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コラム

制約を打ち破る創造:行き詰まりから芽吹く逸脱の力

コラム

私たちの身の回りには、様々なモノや情報があふれています。例えば、目の前にあるドア。もし取っ手がついていれば、私たちは無意識にそれを「引く」か「押す」ものだと判断するでしょう。スマートフォンの画面に表示される立体的に見えるボタンは、そこを「タップできる」と教えてくれます。このように、モノや環境が、私たちに特定の行動を自然と促してくる性質を「アフォーダンス」と呼びます。この概念は、デザインの世界などで広く知られるようになりました。

しかし、アフォーダンスという現象は、モノのデザインだけで決まるわけではありません。同じ道具であっても、使う人や、置かれた状況によって、異なる行動が引き出されることがあります。会社の公式なコミュニケーションツールがあるのに、多くの社員が非公式なチャットアプリで連絡を取り合っている。定められた手順があるのに、現場では独自の「近道」が編み出されている。こうした出来事の背景には、アフォーダンスがより複雑な文脈の中で生まれ、変化している現実があります。

それは、個人の認識の世界にとどまらず、組織の文化や人間関係、あるいは目に見えない力学といった、社会的な要素が関わっているからです。アフォーダンスは、モノに固定された静的な性質ではなく、人と環境、それらを取り巻く社会的な文脈との相互作用の中で立ち現れる現象なのです。

本コラムでは、アフォーダンスがどのように現れ、私たちに認識されるのか、その背後にあるメカニズムを考えていきます。組織の中でアフォーダンスが形作られる過程、ルールから逸脱した形で道具が使われる背景、テクノロジーの仕様変更が私たちの行動をどう変えるのか。これらの探求を通じて、私たちの行動を方向づけているアフォーダンスの世界を覗いていきたいと思います。

組織的アフォーダンスは四つの条件的相互作用から現れる

アフォーダンスという考え方は、もともと一人の人間と一つのモノとの関係で論じられることが多くありました。ドアノブを握る、ボタンを押すといった一対一の対応がその典型です。しかし、私たちの生活や仕事は組織やチームという集団の中で営まれており、そこでは一つのテクノロジーが多くの人々の間で、多様な文脈で使われます。このような集団的な状況で、アフォーダンスはどのように立ち現れるのでしょうか。

この問いの探求には、「構造化理論」が視点を提供します。この理論は、社会のルールや制度といった「構造」と、人々の「行為」が互いに切り離せない関係にあると説明します。社会構造は私たちの行動を制約するだけでなく、私たちの行動の積み重ねが社会構造を維持、あるいは変化させるという双方向の関係性を捉えるものです。

この考え方をテクノロジーの利用に当てはめると、テクノロジーが持つ機能やデザインは固定的ではなく、人々が実際にどう使うかという「実践」を通じて意味合いが形作られると解釈できます。設計者の想定通りに使われることもあれば、意図しない使い方が生まれることもあるでしょう。ここから、アフォーダンスとはテクノロジーにあらかじめ備わっているものではなく、人々が特定の社会的、文化的な状況でテクノロジーを使用することにより立ち現れる関係性と捉え直せます。

組織という文脈でアフォーダンスが生まれる際には、四つの条件が複雑に絡み合っているとされます[1]。一つ目はテクノロジー自体の機能やデザインである「技術的条件」。二つ目は組織や部署が持つ独自の価値観やサブカルチャーである「文化的条件」。三つ目は経営層から現場へのトップダウンの力だけでなく、現場からのボトムアップの力も含む「権力条件」。四つ目は、組織のメンバーがテクノロジーにどのような知識や態度を持ち、どう意味付けているかという「解釈的条件」です。

これら四つの条件が相互作用する中で、特定の「組織的アフォーダンス」が生まれます。このメカニズムを、二つの事例研究で見ていきましょう。

一つ目の事例は、オランダ税務署の予算管理システムです。

このシステムの「技術的条件」として、入力した間違いを完全に消去できず、全ての修正が履歴として記録される特徴がありました。

組織の「文化的条件」としては、「間違いは許されない」というエリート意識が強く、システムを直接操作する若手職員の仕事は地位が低いと見なされていました。

「権力条件」として、経営陣はシステムを厳しく管理し、間違いの少ない職員を表彰する制度で正確性を強く求めていました。

最後に「解釈的条件」として、若手職員の上司である中間管理職はシステムへの関心が薄く知識も乏しかったため、若手職員は自分たちの仕事が軽視されていると感じていました。

これらの条件が組み合わさった結果、このシステムはただの予算管理ツールではなく、「従業員の失敗の歴史を蓄積するプール」としてのアフォーダンスを持つに至りました。このシステムは、使う者のあらゆるミスを記録し、それを権力を持つ者に見えるようにしてしまう装置と認識されたのです。結果、使用者である若手職員に強い心理的なプレッシャーを与え、システムの使用をためらわせるという、意図せざる事態を生み出しました。

