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プロジェクト例

「正しい」サーベイサービスとは何か?

コラムプロジェクト例
「データドリブン」という言葉をHR領域でも目にする機会が増えています。データを踏まえて組織の現状を精緻に把握し、有効な施策を展開したい。そのような考えを持つ企業が増えているのかもしれません。実際に、弊社の顧客企業からの問い合わせは増加傾向にあります。また一般的にも、独自にサーベイを設計したり、ベンダーのリサーチサービスを取り入れる企業が増えているのかもしれません。

今回、本コラムで紹介するA社の事例は戦略系コンサルティングファームにおけるサーベイサービスの開発事例です。企業に対して、組織開発を提供するサイドからの依頼です。実際に、開発を進めたプロセスと弊社が尽力したポイントについて紹介しつつ、ビジネスのなかで組織サーベイを開発する難しさと醍醐味を提示できればと思います。

 

ご依頼の背景

A社は、企業に対して経営戦略・事業戦略の構築から、その遂行・実践までをサポートする戦略系コンサルティングファームです。A社のコンサルタント達は、組織に対する綿密な分析を徹底したうえで企業内に入り込み、戦略の実行を支援してきました。しかし、近年では戦略の実行局面で、顧客企業内の組織課題(人事課題)がボトルネックになることが多く、コンサルタントにも組織課題の解決が求められるようになってきました。戦略と実行を支援するだけでなく、組織コンサルの知見も求められるようになってきたのです。そのような局面において、彼らのアプローチを補強する施策として「組織サーベイ」を開発する必要があり、共同開発者として弊社にお声がけをいただきました。

サーベイ開発のプロセス(概要)

1. キックオフ&ラーニング

A社の担当役員とプロジェクトリーダーを含めて、打ち合わせを複数回行い、以下の共有・確認をしました。

  • A社がコンサルティングを展開するうえでのポリシーやコンセプト
  • A社のビジネスにおける付加価値・競争優位
  • A社の顧客企業規模や彼らの手がけるビジネスサイズ
  • A社のコンサルタントの組織開発に関する知見・ノウハウレベル

…等

一定期間をかけて、顧客のビジネスの「やり方」を私たちが学習したわけです。

2. 設計

その後、上述の内容を踏まえて、弊社にて設問設計を進めました。
文献を整理し、下記の2点を抽出しました。

(1)A社の顧客企業課題を適切に抽出できる概念
 →顧客企業の抱えているであろう組織課題にアプローチしやすい概念は何か?

(2)A社のコンサルティング・アプローチにフィットする概念
 →A社の強みを加速させるために妥当な概念は何か?

これを元に、サーベイの構成や設問内容の設計を行っていったのです。
さらに、これをA社との協議の中で再検討し、A社との試行錯誤を踏まえてサーベイのβ版を完成させました。

3. 試験運用

さらに、設計されたサーベイを顧客企業各社にて試験的に実施し、必要充分なサンプルをもとに尺度の信頼性・妥当性を検証し、さらなるデータ収集とデータ分析を繰り返しながら完成版を構築していきました。

実際に開発されたサーベイサービスは現在非常に多くの企業に導入されています。
現在は、蓄積されたデータの二次分析をもとに更なるブラッシュアップを企画しています。

プロジェクトの含意

サーベイ開発のプロジェクトにおける含意として私たちが感じたことは、サーベイという商品開発には“微細なバランス感覚”が求められるということです。

A社のプロジェクトに限らず、サーベイを商品として開発する場合、多様な「正しさ」が発生します。

例えば、以下です。

  1. A社(ベンダー企業)の組織的正当性:A社の重視するコンセプトは反映されているか?
  2. A社(ベンダー企業)の戦略的正当性:A社の戦略的な意図は反映されているか?
  3. A社(ベンダー企業)の運用的正当性:A社のコンサルタントが活用できるか?
  4. 顧客企業における正当性:実施することで顧客企業に対して価値を提供できるか?
  5. 学術的正当性の側面:統計学的・経営学的な精度は保たれているのか?

これらの全てを踏まえて「良い」サーベイを構築していくことは容易ではありません。
また、これはA社に限らずしばしば発生するのですが、協議を繰り返すなかで、ともすると④や⑤を置き去りにしてしまう局面が見られました。

”売れるのか?”
”自社のコンセプトが反映されているか?”
”コンサルタントは活用できるのか?”
”自社商品との連動はスムーズか?”

これらの議論は活発に交わされていきました。
もちろん、これを「商業主義」と批判するつもりはありません。
そのような観点を検討することはビジネスにおいてはとても重要です。

一方で、サーベイの本質は、精緻に組織の状況を把握し、しかるべき洞察や意思決定を促すことにあります。

ビジネスとしての利益を想定しながらも、それに流されることなくサーベイとしての確かさも見据えていく。サーベイ開発に携わる者には、そういうバランス感覚が求められるわけです。
サーベイとは、多様な「正しさ」を踏まえながら向き合う必要がある代物と言えます。

エンゲージメントの概念流行によって多くのサーベイが開発されている昨今ですが、それゆえに開発者も導入企業も真摯に「正しさ」と対峙する姿勢が求められているのかもしれません。

#神谷俊 #組織サーベイ

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