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コラム

首都圏と地方のオンライン化の違い:杉浦二郎氏×伊達洋駆『オンライン採用』対談レポート

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ビジネスリサーチラボでは、代表の伊達洋駆の新刊『オンライン採用 新時代と自社にフィットした人材の求め方 』の出版を記念し、モザイクワーク代表の杉浦二郎氏を迎えて「首都圏と地方のオンライン化の違い」をテーマに対談を行いました。新型コロナウイルス感染症の影響で採用活動のオンライン化が進みましたが、その状況は首都圏と地方で異なる様相を見せています。

対談では、採用活動のオンライン化をめぐる首都圏と地方の違いについて取り上げました。

 

地方企業はオンライン化があまり進んでいない

伊達:

初めに、2015年に実施されたIT利用に関する調査を紹介します。この調査では、情報端末を企業でどの程度導入しているかを尋ねていました。東京圏、三大都市圏(東京、中部、近畿)、それ以外で比較しているのですが、「そこまで大きな差はない」という結果になりました。

正直、私としては意外な結果だと感じました。というのも、私が地方企業で採用を行っている方から聞いていた「地方企業はオンライン採用どころか、情報化そのものが十分に進んでいない」という話と異なっているように感じたからです。

もちろん、調査は調査で結果を真摯に受け止める必要があります。あるいは、情報端末とオンライン採用は別物なのかもしれません。とはいえ、こうした大規模な集計からこぼれ落ちる現実もあるのかもしれません。

杉浦さんは新潟を中心に、地方企業に向けた採用支援を行うと同時に、首都圏でも活動をされています。首都圏と比べた際の地方のオンライン採用の現状について、杉浦さんはどのような実感をお持ちですか。

杉浦:

地方でのオンライン採用に対する温度感は高くありません。2021年3月の広報解禁時に地方に行われたリアルの採用イベントは、数年ぶりに動員数が増えたほどです。実はここ数年の動員数は下がっていたのですが、今回久しぶりに活況だったことを考えると、リアル待望論の存在が透けて見えます。

採用に限らず、地方ではコロナ禍において、テレワークも十分に進みませんでした。私が地方でお仕事させていただく際、オンラインではなく対面で打ち合わせを求められることが少なくありません。

一方で、首都圏はどうかというと、地方と比べると「オンラインを進めていこう」「オンライン便利だよね」という声が多いように思います。ここに、地方と首都圏の温度感の違いが現れています。

オンライン化が進む首都圏企業に地方学生は就職する

杉浦:

また採用では、地方の学生が首都圏の企業に採用される「ストロー現象」が起きています。県をまたいで移動すると、ゼミに出入り禁止になる学生もいるようです。そもそも県外への移動を禁止している大学もあります。

移動が難しい状況において、オンライン採用でなければ学生は選考を受けられません。地方の企業より首都圏の企業の方がオンライン化に対応しているため、学生が首都圏の企業を受けて、そのまま就職をするというケースを目にします。

伊達:

昨年、ビジネスリサーチラボで、地方の大学に通う学生に対して内定者調査を行う機会がありました。その中で、地方の国公立大学などの学生に対しては、首都圏の企業から幾らかのアプローチがあるという話も出てきました。

コロナ禍以前、首都圏の企業の採用担当者は、地方に直接出向く必要がありました。しかし、採用がオンライン化されれば、移動しなくても学生にアプローチできるのですよね。アプローチが増えたとしても不思議ではありません。

加えて、「地方企業からも声をかけられたか」と聞くと、あまり肯定的な回答はありませんでした。もしくは、「アプローチはあったものの遅かった」という回答もありました。声をかけられたとしても、既に首都圏の企業への就職を決めてしまっていたということです。

杉浦:

さらに、新卒採用のメインストリームがインターンシップに移行している中で、地方はその動向に乗れていなかったことも大きいと思います。インターンシップに取りかからなければ採用が上手くいかないという状況は、コロナ以前から起きています。インターンシップを受けるために、地方の学生が東京へ行く状況がありました。

