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コラム

人事・HR事業者のためのゲーミフィケーション入門:ゲームの発想で人事を変える!?(セミナーレポート)

コラムセミナー・研修

ゲームが人を惹きつける要素や特徴を、ゲーム以外の様々な領域に応用しようとする、「ゲーミフィケーション」という考え方があります。マーケティングやウェブデザインなどの領域では、既に盛んに取り上げられているゲーミフィケーションですが、人事領域においても応用が始まりつつあります。本レポートでは、そもそもゲーミフィケーションとは何か、人事領域への導入事例、導入の際のポイントについて解説します。

※本レポートは、ビジネスリサーチラボが20214月に開催した「人事・HR事業者のためのゲーミフィケーション入門:ゲームの発想で人事を変える!」をもとに編集・再構成したものです。

講師

伊達洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『現場でよくある課題への処方箋 人と組織の行動科学』(すばる舎)や『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)など。


ゲーミフィケーションとは

皆さんの中には、ゲームをやり始めるといつの間にか時間が経ってしまい、気づけば夜中になっていたという経験がある方もいるでしょう。また、ゲームの世界に夢中になって、隅から隅まで様々なところを探索し、ゲームに自然に詳しくなったという経験をされた方もいるかもしれません。ゲームには、誰かから強制されるわけでもなく、のめり込んだり、学習できたりする性質があります。

このように、私たちにも馴染みのあるゲームですが、「ゲームとは何か」と聞かれると難しいものです。実は、ゲームは次のような構成要素から成るものです。

1つ目が、「ルールに基づくシステムである」ということです。ゲームにはルールがあります。例えば、RPGであれば、「どんなモンスターを倒したかによって、得られる経験値が異なる」「一定の経験値を得ることにより、キャラクターのレベルが上がり、能力値が変化する」といったルールが存在します。

2つ目が、「良い結果に向けてプレーヤーが努力し、結果に対して愛着を持つ」というものです。結果に無関心だと、ゲームは成り立ちません。

3つ目が、「プレーヤーには裁量の自由がある」こと。つまり、何か1つのことしかできないというではなく、いくつかの行動の中から選択できる、ということもゲームの特徴になっています。

以上のようなゲームの構成要素を、ゲームではない文脈に用いることを「ゲーミフィケーション」と呼びます。つまり、「ゲームの持っている発想や要素を、他の領域に応用する」。これがゲーミフィケーションの基本的な定義です。

ゲーミフィケーションの具体例

具体的にゲーミフィケーションをイメージするために、2つの例を挙げます。1つ目が、「投資信託のクライアント向けのゲーミフィケーションとして、アバターのシステムを開発した」という事例です。

従来の投資信託では、ある銘柄を買う場合、図1のような機械的な画面が一般的でしたが、この画面をゲーミフィケーションすると、図2のようになりました。

図1:従来の投資信託における銘柄売買システム(※1から抜粋)

図2:ゲーミフィケーション後の銘柄売買システム(※1から抜粋)

2では、ゲーミフィケーションによって、システムがサッカーゲームのように捉え直されています。投資には銘柄によってリスクの違いがあります。キーパーやディフェンダーは、資産価格の変動が小さい低リスク銘柄を表し、ストライカーやフォワードは、資産価格の変動が大きい高リスク銘柄を表しています。

実際に銘柄をフィールド上に入れていくと、例えば、ストライカーやフォワードばかりの布陣になっていれば、高リスクの布陣であることがわかります。逆に、キーパーやディフェンスばかりでは、低リスクではあるものの、守りに入りすぎているのではないかと気づけます。このように、自分の投資のポートフォリオが視覚的に理解できる効果があります。投資という行動に対して、ゲーム的な要素を持ち込んでみたのが、1つ目のゲーミフィケーション事例です。

2つ目は、大学生のオンライン会議へのエンゲージメントを高めるために、ゲーミフィケーションを導入した事例です。こちらの事例の中では、学生同士がオンライン会議を行うに当たって、バッジ、進捗バー、リーダーボードを作成するという工夫がなされました(図34)。

バッジは、ある行動を取ると大学生に付与されます。進捗バーは、今自分がどういう状態にあるのか、この先どうなっていくのかを示しています。リーダーボードは、自分の得たポイントについて、他の人と比較したとき、自分の相対的な位置が分かるようなものになっています。いわばランキング表です。

