2026年3月23日
「好き」と「損得」が生む成果のちがい:コミットメントの質が行動を分ける

従業員の「会社への忠誠心」や「愛着」は、組織にとって望ましいものだと直感的に理解されています。会社を好きでいてくれる人が多ければ離職者は減り、業務にも熱心に取り組むだろうと期待するのは自然でしょう。しかし、専門的に「組織コミットメント」と呼ばれるこの状態は、単純なものではありません。
例えば、「この会社が好きで、その一員であることに誇りを感じる」という気持ちで会社に留まる人がいる一方で、「今辞めてしまうと経済的に苦しくなる」という理由で席を置き続けている人もいます。また、「ここまで育ててもらった恩があるから」という義務感から会社に貢献しようとする人もいるかもしれません。
これらはすべて、従業員が組織に留まる理由、すなわちコミットメントの一側面です。こうした異なる種類のコミットメントは、組織にとって本当に同じように望ましい成果をもたらすのでしょうか。「好きだから」という気持ちも、「辞めると損だから」という気持ちも、従業員を組織につなぎ止める点は同じでも、その後のパフォーマンスや心の健康にまで、同様に良い形で結びつくのでしょうか。本コラムでは、コミットメントという複雑な心の状態がもたらす「成果」の実際を明らかにします。
望ましい成果は情緒的コミットメントから生まれる
組織と従業員の結びつき、すなわちコミットメントがどのような成果につながるのかを考える上で、その「種類」を理解する必要があります。コミットメントを三つの異なる成分からなるものとして捉える考え方が広く受け入れられています。
一つ目は「情緒的コミットメント」です。これは、従業員が組織に対して抱く純粋な愛着や一体感を指します。「この組織が好きだ」「ここで働き続けたい」という、心からの「したい」という願望がその本質です。
二つ目は「継続的コミットメント」です。これは、組織を離れることで失われるものの大きさを認識し、そのコストを避けるために留まろうとする心理状態です。例えば、長年積み上げてきた退職金や福利厚生、あるいは社内での地位や人間関係がこれにあたります。「辞めると損をする」といった、損得勘定に基づいた「する必要がある」という認識です。
三つ目は「規範的コミットメント」です。これは、組織に対して感じる「留まるべきだ」という義務感や道義的な責任感を指します。「組織から受けた恩義に報いるべきだ」というような、「すべきである」という倫理観や価値観が根底にあります。
これら三つのコミットメントは、いずれも従業員を組織に留まらせる方向に働きます。しかし、その先の行動や心理状態にどのような違いをもたらすのかは、検証が求められます。
この点に関して、過去の研究結果を統計的な手法で統合、分析した調査が存在します[1]。この調査は、世界中の155の研究、合計5万人を超える従業員のデータを集約し、各コミットメントがどのような要因から生まれ、どのような結果をもたらすのかを包括的に明らかにしようと試みたものです。
分析の結果、三つのコミットメントの関係性が明らかになりました。「情緒的コミットメント」と「規範的コミットメント」の間には、強い正の関連が見られました。組織を好きだと感じている人は、組織への恩義や責任も感じやすいという関係性です。一方で、損得勘定に基づく「継続的コミットメント」は、他の二つとはほとんど関連がありませんでした。これは、計算的な理由で会社に留まることと、心からの愛着や義務感とは、それぞれ独立した心理状態であることを物語っています。
何がこれらのコミットメントを高めるのか、その要因も検証されました。年齢や勤続年数といった個人の属性との関連は、全体として弱いものでした。それよりも強い関連が見られたのは、組織での経験でした。「組織は自分を大切にしている」という感覚(組織的支援)や「公正な扱いを受けている」という感覚(組織的公正)、上司からのリーダーシップといった経験が、従業員の「情緒的コミットメント」を育む要因であることがわかりました。一方で「継続的コミットメント」は、予測された通り、「他に良い仕事の選択肢が少ない」と感じている人ほど高くなるという関連が見いだされました。
肝心な「成果」との関連です。従業員の離職や、会社を辞めたいと考える「離職意図」については、三つのコミットメントすべてが、それを抑制する方向で関連していました。中でも「情緒的コミットメント」の結びつきが最も強く、次いで「規範的コミットメント」「継続的コミットメント」の順でした。
しかし、日々の業務パフォーマンスや、職務範囲を超えて組織に貢献しようとする「組織市民行動」に目を向けると、様相は異なります。これらの望ましい行動と正の関連を持っていたのは、「情緒的コミットメント」と「規範的コミットメント」でした。特に「情緒的コミットメント」との関連が強い結果でした。対照的に「継続的コミットメント」は、これらの行動とは関連しないか、ごくわずかに負の関連を持つという結果になりました。
