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コラム

変化の連鎖を生むアフォーダンス:技術と人の相互作用

コラム

職場では、日々、大小さまざまな「変化」が起きています。新しい情報技術の導入や業務プロセスの見直しは、多くの場合、効率性の向上といった目的を持って計画されます。しかし、意図した通りに物事が進むことは、そう多くはありません。鳴り物入りで導入された最新のシステムが現場で十分に活用されなかったり、良かれと思って変えたルールがかえって業務の足かせになったりする。そんな経験に心当たりのある方もいるでしょう。

組織の変化がなぜ複雑で予測が難しいのか。その答えは、変化を「新しいものに入れ替える」という直線的なプロセスとして捉えるのではなく、そこに存在する人間、技術、制度が織りなす関係性の中にあります。新しいツールが一つ導入されるだけでも、それを使う人々の仕事のやり方、価値観、さらには「自分は何者か」という自己認識にまで波紋を広げることがあります。その波紋は、やがて組織全体の慣行や文化といった、より大きな制度のあり方をも揺さぶっていきます。

本コラムでは、組織における変革のプロセスを、こうした複雑な相互作用の観点から掘り下げていきます。人々が新しい技術の「可能性」をどのように認識し、それが日々の業務手順をどう変えていくのか。組織全体として、その可能性をいかに具現化していくのか。機能不全に陥った古い制度が、人々のアイデンティティと技術の相互作用によって、いかに変革されていくのか。組織変革の深層に光を当てることで、私たちの職場に渦巻く変化のダイナミクスを理解するための、新たな視点を提供できればと思います。

アフォーダンスの認識が技術とルーティンの変化を導く

新しいソフトウェアが職場に導入された時を想像してみてください。ある人はその新機能に可能性を見出し、仕事のやり方を大きく変えるかもしれません。一方、別の人は新しいツールが今までの手順に合わないと感じ、ツールの側に改善を求めるかもしれません。同じ技術を前にしても人々の反応は一様ではありません。この違いはどこから生まれるのでしょうか。この問いを解き明かす鍵は、「アフォーダンス」という概念にあります。

アフォーダンスとは、ある物や環境が、人に対して「何ができるか」という行動の可能性を提示していることを指します。重要なのは、これが単なる物理的な特性ではなく、それを見る人が何をしようとしているかという目的と組み合わさって「認識」される点です。情報技術においても同様に、人々は特定の目標を達成しようとする中で、その技術が何を提供してくれるか(アフォーダンス)、あるいは何を妨げるか(制約)を認識します。この認識が、変化の方向性を決定づけるのです。

このダイナミックなプロセスを克明に描き出した、ある自動車メーカーでの調査があります[1]。研究者が長期間現場に身を置き、人々の行動や会話を観察するエスノグラフィーという手法が用いられました。対象は、自動車の衝突シミュレーション技術「CrashLab」が開発され、導入されていく過程です。

物語は、研究開発部門がシミュレーション業務の科学的な信頼性を高めたいという目標を掲げたところから始まります。当時の現場では、エンジニアごとに作業方法がばらばらで、一貫した結果を得られない問題がありました。部署のメンバーは、既存のツールが信頼性の高い結果を出す上で「制約」になっていると認識しました。この問題を乗り越えるため、彼ら彼女らはシミュレーション結果を標準化されたレポート形式で自動的に集約する新しい技術、「CrashLab」を開発しました。

次に、この新開発されたCrashLabが、社内の衝突性能に関する専門家グループの関心を引きます。彼ら彼女らは業務を標準化することで人為的なミスを減らしたいと考えていました。専門家たちは、CrashLabのレポート自動生成機能に、エンジニアリングの標準を自動化できる「アフォーダンス」を見出しました。

しかし、そのためには自動化の元となる標準的な業務手順が必要でした。このアフォーダンスを現実のものとするため、彼ら彼女らは会社に働きかけ、業務手順を文書化する専門部署を設立させました。これは、アフォーダンスの認識が、新しい業務ルーティンの創出につながった瞬間でした。

業務の標準化が進むと、今度は安全部門のマネージャーたちが、シミュレーション業務全体のスピードを上げたいという新たな目標を抱きます。彼ら彼女らがCrashLabを評価すると、準備作業に依然として手作業が多く、経験豊富なエンジニアにとってはかえって時間がかかるという「制約」があることが分かりました。迅速化という目標を達成するため、マネージャーたちは開発者に機能追加を要求し、準備作業の一部が自動化されることになりました。

