2026年3月23日
一人のネガティブがチームを壊す:腐ったリンゴ効果のメカニズム

チームで働いていると、「あの人の『行動』がなければ、この職場はもっとうまくいくのに」と感じた経験はないでしょうか。チームワークは重要ですが、たった一人の行動が、チーム全体の雰囲気や活力を損ねてしまうように感じられる場面に出くわすことがあります。
西洋には古くから「一つの腐ったリンゴは、樽全体をダメにする」ということわざがあります。これは、一つのネガティブな要素が、周囲の健全なものまで汚染してしまうことの比喩です。
このことわざは、大げさな比喩なのでしょうか。それとも、人間の集団において現実に起こりうる現象なのでしょうか。現実だとすれば、一人のネガティブな行動は、どのようなプロセスを経て、周囲の人々の心理や行動を変え、チーム全体の成果にまで悪影響を及ぼしていくのでしょうか。本コラムでは、こうしたネガティブな個人が組織や集団に及ぼす深刻な事態について、そのメカニズムを検討していきます。
一人のネガティブな行動は集団内で不均衡な悪影響を及ぼす
この「腐ったリンゴ」現象の全体像を捉えようとした研究から見ていきましょう[1]。チームの機能不全は、集団全体の現象として語られやすいのですが、実際には「一人」のネガティブなメンバーによって引き起こされているケースもあります。
ある研究では、こうしたネガティブなメンバーを、慢性的に特定の行動を示す人物として三つのタイプに分類しています。一つ目は「努力を惜しむ者」です。意図的に責任を果たさず、他者の努力に「ただ乗り」しようとするタイプです。
二つ目は「ネガティブな感情表出者」です。悲観的な見方、不安、イライラといったネガティブな気分や態度を慢性的に表現するタイプです。三つ目は「対人逸脱者」です。他者への尊敬といった人間関係の規範を破り、他人をからかったり、無礼に振る舞ったりするタイプです。
こうした行動に対し、周囲のメンバーは、「動機づけ的介入」(行動を変えさせようとする)や「拒絶」(関わりを断つ)といった建設的な反応を試みます。
しかし、これらの試みが失敗した時、あるいは問題の人物が上司であるなどの理由でそもそも不可能な時、問題は深刻化します。他のメンバーは自分自身を守るために「防衛」的な反応を取らざるを得なくなり、この段階で、ネガティブなメンバーは真の「腐ったリンゴ」として、グループ全体を蝕み始めます。
この防衛的反応が強力に広がる背景には、二つの心理的な要因があります。一つは「力の欠如」です。相手が力を持っているために「介入」も「拒絶」もできないという無力感が、強いフラストレーションと防衛的な心理反応を引き起こします。
もう一つは、「ネガティブなことの方が強い」という人間心理です。私たちの心は、ポジティブな情報よりもネガティブな情報(特に脅威)に、より大きく、より持続的に反応するようにできています。この「ネガティブさの非対称性」が、一人のネガティブな行動が、他の多くのポジティブなメンバーの行動を打ち消し、不均衡なまでの害を広げる理由です。
防衛的な段階において、先の三つのネガティブな行動は、周囲の人々の心にそれぞれ異なるネガティブな心理状態を生み出します。
「努力を惜しむ者」は、周囲に「不公平感」を引き起こします。「ネガティブな感情表出者」は、その不安やイライラを周囲に「伝染」させます。感情は、相手の表情や声のトーンを無意識に模倣することを通じて伝播するのです。「対人逸脱者」は、無礼や侮辱によって、グループ全体への「信頼を毀損」します。
これらの心理状態に陥ったメンバーは、自らを守るために、怒りを爆発させたり、報復したり、あるいは会議で発言しなくなったり、同僚への協力をやめたりする(撤退)といった、防衛的な行動を取るようになります。最も大きな撤退は「離職」です。
こうした個人の防衛的行動は、三つのメカニズムを通じてグループ全体へと移行していきます。一つ目は、防衛的行動の総量が単純に増える「付加」。二つ目は、ネガティブな行動が模倣されたり、無関係な他者への「八つ当たり」として現れたりする「スピルオーバー」。
三つ目は、より意識的なプロセスである「センスメイキング(状況理解)」です。ネガティブな出来事を経験した人は、そのことを他者に話す傾向が強く、ネガティブな情報が急速に拡散します。その結果、「このグループは問題を解決できない」と認識されると、メンバーはグループへの一体感を失い、「脱同一化」が起こります。
