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コラム

ルールの隙間で動く組織:対立を乗りこなす現場の知恵

コラム

組織で仕事をしていると、私たちは部署間の意見の食い違いや目標の優先順位をめぐる葛藤など、様々な「対立」に直面します。対立は厄介な問題とされがちですが、異なる意見がぶつかり合うことで、より良いアイデアが生まれるきっかけにもなります。

組織には、こうした対立を調整するために「ルール」が存在します。明確なルールがあれば問題は解決されると考えがちですが、現実はそう単純ではありません。ルールを厳格に適用しようとすることが、かえって現場の柔軟性を奪うこともあります。また、どれだけ精緻なルールでも、すべての状況を網羅することはできず、常に解釈の「隙間」が残ります。

本コラムでは、組織における「対立」と「ルール」が、どのように絡み合い、私たちの日常業務、すなわち「ルーティン」を形作っているのかを探求します。対立はどのように乗りこなされるのか。機能していた協力関係はなぜ崩壊するのか。不完全なルールと現場の実践は、どのように作用し合うのでしょうか。いくつかの事例を読み解きながら、組織のなかで人々が働き、協力し、時にはぶつかり合う、そのプロセスの内側に迫ります。

対立する目標は、ルーティンの実行を調整すれば両立できる

多くの組織は、製品の「デザイン性」と「効率性」のように、相反するかのように見える目標を同時に追い求めなければなりません。あるイタリアのデザイン会社で行われた長期的な観察は、この問いに一つの答えを提示してくれます[1]

研究の舞台となったのは、独創的な家庭用品で知られるアレッシィ社です。かつて同社には、デザイナーの創造性を何よりも尊重し、芸術作品のような製品を生み出す「夢工場」という流儀しか存在しませんでした。この時期、目標は一つだったため、組織内に対立はありませんでした。

しかし時代が変わり、より多くの人々が手に取れる価格の製品を開発するという、「効率的な工場」としての目標が加わります。この二つ目の目標が導入されたことで、デザインを第一に考える人々と、効率を第一に考える人々の間で深刻な対立が生まれ、かつての協力関係は崩れ去りました。

この対立を前に、現場の人々は日々の仕事の進め方、すなわちルーティンを状況に応じて柔軟に調整することで、二つの目標の両立を探りました。そこでは、三つの特徴的な行動が観察されました。

一つ目は「スプライシング(接合)」です。これは新製品のアイデアを生み出すワークショップで見られました。プロジェクトの目的が「夢工場」に近いのか、「効率的な工場」に近いのかを事前に話し合い、合意した上で、ワークショップの参加者や議題といった構成要素を柔軟に組み替えたのです。例えば、デザイン性を探求するなら文化人類学者を招き、効率性を求めるならエンジニアが中心となる、といった具合です。目的に合わせて活動を「接合」することで、異なる視点を共存させました。

二つ目は「アクティベーティング(起動)」です。これは製品案を評価する段階で用いられました。複数の指標で評価する方式に変わったことで、「どの指標を大事にするか」をめぐって意見が割れるようになりました。この問題を乗り越えるため、評価が特に割れそうな難しいプロジェクトに限って、関係者が一堂に会して議論を行う「専門家パネル」を招集するという特別な手続きが「起動」されるようになりました。必要な時だけこの協調的な活動のスイッチを入れることで、対立が避けられない状況を学びの機会へと転換させました。

三つ目は「リプレッシング(抑制)」で、製品の色を決めるプロセスで観察されました。デザイナーとエンジニアの対立を和らげるため、社内の全色見本を収めた「カラーボックス」が導入されました。エンジニアは新しい色の開発を頭ごなしに否定せず、まずこのボックスを提示し、膨大な選択肢から選んでもらうようにしました。コストのかかる色開発という対立の火種を、必要のない場面では「抑制」しました。もちろん、本当に新しい色が必要な場合は、従来通りの開発も許されました。

アレッシィ社の事例は、現場の人々が日々の仕事のやり方を状況に応じて賢く調整する主体的な行動が、硬直したルールに縛られず、一見相容れない二つの世界に橋を渡す源泉となることを教えてくれます。

利害を調整するルーティンは変化に直面すると崩壊する

組織の中で異なる部署が協力する時、そこには目に見えない「休戦協定」のようなものが存在します。しかしこの平穏は、ある大きな変化をきっかけに崩壊し、深刻な対立が噴出することがあります。ある製造企業における価格調整プロセスを追った調査は、この「休戦の崩壊」の様子を描き出しています[2]