「好きだから」のコミットメントは成果を上げ、「損だから」は下げる
先ほどは、コミットメントの三側面がそれぞれ異なる成果に結びつく可能性を、多くの研究を統合する形で見てきました。中でも、日々の業務遂行、すなわちパフォーマンスとの関連は、組織運営で関心の高い事柄の一つです。従業員が組織に関わっている状態は、本当に仕事の質の向上につながるのでしょうか。この問いに、焦点を絞って検証した研究があります[2]。
この研究は、コミットメントを「情緒的コミットメント(好きだから留まる)」と「継続的コミットメント(辞めると損だから留まる)」に分け、それぞれが管理職のパフォーマンスとどう関連するのかを検証しました。コミットメントは離職を防ぐものと一括りにされてきましたが、この研究は、コミットメントの「性質」がパフォーマンスを理解する上で重要だという考えに基づいています。
調査は、カナダの大手食品サービス会社の管理職とその直属の上司を対象に行われました。管理職自身に、自分の組織に対するコミットメントの種類と度合いを尋ねる質問紙に回答してもらいました。
同時に、彼らのパフォーマンスを評価するため、直属の上司に協力を依頼しました。上司には、部下である管理職一人ひとりについて、日々の業務遂行能力や総合的な能力、将来の昇進の可能性といった複数の観点から、パフォーマンスを客観的に評価してもらいました。
分析の結果、「情緒的コミットメント」は、上司による三つのパフォーマンス評価すべてと、統計的に意味のある正の相関を示しました。組織を「好きだ」と感じている管理職ほど、上司から高く評価されているという関係性です。
その一方で、「継続的コミットメント」は、三つのパフォーマンス評価すべてと、負の相関関係にあることがわかりました。辞めることによる損失が大きいと感じている管理職ほど、上司からのパフォーマンス評価が低いという結果になりました。
この研究では比較のため、一般的な「職務満足度」とパフォーマンスの関係も調べています。職務満足度とパフォーマンス評価の間には、意味のある関連は見出されませんでした。このことから、パフォーマンスと結びついているのは、給与や仕事内容といった個別の要素への満足感よりも、組織に向けられた、より包括的な愛着や一体感であることがうかがえます。
コミットメントは離職率を下げるが、経営コストには直結しない
これまでの議論で、個人のパフォーマンスとコミットメントの性質には、複雑な関係があることがわかってきました。視点を個人のレベルから組織全体のレベルへ移したとき、コミットメントはどのような成果に結びつくのでしょうか。従業員のコミットメントが高い組織は、より効率的で、経営的に優れた組織だと言えるのでしょうか。
この疑問に答えるため、ある研究では、複数のバス運行組織を対象に、従業員の組織コミットメントと、組織の有効性を示す様々な指標との関連が検証されました[3]。この研究の対象となったバス運転手という職務は、厳格な運行スケジュールに縛られる一方で、乗客への対応などでは個人の裁量が求められる特徴があります。そのため、従業員の意欲や姿勢が組織の成果にどう反映されるかを見る上で、適切な現場であると考えられました。
研究者たちは、米国の24のバス運行組織からデータを収集しました。データは、従業員であるバス運転手への質問票調査、管理者への聞き取り、組織の公式記録という三つの情報源から集められました。従業員には、組織コミットメントに関する質問に答えてもらいました。一方で、組織の有効性を測る指標として、従業員の離職率、遅刻率、欠勤率、運営費用といった客観的なデータが公式記録から集められました。
分析の結果、従業員の組織コミットメントと組織の有効性の間には、予測ほど単純ではない関係が明らかになりました。
従業員の組織コミットメントが高い組織では、従業員の離職率と遅刻率が低いという関連が見いだされました。これは、コミットメントが従業員を組織につなぎ止め、規律ある行動を促すという、多くの人が抱くイメージを裏付ける結果です。
しかし、その一方で、従業員の欠勤率や、組織の経営効率を直接的に反映する運営費用といった指標との間には、明確な関連は見出されませんでした。従業員のコミットメントが高いからといって、その組織の経営コストが低くなるとは限らないということです。
この研究では、コミットメントを「価値コミットメント(組織の価値観への共感)」と「残留コミットメント(組織に留まりたい意思)」に分けて、詳細な分析も行っています。その結果、従業員の離職率とより強く関連していたのは、後者の「残留コミットメント」でした。他方で、遅刻率や運営費用といった指標とは、「価値コミットメント」のほうが強い関連を持つ傾向が見られました。
愛着のなさが招く離脱を、損得勘定のコミットメントが食い止める