これらのメカニズムを通じて、個人の問題はグループ全体の特性へと変わり、最終的にグループの成果に不可欠なプロセスを阻害します。グループ全体のモチベーションは低下し、ネガティブな感情は創造性や学習行動を妨げます。信頼が失われれば協力は崩壊し、有害な人間関係の対立は増える一方で、有益な議論は抑制されます。
その結果、グループはパフォーマンスの低下やメンバーの幸福感の低下という結末を迎えます。特に深刻なのは、不満を抱いた優秀なメンバーから組織を去っていく「負の悪循環」に陥る可能性です。
優しくも貶める上司は最悪の結果を生む
先ほど見た「対人逸脱者」が、強い力を持つ「上司」であった場合、事態はさらに複雑になります。ここでは、一見すると支援的であるかのように振る舞いながら、同時に部下を陰に陽に貶めるという矛盾した行動がもたらす害悪について調査した研究を取り上げます[2]。
この研究では、「社会的陰謀」という概念が用いられます。これは、標的となる人物の良好な対人関係、仕事上の成功、評判を、時間をかけて損なうことを意図した行動を指します。一度きりの行為とは異なり、軽視する、侮辱する、悪い噂を流す、必要な情報をわざと提供しないなど、継続的かつ意図的に相手を「弱らせる」行為全般を含みます。
ある組織の警察官685名を対象とした調査では、上司や同僚からどの程度の陰謀行動と社会的サポートを受けたか、そして回答者の自己効力感、組織へのコミットメント、反生産的な行動、身体的な症状が測定されました。
分析の結果、「上司から」の陰謀行動は、部下の自己効力感や組織コミットメントの低下、反生産的な行動の増加、身体症状の増加と明確に関連していることが分かりました。
また、陰謀行動がもたらすネガティブな関連の度合いは、サポートがもたらすポジティブな関連の度合いよりも強いことが確認されました。これも「ネガティブなことの方が強い」という心理と一致します。
この研究で重要な発見は、「同じ上司から、高いサポートと高い陰謀行動の両方」を経験している場合に、部下は最悪の結末を迎えていることが判明した点です。具体的には、このような両義的な関係にある部下は、自己効力感と組織コミットメントが最も低く、反生産的な行動と身体症状が最も高くなるという結果でした。直観的に言い換えれば、「優しく支えもするが、同時に貶めもする」という矛盾した対人関係は、受け手にとって最もストレスフルであるということです。
なぜ、こうした一貫性のない関係が最悪の結果を招くのでしょうか。その背景には、受け手が感じる強い認知的な負荷が考えられます。相手の行動が予測不能であること、あるいは「支援者」と「攻撃者」という両立しない認識の間で揺れ動くことが、単純にネガティブなだけの関係性よりも、かえって強いストレスを生み出し、自己評価を削り、心身の不調に向かわせるのではないかと考察されています。
問題のある1名で成績は下がり、中間ピア評価で防げる
ここまでは、ネガティブな行動のプロセスや、上司による両義的な行動の害を見てきました。こうした「問題のある1名」の存在は、具体的にどれほどの損害をチームの成果にもたらすのでしょうか。
教育現場で行われるチームプロジェクトを対象としたある研究が、その実態を客観的な数値で明らかにしています[3]。この研究は、大学の実務系授業において、「悪いリンゴ」、すなわち著しく低い貢献しかしなかったり、チームの規範を逸脱したりするメンバーが、チームの内部状態(ダイナミクス)と、チームの客観的な成果(成績)を、どの程度損なうのかを実証的に調査するものでした。
調査は105チーム(409名)のデータを収集して行われました。この研究では、「悪いリンゴ」を、ピア評価(メンバー間の相互評価)において、個人の受けた評価がチーム平均よりも20%以上低い者として定義しました。この基準に該当した学生は、サンプル全体の12.7%(約8人に1人)でした。
分析では、「悪いリンゴ」が在籍しているチームと、そうでないチームとを比較しました。その結果、チームの内部状態への深刻な悪化が確認されました。「悪いリンゴ」が在籍しているチームは、そうでないチームに比べて、チームの有効性(協働の手応え)、対人関係の質、チームの凝集性(一体感)、チームへの満足度が、すべて統計的に有意に低いという結果でした。その一方で、チーム内の葛藤(摩擦や対立)は、有意に高いことが分かりました。