調査対象となったのは、製品の価格を決めるマーケティング部門と営業部門です。平時、すなわち小規模な価格改定の際には、両部門の関係は安定していました。マーケティング部門はマクロな視点から価格リストの草案を作り、営業部門はミクロな現場の事情を考慮して割引率を交渉する。互いの専門性を認め、それぞれの裁量で動くことで協調していました。

しかし、この休戦は、技術革新による大幅なコスト削減という出来事で終わりを告げます。このコストダウンを価格にどう反映させるか。この問題が、両部門の間に隠れていた深い溝を白日の下に晒しました。

マーケティング部門は、経済学的な合理性を重んじ、定価であるリスト価格を大胆に引き下げるべきだと主張しました。市場全体に対して会社の競争力を明確に示すメッセージになると考えたのです。

これに対し、営業部門は猛反対しました。長年の現場経験から、リスト価格を下げてもその恩恵は最終顧客には届かず、流通業者の利益になるだけだと主張します。それよりも、個々の顧客との交渉の中で割引率を調整すべきだと考えました。

この対立の根底には、市場に対する見方の違いがありました。休戦が保たれていた平時には問われなかったこの違いが、いまや価格決定の主導権争いへと発展します。対立は感情的なものとなり、会議では怒号が飛び交うほど険悪な雰囲気になりました。

この膠着状態を打開したのは、経営幹部による一つの決定でした。しかしそれは、どちらかの案を全面的に採用するものではありませんでした。彼は、問題の製品ラインの価格を下げるというマーケティング案を受け入れつつ、全く別の古い製品ラインの価格を引き上げるという指示を出したのです。これは社内の収益計画の帳尻を合わせるための、いわば政治的な妥協案でした。

この決定は、両部門にとって論理的には納得のいかないものでした。しかし不思議なことに、この一見非合理な決定が、崩壊した休戦を再構築するきっかけとなります。両部門は決定を受け入れた上で、再びそれぞれの現場で調整を始めました。営業部門は値上げされた製品ラインで顧客への割引率を大きくし、実質的な価格上昇が起きないように奔走しました。結果、組織は最悪の対立状態を脱し、仕事は再び前に進み始めました。

この事例は、組織における安定した協力関係が、いかに脆い基盤の上にあるかを示しています。それは大きな環境変化に直面した時、たやすく崩壊する危険性をはらんでいます。

組織ルーティンは、不完全なルールの隙間を埋める実践

組織には様々な「ルール」がありますが、どれだけ精巧に作られたルールでも、それだけでは組織は動きません。ルールには本質的に、埋められない「隙間」が存在するからです。その隙間を埋め、ルールに命を吹き込んでいるのは一体何なのでしょうか。パリの地下鉄、メトロの修理工場で行われた観察研究が、その答えを解き明かしてくれます[3]

この研究の舞台は、メトロの電子機器メンテナンスを担当する作業場です。作業員たちは、どの部品が不足しているかを示す「負債シート」というルールに従って、修理の優先順位を決めます。しかし、このルールだけでは、次に何をすべきかが完全に決まるわけではありません。多くの判断が現場の作業員に委ねられています。

ある時、経営陣は生産性を高める目的で、「生産性ボーナス」という新しいルールを導入しました。このボーナスは「生産量」と「品質」で評価される仕組みでした。ところが、この新ルールの導入は予期せぬ混乱を引き起こします。一部のチームは、ルールを自分たちに都合良く解釈し、ボーナスを稼ぎやすい簡単な修理ばかりを優先するようになりました。

この戦略は短期的には成功しましたが、その裏では修理の質が低下し、本当に必要な部品の在庫が枯渇するという危機的な状況を招いていました。ルールの一部だけを追求した結果、組織全体が大きな損害を被ることになったのです。最終的に、このチームは制度が本来意図していたすべてのルールを守らざるを得なくなりました。

この混乱期を経た後、作業員たちは複雑なルールをどのように守っているのでしょうか。観察を続けると、彼ら彼女らがルールの「隙間」を、自分たちの実践的な知恵、すなわち「ルーティン」で埋めている様子が浮かび上がってきました。

例えば、そこにはこんな不文律がありました。修理に持ち込まれた機器が耐用年数の三分の二を過ぎていたら、少し先取りして定期メンテナンスも同時に行うというものです。これはルールブックには書かれていませんが、長期的な効率を高めるための現場で培われた知恵でした。

