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コラム

見えない糸を編み直す:住宅から会計まで、関係性のデザイン

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私たちの周りにある世界は、一見確固たるものに思えます。会社、家、制度、あるいは「協力」といった言葉も、昔からそこにある、揺るぎない存在のように感じられるかもしれません。しかし、これらは、実は絶えず変化し続ける「関係の網の目」によって成り立っています。

社会で起こる出来事を、人やモノ、アイデアといった様々な要素が結びついたり離れたりする、動的なネットワークとして捉える考え方があります。この視点に立つと、これまで当たり前だと思っていた物事の姿が、違って見えてきます。本コラムでは、住宅、会計、組織連携、知識共有、研究開発という領域を横断しながら、物事の捉え方や関係性を「再定義」し「再構築」するとはどういうことかを探求していきます。

住宅の耐性を、多層的な関係性を再編する能力として捉え直す

「レジリエンス」という言葉は、例えば「回復力」や「しなやかさ」と訳されます。住宅についてこの言葉が使われるとき、多くの人は災害に耐える物理的な頑丈さを想像するかもしれません。しかし、近年のパンデミックは、私たちの住まい方が物理的な強度とは別の次元で脆さを抱えていることを浮き彫りにしました。この問いに対し、住宅の耐性を、建物単体ではなく、それを取り巻く多層的な「関係性」を再編する能力として捉え直す研究があります[1]

この研究は、オーストラリアの住宅戦略に関する公的文書を分析しました。分析の根底にあるのは、住宅を、人とモノ、制度、自然環境などが絡み合う「ネットワークの結節点」と見る考え方です。この視点から、住宅の耐性は五つの異なる層で考えることができると整理されました。

第一の層は「住戸の内部」です。一つの住まいを、住人、家具、家電といった要素が相互に作用しあう小さなネットワークとして捉えます。在宅勤務が広まった際、多くの家庭で仕事と生活の空間が衝突しました。この層における耐性とは、暮らしの変化に応じて、住まいの中の関係性を柔軟に組み替え、日々の営みを支え続ける能力を指します。

第二の層は「住宅の供給チェーン」です。一軒の家が建つまでには、設計者、資材メーカー、建設業者、金融機関など、無数の主体が関わります。パンデミックの際には、資材の供給が滞り、供給ネットワークは大きな混乱に見舞われました。この層の耐性とは、予期せぬ障害が起きても、必要な要素を素早く集め直し、住宅を供給し続ける関係を再構築できる能力のことです。

第三の層は「住宅ストック」です。個々の住宅は、都市や地域といった、より大きなストックの一部を構成します。そこでは、住宅の「型」、「立地」、「量」が互いに関係します。急な需要の変化に対し、空き家を改修したり、異なるタイプの住宅を供給したりして、需給のミスマッチを解消することが必要になります。この層での耐性とは、社会の変化に応じて、住宅の種類や量を調整し、配分し直す能力です。

第四の層は「住戸とコミュニティの関係」です。住宅は、交通網、職場、学校、公園といった地域の様々な要素と結びついています。働き方の変化で近隣での活動が増えたとき、地域のインフラの使われ方も変わります。この層における耐性とは、人々の活動パターンの変化に合わせて、住まいと周辺環境との結びつきを柔軟に再編成できるしなやかさです。

第五の層は「住戸と自然環境の関係」です。住宅は気候や地形といった自然のネットワークの中にあります。激甚化する自然災害に対し、建物の設計や工法を適応させることが不可欠です。この層における耐性とは、変化する自然環境に応答し、人間の暮らしを守るために、住まいと自然との関係性を調整していく能力を意味します。

政策文書を分析した結果、住宅ストック(第三層)に関する記述に内容が偏り、実際に家を建てる供給チェーン(第二層)の強靭化については、ほとんど語られていないことが可視化されました。住宅の耐性とは、単一の次元で測れるものではなく、様々なスケールの関係性を動的に編み直していく複合的な能力です。

会計は現実を映す鏡でなく、社会を動かす計算技術である

関係性を編み直すという視点は、住宅のような物理的な存在だけでなく、より抽象的な仕組みを理解する上でも有効です。その一つが「会計」です。会計を、企業の経済活動をありのままに映し出す、中立的な「鏡」だと考える人もいるかもしれません。しかし、ある研究は、会計とは、現実をただ記録する道具ではなく、むしろ現実を特定の形に作り変え、社会を動かす力を持つ能動的な「計算技術」であると論じます[2]

この考え方の核心には「翻訳」という概念があります。これは、ある人や組織の利害関心を、別の言葉や形に置き換え、新たなネットワークに巻き込んでいくプロセスです。例えば、新しい管理会計システムが導入されるとき、それは一方的に適用されるのではありません。設計者の意図、経営者の目標、現場の工夫といった様々なアクターの思惑がせめぎ合い、互いの利害を「翻訳」し合いながら、システムは組織の現実に合わせて作り変えられていきます。同時に、そのプロセスを通じて組織内の人間関係や仕事の進め方自体も変容していきます。