図3:バッジ・進捗バー(※2から抜粋)

図4:リーダーボード(※2から抜粋)

バッジ、進捗バー、リーダーボードという3つの仕組みを導入することに、どのような意義があるのでしょうか。 

・バッジは、「ある行動を取るとバッジがもらえる」という説明が事前に行われるため、オンライン会議において、自分に期待されている行動、取るべき行動が明確化されます。

・進捗バーがあることで、目指すべき目標と、自分がその目標にどれだけ近づいているか、目標達成のためにはどれだけ行動を取ればいいかがわかります。

・リーダーボードがあることで、他の人たちがどれほど頑張っているかが見える状態となり、他者と比較して、自分はポイント、つまり期待される行動をどれだけ取れているのか、取れていないのかが分かります。

研究においては、このような仕組みを導入することで、オンライン会議に対するエンゲージメントが高まったことが明らかになりました。

ゲーミフィケーションの人事への応用

ゲーミフィケーションは、人事を含む経営分野での導入が始まりつつあります。実際、経営分野におけるゲーミフィケーション研究の論文は203本もあります。

経営分野におけるゲーミフィケーションの研究は、図5の通り、2010年以降ごろに増加しています。また、人事への応用に絞ると(図6のグラフのオレンジ色)、エンゲージメント・満足度・モチベーション・パフォーマンスを高めていく目的で、ゲーミフィケーションを導入しようという事例が多く見られます。

図5:年ごとのゲーミフィケーション論文の出版数(※3)

図6:領域ごとのゲーミフィケーション利用目的(※3)

人・組織・マネジメント領域における、ゲーミフィケーション導入事例

人・組織・マネジメント領域におけるゲーミフィケーション導入事例を3つ紹介します。

1つ目は「社内の人事システムをゲーミフィケーションする」という事例です。タレントマネジメントシステムや人的資源管理のシステムを、ゲーミフィケーションする研究が行われています。

実際に、人材を採用する際に採用の進捗を表示する、従業員が良い行動を取った場合にバッジを提供する、研修が終了した場合にバッジを提供するといった要素を、ゲーミフィケーションとして導入した事例があります。

例えば、マネージャーからの承認として、「こういうことをよく頑張りましたね」というバッジを、部下に対して提供するといったものです(図7)。

また、自分のプロフィールで、今どれぐらいのポイントがあるのか、どういうバッジを自分は持っているのかが見られるようにしています。さらに、ポイントが高い順に並んでいるリーダーボードを表示して、他の人はどれだけ感謝されているか、自分は今どれくらいの順位にいるか、ということを表現しています(図8)。

この事例では、ゲーミフィケーションを行った方が、パフォーマンスやモチベーションなどが高いという結果も得られています。

図7:マネージャーから付与されるバッジ(※4)

図8:リーダーボードとプロフィール(※4)

2つ目は「研修をゲーミフィケーションする」事例です。この事例においては、セキュリティースキルの研修にゲーミフィケーションを導入しています。ハッカーからの攻撃を防ぐために、ハッキングに対してどのように防御するのか戦略を選び、戦略の組み合わせ方を学んでいく構成となっており、ゲームをクリアすることでセキュリティースキルを身に付けることができます。

研修では、バッジ・ポイント・リーダーボードに加えて、自分のアバターや、他者と協力してプレイする要素、ストーリーなども存在しました。

3つ目の事例は「ソフトスキルのアセスメントにゲーミフィケーションを応用する」というものです。この事例では、ソフトスキルとしての、レジリエンス・適用性・柔軟性・意思決定力などの能力を個人がどの程度持っているのかを測定するために、ゲーミフィケーションを利用しています。

例えば、プレーヤー(従業員)がアバターを選び、測定するソフトスキルごとに存在する島の中を旅する。そこでのクエストなど、どのような行動をプレーヤーが取ったか、その行動を基にアセスメントが行われる、という仕組みです。ゲーム世界のマップなども用意されており、さながらRPGのようになっています。

他にも、ミッションをクリアするとポイントがもらえたり、ゲームが終わると結果レポートをもらったりすることもできます。この研究においては、アセスメントを途中で中断することもでき、最初から最後まで絶対にやらないといけないわけではないことが強調されています。