自動化機能が強化されたCrashLabが現場のエンジニアに導入されると、モデル作成の時間が大幅に短縮されることを体験します。この生まれた時間の余裕は、エンジニアたちがこれまで十分にできなかったシミュレーション結果の「分析」に、より多くの時間を割くことを可能にしました。その結果、同僚と設計について議論する時間が増え、分析に関する協議が活発化するという、新しい業務ルーティンが自然発生的に生まれました。

最後に、この新しいルーティンの中で、エンジニアたちは、より体系的な分析を行いたいという新たな目標を持つようになります。彼ら彼女らは一つの設計変更に対して多数のシミュレーションを行うようになりましたが、CrashLabは複数の結果を簡単に比較できませんでした。この点が新たな「制約」として強く認識され、複数のシミュレーション結果を一つのレポートにまとめて比較グラフを自動生成する機能が追加されることになります。

この一連の出来事は、技術とルーティンの変化が、どちらか一方から他方へと向かう単純なプロセスではないことを教えてくれます。人々が技術に対して「制約」を感じれば技術の側を変えようとし、そこに新たな「アフォーダンス」を見出せば自分たちの仕事のやり方を変えようとする。そうした人間の認識を起点とした相互作用が、連鎖し、組織のあり方を変容させていくのです。

組織的アフォーダンスは集合的な実現過程を経て具現化する

先ほどは、個人や小集団が技術をどう認識するかが、ルーティンや技術の変化を連鎖的に引き起こすプロセスを見ました。しかし、これが組織全体にわたる大規模なシステムの導入となると、話はさらに複雑になります。例えば、病院全体で電子健康記録(EHR)システムを導入する場合を考えてみましょう。組織として掲げた「医療の質の向上」といった大きな目標、すなわち「組織的アフォーダンス」は、どのように現実の成果へと結びついていくのでしょうか。

この問いに答えるため、ある米国の医療機関グループにおけるEHRシステム導入の道のりを、数年間にわたって追跡した縦断的な調査があります[2]。研究チームは、システム導入前、導入直後、導入から1年後と、3つの時点で関係者にインタビューを行い、変化の過程を多角的に捉えようとしました。

導入前、医師やスタッフの期待は概ね好意的でした。情報の共有が容易になることへの期待があった一方で、医師たちの中には、患者との対話の時間が減るのではないかという懸念も存在しました。システム稼働後、これらの期待と懸念は様々な形で現実のものとなります。情報の可用性が高まったという利点の一方で、特に医師にとっては生産性の低下と文書化作業の増加が負担となりました。

興味深いのは、同じシステムを前にしても、その使いこなし方に個人差が見られたことです。メモを直接タイピングする医師もいれば、従来通り口述で記録を残す医師もいました。こうした違いは、個人のタイピング能力や仕事の好み、システムへの慣れの度合いなど、様々な要因が絡み合って生まれていました。

導入から1年が経過すると、組織全体としては、もはや「古いやり方」には戻れないという感覚が共有されるようになっていました。しかし、医師の作業負荷という問題は依然として残っており、経営陣は組織的な対応を迫られていました。現場では、システムを介したメッセージでのやり取りが増えたことで、新たなコミュニケーションの作法やワークフローを模索する動きも生まれていました。

この事例の分析から、組織的アフォーダンスが具現化するプロセスは、二重の構造を持っていることが分かります。それは、「個人の旅」と、その集合体としての「組織の旅」です。

「個人の旅」とは、一人ひとりの従業員が、自らの能力や好み、EHRシステムの機能や職場の環境といった要因と向き合いながら、試行錯誤を通じてアフォーダンスを現実の成果に変えていくプロセスです。この旅は直線的ではなく、時には後戻りしたり、壁にぶつかったりしながら進んでいきます。

「組織の旅」は、これら無数の「個人の旅」が複雑に集約されることで姿を現します。個人の行動が組織全体の目標達成にどれだけ貢献しているか(整合性)、どれだけ多くの人が同じ方向に進んでいるか(一貫性)、組織として目標達成にどれだけ近づいているか(範囲)。これらの観点から、組織レベルでの実現の度合いを測ることができます。