このアプローチのもう一つの特徴は、人間だけでなく、計算手法や報告書といった「モノ」も、他者に働きかける力を持つ「アクター」として分析することです。一枚の予算書は、部門長にコスト削減を迫り、従業員に行動を促すアクターとして振る舞います。このように、人間と非人間を区別せず、両者がいかに結びつき、安定したネットワークを形成するかを追跡することで、会計が社会を動かす力学が見えてきます。

こうした視点からの歴史分析は、会計技術が遠く離れた場所を管理可能にしてきた過程を解き明かしています。投資評価尺度は、世界中の事業所の複雑な活動を、本社という「計算センター」で比較可能な一つの数字に変換します。数字やグラフといった「書き込まれたもの」は、遠隔地の現実を集約し、介入可能な対象へと作り変えることで、「遠隔での統治」を可能にするのです。会計は現実を写し取っているのではなく、管理できる現実を構築しています。

また、新しい市場が生まれる過程を分析した研究は、会計が持つ「遂行性」という側面を明らかにしました。例えば、温室効果ガスの排出権市場では、会計士が排出権を企業の資産として帳簿に記載できるように定義することで、排出権は取引可能な「商品」になります。ここでの会計は、すでに存在する経済活動を記述する「カメラ」ではなく、取引という経済活動そのものを可能にする「エンジン」として機能しています。

組織間連携は、共通の対象物を介した緩やかな模倣で進む

異なる目的を持つ組織同士は、どのように日々の活動を結びつけ、連携を生み出しているのでしょうか。一般に、組織間の連携は公式な契約や指示によって進められると考えられています。しかし、現場レベルでの協力は、もっと流動的で自発的なプロセスから立ち現れることがあります。スウェーデンの医療・ケア領域での協働プロジェクトを追跡した研究は、組織の境界を越えた連携が、共通の「対象物」を介した緩やかな「模倣」を通じて編み上げられていく様子を描き出しています[3]

研究の舞台は、病院、一次医療機関、自治体という三つの組織です。これらの組織間では患者情報の連携不全が問題でした。そこで各組織の看護職らが中心となり、連携を改善するプロジェクトが始まりました。研究者たちは、このプロセスを、個々の「アクター」ではなく、組織を横断する「アクション(行為)」のつながりに着目し、「アクション・ネット」として分析しました。

最初のステップは、共通の対象物を設定することでした。それは「患者」です。チームは、高齢患者が三組織間をどう移動するかを追跡し、フローチャートに描き出しました。患者は、各組織で異なる意味で捉えられていましたが、移動を可視化することで、組織の境界を横断し、三者をつなぐ「境界オブジェクト」となったのです。この図は、見えにくかった組織間の依存関係を関係者全員が認識するための共通の土台となりました。

この境界オブジェクトを軸に、連携の仕組みが設計されました。異なる組織の担当者が常に集まることは非現実的なため、離れた場所と時間で働く人々のアクションをつなぐ「境界プロシージャ(手順)」が導入されました。例えば、連携がうまくいかなかった事例を定型フォームで報告する「逸脱報告」です。この報告書は月例会議で議論され、それ自体が問題点を共有する新たな境界オブジェクトとして機能しました。また、互いの職場を体験する「相互シャドーイング」も行われ、参加者は他者の仕事の文脈を身体的に理解し、連携を円滑に進める心理的な素地が醸成されました。

こうした実践を通じて、プロジェクトは独自の「協働モデル」へと結晶化します。現場のエピソードや報告フォーム、公的ガイドラインをまとめたパンフレットが作成され、配布されました。このパンフレットは、ローカルな実践を、他の地域でも応用可能な、持ち運びのできる「モデル」という新たな境界オブジェクトへと昇華させました。

この事例から、組織間連携が生まれるための三つの結合メカニズムが見えてきます。一つは、フローチャートなど物を通じた「認知的結合」。二つ目は、相互訪問などを通じて生まれる「情動的結合」。三つ目は、他者の成功事例を見て真似る「模倣的結合」です。この研究は、組織間の連携が、必ずしも強固な制度や命令系統を必要としないことを示唆しています。むしろ、共通の対象物を中心に据え、現場の実践者たちが生み出した手順を共有し、模倣しあうという、柔軟で緩やかな結びつきが、持続可能な協力関係を育むのかもしれません。

知識共有は、人とツールの利害を調整する仕組みで実現する

組織間の連携では、実践的な知恵が組織の壁を越えて共有されていました。それでは、一つの組織の「内部」に視点を移したとき、知識の共有はどのように実現されるのでしょうか。多くの組織が情報共有システムを導入しながらも、知識が個人に滞留する課題に直面しています。この問題に対し、ある研究は、知識共有を、人とツール、制度の利害を調整していく「ネットワーク構築」のプロセスとして捉えることで、成功への道筋を照らし出しています[4]

この研究は、南アフリカのある工科大学を舞台に行われました。そこでは、教育に関するノウハウが個々の教員に分散し、組織としての記憶が蓄積されないことが問題でした。研究者たちは、教員へのインタビューを通じて、知識共有がなぜうまくいかないのかを、アクターネットワーク理論の「翻訳の瞬間」という枠組みを用いて分析しました。この枠組みは、ネットワークが形成される過程を四つの段階で説明します。