客観的な成果である「成績」への悪化についても調査されました。その結果、「悪いリンゴ」が在籍しているチームは、在籍していないチームに比べて、プロジェクトのすべての成果物において、有意に得点が低いことが判明しました。
「総合点」で比較すると、その差は約4ポイントにも達していました。これは、大学の成績評価において、評定がほぼ半段階下落することに相当する、小さくない差です。等級の分布を見ても、「悪いリンゴ」が在籍するチームでは、A評価(最高評価)を獲得した比率が、在籍しないチームの約半分にまで減少していました。
有害な労働者の回避はスター採用の2倍超の価値がある
1名の問題あるメンバーが、チームの客観的な成績を引き下げる実態を見ました。この「損害」を、もし金銭的なコストで換算すると、どの程度の規模になるのでしょうか。
卓越した成果を上げる「スーパースター」の獲得に多大なリソースを投入する組織は少なくありません。「スター人材を獲得する価値」と、「有害な労働者を回避する価値」とを比べた場合、どちらが組織にとってより大きな意味を持つのでしょうか。
この問いに、大規模なデータ分析で答えようとした研究があります[4]。この研究は、組織にとって負の側面を持つ「有害な(Toxic)」労働者に焦点を当て、その影響の大きさを定量化することを試みました。分析の対象となったのは、11社、5万人以上という非常に大規模な労働者のデータセットです。
この研究における「有害な労働者」とは、セクシャルハラスメント、職場での暴力、詐欺、重大な会社の方針や法律への違反といった行動が原因で、最終的に「解雇された」人物と定義されました。サンプル全体のうち、約4.5%(およそ20人に1人)が、この定義に該当していました。
分析の結果、有害な行動が職場内で「伝染」する可能性も示唆されました。労働者の所属するチーム内に、他の「有害な労働者」が占める割合(密度)が高いほど、その労働者自身も有害な行動で解雇される確率が劇的に高まることが判明したのです。
興味深いことに、この「有害な労働者」の生産性についても分析が行われました。その結果、有害な労働者は、そうでない労働者と比較して、統計的に有意に仕事の「量」(生産性)が高い、すなわち「仕事が速い」ことが判明したのです。しかし、その一方で、彼ら彼女らの仕事の「質」は低い傾向にありました。
この「仕事は速いが、問題行動も多い」という特性が、管理者の判断を難しくさせ、彼ら彼女らが組織に残り続けて害を及ぼす一因となっているのかもしれません。
そして、この研究の重要な分析が、コストの比較です。「スーパースター」(生産性トップ1%)を1人採用する価値が試算されました。その結果、純粋なコスト削減効果は、年間で最大$5,303と見積もられました。
次に、「有害な労働者」がもたらすコストが試算されました。驚くべきことに、有害な労働者が1人いることによって発生する「追加の離職コスト」(つまり、その人の存在が原因で周囲の他の従業員が辞めてしまい、その補充にかかるコスト)だけで、年間で最低$12,489に達することが分かりました。これは、訴訟費用や士気低下といったコストを含まない「下限値」です。
有害な労働者1人を回避することによる金銭的利益は、スーパースター1人を採用する利益の2倍以上に達することが示されました。このことは、組織が限られたリソースを「良いものを加える」ことだけに集中させるよりも、「悪いものを取り除く」ことにより注意を払う方が、経済的な合理性が高い可能性があることを強く物語っています。
悪い人間関係の害は相互依存のチームでは消える
これまでの議論では、ネガティブな個人が、いかに深刻で、コストのかかる害を組織にもたらすかという側面を主に見てきました。しかし、現実はもう少し複雑かもしれません。「腐ったリンゴ」が存在していても、なぜかチームのパフォーマンスが低下しない、いわば「樽が腐らない」ケースも存在するのではないでしょうか。
ある研究は、まさにこの問い、すなわち「悪いリンゴが樽を腐らせない条件」とは何か、敵対的な人間関係(ネガティブな関係)がチームの結束やパフォーマンスに及ぼす悪影響を緩和する「緩衝メカニズム」は何かを特定するために行われました[5]。
この研究は、オランダの8つの異なる組織に属する、73の実際のワークチームを対象に実施されました。調査対象となった全チームのほぼ半数で、少なくとも1つ以上のネガティブな関係が確認されました。
分析の結果、基本的な負の連鎖が確認されました。ネガティブな関係が存在することは、チームの結束を有意に低下させ、その低下したチーム結束が、チームのパフォーマンスを低下させているというプロセスが明らかになりました。