二つ目の事例は、ある多国籍銀行のイントラネットシステムです。

調査当時、銀行は古いシステムから新しいシステムへの移行期にあり、「技術的条件」として一部の古いアプリケーションが利用可能な状態でした。

組織の「文化的条件」は、銀行全体の方針が「サービス指向」から「販売指向」へと転換する過渡期であったため、従業員の間に二つの対立するサブカルチャーが形成されていました。

「権力条件」の側面では、公式には新システムの使用が義務付けられていましたが、各支店マネージャーの裁量で古いアプリケーションへのアクセスが黙認されていました。

「解釈的条件」として、多くの従業員は使い慣れた旧システムに愛着があり、頻繁に仕様が変わる新システムには戸惑いを感じていました。

これらの条件が相互に作用した結果、旧システムは「禁止されたサービスを利用するための手段」というアフォーダンスを帯びることになりました。従来の「サービス指向」の価値観を持つ従業員たちが、マネージャーの黙認という権力状況と、旧システムがまだ使えるという技術的状況を利用して、会社の方針に反してでも顧客への手厚いサービスを提供し続ける、という行動を可能にしたのです。

これらの事例が物語るのは、アフォーダンスがテクノロジーの機能だけで決まるのではなく、組織の文化、権力、人々の解釈といった社会的文脈の中で形成されるという事実です。道具は、それを使う人々の関係性の中で、新たな意味をまとっていくと言えます。

逸脱アフォーダンスは行き詰まりから有益な成果を生む

先ほど見たように、組織の方針に反して古いシステムが使われ続けることがあります。このような、ルールから「逸脱」するテクノロジーの活用は、単に規律の問題なのでしょうか。ここでは、一見望ましくないとされる行為が、組織にとって有益な成果を生む可能性のある「逸脱アフォーダンス」という概念を探求します。

この考え方の根底には、「組織の目標と個人の目標は一致している」という従来のアフォーダンス研究の前提への問い直しがあります。現実の職場では、公式ルールを守っていては現場のタスクが進まない事態がしばしば発生します。そうした状況で、従業員がITポリシーで非承認のツール(個人用クラウドストレージなど)を使って問題を解決することがあります。この、ルールに反してでも現場の目標達成のために活用されてしまうテクノロジーの作用可能性が「逸脱アフォーダンス」です。

逸脱アフォーダンスが立ち現れるプロセスは、三つのメカニズムの連鎖として説明されます[2]。このプロセスは、心理療法の「秩序の変化」の考え方で説明できます。既存の枠組み内で問題を解決しようとする「一次変化」に対し、枠組み自体を変える本質的な解決が「二次変化」です。逸脱アフォーダンスの実現は、この「二次変化」にあたります。

最初のメカニズムは「緊張」です。これは、従業員が「目標達成」と「ポリシー遵守」の間で板挟みになる状態を指します。例えば、大容量ファイルを迅速に社外と共有したいのに、会社のメールシステムでは容量制限に引っかかる。しかし個人契約のクラウドサービスなら簡単に送れる。このような状況で、従業員の心に葛藤、すなわち「緊張」が生まれます。

次に訪れるのが「デッドロック(行き詰まり)」です。緊張状態にある従業員が、公式ルートで問題解決を図ろうとしても、組織側の対応がない、的が外れている、あるいは根本的に解決不可能である場合、従業員は「もはやルール遵守のままでは問題を解決できない」という行き詰まりを認識します。IT部門に代替手段を要請しても返答がないといった状況です。

最後のメカニズムが「実現」です。行き詰まりの認識がある閾値を超えると、従業員はリスクを承知の上で非承認のテクノロジーを使用する行動に踏み切ります。これが逸脱アフォーダンスの実現です。この際、発覚リスクを低減するため、「扱う情報の線引き」や「痕跡の消去」といった副次的な活動が伴うこともあります。

この三連のメカニズムは、インタビューと実験を組み合わせた実証研究でその妥当性が確かめられています。一つ目のインタビュー調査では、ITユーザー47人への聞き取りから、逸脱アフォーダンスが実現された多くの事例で、緊張、デッドロック、実現という理論的な連鎖と一致するプロセスが確認されました。

二つ目の実験では、このメカニズムが統制された環境で再現されました。実験室で、参加者に二つのPDFファイルをメール送信するタスクが与えられましたが、二つ目のファイルだけが添付できないよう容量制限が設定され、意図的に「デッドロック」状況が作られました。参加者143名のうち33名が、別のメールシステムを使ったり、PDF圧縮ツールを導入したりといった「逸脱行動」でタスクを達成しました。さらに、その半数以上が、送信後に履歴を削除するなどの「発覚確率を低減する行動」をとっていたことも観察されました。

