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スキルを見極める選考手法:ワークサンプルテストの効果と実践

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近年、新卒採用では、初期配属を約束する採用が増加しています。また、企業は経験者採用の割合も高めています。

その結果、採用活動において候補者の具体的なスキルを精密に見極める必要性が高まっています。このような状況の中で、国際的にも注目されている選考手法の一つが「ワークサンプルテスト」です。

本コラムでは、ワークサンプルテストの魅力とその限界について解説します。さらに、実際にワークサンプルテストを行う際の進め方や注意点についても触れます。

ワークサンプルテストという言葉を初めて聞いた方も、すでに取り入れている企業の方も、本コラムを通じて効果的な活用法の理解を深めていただければ幸いです。

ワークサンプルテストとは

ワークサンプルテストは、候補者に対して、実際の仕事内容に物理的・心理的に似た作業を行ってもらう選考手法です[1]。仕事環境を模した状況を設定し、候補者がその状況に対応する能力を評価します。仕事のミニチュアの複製に取り組んでもらうという言い方もできます[2]

ワークサンプルテストは、候補者が特定の仕事を実行する際に必要なスキルを持っているかどうかを評価するために用いられます。

例えば、エンジニアの採用において、実際の業務に近い課題を与え、特定のプログラミング言語を用いて短いコードを書いてもらうことで、プログラミング能力を評価したり、営業担当の採用において、自社の商品や営業状況をシミュレーションし、ロールプレイを行うことで、営業スキルや調整能力を評価したりすることができます。

ただし、ワークサンプルテストは、実際の仕事そのものではなく、それに似た作業を行うことで評価を行う点が特徴です。これは、インターンシップのように実際の業務に携わるパフォーマンステストとは異なっています。

ワークサンプルテストは、米国において特に発展してきました。これは、業務に関連しないテストを選考時に行うことが法的かつ倫理的に問題視されたことが背景にあります[3]

ワークサンプルテストの意義

ワークサンプルテストに関心が集まっている実務上の理由は、この手法が仕事のパフォーマンスを一定の精度で予測できるからです。ワークサンプルテストで高い評価を受けた候補者は、実際の職場でも高い成果を上げる傾向にあります[4]。面接や適性検査など他の手法と比べても、見劣りしない、あるいは、より精度が高いとも言われています。

ワークサンプルテストでは、候補者の個々の背景や経験に振り回されることなく、実際の仕事においてどのような働きを見せるかを客観的に推測できます。履歴書や面接だけでは伝わりにくい候補者の問題解決スキルなども、テストを通じて見出すことが可能です。

また、ワークサンプルテストは候補者の好意的な反応を引き出すことにも成功します。候補者は、自分がワークサンプルテストで評価されることに公平性を感じます[5]。実際の仕事に近い作業に取り組み、その内容をもって自身のスキルを見極める方法は、候補者にとっても説得力があるのです。

さらに、ワークサンプルテストを受けることで、候補者はその会社に入った後にどのような仕事や成果が期待されるかを知ることができ、企業理解が深まります。これは、自分に合った仕事であるかを候補者自身が判断するための重要な情報源となります。

ワークサンプルテストを導入すると、離職率が低下するという報告もあります[6]。ワークサンプルテストは候補者と企業のマッチング精度を高める効果を持っていると言えるでしょう。

テストにうまく取り組めれば、候補者は自分のスキルに自信を持ち、その企業で働くことに対する前向きな気持ちが高まります。さらに、ワークサンプルテストの結果が良くても悪くても、企業から結果とその理由についてフィードバックを受けることで、成長につながるのです。

ワークサンプルテストが活きる仕事

ワークサンプルテストが効果的なのは、特定のスキルが求められる仕事です。具体的なスキルの発揮が直接的に仕事のパフォーマンスにつながる仕事では、成果物を通してスキルの高さが明確に分かります。

ある程度標準化されたプロセスのある仕事も、ワークサンプルテストと相性が良いでしょう。それらの仕事では、仕事内容に模したテストを作りやすく、テスト結果と実際の業務の乖離が小さいため、将来のパフォーマンスを予測しやすいのです。

一方で、抽象的かつ多様なタスクが含まれる仕事や、他人との交流が重要な仕事には、ワークサンプルテストはあまり向いていないかもしれません[7]

例えば、研究開発や戦略立案のような中長期にわたる創造的思考を求められる仕事や、コミュニケーションや交渉スキルが求められる仕事は、複雑なダイナミクスを扱う必要があり、関係構築など時間を要する部分も重要となるため、テストに落とし込むのが困難です。

ワークサンプルテストを実行するためには、そのスキルを十分に持った社員がいることが前提です。そうした社員がいることによって初めて、候補者のテスト結果を適切に評価することが可能になります。