問題は、この負の連鎖を断ち切る緩衝材が存在したかどうかです。分析の結果、二つの明確な緩衝効果が示されました。一つ目は、「課題の相互依存性」です。これは、チームの成果が、メンバー間の情報共有や調整、相互適応にどれだけ依存しているかという仕事の構造的特性です。
分析の結果、課題の相互依存性が低いチームでは、ネガティブな関係が存在するとチームの結束が著しく低下しました。しかし、課題の相互依存性が高いチームでは、ネガティブな関係が存在していても、チームの結束は低下しないという結果が得られました。
二つ目は、「チームメンバー間交換(Team-Member Exchange: TMX)」です。これは、メンバーがチーム全体に対してアイデアや支援を提供し、その見返りとしてチーム全体から助けや承認を受け取るという「チームと個人の間の相互的な助け合い」の質を示す社会的特性です。
こちらについても、TMXの質が低いチームでは、ネガティブな関係があると結束が著しく低下しました。しかし、TMXの質が高いチームでは、ネガティブな関係が存在していても、結束は低下しないことが分かりました。
なぜ、仕事上の相互依存性や、チーム内の助け合いの質が、人間関係の対立という害を中和できるのでしょうか。研究者らは、これらが、ネガティブな関係という「ボトムアップ」の妨害的な力に対抗する、「トップダウン」の促進的な力として機能するためだと考察しています。
例えば、課題の相互依存性が高い場合、メンバーは「運命共同体」となります。この状況は、妨害行動や「ただ乗り」といった行動をとる余地を構造的に減少させます。また、TMXの質が高いチームでは、メンバーを支えるサポート的な雰囲気が全体に醸成されており、これが一部のネガティブな出来事が、チーム全体の一体感を損なうのを防ぐのです。
脚注
[1] Felps, W., Mitchell, T. R., and Byington, E. (2006). How, when, and why bad apples spoil the barrel: Negative group members and dysfunctional groups. Research in Organizational Behavior, 27, 175-222.
[2] Duffy, M. K., Ganster, D. C., and Pagon, M. (2002). Social undermining in the workplace. Academy of Management Journal, 45(2), 331-351.
[3] Chapman, K. J., and Meuter, M. L. (2023). The influence and mitigation of bad apples on group dynamics and outcomes. Journal of Education for Business, 98(7), 387-394.
[4] Housman, M., and Minor, D. (2015). Toxic workers (Harvard Business School Working Paper No. 16-057). Harvard Business School.
[5] de Jong, J. P., Curseu, P. L., and Leenders, R. T. A. J. (2014). When do bad apples not spoil the barrel? Negative relationships in teams, team performance, and buffering mechanisms. Journal of Applied Psychology, 99(3), 514-522.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。近著に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』(すばる舎)、『世界の研究者はマネジメントをどう分析しているのか』(労務行政)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。
