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コラム

イノベーションの行動科学:新しい“何か”を生み出す人材の活かし方(セミナーレポート)

コラムセミナー・研修

ビジネスリサーチラボは、2022年9月28日に「イノベーションの行動科学:新しい“何か”を生み出す人材の活かし方」を開催しました。

「イノベーションを起こそう」と叫ばれて久しい昨今、果たして、新しい”何か”を生み出すのは、どのような人材か。本セミナーでは、そうした人材を見つけて育むには、どうすれば良いかについて理論と実践の両面から解説しました。

前半はビジネスリサーチラボ代表取締役の伊達洋駆から、創造性に関する研究知見を紹介しています。後半は株式会社レノバの永島寛之氏から、イノベーション人材の現実的な活かし方についてご紹介いただきつつ、伊達との対談を行いました。

本レポートはセミナーの内容をもとに編集・再構成したものです。

登壇者

永島寛之 氏:株式会社レノバ 執行役員 CHRO
大学にてマーケティングを学んだのち、東レおよびソニーにて海外事業の新規市場開拓に従事。米国駐在を経て、ニトリホールディングスに入社し、組織・人事責任者として、タレントマネジメントの観点から、採用、育成、人事制度改革を指揮。レノバ参画後は、CHROとして中長期の事業戦略と連動した組織・人材戦略の立案と人事施策実行を担い、世界のエネルギー変革のリーダー(グリーン人材)の育成に注力している。

 

伊達洋駆:株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。


1.創造性研究から考えるイノベーション

(1)イノベーションの2段階

伊達:

学術的に、イノベーションは2つの段階に分けることができます(図1)。1つがアイデア生成で、アイデアを生み出す段階です。もう1つがアイデア実行で、アイデアを具現化する段階です。アイデアを生み出す段階とアイデアを形にする段階は、別のものです。

図 1:イノベーションの構成

一人でも、「こういうことをやったらいいのでは」と思いつくことはできますよね。他方で、アイデアを具現化する段階では、社内外の様々な人の協力が求められます。今回の講演では前者のアイデア生成に注目します。

(2)創造性研究からの知見

アイデア生成について掘り下げるために、創造性(クリエイティビティ)に関する研究を紹介します。

創造性とは何か

経営学においては、創造性は、新しく有益で、価値のあるものを生み出すことと定義されています。図2のようなイメージです。技術革新に限定されません。

図 2:創造性のイメージ

創造性を発揮しやすい人

学術研究では、創造性を発揮しやすい人の2つの特徴が明らかになっています。

1つは、学習目標志向性が高い人です。学習目標志向性は、自分の能力の向上を志向することを指します。日常的な言葉でいえば、「成長志向の人」です。他者から評価されたいと考えている人より、成長したいと考えている人のほうが、創造性を発揮します。

2つ目は、自己効力感が高い人です。この場合の自己効力感とは、創造的に振る舞える自信です。

成長志向で創造に自信がある人が、創造性の高い人なのです。そのような人を採用したり、抜てきしたりすることが重要かもしれません。

創造性を発揮しやすい環境

創造性が発揮しやすい環境もあります。例えば、会社や上司から、新しいものを生み出すことが奨励されている環境です。職場からサポートがあること、自由を与えられていることなども、創造性を高めます。

他にも、図3のような環境が、創造性にプラスの影響があります。これらの環境について、自社はどの点が十分でどの点が不足しているか、考えてみてください。

図 3 :創造性を高める環境

一筋縄ではいかない創造性

創造性は、アイデア生成を行う上で重要な役割を担います。しかし、創造性はある種の難しさを伴います。

例えば、図4のような要素から成る創造的性格(クリエイティブ・パーソナリティー)があります。

図 4:創造的な性格

「しきたりにこだわらなくて自由に振る舞う」など、一見すると魅力的に思えますが、身近にいると大変だと思いませんか。例えば、創造的な人は、既に決まった事実について、「そもそもこれは意味があるんですか」などと、ちゃぶ台をひっくり返すかもしれません。

加えて、創造性にはリスキーな側面があります。例えば、ネガティブ・クリエイティビティ。これは、革新的ではあるものの、他の人に害が及んだり、倫理的に問題があったりするようなアイデアを生み出すことを意味します。カンニングの画期的な方法を思いつくなどが、ネガティブ・クリエイティビティに当たります。