これまで、コミットメントの異なる側面を独立したものと捉え、その成果を比較してきました。「情緒的コミットメント」は望ましい成果につながりやすく、「継続的コミットメント」はパフォーマンスとは結びつかないか、負の関係にあることもありました。しかし、現実の組織で働く人々の中では、これらのコミットメントは複雑に共存しているはずです。組織への愛着が薄れつつも、経済的な理由で辞められずにいる、という状況は珍しくないでしょう。
異なる種類のコミットメントが、一人の人間の中で組み合わさったとき、何が起こるのでしょうか。この問いを探求した研究があります[4]。この研究は、コミットメントの各側面が単独で行動に結びつく「直接的な効果」と、複数が組み合わさって生まれる「相互作用の効果」の両方を検証しました。
調査の舞台は、米国の大都市にある病院で働く看護師たちです。400名を超える看護師を対象に、三つのコミットメントの度合いを測定する質問紙調査が行われました。その後、約1年間にわたって、人事記録から彼女たちの実際の離職データと欠勤データを追跡調査しました。
分析の結果、各コミットメントが単独でどのような帰結と結びつくかが確認されました。結果はこれまでの研究とおおむね一致します。「情緒的コミットメント」が、離脱に関連する行動を予測する最も強力な要因であることが、あらためて明らかにされました。情緒的コミットメントが低い人ほど、組織を辞めたいと考え、実際に1年以内に離職する確率が高く、欠勤日数も多いという結果でした。一方で、損得勘定に基づく「継続的コミットメント」は、それ単体では、離職や欠勤といった行動と直接的な関係は見られませんでした。
この研究の重要な点は、ここからの分析にあります。コミットメントの側面間の相互作用を検証したところ、「情緒的コミットメント」と「継続的コミットメント」の間に、特筆すべき関係性が発見されました。
それは、「継続的コミットメント」が高い状態、つまり「辞めると失うものが大きい」と感じている状態が、情緒的コミットメントの低さがもたらすマイナスの帰結を和らげるという関係です。
組織への愛着が薄い(情緒的コミットメントが低い)看護師は、本来であれば、組織を辞めたいと考え、欠勤も増えるはずです。しかし、そうした愛着の薄い看護師の中でも、「辞めると損だ」という認識が強い(継続的コミットメントが高い)人々は、そうした認識が弱い人々と比べて、離脱を考えたり欠勤したりする度合いが低かったのです。
逆に、組織への愛着が強い(情緒的コミットメントが高い)看護師の場合には、継続的コミットメントの高低にかかわらず、離脱意図は低く、欠勤も少ないままでした。
この結果は、「継続的コミットメント」の見過ごされてきた側面を示唆しています。損得勘定で組織に留まる状態は、パフォーマンス向上や貢献意欲につながりませんが、組織への「愛着のなさ」が離職や欠勤といった離脱行動に直結するのを抑制する機能を果たしうるということです。
脚注
[1] Meyer, J. P., Stanley, D. J., Herscovitch, L., and Topolnytsky, L. (2002). Affective, continuance, and normative commitment to the organization: A meta-analysis of antecedents, correlates, and consequences. Journal of Vocational Behavior, 61(1), 20-52.
[2] Meyer, J. P., Paunonen, S. V., Gellatly, I. R., Goffin, R. D., and Jackson, D. N. (1989). Organizational commitment and job performance: It’s the nature of the commitment that counts. Journal of Applied Psychology, 74(1), 152-156.
[3] Angle, H. L., and Perry, J. L. (1981). An empirical assessment of organizational commitment and organizational effectiveness. Administrative Science Quarterly, 26(1), 1-14.
[4] Somers, M. J. (1995). Organizational commitment, turnover and absenteeism: An examination of direct and interaction effects. Journal of Organizational Behavior, 16(1), 49-58.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。