これらの研究は、逸脱アフォーダンスが個人の気の緩みや反抗心から生まれるのではないことを明らかにします。それは、組織が作り出した「緊張」と、それを解消できない「デッドロック」という構造的問題に対する、現場の創造的な問題解決の一形態と捉えられます。こうした逸脱行動は情報セキュリティ上のリスクを伴いますが、そこには公式ルールだけでは汲み取れない、現場の切実なニーズと創意工夫が隠されているのかもしれません。

アフォーダンス変化の効果は事前の制約知覚で決まる

これまでは、社会的な文脈や個人の葛藤といった要因が、アフォーダンスの現れ方に関わる様子を見てきました。テクノロジーの仕様が変更され、アフォーダンス自体が直接的に変化したとき、人々の行動はどう変わるのでしょうか。また、その変化の度合いは全ての人に等しいのでしょうか。ここでは、ある有名なソーシャルメディアの仕様変更を分析した研究を通して、この問いを掘り下げます[3]

この研究が分析対象としたのは、201711月にTwitter(当時)が行った、投稿文字数の上限を140字から280字へ拡張した出来事です。この仕様変更は、全ユーザーにほぼ同時に一律で適用されたため、社会の中で自然に発生した巨大な実験、「準自然実験」と捉えられました。これによって、アフォーダンスの変化がユーザーの行動にどのような影響をもたらしたかを厳密に検証することが可能になりました。

分析対象は、主要な企業や非営利団体、そのリーダーたちの公式アカウントです。仕様変更を挟んだ1年間の14万件以上のツイートが収集、分析されました。研究の問いは二つありました。一つは「文字数拡張というアフォーダンスの変化は、投稿行動に変化をもたらしたのか」、もう一つは「もし変化があったとして、その度合いはアカウントによってどう異なっていたのか」です。

分析の結果、アフォーダンスの変化が行動の変化を引き起こしていたことが明らかになりました。仕様変更後、ツイートの平均総文字数は約48文字増加していました。人々は、与えられた新しい可能性を実際に活用し、より多くの文字数で情報を発信するようになったのです。

興味深いのは、増加した約48文字の内訳です。そのおよそ3分の2はテキスト情報でしたが、残りは画像や動画といったメディアの添付や、外部リンク(URL)の挿入の増加と関連していました。メディア添付は元々文字数制限の計算外であり、この機能自体に変更はありませんでした。それでも利用が増えた事実は、ユーザーが投稿を設計する際の作法、いわばコンテンツ作りのスタイルが変化した可能性をうかがわせます。

「行動変化の個人差」に目を向けましょう。文字数上限の拡張という同じ変化に直面しながら、あるアカウントは積極的に長い投稿をするようになった一方で、別のアカウントは以前とあまり変わらないという違いが見られました。この差はどこから来たのでしょうか。研究では、「仕様変更前から多くの『いいね』やリツイートを獲得していたアカウントほど変化が大きかった」という仮説と、「仕様変更前から常に140字という上限ギリギリで投稿し、制約を強く感じていたアカウントほど変化が大きかった」という仮説が検証されました。

分析の結果、強く支持されたのは後者の仮説でした。もともと140字という制限に窮屈さを感じていたアカウントほど、280字という新しいアフォーダンスを積極的に活用するようになっていたのです。この発見は、アフォーダンスの効き方について大切なことを教えてくれます。技術的な仕様変更は、全ての人を同じように動かす画一的なスイッチではありません。それは、それ以前に何らかの「制約」を知覚していた人々の行動を、より強く後押しするレバーのように機能するのです。

この研究は、アフォーダンスが人々の行動を誘発しうることをデータで明らかにしました。同時に、その作用は一様ではなく、受け手である人間がそれまでに何を経験し、どう感じていたかという主観的な知覚が介在することも明らかにしました。テクノロジーのデザインだけでも、それを使う人間の解釈だけでもない。その両者の相互作用の中に、私たちの行動を解き明かす鍵がある。アフォーダンスという視点は、そのことを改めて浮き彫りにしています。

脚注

[1] Vyas, D., Chisalita, C., and Dix, A. (2017). Organizational affordances: A structuration theory approach to affordances. Interacting with Computers, 29(2), 117-131.

[2] Haag, S., Eckhardt, A., and Venkatesh, V. (2022). Deviant affordances: When tensions, deadlocks, and nonconformance generate performance. MIS Quarterly, 46(4), 2111-2162.

[3] Zhou, A. (2021). Causal effects of affordance change on communication behavior: Empirical evidence from organizational and leadership social media use. Telematics and Informatics, 59, 101549.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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