創造性は、既存の当たり前を越えることに良さがあります。ところが、越えてはならないところまで逸脱する可能性もあるのです。創造性が持つリスキーな側面とどう向き合っていくのかを考える必要があります。

さらには、「どこに向けて創造性を発揮するのか」という問題もあります。思いも寄らないことに創造性を使うこともあり得ます。

例えば、創造性が高い人ほど非倫理的な行動を取りやすいことを明らかにした研究があります。その理由として、言い訳をうまく行えるからではないかと考察されています。創造性が言い訳に使われてしまっているのです。

イノベーションを進めるために創造性は重要ですが、同時に取り扱いが難しくもあります。この後の対談では、企業が創造性とどう向き合っていけばよいかを考えます。

2.創造性の高い人材の見つけ方・育て方・活かし方

(1)創造性の高い人材はある程度入社する

伊達:

さて、私の発表を受けて、まずはご感想をいただきつつ、対談に入っていければと思います。

永島:

私は、前職のニトリにいたときから今に至るまで、組織開発をずっと担当してきました。組織開発で重要なのは、プロダクティビティ(生産性)を上げることです。

一方でクリエイティビティ(創造性)は、プロダクティビティを高める可能性もあれば、下げるリスクもあります。かといって、創造性の高い人をある意味で除外していては、連続的な成長はできても、非連続な成長はできないと感じました。

伊達:

創造性の高い人材を採用・育成・評価する組織をつくるときに、どのような工夫を凝らせばいいでしょうか。

永島:

まずは、今の事業を支える人材と、未来をつくる人材を大きく分けて考えると良いと思います。それらを混ぜると、結局どちらもうまくいかなくなります。

その上で、未来をつくる創造性の高い人材の採用ですが、私はそうした人材を狙って採用する必要はないと思っています。。むしろ、どのような採用をしても一定数、創造性の高い人材は混ざってくるはずだと考えています。組織としては、そうした人材をしっかり見つけ、伊達さんの講演で挙げられたような環境を提供することが重要ではないでしょうか。

伊達:

一方で、創造性の高い人材を排除する採用になっていないかどうかは、確認してもいいかもしれないですね。

永島:

前職で最終面接官を行っていたとき、態度が悪かったり、遅刻をしたりする学生がいました。これらの行動は、本当はいけないことです。ただ私は、遅刻の理由をどのように説明するかに注目していました。

リクルーターが「この学生はルールを守れないのでダメです」と言ったとしても、私は「もしかして面白いのでは」と感じた時は迷わずに合格を出していました。そういう人材を除外し続けると、創造性の高い人材が入ってくる余地がなくなります。

(2)創造性の高い人材を社内で見つける

伊達:

永島さんのお話を伺うと、採用で創造性の高い人材を見極めることに力を注ぐよりも、入社後にどうするかが重要だと思いました。

永島:

はい、社内で創造性の高い人材を見つけることが重要です。

例えば、小売業では一般に、いかに決められた仕事をしっかり進められるかが評価の対象になりがちます。創造的性格の話で挙がったような人材は、評価が継続的にずっと高いということはなかなかありません。

創造性の高い人材を抜てきする際に、人事評価だけを見ていてはいけません。前職では、コンテストなどの業務以外の課外活動を導入していました。創造性の高い人材は、ワンチャンスに強い。

ただし、同じ成果を、明日も明後日も出すとなると難しい。そのため、能力を発揮できるチャンスをつくり続ける必要があります。そうしたチャンスをものにする人材を積極的に抜てきすれば、創造性の高い人材を発掘することができます。

また、これは逆説的ではありますが、評価がかっちりした会社のほうが、創造性の高い人材を見つけやすいかもしれません。そのような人は、評価の浮き沈みが激しい傾向があるからです。通常の昇進・昇格は見送りになりがちな人材ですが、抜てきすれば一気に花開く可能性があります。

(3)創造性を発揮できる場を用意する

伊達:

なるほど、評価にばらつきが見られるというのは興味深い視点ですね。創造性の高い人材を見つけた後は、どうしていけば良いでしょうか。

永島:

できる限り早く、それぞれの人材に合った、創造性を発揮できる仕事を用意する必要があります。曖昧な状態や自分が評価されない状態でも耐えられる人であれば、辞めずに残ってくれますが、そうでなければ、配置が遅れると離職のリスクがあります。