そうした状況の中でコロナの影響があったということで、地方企業からすれば、インターンシップとオンライン対応というハードルの高い組み合わせに苦しめられています。学生はインターンシップを受ける。オンラインでインターンシップをやってくれるなら、なおさらそこへ行きます。

そうした企業が採用で有利になっていくのは自然なことです。私の見る限り、地方と首都圏という比較の中では、オンライン化は本採用よりも、どちらかといえばインターンシップに対する影響が大きいように感じています。

大企業がオンライン化の波に乗れた理由

伊達:

一つ掘り下げたい点があります。オンライン化は新しい動向です。この動向に乗るか否かというときに、心理的な影響もあるのではないかということです。オンライン採用に積極的にならない理由の一つとして、心理的な障壁があります。杉浦さんは、オンライン採用に対する心理的障壁は、なぜ生まれてくると思いますか。

杉浦:

全ての会社に当てはまるわけではありませんが、企業や人は変化をあまり好みません。それに、変化させようとすると、説明のコストがかかってしまいます。そのコストを払ってまで何かを変える気持ちになれず、結果的に前年踏襲を続けていくのではないでしょうか。

伊達:

私が興味深いと思うのは、コロナ禍以前は、首都圏の大企業の採用について、「変革が必要だと叫ばれながらも、なかなか本格的な改革が起こらない」ということが言われ続けていたということです。ところが、コロナ禍になってみると、どうでしょう。少なくとも、採用のオンライン化に関しては、首都圏の大企業が非常にスピーディーに、かつ、組織的に対応してきています。

これには2つの理由があると考えています。一つは、必要に迫られたという理由です。人工が集中する都市部で採用を続けようとすると、オンライン化せざるを得なくなったわけです。オンライン化しないと採用が進まないとなれば、それはもう対応するより他にありません。

もう一つですが、オンライン化をやり始めて企業側も学生側も気づいたと思うのです。オンラインで採用を進めるのも悪くない、便利だということに。情報経営学の分野では、「技術受容モデル」という考え方が提案されていますが、新しい技術が利用されるためには、「役に立つ」「使いやすい」といった気持ちを持つ必要があります。オンライン採用をめぐっては、そうした心理が作動したのかもしれませんね。

地方の制約が魅力になるケースもある

伊達:

採用に限った話ではないのですが、地方企業のオンライン化と言うと、どうも「マイナス」の側面に光が当たりやすいように思います。確かに、リソースや心理的障壁があり、苦しい状況にいるのかもしれません。しかし、そうした制約があるからこそ、今までにない新しい何かが誕生する余地もあるのではないでしょうか。

「リバース・イノベーション」という考え方があります。主には、発展途上国における制約の中で生み出されたプロダクトが先進国に流入してくる現象を指します。例えば、インドで国民の所得に合わせた価格帯の小さな車が開発された事例は有名です。

もちろん、リバース・イノベーションの実現までは難しいかもしれませんし、そもそも都市と地方を先進国と発展途上国のメタファーで語ること自体が適切ではない恐れもありますが、いずれにしても、「地方だからこそ可能性がある」という見方はできるはずです。杉浦さんから見て、地方ならではの長所を感じることはありますか。

杉浦:

そうですね。人々の働き方が変わっていき、ライフを充実させたいという価値観が出てきた影響もあり、地方で働く・暮らすことの再評価が始まっています。このことを背景に、U・Iターンが進んできたと考えています。

そう考えると、地方企業には大きなチャンスがあります。採用一つ変えるだけで、どんどん応募者が来る可能性もあるのです。例えば、私の経営するモザイクワークという会社は今、新潟に拠点があります。しかし、新潟出身者は私ともう一人の2人しかいません。

それ以外の人が、なぜ新潟に来てくれているでしょうか。それは、新潟という、暮らしと仕事が一体となった環境に「生きている」感覚があるからです。首都圏で働く上で、このような価値を提供することはなかなか難しいですよね。

地方の環境を「不便」と捉えることもできますが、実は同じ環境を肯定的に捉えることもできるわけです。リバース・イノベーションとは異なるかもしれませんが、このように制約を魅力に変えることもできるのだと思います。

