2026年3月19日
「使いやすさ」より「有用性」:技術が受け入れられる条件とは

職場には、日々新しいツールやシステムが導入されます。鳴り物入りで紹介されたものの、いつの間にか使われなくなる技術がある一方で、最初は戸惑いながらも、なくてはならない「相棒」のように定着する技術もあります。この違いは、どこから生まれるのでしょうか。
直感的には「使いやすさ(簡単さ)」が鍵だと考えるかもしれません。確かに、操作が複雑で難解なシステムは敬遠されます。しかし、「非常に使いにくいが、それなしでは仕事が終わらない」ツールと、「操作は快適だが、特に業務の役には立たない」ツールがあったとしたら、私たちはどちらを使い続けるでしょうか。
この問いは、組織における技術受容の核心に迫るものです。過去数十年にわたる研究は、人々が新しい技術を受け入れる際の心理的なメカニズムを解き明かそうとしてきました。その中で一貫して浮かび上がってきたのは、「使いやすさ」以上に決定的な要因でした。
それは「有用性」、すなわち「その技術が自分の仕事の成果を高めてくれる」という個人の信念です。本コラムでは、この「有用性」という要因が、いかに技術受容の鍵となるのかを、複数の実証的な分析をたどりながら紐解いていきます。
技術受容は「使いやすさ」より「有用性」が強く予測
新しい情報技術を人々が受け入れる過程を説明する上で、基礎となる二つの心理的な信念があります。一つは「知覚された有用性」であり、これは「特定のシステムを使うことが、自分の職務遂行の質や効率を高めてくれる」と信じる度合いを指します。もう一つは「知覚された使いやすさ」で、「特定のシステムを使いこなすのに、大きな努力は必要ない」と信じる度合いです。
ある分析では、これら二つの信念が、人々が技術を使う行動とどう結びつくかを検証するため、信頼できる測定尺度を開発することから着手しました[1]。文献レビューや予備的な面接調査に基づき、それぞれの信念を測るための質問項目候補が多数作成されました。これらの項目を用いて調査を行い、統計的な分析を経て、内的な一貫性が高く、かつ「有用性」と「使いやすさ」を区別できる項目へと絞り込んでいきました。最終的に、それぞれ6項目の信頼できる尺度が確立されました。
この尺度を用いて、二つの実証研究が行われました。第一の研究は、ある職場で実際に使われていた二種類のアプリケーション(電子メールシステムとテキストエディタ)の利用者を対象としました。合計100名以上の参加者が、これら二つのシステムそれぞれについて、「有用性」と「使いやすさ」をどの程度感じているか、「現在どのくらいの頻度で利用しているか」を自己報告しました。
データを分析したところ、両方のアプリケーションにおいて、「有用性」と「使いやすさ」は、どちらも実際の使用頻度と関連していました。しかし、両者の関連の強さには差が見られました。例えば、データを合算して分析した結果では、「有用性」と使用頻度の相関は、「使いやすさ」と使用頻度の相関よりも強いものでした。
「有用性」と「使いやすさ」が同時に使用頻度にどの程度結びついているかを調べたところ、この差は一層鮮明になりました。二つの要因を同時に考慮した場合、「有用性」の係数は統計的にもはっきりと確認されましたが、「使いやすさ」の係数は、ほぼゼロに近い値でした。これは、システムの有用性を感じていることが、現在の使用頻度を強く説明する要因であることを物語っています。
第二の研究は、別のサンプル(約50名)を対象に、グラフ作成ソフトと作図ソフトという、参加者にとっては新しい二つのアプリケーションを用いて行われました。ここでは、現在の使用頻度ではなく、「将来的にそのシステムを使おうと思うか」という「使用意図」を尋ねました。
結果の傾向は第一の研究と同様でした。データを合算した分析では、「有用性」と将来の使用意図の相関は、「使いやすさ」と将来の使用意図の相関を上回りました。回帰分析においても、「有用性」の係数は強固であったのに対し、「使いやすさ」の係数は比較的小さなものでした。
これら二つの研究から導き出せるのは、技術の受容を予測する上で、「有用性」の知覚が「使いやすさ」の知覚よりも一貫して強力であるという事実です。
ただし、この分析は「使いやすさ」が不要であると結論付けているわけではありません。二つの信念間の関係を調べると、「使いやすさ」を感じている人ほど、「有用性」も高く評価するという中程度の関連が見られました。このことから、操作が容易であることは、それ自体が直接的に使用を促すというよりも、むしろ「こんなに簡単なら、仕事の役にも立ちそうだ」という「有用性」の感覚を間接的に高める条件として機能している可能性が考えられます。
医師の技術受容では「使いやすさ」より「有用性」が重視
先ほどは、「有用性」が「使いやすさ」に比べて技術の使用を強く予測するという基本的な関係性を見ました。この関係は、どのような利用者層や、どのような技術であっても共通なのでしょうか。とりわけ、高度な専門知識を持つ人々は、技術を評価する基準が一般の利用者と異なるかもしれません。
この点を明らかにするため、医師という専門職集団を対象に、遠隔医療(テレメディシン)技術の受容に関する調査が行われました[2]。遠隔医療は、医療の質や効率の向上に貢献する可能性がある一方で、導入には多額の投資が必要であり、医師が実際にそれを受け入れて使うかどうかが成否の鍵を握ります。