ワークサンプルテストの設計

ワークサンプルテストは万能ではないものの、多くの場合に効果的な見極めをもたらします。その一般的な流れについて説明しましょう。ただし、ワークサンプルテストを行う際は、その仕事に従事する、できれば熟練した社員の参加が必要です[8]

① 職務分析

仕事を進める上で必要なスキルを特定します。職務記述書があれば参考にしますが、日本企業では詳細な職務記述書が整備されている場合が多くありません。例えば、臨界事象法を用いて重要なタスクを抽出し、それを処理するために必要なスキルを明らかにします[9]。また、職場で働く社員の観察やインタビューを行い、スキルを収集する方法もあります。

② 目的の設定

職務分析が完了したら、どのスキルをワークサンプルテストで見極めようと考えているかをまとめます。これは、テストの目的を定めることを意味します。目的に基づいて、そのスキルが含まれるタスクを特定します。

③ テストの開発

必要なスキルを含むタスクに基づいて、模擬的な課題を作成します。例えば、エンジニアの候補者ならプログラミングの課題などです。課題は実際の仕事に対応する要素から構成されていなければなりません。

④ 評価基準の作成

候補者が課題に取り組んだときのプロセスやアウトプットをどう評価するかを決めます。客観的で公平な評価を行うためには、評価基準をあらかじめ作成しておく必要があります。評価基準には、求める結果とそれを達成する進め方の両方を含めると良いでしょう[10]

⑤ パイロットテスト

作成したテストと評価基準をいきなり選考に用いるのはリスキーです。まずは自社の社員にテストを受けてもらい、評価基準を用いて点数を付けてみます。この結果と普段の働きぶりを照らし合わせて、テストに調整が必要かどうかを判断します。

⑥ テストの計画

テストを実施する方法、時間、場所、評価者を考えます。その上で、候補者にテストの目的と方法を伝えます。評価基準を候補者に伝えるタイミングは各社の判断に委ねられますが、どこかのタイミングで少なくとも部分的に共有することが望ましいと思います。

ワークサンプルテストのリスク

ワークサンプルテストは、実際の仕事に近い課題に取り組むことで、候補者のスキルを精度高く評価する手法です。しかし、ワークサンプルテストには限界が存在します。限界を正しく理解することが、企業と候補者双方にとって意味のある運用を実現する上で重要です。

評価に際したバイアス

ワークサンプルテストはしばしば公平性の高い選考手法として指摘されます。これは、社会的マイノリティが不利になる傾向が小さいことを示す研究に基づいています。

一方で、ワークサンプルテストが偏見による悪影響を与える可能性を示す研究もあります[11]。他の選考手法よりも必ずしも悪影響を抑制するわけではないのです。

これらの矛盾する結果から、ワークサンプルテストを実施したからといって、評価者がバイアスから完全に逃れられるわけではないことが分かります。ワークサンプルテストにおいても、バイアスを抑制するための工夫が必要なのです。

様々なコストがかかる

ワークサンプルテストの設計と実施には、いくつかの重要なステップと考慮すべき要素があります。これらのプロセスには時間と労力が伴います。

まず、ワークサンプルテストを設計するためには、その職種の仕事の流れや実態を細部にわたって理解する必要があります。理解のためには、職務分析や職場観察、経験豊富な社員からのヒアリングなど、多くの時間を要します。

さらに、テストがその仕事に関連するスキルを適切に測定するためには、高い専門性が必要です。テストは、候補者が持つ実際のスキルレベルを反映するように設計されなければなりません。専門知識と熟練度を持つ社員が関与することが求められます。

候補者にテストを受けてもらうこと自体も時間を要します。企業側はテストのプロセスを管理し、適切に実施する必要があります。テストを受ける候補者にも、テストのための時間が必要です。テストの内容によっては、物理的な材料や設備、さらには人件費などが発生する場合もあります。

これらを総合すると、ワークサンプルテストには様々な種類のコストがかかることが分かります[12]。このため、ワークサンプルテストの導入を検討する際には、コストに見合う利益があるかを検討しましょう。

テストから期間を空けないようにする

ワークサンプルテストは、特定のスキルを評価する上で有益な手段を提供します。しかし、そこにおいて評価されるのは、主に現在のスキルです。逆に言えば、候補者の学習能力や将来のスキルを見極めることは困難です。

ワークサンプルテストがパフォーマンスを予測する効果に関しては、テスト実施から時間が経過しない場合の方が高いとされています[13]。テストから時間が経過すると、予測精度は他の選考手法よりも低下する可能性があります。

ワークサンプルテストを行った直後に候補者が入社し、すぐにその仕事を担う場合はうまく機能する可能性が高いですが、長期間経過した後のパフォーマンスを予測するには不十分な場合があります。

