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コラム

アフォーダンスの広がり:日常から危機までを支える力

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私たちの働き方は近年、変化しつつあります。物理的なオフィスに縛られず、多様な場所から仲間と協働することが増えています。この変化を支えているのが、チャットツールやウェブ会議システムといったデジタル技術です。

しかし、これらのツールを導入するだけで、本当に仕事の成果は向上するのでしょうか。あるチームでは生産性を飛躍的に高める一方で、別のチームではむしろ混乱を招いているように見えることもあります。この違いはどこから来るのでしょう。私たちは、テクノロジーの性能だけでなく、それを使う「人」や「組織」との関わり方という、もう一方の側面を見過ごしているのかもしれません。

本コラムでは、テクノロジーが単独で成果を生むのではなく、それを使う人間との「相互作用」の中で、さまざまな「行動の可能性」が生まれるという考え方に光を当てます。この「アフォーダンス」という概念を道しるべに、テクノロジーが仕事のパフォーマンスにどう結びつくのか、そのメカニズムを検討していきます。

アフォーダンスの束がデジタルワークの成果を高める

デジタルツールが職場にあふれる現代、それらが仕事の成果にどう結びつくのかは多くの人の関心事です。しかし、現実の仕事は複数のツールを組み合わせて行うため、個々のツールの是非を問うだけでは本質を見誤るかもしれません。

ここで、テクノロジーを、それが私たちに「何をさせてくれるか」という可能性の観点から捉え直すアプローチがあります。この考え方では、技術の特性と、使う人の目的や能力、環境が相互に関わり合うことで、「特定の行動を可能にする潜在的な機会」が生まれるとされます。

ある研究では、このアプローチからデジタルワークを統合的に理解しようと試みました[1]。研究者たちは、個別のツール名ではなく、それらが共通して提供する四つの基本的な可能性に着目しました。一つ目は、作業の調整や段取りを円滑にする「協調」の可能性。二つ目は、情報交換を頻繁かつオープンに行えるようにする「コミュニケーション」の可能性。三つ目は、時間や場所の制約を超えて知識を探したり提供したりすることを容易にする「知識共有」の可能性。四つ目は、関係者がタイムリーで正確な情報に基づき対話することで、迅速で妥当な結論を導き出すことを後押しする「意思決定」の可能性です。

研究チームは、これら四つの可能性が「束」となり、従業員のパフォーマンスを底上げするのではないかと仮説を立て、オーストラリアで働く人々を対象に調査を行いました。参加者には、自身が使うデジタルツールがこれら四つの可能性をどの程度実現させていると感じるかを尋ねました。

同時に、パフォーマンスも二つの側面から測定しました。一つは、職務記述書に定められた義務をきちんと満たす「インロール・パフォーマンス」。もう一つは、新しいアイデアを創出し実行に移す「イノベーティブ・パフォーマンス」です。

データを分析した結果、テクノロジーがもたらす四つの可能性の束は、両方のパフォーマンスを高める関連が確認されました。特に、定められた業務を確実にこなすインロール・パフォーマンスとの結びつきが強いことが明らかになりました。

この結果は、何を物語っているのでしょうか。研究者たちは、四つのアフォーダンスが、いわば仕事の「基礎体力」を形成すると解釈しています。情報のやり取りがスムーズになり、作業の段取りが最適化され、必要な知識が手に入り、合意形成が進むようになれば、日々の定常業務を高い水準で実行できる基盤が整います。これが、インロール・パフォーマンスへの強い関連として表れたと考えられます。

一方で、イノベーティブ・パフォーマンスとの関連は、インロール・パフォーマンスほど強くはありませんでした。これは、テクノロジーがもたらす可能性だけでは、革新的な活動を完結させるには不十分であることを示唆しているのかもしれません。新しいアイデアを実現するには、この基盤の上に、さらに別の組織的な仕組みや支援が必要になる可能性があります。

また、年齢や学歴といった個人の特性も、これらのパフォーマンスにそれぞれ関連していることが分かり、テクノロジーが提供する可能性は、それを受け取る人の特性とも絡み合いながら、仕事の成果へとつながっていきます。

可視性アフォーダンスが知識提供を介しアジリティを高める

先ほどは、テクノロジーがもたらす可能性の束が、仕事の基礎体力を高めることを見ました。その中でも「見える」という特定の可能性に絞ると、どのようなメカニズムが働くのでしょうか。ここでは、企業内ソーシャルメディア(ESM)を舞台に、「可視性」が従業員の俊敏な動き、すなわち「アジリティ」をいかに生み出すのかを探求した研究を紐解きます[2]