この研究は、組織的なアフォーダンスというものが、単一の行動の可能性ではないことも明らかにしています。それは、「デジタルでデータを記録する」「情報にアクセスする」「部門間で連携する」といった、相互に関連しあう複数のアフォーダンスの「束(バンドル)」として存在します。これらのアフォーダンスが実現される順序には、ある種の依存関係があります。例えば、「デジタルでデータを記録する」というアフォーダンスがある程度実現されなければ、「情報にアクセスして活用する」という次の段階のアフォーダンスを実現することは困難です。

組織に変革をもたらすことは、優れたシステムを導入して終わりではありません。それは、多様な「個人の旅」が始まり、それらが時にぶつかり、時に助け合いながら、組織全体の大きな流れ、すなわち「組織の旅」を形作っていく、長く複雑な道のりです。

組織はポリシーでソーシャルメディアのアフォーダンスを統制する

現代の組織は、ソーシャルメディアのように、外部から従業員の個人的な活動を通じて内部に浸透してくる技術とも向き合わなければなりません。組織が直接管理しているわけではないこれらのツールが持つ様々な「可能性」と、組織はどのように対峙し、それを統制しようとするのでしょうか。この問いを探る一つの手がかりが、企業が公式に定める「ソーシャルメディアポリシー」という文書にあります。ポリシーは、組織がその技術をどう認識し、従業員にどう振る舞ってほしいと考えているかを映し出す鏡と言えるでしょう。

ソーシャルメディアは、いくつかの特徴的なアフォーダンスを持っています。一つは「可視性」で、個人の行動や知識が他者から見えるようになります。二つ目は「持続性」で、公開されたコンテンツは半永久的に残る可能性があります。三つ目は「編集可能性」で、公開されたコンテンツを後から共同で修正できます。四つ目は「関連性」で、人と人、あるいは人と情報を結びつけます。

ある分析では、様々な企業の74のソーシャルメディアポリシー文書を収集し、その内容を質的に読み解くことで、組織がこれらのアフォーダンスをどのように解釈し、対応しようとしているかが調べられました[3]。その結果、多くのポリシーがソーシャルメディアのアフォーダンスを、価値を生み出す機会としてよりも、管理すべきリスクの源として捉えているという実情が明らかになりました。

特に「可視性」と「持続性」は、最も警戒される対象となっていました。「従業員の投稿が、誰にでも見られる状態で、ずっと残り続ける」という事実は、機密情報や評判を損なう情報が外部に流出する大きなリスクと認識されていました。そのため、ポリシーの多くは、何を投稿してはいけないか、という禁止事項のリストに多くの紙面を割いていました。

「編集可能性」については、組織外の第三者が情報を改変・操作する能力、すなわち情報に対するコントロールを失うリスクとして捉えられていました。コンテンツを継続的に改善していけるという側面は、あまり認識されていなかったのです。

「関連性」のアフォーダンスについては、従業員が個人として発信した情報でも、その人が組織の一員であるという事実によって両者が結びつけて見られる、この公私の境界の曖昧化がリスクと見なされ、多くのポリシーが免責事項を投稿に付記するよう求めていました。

これらの認識に対応するためのガバナンス(統制)原則も、既存の枠組みに頼る傾向が見られました。例えば、広報活動に関する既存のルールを遵守するよう求めたり、判断に迷う場合は上司に相談するよう指示したりする記述が頻繁に見られます。

しかしながら、この分析は時間的な変化も捉えています。ポリシーが制定された時期で比較すると、初期のものはリスク管理にほぼ終始していたのに対し、後の時代に作られたポリシーでは、価値創出の側面にも触れるものが増えていました。これは、組織が時間をかけてソーシャルメディアへの理解を深め、そのガバナンス手法をより専門化させていく過程を映し出しているのかもしれません。

組織は、公式なポリシーという形で、新しい技術がもたらすアフォーダンスを特定の枠組みで解釈し、従業員の行動を方向づけようとします。その解釈は、当初はリスク回避に偏りがちですが、経験の蓄積とともに、より多面的なものへと成熟していく可能性を秘めています。

ITアフォーダンスがアイデンティティを介し制度変革を促す

組織の中で「これは非効率だ」と誰もが感じているにもかかわらず、なぜか長年続いてしまっている慣行や制度に出会うことがあります。こうした機能不全に陥った制度は、どうすれば変わるのでしょうか。変革の成否を分ける、より深層にあるメカニズムとは何でしょうか。その答えの鍵は、技術と制度の間をつなぐ、人間の内面的な働き、すなわち「アイデンティティ」にあります。