ゲーミフィケーションにおける重要なモチベーショナル・アフォーダンス

続いて、ゲーミフィケーションの中で重要な概念であり、人事業務、組織マネジメントにおいても有用な、「モチベーショナル・アフォーダンス」について解説します。その名の通り「モチベーションに働きかけるアフォーダンス」という意味です。

まず、どんなモチベーションに働きかけるのか。モチベーショナル・アフォーダンスでは、モチベーションの「自己決定理論」を背景に、以下の三つのモチベーションに対して働きかけることを目指しています。

  1. 自立性:自分から行動したい、というモチベーション
  2. 有能感:自分の力で効果的に振る舞いたい、というモチベーション
  3. 関係性:他の人と関係を構築したい、というモチベーション

また、アフォーダンスという言葉ですが、これは、ギブソンという研究者が、環境や事物が意味や価値を提供することを「アフォードする」と定義し、そこから作られた造語です。

2つの例を挙げます。1つ目は、ビジュアルクリフ(崖)の実験です(図9)。乳幼児が母親から呼ばれて近づいていきます。近づいていくと、床がガラス張りになっている部分があります。すると乳幼児は、ガラス張りの部分の手前で立ち止まることが分かりました。

ガラス張りの床という環境を前に、「崖のようなものがあり、これ以上進むと危ないという」意味を、乳幼児が受け取っているのです。

図9:ビジュアルクリフの実験

2つ目は、パッケージデザインです。左のデザインを見ると、パッケージをどこから開ければいいのかが判断しにくくなっています。右の赤枠で囲われたデザインは、一部飛び出しています。飛び出している部分を引っ張れば開きそうです。「ここを引っ張ってください」と説明されなくても、ここを引っ張りたくなります。このように、「物が意味を人に対して与える」、どことなく行動が促されるということが、アフォーダンスです。

図10:パッケージデザインにおけるアフォーダンス

整理すると、モチベーショナル・アフォーダンスとは、

  • 何らかの事物や仕掛けを準備する
  • すると、プレーヤーの行動が促される
  • そして、プレーヤーのモチベーションが高まる

というものです。ゲーミフィケーションの中では、このモチベーション・アフォーダンスが効果的に用いられています。

モチベーショナル・アフォーダンスのタイプ

モチベーショナル・アフォーダンスは4つのタイプに分かれます。

タイプ1は、「パフォーマンスの状態について、定量的な数値を提供する事物」です。バッジ、ポイント、進捗バーなどが該当します。これらを見ることで、プレーヤーは自立性や有能感などを高めることができます。

例えばeコマースの進捗バーにおいて、もう少し商品を買ったら自分のランクが上がることがわかっていると、つい商品を買ってしまいます。「次に進めてうれしい」と感じるものが、タイプ1のモチベーショナル・アフォーダンスです。

タイプ2は、「ゲームの意味について深く理解してもらうための事物」です。ストーリー、アバター、本人やプレーヤーのプロフィールが、モチベーショナル・アフォーダンスに当たります。これも自立性や有能感に対して働きかけるものです。

タイプ3は、「社会的な影響力を示すような事物」を指します。例えばリーダーボード、順位表です。コラボレーションや、他者から「いいね」をもらえるシステム、これらもタイプ3に含まれます。これらは、有能感と、「人との緊密な関係を構築したい」という関係性のモチベーションに働きかけるものです。

 タイプ4は、「体験の質を高める事物」です。例えばアニメーション、音楽、音声などは、モチベーションを直接高めるというよりも、ゲームらしさを演出することに用いられるケーが多いです。

 これまでの研究を見ていくと、モチベーショナル・アフォーダンスのどれが多いか、ということが見えてきます。結論としては、タイプ1である、バッジ、ポイント、進捗バーなどが一番多いです。タイプ4である、アニメーション、音楽、音声などはあまり実装されていない傾向があります。すなわち、「実装が簡単なものほど実装されている」ことが分かります。

 ゲーミフィケーションでは、モチベーショナル・アフォーダンスを上手く設計することが大事です。これがゲーミフィケーション導入時のポイントの一つです。4タイプあるモチベーショナル・アフォーダンスを基に、モチベーションを引き出す仕掛けを作っていくと、人事施策の運用をより豊かなものにできると考えられます。

 なお、ゲーミフィケーションという言葉だけを聞くと、ゲームの世界を完璧に作り上げないといけない感覚になりがちです。しかし、タイプ1だけ、つまりバッジやポイントを付けるだけでも、十分なゲーミフィケーションと言えます。