このことは、ワークサンプルテスト自体の「鮮度」にも関連します。テストが作成されてから時間が経過すると、現在のパフォーマンスを予測するのに不十分なものになり得ます。ワークサンプルテストの内容は最新の業務状況に合わせて更新しなければなりません。

役割外のパフォーマンスは予測しない

ワークサンプルテストの結果は、主にパフォーマンスを予測するものですが、ここでの「パフォーマンス」とは、特定の与えられた仕事を遂行する能力のことを指します。この理解はワークサンプルテストを活用する際に大事です。

他方で、ワークサンプルテストは「文脈パフォーマンス」をうまく予測しないという研究があります[14]。文脈パフォーマンスとは、仕事を抱えた同僚を助けたり、率先して協力をしたり、熱心に規則を守ったりするなど、役割外の有益な行動を指します。

これらは職場の円滑な運営やチームワークに貢献する行動ですが、ワークサンプルテストではこうした側面を評価するのが難しいのです。

ワークサンプルテストはあくまで、役割の範囲内でのパフォーマンスを評価することに特化しています。テストを実施する際には、その限界を理解しましょう。

 

最後に、ワークサンプルテストを行う際の注意点を2つ挙げておきたいと思います。

一つは、知的財産権の順守です。テストの内容が知的財産権を侵害していないか確認します。例えば、他者の著作物を模倣したり、無断で使用したりすることは許されません。

もう一つは、テスト結果の適切な使用です。ワークサンプルテストの結果は、採用における意思決定のためだけに使用しましょう。例えば、テストで作成されたコンテンツやアイデアを、候補者の同意なしに商業的に利用すべきではありません。

 

さて、本コラムでは、最近注目され始めているワークサンプルテストについて解説しました。ワークサンプルテストの意義や効果、実施するための手順、そしてリスクや注意点にも触れました。

ワークサンプルテストは、企業が候補者の実践的なスキルを直接的に評価することを可能にします。候補者と企業の間でより良質なマッチングを促進する効果が期待されるところです。本コラムを通じて、ワークサンプルテストの適切な理解と運用が広がっていくことを願っています。

 

脚注

[1] Ployhart, R. E., Schneider, B., and Schmitt, N. (2006). Staffing Organizations: Contemporary Practice and Theory. Lawrence Erlbaum Associates, Inc.

[2] Asher, J. J., and Sciarrino, J. A. (1974). Realistic work sample tests: A review. Personnel Psychology, 27(4), 519-533.

[3] Robertson, I. T., and Kandola, R. S. (1982). Work sample tests: Validity, adverse impact and applicant reaction. Journal of Occupational Psychology, 55(3), 171-183.

[4] Schmidt, F. L., and Hunter, J. E. (1998). The validity and utility of selection methods in personnel psychology: Practical and theoretical implications of 85 years of research findings. Psychological Bulletin, 124(2), 262-274.

[5] Hattrup, K., and Schmitt, N. (1990). Prediction of trades apprentices’ performance on job sample criteria. Personnel Psychology, 43(3), 453-466.

[6] Cascio, W. F., and Phillips, N. F. (1979). Performance testing: A rose among thorns? Personnel Psychology, 32(4), 751-766.

[7] Cook, M. (2004). Personnel Selection: Adding Value through People. Chichester: Wiley.

[8] Roth, P., Bobko, P., McFarland, L., and Buster, M. (2008). Work sample tests in personnel selection: A meta-analysis of Black-White differences in overall and exercise scores. Personnel Psychology, 61(3), 637-662.

[9] Sackett, P. R., and Laczo, R. M. (2003). Job and work analysis. In W. C. Borman, D. R. Ilgen, and R. J. Klimoski (Eds.), Handbook of Psychology: Industrial and Organizational Psychology, Vol.12. John Wiley & Sons, Inc.

[10] 評価基準を検討する際に、経済産業省が主導するプロジェクトにおいて当社が作成に協力した評定表「ルーブリック」が参考になります。

[11] Bobko, P., Roth, P. L., and Buster, M. A. (2005). Work sample selection tests and expected reduction in adverse impact: A cautionary note. International Journal of Selection and Assessment, 13(1), 1-10.

[12] Callinan, M., and Robertson, I. T. (2000). Work sample testing. International Journal of Selection and Assessment, 8, 248-260.

[13] Callinan, M., and Robertson, I. T. (2000). Work sample testing. International Journal of Selection and Assessment, 8, 248-260.

[14] Rodrigues, N., and Rebelo, T. (2009). Work sample tests: Their relationship with job performance and job experience. Revista de Psicologia del Trabajo y de las Organizaciones, 25(1), 47-58.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『60分でわかる!心理的安全性 超入門』(技術評論社)や『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。

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