アイデンティティ・ワークとは、人々が「自分は何者か」という自己の認識を、日々の仕事や他者との関わりの中で、絶えず問い直し、形成し、維持していくプロセスです。そして、新しい情報技術がもたらすアフォーダンスは、このアイデンティティ・ワークに働きかけ、人々を既存の制度を維持する方向にも、あるいは破壊する方向にも動機づけます。この複雑なダイナミズムを、ケニアの保健医療管理情報システム(HMIS)をめぐる40年間の歴史を追った、壮大な縦断研究が解き明かしています[4]

この物語は、大きく二つの時代に分かれています。第一期は1980年代から90年代半ばにかけての、「非柔軟なIT」の時代です。当時、データは地方の医療施設から中央の国家HMIS事務所へ一方的に報告されるだけで、現場での活用は皆無に等しい状態でした。この状況下で、二つの対照的なアイデンティティ・ワークが生まれます。

一つは、地方の医療記録担当者たちによる「破壊的アイデンティティ・ワーク」です。彼ら彼女らは自らを情報の価値を理解する専門家だと自負していましたが、周囲からはそう見なされず、そのアイデンティティは脅かされていました。彼ら彼女らは非効率な情報利用という既存の慣行を変えようと試みました。

もう一つは、国家HMIS事務所による「正当化アイデンティティ・ワーク」です。彼ら彼女らは自らの存在意義を疑問視される中で、形式的にデータ収集と報告を続けることに固執し、非効率な慣行を維持しました。この時代、これら二つのアイデンティティ・ワークは分かちがたく結びついており、変革は失敗に終わりました。

しかし、2009年以降、状況は一変します。地方分権化とともに、ウェブベースでカスタマイズが容易な「柔軟なIT」であるDHIS2が導入されたのです。この第二期においても、二つの異なるアイデンティティ・ワークが見られました。国家HMIS事務所の担当者たちは、中央集権的なデータ報告の慣行を維持し、自らの立場を「強化」しようとしました。

一方で、新設された郡レベルの担当者たちは、DHIS2が提供する高度な分析機能というアフォーダンスを、自らの専門性を高める絶好の機会と見なしました。彼ら彼女らはこのアフォーダンスを積極的に活用し、自らの専門職アイデンティティを「変革」させていきました。

この時代において決定的だったのは、柔軟なITシステムであるDHIS2が、これら二つのアイデンティティ・ワークを「疎結合」の状態に置いたことです。中央が中央集権を維持しようとしても、システムの柔軟性のおかげで、地方の担当者たちがデータを独自に活用し、自らのアイデンティティを変革させる活動を完全に妨げることはできませんでした。

その結果、一部の先進的な郡では、変革的なアイデンティティ・ワークが実を結び、データに基づいた意思決定という新しい慣行が根付き始めました。長年続いてきた非効率な制度が、ついに脱制度化されるに至ったのです。

この事例は、ITのアフォーダンスが直接的に制度を変えるのではないことを教えてくれます。ITは、人々の「自分たちはこうありたい」というアイデンティティに働きかけ、その想いが具体的な行動となって現れることで、初めて制度に変化がもたらされるのです。ITが持つ「柔軟性」という特性が、異なる想いを持つ人々の活動が共存し、新たな変革が生まれる余地を作り出す上で大きな意味を持つことを示唆しています。

脚注

[1] Leonardi, P. M. (2011). When flexible routines meet flexible technologies: Affordance, constraint, and the imbrication of human and material agencies. MIS Quarterly, 35(1), 147-167.

[2] Strong, D. M., Volkoff, O., Johnson, S. A., Pelletier, L. R., Tulu, B., Bar-On, I., Trudel, J., and Garber, L. (2014). A theory of organization-EHR affordance actualization. Journal of the Association for Information Systems, 15(2), 53-85.

[3] Vaast, E., and Kaganer, E. (2013). Social media affordances and governance in the workplace: An examination of organizational policies. Journal of Computer-Mediated Communication, 19(1), 78-101.

[4] Bernardi, R., Sarker, S., and Sahay, S. (2019). The Role of Affordances in the Deinstitutionalization of a Dysfunctional Health Management Information System in Kenya: An Identity Work Perspective. MIS Quarterly, 43(4), 1177-1200.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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