ゲーミフィケーションのデメリット 

ゲーミフィケーションには総じて効果があるということが、多くの研究で明らかとなっています。例えば、2010年代の研究を統合的に分析した論文によると、心理的にも行動的にも学習成果を高めたり、パフォーマンスを高めたり、またストレスがパフォーマンスを下げる悪循環を抑えることができたりします。

ただ、すべての人にゲーミフィケーションの効果があるわけではありません。例えば、性格による差が検証されています。明るい高い人は、ポイント、レベル、リーダーボードといった、タイプ1のモチベーショナル・アフォーダンスを好む傾向があります。裏を返せば、外交性が低い人は好まないかもしれない、ということです。

 また、真面目な性格の人は、レベルや進捗バーなどを好みます。レベルアップしていく、今この位置にいる、ということが分かると、コツコツ頑張ろうと思えるからでしょう。

 他にも、参加意欲による差があることも分かっています。ゲーミフィケーションに対する参加意欲が低いと、むしろ冷めてしまったり、強制されていると感じたりすることで、パフォーマンスやモチベーションが下がるのです。

 ゲームそのものがあまり好きではない人も存在します。ゲームらしさを出すことで、かえってやりづらさや不快感を抱く人もいます。あまりゲームらしさを出さないほうが良いのでは、と指摘している研究もあります。モチベーショナル・アフォーダンスは設定しつつもゲームらしさは消す、というやり方も提案されています。

 別の側面として、ゲーミフィケーションは行動の量を高めていく・増やしていくことは得意ですが、行動の質は必ずしも高まるわけではない、ということも分かっています。

 例えば、ある絵画の画像を5秒見て、そこに描かれていた内容についてタグ付けしていく課題があります。ポイントなどのゲーミフィケーションが導入された状態でタグ付けしたチームは、多くのタグを付けることができました。一方、正しいタグ付けがされているかという「質」については、ゲーミフィケーションが導入されたチームでも、何もしていないチームでも、あまり変わりませんでした。

 ゲーミフィケーションには総じて効果はありますが、扱い方に注意しないといけないこともあります。

ゲーミフィケーション導入における「準備」の重要性

次に、ゲーミフィケーションを設計する際のプロセスが、ゲーミフィケーションの有効性を高めるのではないか、という点を2つの事例から考察します。

1つ目が銀行の事例です。銀行で知的労働者向けに、パフォーマンス評価とランキングを提示するシステムを設計しました。自分たちの部門単位のパフォーマンスが、それぞれどのようになっているか、アベレージと比較してどのように違うのかを表しているのが図11です。

図11:部署ごとのパフォーマンス(※5)

個々人の得点もシンプルに表示され、ゲームらしさはありませんが、アベレージ(赤い線)があり、ある人がどれぐらいの得点を取っているのかが見える形になっています(図12)。これらをモチベーショナル・アフォーダンスで考えると、定量的に可視化しており、ある意味でポイント制でもあるため、タイプ1のモチベーショナル・アフォーダンスと捉えることができます。

図12:グループ内の個々人の結果(※5)

この研究では、上記のようなパフォーマンスの示し方が効果的である、という知見が得られています。グラフを見て、何が重要なパフォーマンスなのか、というKPIを定めることができます。

ここからが興味深いのですが、KPIを定めるフェーズに注力していることも、この研究の特徴です。調査、インタビュー、アンケートを行い、何がKPIとしてふさわしいかということを定めた上で、それを促すようなモチベーショナル・アフォーダンスを設定しています。ゲーミフィケーションの前段階での準備もまた、効果をもたらすのです。

2つ目の事例では、ソフトウェアの改善を行う従業員に、モチベーションを高めてもらうためにポイント制を導入しました。具体的には、この業務をするとこの点数を与える、という業務とポイントの対応表を作りました。ポイントの付与は、Googleのスプレッドシートで共有しながら管理しているため、自分が今何ポイント貯めているのか分かります。

この研究でも「重要な業務や行動とは何か」「それをどう評価すればいいか」を考える部分に時間を割いて検討しています。その結果、ゲーミフィケーションには効果が出ることが分かりました。