この研究は、香港にある公立の三次医療病院に勤務する医師を対象に実施されました。遠隔医療の利用が見込まれる9つの主要な診療領域(内科、外科、小児科、放射線科など)が選定され、70の診療部に質問票の配布が依頼されました。最終的に41部が協力し、1700票以上が配布され、408票の有効回答が得られました。
質問票では、遠隔医療技術全般に対する「知覚された有用性」「知覚された使いやすさ」「技術に対する好意的な態度」「将来的な使用意図」などが、既存の研究に基づき作成・検証された項目によって測定されました。
分析の結果、医師の「使用意図」に対して、「有用性」と「態度」がそれぞれ正の関連を持っていることが確認されました。「有用性」が高いと感じている医師ほど、また、遠隔医療に対して好意的な「態度」を持っている医師ほど、将来それを使おうとする「意図」が高いという結果です。
その「態度」が何によって形成されるかを見ると、「有用性」が強い関連を持っていました。医師たちは、遠隔医療が臨床や業務において「有用である」と判断するからこそ、それに対して「好意的な態度」を形成するという経路が明らかになりました。「有用性」は、「使用意図」への直接的な経路と、「態度」を介した間接的な経路の両方を通じて、受容の意思決定に強い結びつきを持っていたのです。
ここで注目すべきは、「使いやすさ」の知覚に関する結果です。先ほどの分析とは異なり、この調査では、「使いやすさ」から「態度」への経路、および「使いやすさ」から「有用性」への経路は、どちらも統計的に意味のある関連として検出されませんでした。
これは、医師という専門職の文脈において、「使いやすさ」が受容を決定する要因としての序列が低いことを示唆しています。研究者らはこの結果について、いくつかの可能性を考察しています。
一つは、医師が高い一般的能力を持ち、新しい技術への順応力も高いため、操作の「使いやすさ」の差は、技術選択の決定打になりにくいのではないかという点です。もう一つは、医師の業務が複雑な臨床ワークフローに基づいているため、「使いやすい」ことよりも、そのワークフロー自体の価値を高めること、すなわち「有用性」が低い限り、どれほど簡便であっても受容が進みにくいのではないかという点です。
技術受容は「有用性」が鍵だが、ネット技術では手軽さも重要
これまでに、新しい技術を受け入れる際の基本的な枠組みとして「有用性」が「使いやすさ」を上回ること、専門職の文脈ではその傾向がさらに顕著になり、「使いやすさ」の直接的な関連が見えなくなることを見てきました。
これら二つの研究結果は、どちらがより一般的なのでしょうか。また、「使いやすさ」が「有用性」よりも前に出るような状況は存在しないのでしょうか。個々の研究を一つずつ見ていくだけでは、研究対象となった人々や技術、状況によるバラツキの全体像を掴むことは困難です。
そこで、この分野で行われた多数の実証研究の結果を統計的に統合し、全体的な関係性を俯瞰する「メタ分析」という手法を用いた研究が役立ちます。あるメタ分析では、技術受容モデル(TAM)に関して発表された88件の実証研究(合計の観測数は12000以上)を対象としました[3]。
この分析の目的は、個々の研究結果のバラツキを超えて、(1)「有用性」「使いやすさ」「使用意図」といった主要な概念の尺度が全体として信頼できるか、(2) それらの概念間の関連性(パス係数)の平均的な強さはどれくらいか、そして (3) その関連性の強さが、利用者のタイプ(例:学生か、専門家か)や、技術のタイプ(例:仕事用か、インターネットか)によって異なるのかを明らかにすることでした。
分析の結果、「有用性」「使いやすさ」「使用意図」などを測定する尺度は、全体として非常に高い信頼性を持つことが確認されました。
概念間の構造的な関係性(パス係数)を算出したところ、これまでの知見を裏付ける結果が得られました。最も強かったのは、「有用性」から「使用意図」へのパスと、「使いやすさ」から「有用性」へのパスでした。一方で、「使いやすさ」から「使用意図」への直接的なパスは他に比べて弱く、また研究間のバラツキも大きいことが分かりました。
このメタ分析の結果が示唆するのは、多くの場合、「使いやすさ」が「使用意図」に及ぼす結びつきは、主に「有用性」を介しているという間接的なメカニズムです。「使いやすい」と感じることは、それ自体が「使おう」という意図に直結する以上に、「使いやすいから、きっと仕事の役にも立つだろう(有用だろう)」という信念を形成させ、その「有用性」の信念を介して、最終的に「使おう」という意図を引き出すという流れが一般的であるということです。
しかし、この分析は、利用者のタイプや技術のタイプによる違いも調べています。その中で、興味深い例外が一つ見つかりました。それは、「インターネット関連」のアプリケーション(例:電子商取引=Eコマースなど)の文脈です。
仕事関連のツールやオフィスソフトなど、他の多くの技術タイプでは、「使いやすさ」から「使用意図」への直接パスは弱いか、統計的に意味のないものでした。しかし、「インターネット」関連の技術を対象とした研究群に限っては、「使いやすさ」が「使用意図」に対して、より重要で直接的な関連を持つことが分かったのです。
新技術の有用性評価は、社会的影響と職務適合性で決まる
これまでの議論で、技術受容の中核には「有用性」の知覚があり、その強さは文脈によって変わる可能性を見ました。しかし、そもそも人は、どのような手がかりをもとに、ある技術を「有用だ」あるいは「有用でない」と判断するのでしょうか。この「有用性」という信念は、どこから生まれるのでしょう。