また、作業員たちは、部品棚に積まれた修理待ちの機器の量をちらりと見て、「予防メンテナンス用の部品が溜まってきたから、今は負債シートの指示よりもこちらを優先しよう」といった判断を下します。この「棚をちらっと見る」という何気ない仕草が、書かれたルールを解釈し、現実に適用するための鍵となるルーティンです。

この事例は、ルールとルーティンの関係性について示唆を与えてくれます。ルールは常に解釈を待つ「未完成」な取り決めです。その本質的な不完全さ、抽象的であるがゆえに残された「中心にある空虚さ」を埋めるのが、現場のルーティンの役割です。私たちはルールに従っているようで、実は、ルールを解釈して生み出されたルーティンを通じて行動しています。

新ルール導入時、既存ルーティンを変え記憶させるのは困難

組織に変革をもたらそうと、新しいルールや制度が導入されることがあります。しかし、頭では新しいルールを理解していても、長年かけて体に染みついた仕事の進め方は、そう簡単には上書きできません。この困難さの根源には、人間の記憶の仕組みが関わっています。あるフランスの食肉加工企業が、国際的な品質基準を導入しようとした際の事例は、そのプロセスがいかに複雑であるかを明らかにしています[4]

研究対象の企業は、大手顧客からの要求で、国際的な品質基準(ISO規格)を導入することを決定しました。これは、作業手順をすべて文書化し、そのルールに従うことを求める厳格なシステムです。しかし、このトップダウンでのルール導入は、現場で様々な困難に直面しました。

第一に、政治的な側面からの抵抗がありました。経験と勘を頼りに仕事を進めてきた従業員にとって、事細かに作業方法を指示され、記録を求められることは、自分たちの自律性を奪われるように感じられました。

第二に、従業員は認知的な過負荷に苦しめられました。新しい手順、膨大な記録、不慣れな検査機器。覚えるべきこと、やるべきことが一度に押し寄せ、現場は飽和状態に陥りました。皮肉なことに、品質を高めるためのルール導入が、この混乱によってかえってミスを誘発し、一時期、製品の汚染が増加する事態まで発生しました。

第三の困難は、体に染みついた記憶の壁でした。人間の記憶には、言葉で説明できる「宣言的記憶」と、体が覚えている「手続き的記憶」があります。マニュアルは「宣言的記憶」として頭で理解できても、長年の反復で形成された、無意識レベルで体が動く「手続き的記憶」は簡単には変わりません。新しいやり方が体に馴染み、自然にできるようになるまでには、膨大な時間と反復が必要でした。

経営陣は、単にルールを押し付けるだけでは変革は進まないことを痛感し、アプローチを変えます。従業員に対して集中的な訓練プログラムを実施し、新しいスキルを習得した従業員を昇進させるなど、変化への動機づけとなる仕組みを整えました。

「タスクローテーション」も取り入れました。一人の従業員が定期的に異なる作業を担当するこの手法は、単調さによる注意力の低下を防ぐとともに、従業員が複数のスキルを身につけることを促し、組織全体の学習を活発にしました。

この事例は、組織に新しいルールを導入するということが、いかに困難な道のりであるかを物語っています。新しい知識を頭に入れるだけでなく、一人ひとりの体に刻まれた無意識レベルの記憶を、根気強く書き換えていくプロセスなのです。変革には、ルールの正しさを説くだけでなく、現場の困難に寄り添い、新しいやり方が「文化」として根付くまで、辛抱強く支援し続ける姿勢が不可欠となるのでしょう。

脚注

[1] Salvato, C., and Rerup, C. (2018). Routine regulation: Balancing conflicting goals in organizational routines. Administrative Science Quarterly, 63(1), 170-209.

[2] Zbaracki, M. J., and Bergen, M. (2010). When truces collapse: A longitudinal study of price-adjustment routines. Organization Science, 21(5), 955-972.

[3] Reynaud, B. (2005). The void at the heart of rules: Routines in the context of rule-following. The case of the Paris Metro Workshop. Industrial and Corporate Change, 14(5), 847-871.

[4] Lazaric, N., and Denis, B. (2005). Routinization and memorization of tasks in a workshop: the case of the introduction of ISO norms. Industrial and Corporate Change, 14(5), 873-896.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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