これら2つの事例から、単にゲーム的要素を導入すれば良いわけではないことがわかります。ゲーミフィケーションを導入する際は、まず「従業員がどんな状態になってほしいのか、なるべきなのか」を定義する必要があります。かつ「そのためにどんな行動が必要になるのか」を考えなければなりません。「こういう行動を促していけばいい」ということが分かれば、それに基づいて、バッジ、ポイント制、「いいね」システムなどによって、モチベーショナル・アフォーダンスを設計する、といった順番で進んでいきます。

準備を入念に行った上であれば、モチベーショナル・アフォーダンス自体はシンプルで構わないのかもしれません。逆に、どれほどデザインがきれいでも、準備が行われていないゲーミフィケーションは望む効果をもたらしにくいと考えられます。

Q&A

Q.人事システムを擬人化、アバター化することで、プレーヤーに役割をしっかり演じてもらう。こういった考え方を導入すれば、働きやすい職場になるのでしょうか?

 組織に既にある権力関係やパワーバランスから、一時的に自由になる空間や機会を作り出すことも、ゲーミフィケーションが持っている特徴の一つです。ただ、そのようなゲーミフィーションを作り上げようとすると、難易度が上がってくるため、自社で内製するのは難しいかもしれません。

Q.研究開発員のような、業務に失敗が当たり前の職種の人のパフォーマンスを上げるKPIは、どのように決めていけば良いでしょうか?

 例えば、失敗の数をKPIにするというのはいかがでしょうか。一般的な業務では失敗は回避すべきものとされがちですが、あえて、失敗を肯定的に捉えてもらうために、失敗の数をKPIにする。

 失敗ポイントが貯まることは、失敗の数が増加しているということです。それにより、研究開発で成功する可能性も出てくる。人事評価として失敗ポイントを数えてみるということは、モチベーショナル・アフォーダンスとして有効だと考えられます。

Q.ゲーミフィケーションでクオリティーが上がらなかったという研究結果の詳細を、もう少し詳しく知りたいです。

会社がゲーミフィケーションを導入したのですが、従業員からすると、ゲームで楽しむことを強制されているような感覚になり、結果として参加意欲が高まりにくく、会社に対して冷めてしまい、パフォーマンスが上がらなかった、という事例がありました。

この事例では、「ゲーム感を強く出すと引いてしまう人がいる」「会社と個人の関係性を踏まえた上で、ゲーミフィケーションを導入していく必要がある」などと様々な含意があります。 

先述した絵画のタグ付けの事例でも、ポイントを稼ぎたいあまり、タグは多く付けるというモチベーションは高まったものの、タグの中身や質を高めようというモチベーションが高まらなかった、というものもあります。 

最後に、「根本である企業風土や人に対する姿勢が最も重要で、それを生かすためのツールが、今回のゲーミフィケーションであると感じました」と、重要な示唆のある感想をいただきました。例えば、管理的な会社、人をコントロールしたい会社において、ゲーミフィケーションはコンセプトとしてフィットしません。

管理しようとすると、楽しいゲームのはずが楽しくなくなります。ゲームが持っているのは、コントロールしよう、管理しようという世界観ではありません。そうではないからこそ、自立性や有能感、関係性に対するモチベーションが自然と高まっていくのであり、それこそがゲームの持っている良さです。その良さを伸ばしていける設計・運用にする必要があります。

コントロールするためのゲーミフィケーションになってしまうと本末転倒であり、ゲーミフィケーションを導入した意味がなくなってしまいます。ゲーミフィケーションを取り巻くその状況との相性、フィットも重要となります。


1Rodrigues, F. L., & Costa, C. J. O. A. (2016). Playing seriously: How gamification and social cues influence bank customers to use gamified e-business applications. Computers in Human Behavior, 63, 392-407.

2Ding, L., Kim, C., and Orey, M. (2017). Studies of student engagement in gamified online discussions. Computers & Education, 115, 126-142.

3Wanick, V. and Bui, H. (2019). Gamification in Management: a systematic review and research directions. International Journal of Serious Games, 6(2), 57-74.

4 Silic, M., Marzi, G., Caputo, A., & Bal, P. M. (2020). The effects of a gamified human resource management system on job satisfaction and engagement. Human Resource Management Journal, 30(2), 260-277.

5Abedi, E., Shamizanjani, M., Moghadam, F. S., and Bazrafshan, S. (2018). Performance appraisal of knowledge workers in R&D centers using gamification. Knowledge Management & E-Learning: An International Journal, 10(2), 196-216.

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