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コラム

働く心は変化する:エンゲージメントを動かす内的プロセス

コラム

仕事に対して、私たちはどれほどの熱意を注いでいるでしょうか。ある人は業務に没頭し、日々の仕事に誇りとやりがいを感じています。その一方で、同じ職場で働いていても、どこか冷めた気持ちを抱え、心身のエネルギーが枯渇していくように感じる人もいます。

近年、「ワークエンゲージメント」という概念が広く知られるようになりました。これは、仕事に対するポジティブで充実した心理状態を指し、「活力」「熱意」「没頭」の三要素で構成されます。エンゲージメントの高い従業員は、仕事に生き生きと取り組み、組織の成果にも貢献すると考えられています。この状態は、一人ひとりが持つ固有の性格や気質といった「個人的な側面」とも結びついています。

もう一つ見過ごせないのが、エンゲージメントの「動的なプロセス」という側面です。私たちの心の状態は日々変動します。仕事から離れた時間の過ごし方が翌日の活力に結びついたり、日々の主体的な働きかけが少しずつ仕事の環境を変えたりします。エンゲージメントは固定されたものではなく、時間と共に移り変わるのです。本コラムでは、個人の内面と、その動的な性質に光を当てることで、仕事と私たちの心の関係性を掘り下げていきたいと思います。

エンゲージメントは外向性など個人の性格特性と関連する

同じ職務、同じ環境で働いていても、ある人は生き生きと仕事に取り組む一方で、別の人は心身を消耗させてしまうことがあります。この個人差はどこから生まれるのでしょうか。オランダのある研究は、従業員の心の状態と、その人が持つパーソナリティや気質との関連性を探りました[1]

この研究は、多様な職種から集められた572人の従業員を対象に行われました。質問紙で二つの対照的な心理状態、すなわちエネルギーが枯渇する「バーンアウト」と、活力と熱意をもって仕事に没頭する「ワークエンゲージメント」を測定しました。

これらの心理状態と個人の内的な特性との結びつきを調べるため、パーソナリティと気質も測定しました。パーソナリティについては「神経症傾向」(不安の感じやすさ)と「外向性」(社交性)を、気質については「興奮の強さ」「制止の強さ」「神経プロセスの可動性」(変化への適応力)を測定しました。

参加者を心理状態によってグループ分けし、どの個人的特性がグループを見分けるのに有効かを検証しました。

結果、バーンアウト群を特徴づける最も強力な要因は「神経症傾向」であることが分かりました。燃え尽きている従業員は、そうでない従業員に比べて、際立って神経症傾向が高いという特徴が見られたのです。

一方で、エンゲージメント群は、三つの特性の組み合わせによって特徴づけられていました。具体的には、非エンゲージメント群に比べて、「神経症傾向が低く」、かつ「外向性が高い」、そして「可動性が高い」というパターンが見られました。これは、仕事に熱意をもって取り組んでいる人々が、感情的に安定し、社交的で活発であり、状況の変化にも柔軟に対応できることを示しています。

これらの結果について、研究者たちは考察しています。バーンアウトと神経症傾向の強い結びつきは、神経症傾向が高い人がストレスを感じやすいためか、あるいは困難が燃え尽きにつながるプロセスを「増幅」させてしまうためと考えられます。

この研究は、バーンアウトとエンゲージメントが互いに正反対の概念ではないことも示唆しています。神経症傾向は対照的な関係でしたが、外向性や可動性は、エンゲージメントを特徴づける要因としてだけ現れました。このことは、燃え尽きとエンゲージメントが、それぞれ異なる個人の内的な側面と結びついている可能性を物語っています。

主体的に仕事の資源を増やすと、エンゲージメントが高まる

個人の内面的な特性が仕事への熱意と関わっていることがわかりました。しかし、私たちは環境に対して受け身なだけではありません。自らの働きかけで仕事内容や人間関係を変えていけます。このような、従業員が主体的に仕事内容を修正する行動は「ジョブ・クラフティング」と呼ばれます。この行動が従業員の幸福度にどう変化をもたらすか、ある研究が縦断的に検証しました[2]

この研究はオランダの化学工場従業員を対象に、2ヶ月間にわたって行われました。理論的な土台は「仕事要求度資源モデル」です。このモデルは職場環境を、心身のコストを伴う「仕事要求度」と、目標達成を助け成長を促す「仕事資源」から捉えます。ジョブ・クラフティングとは、従業員がこの二つのレベルを主体的に変化させようとする行動と定義されます。

調査は3つの時点で行われました。開始時に従業員の仕事要求度、資源、ウェルビーイング(エンゲージメント、仕事満足度、バーンアウト)を測定し、1ヶ月後にこの間のジョブ・クラフティング行動を尋ね、さらに1ヶ月後に再び最初の項目を測定して変化を評価しました。