第一段階は「問題化」です。これは、中心的なアクター(大学のマネジメント層)が「知識共有の推進」を組織全体の課題として定義し、誰もが通過すべき「必須通過点」として設定する段階です。しかし、インタビューからは、教員の消極性の背景に、マネジメントからの支援の欠如や使いにくいテクノロジー、不明確な手順といった、ネットワークの不備があることが浮かび上がりました。

第二段階は「インテレッセマン」です。これは、設定された必須通過点に、他のアクターたちの関心や利害を引きつけ、結びつけていくプロセスです。研究によれば、教員の関心を知識共有に向かわせるには、共有の具体的な便益、公平な参加感、マネジメントの継続的な関与が不可欠でした。知識共有を、現場の課題解決に直結する実利的な活動として位置づけることが重要です。

第三段階は「エンロールメント」で、各アクターの役割を確定させ、ネットワークへの参加を決定的にする段階です。この合意は、方針書や情報システムといった目に見える形に「刻印」されることで安定します。大学の事例では、標準化されたプロセス、明確な役割、信頼できる情報基盤、現場とマネジメントを媒介する「推進役」の存在が、教員のコミットメントを確かなものにしていました。

第四段階は「モビライゼーション」です。これは、固められたネットワークを実際に動員し、活動を継続させる段階です。そのためには、戦略から手順へと続く仕組みを、日々の業務や人事評価制度と連動させることが求められます。定期的な見直しや成功事例の共有が、仕組みの形骸化を防ぎ、知識共有を組織の「常態」へと導きます。

この研究が明らかにしたのは、知識共有の成否が、個人の意識や文化といった単一の要因で決まるのではないということです。それは、人間と非人間の双方のアクターの利害を注意深く「翻訳」し、安定した協力関係のネットワークを設計・維持していく営みです。

研究開発は、大学から産業への「技術移転」段階が非効率

組織内部での知識共有は、人とツールの利害を調整するネットワーク構築のプロセスでした。この視点を国家レベルに広げると、社会全体のイノベーションもまた、一つの巨大なネットワークとして捉えることができます。大学で生まれた基礎研究の成果が、いかに産業界で新しい製品やサービスへと結実していくのかは、多くの国にとっての課題です。ある研究は、この研究開発のプロセスを多段階のネットワークとして分析し、その効率性を国際比較することで、イノベーションの「ボトルネック」がどこにあるのかを特定しました[5]

この研究では、イノベーションのプロセスを、三つの連続する段階から成るネットワークとしてモデル化しました。そして、世界25カ国のデータを対象に、各段階でどれだけ効率的に資源を成果へと転換できているかを測定しました。

第一の段階は「基礎研究段階」です。主役は大学や公的研究機関で、研究開発費や研究者の数といった「投入」から、学術論文などの「産出」を生み出します。

第二の段階は「技術移転段階」です。このネットワークは、学術的な知見を産業界が活用できる形へと「翻訳」するプロセスを担います。大学の技術移転機関などがアクターとなり、学術の世界と産業の世界をつなぐ結節点です。

第三の段階は「システム開発段階」です。主役は産業界の企業で、前の段階から移転された技術や知識を「投入」として、最終的な経済的価値を「産出」します。

25カ国のデータを分析した結果、明確な傾向が浮かび上がりました。多くの国は、第一の「基礎研究段階」において、比較的高い効率性を示していました。学術成果を生み出す能力は担保されていたのです。ところが、第二の「技術移転段階」に目を向けると、その平均効率スコアは他の段階に比べて著しく低い値となりました。大学で生まれた優れた研究成果を、産業界で利用可能な技術へと転換するプロセスに、システム全体の非効率性が集中していました。

この分析が示唆するのは、国家のイノベーション能力を向上させるには、大学での基礎研究に資源を投下するだけでは不十分だということです。優れた種があっても、それを次の段階へと運ぶ関係性のネットワークが脆弱であれば、イノベーションという果実は実りません。システム全体のパフォーマンスは、個々の要素の優秀さだけでなく、それらをつなぐ関係の質によって決定されるのです。

脚注

[1] Pablo, Z., Littleton, C., and London, K. (2024). Reconceptualising resilience in housing policy: an actor-network approach. Regional Studies, Regional Science, 11(1), 271-290.

[2] Justesen, L., and Mouritsen, J. (2011). Effects of actor-network theory in accounting research. Accounting, Auditing & Accountability Journal, 24(2), 161-193.

[3] Lindberg, K., and Czarniawska, B. (2006). Knotting the action net, or organizing between organizations. Scandinavian Journal of Management, 22, 292-306.

[4] Twum-Darko, M., and Harker, L.-A. L. (2017). Understanding knowledge sharing in an organization: A perspective of actor-network theory. International Journal of Knowledge Management, 13(1), 53-72.

[5] Chen, P. C., and Hung, S. W. (2016). An actor-network perspective on evaluating the R&D linking efficiency of innovation ecosystems. Technological Forecasting and Social Change, 112, 303-312.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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