この問いに答えるため、従来の技術受容モデルを拡張し、「有用性」の前提となる要因を理論的に組み込んだ「TAM2」と呼ばれるモデルが提案され、4つの異なる組織(製造業、金融、会計、投資銀行)で検証されました[4]。この調査は、新しいシステムが導入される前の研修直後(T1)、導入1ヶ月後(T2)、導入3ヶ月後(T3)と、時間を追って縦断的にデータを収集した点に特徴があります(合計156名が参加)。
このモデルでは、「有用性」の判断に至るプロセスを大きく二つに分類します。「社会的影響プロセス」と「認知的手段プロセス」です。
「社会的影響プロセス」とは、他者の言動や期待が個人の信念に作用する流れです。
一つは「主観的規範」です。これは「自分にとって重要な他者(上司や同僚など)が、自分にそのシステムを使うべきだと考えている」という知覚を指します。この規範は、特にシステムの利用が「義務的」な状況(使わざるを得ない状況)では、初期の利用意図に直接結びつきます。これは「コンプライアンス(服従)」と呼ばれるメカニズムです。一方で、利用が「任意」な状況では、この直接的な結びつきは見られませんでした。
「主観的規範」は、もう一つの経路でも作用します。それは、重要な他者が「有用だ」と言うのを聞いて、その見解を自分自身に取り込む「内面化」というプロセスを通じて、「有用性」の知覚を高めるというものです。
三つ目の社会的影響は「イメージ」です。これは「そのシステムを使うことが、組織内での自分の社会的地位や評判を高める」という知覚です。周囲がそのシステムを評価している(主観的規範が高い)と、それを使うことの「イメージ」も高まり、その結果として「仕事の成果にもつながるだろう」と「有用性」の知覚が高まる(同一化)と考えられます。
この調査では、時間経過による変化も追跡されました。その結果、経験が蓄積されるにつれて、「主観的規範」の直接的な効果(コンプライアンス)や、有用性への効果(内面化)は弱まっていくことが分かりました。他者の意見よりも、自分自身の直接的な経験が判断材料として優勢になっていくためと考えられます。
もう一つの「認知的手段プロセス」は、個人が自分自身の仕事とシステムを結びつけて合理的に判断する流れです。
ここで中核となるのが「職務関連性」です。これは「そのシステムが、自分の職務にどれほど適用可能か」という判断です。システムが自身の具体的な仕事内容と関連していると認識されるほど、「有用性」は高く評価されます。
続いて「出力品質」があります。これは「そのシステムが、職務上のタスクをどれだけ良く(高品質に)こなせるか」という評価です。
この二つは、単独で作用するだけではありませんでした。4つの組織すべて、3つの時点すべてにおいて、「職務関連性」と「出力品質」の交互作用が確認されました。これは、「職務に関連している」システムであるほど、その「出力品質」の良し悪しが、「有用性」の判断において、より重みをもって評価されるという認知のプロセスを反映しています。
三つ目は「結果の実証可能性」です。これは「システムを利用したことと、良い成果が出たことの結びつきが、どれだけ目に見えやすいか」を指します。成果が可視化されやすいほど、「有用性」の知覚は高まりました。
「知覚された使いやすさ」も、この認知的プロセスの一部と位置づけられます。操作に努力が要らない(使いやすい)ことは、それ自体が「有用性」の判断を押し上げる要因として、ここでも安定して確認されました。
この分析は、「有用性」という一見単純に見える信念が、実際には「あの人が勧めるから」「自分の評判が上がるから」といった社会的な文脈と、「自分の仕事に直結しているから」「良い成果が出るから」「成果が見えやすいから」といった認知的な計算の両方から、複合的に形成されることを明らかにしました。
脚注
[1] Davis, F. D. (1989). Perceived usefulness, perceived ease of use, and user acceptance of information technology. MIS Quarterly, 13(3), 319-340.
[2] Hu, P. J., Chau, P. Y. K., Sheng, O. R. L., and Tam, K. Y. (1999). Examining the Technology Acceptance Model using physician acceptance of telemedicine technology. Journal of Management Information Systems, 16(2), 91-112.
[3] King, W. R., and He, J. (2006). A meta-analysis of the technology acceptance model. Information & Management, 43(6), 740-755.
[4] Venkatesh, V., and Davis, F. D. (2000). A theoretical extension of the Technology Acceptance Model: Four longitudinal field studies. Management Science, 46(2), 186-204.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。