ジョブ・クラフティング行動は、資源を増やすもの(構造的・社会的)と、要求度を調整するもの(挑戦的・妨害的)の4種類が測定されました。

分析の結果、従業員の主体的な行動が、職場環境と自身の心の状態を変化させることが確認されました。特に、「仕事資源」を増やすクラフティング行動に顕著な結果が見られました。従業員が「構造的資源」や「社会的資源」を増やそうと行動すると、2ヶ月後には実際に資源が増加し、その増加はウェルビーイングの改善に結びついていました。

一方で、「仕事要求度」をクラフティングする行動の結果は少し異なりました。「挑戦的な要求」を増やそうと行動しても、仕事量の増加には結びつきませんでした。しかし、そのような行動を取ること自体が、エンゲージメントの向上とバーンアウトの低下に直接的につながっていました。他方で、「妨害的な要求」を減らす行動は、要求度の減少にもウェルビーイングの向上にも、意味のある変化をもたらしませんでした。

この研究から得られる考察は、従業員が職場環境の受け手ではなく、自らの幸福度を高めるために能動的に環境を形成していく主体であるということです。特に、仕事の裁量権を広げたり、周囲の助けを求めたりして、自らの「資源」を豊かにしていく行動は、実際に環境をより良くし、自身の心の状態を向上させる上で有効でした。

要求度のクラフティングが期待通りの結果にならなかったことについて、研究者たちは、挑戦的な行動が自己効力感などを通じてウェルビーイングを高めた可能性や、妨害的な要求は個人の力では変えにくい特性である可能性を指摘しています。

オフタイムの回復は、翌日のエンゲージメントを高める

個人の特性や数ヶ月にわたる主体的な行動がエンゲージメントに関わることを見てきました。しかし、私たちの心のエネルギーは、もっと短い周期で変動するのではないでしょうか。一日の仕事ぶりは、前の晩の過ごし方に左右されることがあります。この日常的な経験の背後にあるメカニズムを明らかにするため、ある研究では、日記調査を用いて、仕事時間外の「回復」が翌日の仕事にどう結びつくのかを追跡しました[3]

この研究は、公的サービス機関で働く147人の従業員を対象に、平日の5日間連続で行われました。参加者は毎朝出勤前に心身の状態を、そして終業後にその日の仕事中の経験を回答しました。この形式でデータを集めることで、同じ一人の人間の中で日々どのように状態が変動するのかを捉えることができます。

研究の核となる概念は「回復」です。これは、仕事から離れている時間に、仕事で消耗した心身の資源を再び満たすプロセスを指します。調査では、毎朝の回復感と、終業後の「ワークエンゲージメント」や「プロアクティブ行動」(主体的な行動)の頻度を測定しました。

分析に先立ち、データの変動性が確認されました。エンゲージメントや主体的な行動の分散の約4割が「個人内変動」、すなわち同じ人の中での日々の揺れ動きでした。

分析の結果、前日の夜の回復が翌日の仕事ぶりに関わっていることが明らかになりました。前日の夜によく回復できたと感じている日ほど、翌日の日中のワークエンゲージメントが有意に高まることが確認されたのです。この関係は、その人がもともと持つエンゲージメントの高さや職務の特性を統計的に調整しても、なおはっきりと見られました。

続いて、回復が主体的な行動にどう結びつくのかが検証されました。分析を進めると、回復は主体的な行動を直接高めているわけではなく、媒介のプロセスが存在することが見えてきました。前日の回復が翌日のワークエンゲージメントを高め、その高まったエンゲージメントが、その日の主体的な行動を促していたのです。「良い回復高いエンゲージメント主体的な行動」という、好ましい連鎖が日次レベルで生じていることが突き止められました。

この研究が描き出すのは、エンゲージメントが日々のコンディションによって変動する「状態」としての一面も持っているという姿です。仕事から離れたオフタイムの過ごし方は、翌日の仕事に向けて心理的な資源を回復させる能動的なプロセスなのです。十分に満たされた資源がその日のエンゲージメントを高め、より良い仕事ぶりへとつながっていく。このような日々のサイクルの積み重ねが、長期的なエンゲージメントを支えているのかもしれません。

高いエンゲージメントは仕事の資源を増やし、好循環を生む

エンゲージメントが個人の特性や日々の回復と関連する、動的なものであることが見えてきました。この動的な性質は、1年という長い時間軸で見たときに、どのようなパターンを描くのでしょうか。従業員のエンゲージメントが高い状態が、未来の職場環境をより良いものへと変えていくことはあり得るのでしょうか。この問いを探るため、ある研究が1年間にわたる縦断調査を行いました[4]

この研究は、オランダの通信会社に勤務する201人の管理職を対象に実施されました。1年の間隔をあけて2回、仕事の要求度、仕事の資源、バーンアウト、ワークエンゲージメントの変化を追跡し、会社の公式記録から病気による欠勤のデータも収集しました。

この研究の独創的な点は、時間を通じて相互に作用し合う「スパイラル効果」の可能性を検証した点にあります。具体的には、バーンアウト状態にある人が悪循環に陥る「損失スパイラル」と、エンゲージメントが高い人が好循環を生み出す「利得スパイラル」の仮説を立てました。