ESMは、組織内の人々が自由に情報を発信し、交流できるプラットフォームです。その特徴は、やり取りの多くが公開されている点にあります。この「見える化」は、二つの機会を提供します。一つは、自分が直接関与していない会話の内容まで見ることができる「メッセージの透明性」。もう一つは、誰と誰がつながっているのかが何となく分かる「ネットワークの半透明性」です。

ある研究は、この二つの「可視性アフォーダンス」が、従業員のアジリティ(予期せぬ事態に迅速かつ柔軟に対応する能力)を高めるのではないかと考えました。そして、可視性からアジリティに至る過程を、「知識の移転」が橋渡ししていると仮説を立てました。他者のやり取りが見えることで、従業員は必要な知識を得やすくなる(知識獲得)と同時に、自分の知見を提供しやすくなる(知識提供)。この知識移転の活性化が、結果として個人のアジリティを向上させるというストーリーです。

この連鎖を検証するため、中国とアメリカで働くESM利用者を対象に調査が行われました。分析の結果、二つの可視性アフォーダンスは、両国において、従業員のアジリティを高めることと直接的に関連していました。他者のやり取りや関係性が見える環境は、それ自体が従業員をより俊敏にする素地となるようです。

知識移転が果たす橋渡しの働きを調べると、興味深いパターンが浮かび上がりました。「知識提供」、すなわち自分の知見を他者に与える行動は、両国で、可視性とアジリティの間を媒介していました。これは、「見える化」された環境が従業員にアウトプットの機会を促し、その行動を通じて本人の対応能力が磨かれていく、というメカニズムの存在を示しています。

一方で、「知識獲得」については、文化による違いが見られました。中国では知識獲得も媒介経路として機能していましたが、アメリカではその働きが明確ではありませんでした。他者の知恵を吸収して能力を高めるプロセスは、組織の文化などによって機能の仕方が変わる可能性がうかがえます。

この研究が描き出すのは、ESMの「見える化」が、単に情報をオープンにする以上の働きを持つという事実です。それは、「誰が何を知っているか」というメタ知識を組織全体に流通させる触媒となります。その知識の流れの中で、人々は知を与え、得ることを通じて、変化に対応するしなやかさを身につけていくのです。

ITアフォーダンスの効果は組織学習とネットワークで変わる

これまでの議論は、テクノロジーと個人の間に焦点を当てたものでした。しかし、テクノロジーがもたらす恩恵は、それを利用する「組織」全体の特性によって変わってくるのではないでしょうか。ここでは、組織の「学び方」や「他社とのつながり」が、テクノロジーの価値をどのように左右するのかを探った研究に目を向けます[3]

舞台は、B2B(企業間取引)のライブストリーミングeコマースの世界です。ある研究は、この分野で活躍するMCN(マルチチャネルネットワーク)という組織を対象に、ITが提供する三つのアフォーダンスが企業のパフォーマンスにどう結びつくのかを調査しました。

ここで取り上げられたアフォーダンスは、ライブストリーミングに特有のものです。製品を魅力的に提示する「ビジビリティ」、顧客がリアルタイムで意見を表明できる「メタボイシング」、顧客が求める製品を見つけやすくする「ガイダンスショッピング」の三つです。これらが、MCN組織のパフォーマンスを高めると考えられました。

しかし、この研究の核心は、ITアフォーダンスの効果が、組織の持つ能力によって強まったり弱まったりするのではないか、という問いにあります。その能力として、二つの異なるタイプの「組織学習」と、「ビジネスネットワーキング」が取り上げられました。

組織学習の一つは、新しい知識やアイデアを探し求める「探索的学習」。もう一つは、既存の知識や業務を改良し効率化する「活用的学習」です。「ビジネスネットワーキング」は、組織が外部のパートナー企業などとどれだけ強固な関係を築いているかを示します。研究チームは、探索的学習やビジネスネットワーキングはITアフォーダンスの効果を増幅させ、一方で活用的学習への偏りはその価値を十分に引き出せないのではないかと仮説を立てました。

中国のMCN組織を対象とした調査の結果、立てられた仮説はすべて支持されました。三つのITアフォーダンスは、それ自体がパフォーマンスを高めることと関連していました。そして、組織の特性がその関連の強さを左右していたのです。

