考になります。これは、仕事と私生活を分けたい好みの違いを指します。仕事と私生活を分けたいと考える場合、在宅勤務に対して抵抗を感じる可能性があります。

また、入社してすぐにテレワークを始めると、職場に馴染んだり仕事に慣れたりするのが難しいという研究もあります。解決策として、早い段階で一度は対面での機会を設けることが提案されています。

Q:コロナ禍で雑談タイムをとるようになりました。雑談タイムは出社時も大切だと感じています。雑談タイムを継続させるコツはありますか?

伊達:

なぜ雑談が重要なのかを考えると良いでしょう。雑談を通じて相手の価値観や考え方を理解できるからです。同時に、自分のことも相手に理解してもらえたと感じることができます。このことによって人間関係が良くなり、エンゲージメントが高まるのです。

その意味で、雑談は人間関係を構築する一つの手段です。ただし、人間関係を築くための他の方法もあわせて実行する必要があると思います。

雑談を続けるという観点では、ミーティング時に短い雑談を挟むルールを作ったり、ランチを共にしたりすることが考えられます。様々な場面で自然に雑談が生じる環境を作るという発想も求められます。

脚注

[1] 伊達洋駆・能渡真澄 (2021). テレワーク下で評価への納得感はどのように形成されるか  (特集 雇用関係と人材のマネジメントにおける現在地). 日本労働研究雑誌, 63(12), 63-75.

[2] Beckel, J. L., & Fisher, G. G. (2022). Telework and worker health and well-being: A review and recommendations for research and practice. International Journal of Environmental Research and Public Health, 19(7), 3879.

[3] Lyndon, S., Rokadia, H. & Navare, A. (2023). Dark side of teleworking: impact of initiated interdependence, professional isolation and psychological detachment on emotional exhaustion. Evidence-based HRM, doi.org/10.1108/EBHRM-02-2022-0040

[4] 縄田 健悟・池田 浩・青島 未佳・山口 裕幸  (2023). チームワークにおけるチーム・バーチャリティ 2 側面の相反する関連性: 職場のテレワークはチームワークにどのように影響するか 社会心理学研究, 39(2), 76-86.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

能渡 真澄
株式会社ビジネスリサーチラボ チーフフェロー。信州大学人文学部卒業、信州大学大学院人文科学研究科修士課程修了。修士(文学)。価値観の多様化が進む現代における個人のアイデンティティや自己意識の在り方を、他者との相互作用や対人関係の変容から明らかにする理論研究や実証研究を行っている。高いデータ解析技術を有しており、通常では捉えることが困難な、様々なデータの背後にある特徴や関係性を分析・可視化し、その実態を把握する支援を行っている。

 

 

 

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