会社側も「評価が高い人ではないから、辞めても大丈夫」と思いがちですが、会社の将来にとって非常に大きな宝を失っているかもしれません。

伊達:

創造性が高い人材を優先的に配置できる場があるとよいでしょうか。

永島:

イノベーションを起こしたいのであれば、そうした場を準備した方が良いでしょう。創造性を発現できるステージがなければ、創造性が高い人物が活躍する場所がないですので、部署の創設が難しければ、ポジションやタスクフォースでも構いません。特定の課題を短期間でやり抜く際に、創造性の高い人材は活躍する可能性が高いです。

創造性の高い人材は、一旗揚げるまでが苦しいのです。そこを通り抜ければ、「すごいね」と評価されるようになります。とはいえ、一回きりではなく、継続的に創造性を発揮できる場を提供しないと、やはりエンゲージメントが低下し、転職してしまうこともあります。

伊達:

その点に関連して、参加者からの質問が来ています。「創造性の高い人材が、一発屋で終わり、早期離職しないための留意点はありますか」という質問です。

永島:

重要なのは連続性です。ただし、会社として創造性を発揮できる場を用意できないのであれば、別の会社に移るのは仕方のないことですし、本人にとっては悪い選択ではありません。会社側が用意できることは限られています。全員をリテンションするのは難しいと割り切ることも大事です。

伊達:

創造性を発揮できる場をつくる役割は、社内でどのような部署や役職の人が担うべきでしょうか。

永島:

ハブになるのは、人事です。ただし、そういう場を提案してくれたり、普段の仕事から切り出したりしてくれるのは、各本部の責任者です。創造性が求められる課題を見つけ、いかに切り出していけるかがポイントだと思います。

伊達:

人事が創造性の高い人材や創造性を発揮する場の正当化を上手く行えると良いですね。そうすると、社内でも示しがつきます。

永島:

部長層のミーティングや朝会などで、発表会を行っていましたね。創造性の高い人材は、普段、承認されてない可能性が高い。そういう人材が承認される場面をつくると、本人にもプラスですし、周りも「うちに、そんな社員がいたのか」と気づけます。

(4)創造性の高い人材が発言するために

永島:

創造性の高い方々が発言しやすいように、心理的安全性を高める必要があると言われることがあります。ただし、心理的安全性を全社に広げるのは実際には簡単ではありません。大企業の場合はなおさらです。

伊達:

心理的安全性の研究においては、様々な視点からアイデアを出せる人から成る集団においては、心理的安全性が高いほど問題解決に向かいにくいことが分かっています。拡散的になって、話が脱線するからです。

永島:

それに、中途半端な心理的安全性だと、創造性の高い人材は場の空気を読まなければならず、逆に沈黙することにもなりかねません。

伊達:

創造性の高い人材がいるチームで重要なのは、良い意味で「無視できること」なのかもしれませんね。お互いに聞いているようで聞いていないぐらいの方が、良いアイデアが生み出される可能性があります。

永島:

上司に曖昧耐性があって、「今のはノイズだな」「今のは良いこと言ったな」などと、イライラせずに受け取れる人がいるといいですね。

(5)アイデア生成と実行の役割分担

伊達:

少し話題を変えます。イノベーションにはアイデアの生成と実行という2つがあるというお話をしました。この2つは同じ人物が行えるのでしょうか。それとも役割分担をする方が良いのでしょうか。

永島:

ミニアイデアなら、生成から実行まで同じ人物が持っていって良いと思います。ただ、規模の大きいプロジェクトになるなら、生成を担った人材は実行のフェーズではアドバイザーのような役割にとどまり、次の生成に移ってもらったほうが良いでしょう。

例えば、アイデア生成に長けた人材がアイデア実行が得意であるとは限りません。それどころか、一般には両立しにくいはずです。

伊達:

そろそろ終了時間が近づいています。永島さんとの対談で、創造性の高い人材の見つけ方・育て方・活かし方について考えることができました。最後に、永島さんから一言お願いします。

永島:

日本の企業が創造性を潰してしまう部分があるのは、自分の経験からも感じるところです。それをどう拾い上げるかが、今後、重要なポイントになると感じています。ありがとうございました。

伊達:

ご参加いただいた皆さん、ありがとうございました。

(了)

#伊達洋駆 #セミナーレポート

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