分析の結果、仕事の要求度の増加と資源の減少は1年後のバーンアウトを高め、仕事の資源の増加は1年後のエンゲージメントを高めるという基本的な予測が支持されました。また、バーンアウトは欠勤「期間」の長期化に、エンゲージメントは欠勤「頻度」の減少に、それぞれ異なる形で関連していました。

この研究の核心であるスパイラル効果の検証では、「損失スパイラル」の仮説は支持されませんでしたが、「利得スパイラル」の仮説はデータによって裏付けられました。

調査開始時点でワークエンゲージメントが高かった管理職は、1年後、自らの仕事における資源(自律性や支援など)が増加したと認識していました。そして、この認識された資源の増加が、1年後のエンゲージメントをさらに高めるという媒介のプロセスが見られたのです。これは、「高いエンゲージメント仕事資源の増加さらなるエンゲージメントの向上」という、自己増殖的な好循環の存在を物語っています。

この「利得スパイラル」は、エンゲージメントが高い従業員が、より能動的に行動し、自らが働く環境を、より資源豊かなものへと変えていく力を持つ可能性を示唆します。エンゲージメントは、ただの「結果」ではなく、未来のより良い環境を生み出す「原因」にもなり得るプロセスの中に位置づけられます。

損失スパイラルが確認されなかった理由として、研究者たちは、燃え尽きた従業員は職場環境に悪影響を及ぼす前に、欠勤や離職によって職場から離れてしまう可能性を指摘しています。

仕事の資源は、個人の自信などを介してエンゲージメントを高める

私たちはこれまで、エンゲージメントが個人の特性に根差し、日々の経験や長期的なプロセスの中で変動する動的な現象であることを見てきました。裁量権や周囲からの支援といった「仕事資源」が、エンゲージメントを高める上で欠かせない要素であることが繰り返し示されてきました。しかし、職場に存在するこれらの資源は、どのようなプロセスを経て、私たちの内なる活力や熱意へと変換されるのでしょうか。その内部の仕組みを解明しようと試みたのが、これから紹介する研究です[5]

この研究は、従来の「仕事要求度資源モデル」に、新たに従業員自身の内的な強みである「個人的資源」という概念を組み込み、その役割を検証しました。個人的資源とは、環境をコントロールし、物事に対処できるという自己に対する肯定的な感覚を指します。「自己効力感」「組織ベースの自尊心」「楽観主義」という三つの要素が取り上げられました。

研究者たちは、この個人的資源が果たす三つの役割、すなわち「緩衝」「媒介」「先行要因」について仮説を立てました。調査はオランダの電機・電子機器会社に勤務する714人の従業員を対象に行われました。仕事要求度、仕事資源、三つの個人的資源、結果として生じる心身の消耗とワークエンゲージメントが測定され、変数間の関係性が検証されました。

分析の結果、個人的資源が果たす役割が多角的に明らかになりました。「緩衝」の役割は支持されませんでした。自己効力感や楽観主義が高いからといって、過剰な仕事量がもたらす消耗感を直接的に弱める効果は見られなかったのです。

しかし、「媒介」の役割は支持されました。仕事資源がワークエンゲージメントにつながるプロセスの中心に、個人的資源が存在することが明らかになりました。これは、豊富な仕事資源(上司のコーチングなど)が、従業員の自己効力感や自尊心といった個人的資源を高め、その高められた個人的資源が、結果としてエンゲージメントを向上させるという経路を意味します。

さらに、「先行要因」としての役割も一部が支持されました。もともと個人的資源が高い従業員は、自らの職場環境について、より多くの仕事の資源を認識する傾向があることがわかりました。自信や楽観性に満ちた人は、同じ環境でも、成長の機会や支援といったポジティブな側面を見つけ出すのが得意なのかもしれません。

この研究が描き出すのは、職場環境という外的な要因が、従業員の内的な世界と相互作用しながら、エンゲージメントという心理状態を生み出していく仕組みです。組織が提供する「仕事資源」の価値が真に発揮されるのは、従業員一人ひとりの「個人的資源」、すなわち内なる自信や回復力を育むことにつながってこそ、と言えます。

脚注

[1] Langelaan, S., Bakker, A. B., van Doornen, L. J. P., and Schaufeli, W. B. (2006). Burnout and work engagement: Do individual differences make a difference? Personality and Individual Differences, 40(3), 521-532.

[2] Tims, M., Bakker, A. B., and Derks, D. (2013). The impact of job crafting on job demands, job resources, and well-being. Journal of Occupational Health Psychology, 18(2), 230-240.

[3] Sonnentag, S. (2003). Recovery, work engagement, and proactive behavior: A new look at the interface between nonwork and work. Journal of Applied Psychology, 88(3), 518-528.

[4] Schaufeli, W. B., Bakker, A. B., and van Rhenen, W. (2009). How changes in job demands and resources predict burnout, work engagement, and sickness absenteeism. Journal of Organizational Behavior, 30(7), 893-917.

[5] Xanthopoulou, D., Bakker, A. B., Demerouti, E., and Schaufeli, W. B. (2007). The role of personal resources in the job demands-resources model. International Journal of Stress Management, 14(2), 121-141.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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