組織が「探索的学習」を活発に行っている場合や、「ビジネスネットワーキング」が強固な組織ほど、ITアフォーダンスを高いパフォーマンスに結びつけていました。対照的に、「活用的学習」の度合いが高い組織では、ITアフォーダンスとパフォーマンスとの間の正の関連が弱まるという結果が見られました。

この研究が描き出すのは、テクノロジーの価値が、それを受け取る組織の「構え」によって変動するという実態です。組織が常に新しい知識を探し求め、外部に開かれたネットワークを持っている場合、ITアフォーダンスは追い風となります。しかし、内向きで、既存のやり方に固執する組織では、同じテクノロジーも宝の持ち腐れになりかねないのです。

四種のサポート・アフォーダンスが危機下の起業家を支える

テクノロジーと人との関係性は、平時だけでなく、人々が困難に直面する危機的な状況において、「支え」として機能することがあります。パンデミックという危機に直面した起業家たちが、オンラインコミュニティからいかに必要なサポートを引き出していったのか、そのプロセスを探求した質的研究を紹介します[4]

COVID-19のパンデミックは物理的な交流を制限し、多くの起業家を孤立させました。彼ら彼女らが頼ったのが、インターネット上の起業家コミュニティでした。ある研究は、Reddit上の大規模なコミュニティを対象に、パンデミック期間中の膨大な会話データを質的に分析し、どのような種類の「サポート・アフォーダンス」が生まれるのかを明らかにしました。

分析の結果、起業家が引き出すサポートには、大きく分けて四つの異なる形があることが浮かび上がりました。これらは、起業家がコミュニティに何を問いかけ、どのように関わるかによって現れ方が変わります。

一つ目は「問題解決(Resolving)」です。これは、起業家が直面する課題に対し、コミュニティが集合知で直接的な解決策を提供するものです。「政府の融資制度への申請方法は」といった明確な問いかけが起点となり、的確な情報提供などが行われます。この相互作用は、問題が解決すると比較的短時間で終結します。

二つ目は「問題の再フレーミング(Reframing)」です。これは、起業家が漠然とした問題を投げかけた際に、コミュニティがその問い自体に働きかけ、問題の捉え方を転換させる手助けをします。「新規顧客をどう獲得すればいいか分からない」といった曖昧な相談に対し、問題を分解したり、新しい視点を提示したりします。

三つ目は「状況の省察(Reflecting)」です。直接的な答えを出すのではなく、対話的な議論を通じて、あるテーマの理解を深めていくプロセスです。「パンデミック下での起業は良いタイミングか」といった広範な問いから始まり、メンバーとの意見交換や共感を通じて、起業家は状況を多角的に見つめ直す機会を得ます。

四つ目は「思考と努力の再焦点化(Refocusing)」です。省察にとどまらず、コミュニティとの強い相互作用を通じて、起業家が将来に向けた新たな行動計画を立てることを可能にする、より踏み込んだサポートです。「共同創業者をどう見つけるか」といった未来志向の問いに対し、コミュニティは行動ステップを提案したり、鼓舞したりして次の一歩を後押しします。

この研究から見えてくるのは、オンラインコミュニティが提供するサポートは、あらかじめ用意されたメニューではないということです。それは、起業家がコミュニティをどう認識し、どう関わるかによって、その場で生成されるものです。コミュニティを「情報検索ツール」と見なせば限定的なサポートが、共に「意味を創り出す場」と見なせば、より豊かで指針となりうるサポートを引き出すことが可能になるのです。

脚注

[1] Duan, S. X., Deng, H., and Wibowo, S. (2024). Technology affordances for enhancing job performance in digital work. Journal of Computer Information Systems, 64(2), 232-244.

[2] Pitafi, A. H., Rasheed, M. I., Islam, N., and Dhir, A. (2023). Investigating visibility affordance, knowledge transfer and employee agility performance: A study of enterprise social media. Technovation, 128, 102874.

[3] Yang, Y., Chung, H. F. L., Elms, J., and Fletcher, P. (2025). IT affordance, organizational learning, business networking and B2B performance: A multi-channel networks perspective. Industrial Marketing Management, 129, 197-218.

[4] Meurer, M. M., Waldkirch, M., Schou, P. K., Bucher, E. L., and Burmeister-Lamp, K. (2022). Digital affordances: how entrepreneurs access support in online communities during the COVID-19 pandemic. Small Business Economics, 58, 637-663.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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