SNSは一部の層に魅力が伝わるように用いる

伊達:

採用のオンライン化という意味では、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)の活用が大きなテーマになっています。SNSについて、杉浦さんはどのように見ていますか。

杉浦:

地方企業の採用では、まだSNSが十分に活用されていません。何よりまず注意しなければならないのは、使うSNSを間違えると効果が薄くなってしまいかねない点です。例えば、FacebookやInstagramは採用にあまり親和性があるように思えません。一方、TwitterやYouTubeは有望です。

特に、YouTubeをしっかり活用してない企業が多いのは、もったいないことです。動画コンテンツをあげるというと、どうしてもクオリティを気にしがちです。しかし、YouTubeはクオリティが低くても構いません。ただスマホで撮影したものを気軽にアップしていくところから始めても良いと思います。

伊達:

YouTubeで気楽にアップした動画であれば、実態を伝えることもできますよね。例えば、地方で働いて生活することについて把握できます。作り込んだ動画にはない形で日常を垣間見られるのは、求職者にとっては貴重です。

採用サイトに「1日の過ごし方」が掲載されている企業もありますが、どうしてもワークが中心になりがちです。先ほどの杉浦さんのお話の通り、地方の制約を魅力に変えるとすれば、ライフも含めた実態を発信する必要がありますね。その意味で、SNSはマス向けではなく、一部の人に魅力が伝わるものにすればいいのではないかと思います。

杉浦:

おっしゃるとおりです。SNSの活用に対して、面を広げるイメージがある方が多いのですが、これは逆で、いかにコアをつくるかが重要です。一部の人に本当に刺さる作り方をしていくということですね。

地方企業がマインドシフトしていくために

伊達:

地方企業のオンライン化を進める上では、技術的な環境を整えること以外にも、心理的な変化が必要になることをお話しました。では、どのようにマインドシフトを実現していけば良いのでしょうか。

杉浦:

地方企業はオーナーカンパニーが多いため、オーナーの考えを変えていくことが大事になります。私の場合は、オーナーとのやりとりに時間をかけています。さらに地方においては、大都市のモデルに弱い企業もあります。「東京ではこれが主流です」と言うと「やってみようか」となりやすい。

とはいえ、全ての地方企業がオンライン化を同じように進めなければならないかというと、そういうこともないと思います。「自社がどうあるべきか」をもう一度考え直し、「このままでいく」なら信念を持って維持する。「変えたい」のであれば、しっかりと対話を行いながら変えていく必要があります。

伊達:

そうですね。オンライン化は手段であって目的ではありません。オンライン化の仕方や程度は、地方と首都圏を問わず、戦略的に選択する問題です。しかし、ひとたびオンライン採用を導入すると決めれば、マインドを変える必要はあります。

そういうときに重要なのは、「変えないとまずい」というホラーストーリーより、「自分にもできそうだ」という自信をいかに持ってもらうか、です。後者は専門的には自己効力感と呼びますが、小さな成功体験を提供すること、成功事例を共有すること、行動に向けて励ますことなど、外部からの介入で向上できることが分かっています。

(了)

 

登壇者

伊達 洋駆
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、ピープルアナリティクスやエンゲージメントサーベイのサービスを提供している。著書に『オンライン採用』(日本能率協会マネジメントセンター)、『組織論と行動科学から見た 人と組織のマネジメントバイアス』(共著:ソシム)など。

 

杉浦 二郎
2001年に三幸製菓株式会社へ入社。2015年9月まで人事責任者を務めた後、ヤフー在職中の2016年4月に株式会社モザイクワークを設立。「カフェテリア採用」「日本一短いES」「即、採用」等々を生み出し、TV、新聞、ビジネス誌等、多くの媒体に取り上げられる。また、地元新潟において、産学連携キャリアイベントを立ち上げるなど、「地方」をテーマにしたキャリア・就職支援にも取り組んでいる。ラジオNIKKEI「シューカツHANGOUT!」レギュラーコメンテーター。

 

 

 

 


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(日本能率協会マネジメントセンター)

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