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コラム

レッドテープは誰を傷つけるのか:組織と個人への二重の影響

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仕事や日常生活で、複雑な手続きや非効率なルールに直面し、時間や労力を奪われた経験は誰にでもあるかもしれません。私たちはそれを「お役所仕事」と呼んだりしますが、学術の世界では「レッドテープ」という概念で研究が進められています。これは、組織が目標を達成する上で、負担となり妨げとなるような規則や手続きを指します。単にルールが多いという話ではありません。そのルールが、本来の目的を果たす上でかえって足かせになっていると、当事者が感じている状態です。

本コラムでは、この目に見えない「レッドテープ」という存在が、組織のパフォーマンスや、そこで働く人々の心に、どのような作用を及ぼすのかを検討していきます。政府機関を対象とした調査から、一般の成人を対象とした心理実験まで、様々な角度からレッドテープの実像に迫ります。組織の有効性という大きな問題から、従業員一人ひとりの仕事への満足度という身近な問題まで、レッドテープがもたらす事柄は多岐にわたります。

レッドテープは有効性を損なうが発展的文化が負の影響を緩和

組織がその使命をどれだけ達成できているか、すなわち「組織の有効性」は、その存続と発展の根幹をなすものです。この有効性を妨げる要因として、かねてより官僚制の非効率性が指摘されてきましたが、その象徴であるレッドテープが実際にどの程度の結びつきを持つのか、学術的な評価は十分ではありませんでした。ある研究は、この問題に正面から取り組み、レッドテープと組織の有効性の関係、その関係性を和らげる可能性のある組織文化の存在を検証しました[1]

この研究は、二つの異なる手法を組み合わせることで、問題の多角的な理解を試みています。一つは、アメリカ全土の州レベルでヒューマンサービスを担う主要な公的機関の管理者を対象としたアンケート調査です。274名から得られた回答を分析しました。もう一つは、二つの州の同様の機関に所属する8名の幹部職員(公務員と政治任用者)へのインタビューです。この定性的なデータは、統計分析の結果に血肉を与え、現場で何が起きているのかを描き出すことを目的としています。

分析の中心となる概念をいくつか見ていきましょう。「組織の有効性」は、管理者が自身の組織の「核となる使命を達成する上での有効性」を0から1011段階で自己評価したものです。「レッドテープ」は、人事、調達、情報システム、予算、コミュニケーションの五つの領域で測定され、「管理者が、厄介で組織の目的にとって有害だと見なす形式化」と定義されています。もう一つの鍵となる「発展的文化」とは、変化への柔軟性、即応性、適応性を尊び、組織の成長に高い価値を置く文化を指します。

分析の結果、いくつかの点が浮かび上がりました。情報システムに関するレッドテープは、組織の有効性の低さと統計的に結びついていることがわかりました。人事に関するレッドテープも、同様に有効性を下げる方向性が見られました。一方で、予算や調達に関するレッドテープは、組織の有効性との間に明確な関係を見出しませんでした。この事実は、管理者がすべてのルールを一様に問題視しているわけではなく、特定の領域における手続きの煩雑さが、組織の使命達成をより強く妨げていると感じていることを物語っています。

仮説通り、組織の目標が明確であること、そして「発展的文化」が根付いていることは、いずれも組織の有効性と強く正の関係にあることが確認されました。目標がはっきりしており、変化を恐れず成長を志向する文化がある組織ほど、その使命をうまく果たせていると管理者は認識しているのです。

この研究における大きな発見は、発展的文化がレッドテープの害を和らげるという「緩和効果」がデータで裏付けられた点です。同じレベルのレッドテープに直面していたとしても、発展的な文化を持つ組織の方が、有効性の低下度合いが小さいという結果が得られました。いわば、しなやかで前向きな組織文化が、避けがたい規則の重荷に対するクッションのようになっているのです。この効果は、人事、コミュニケーション、情報技術のレッドテープにおいて顕著でした。

インタビューから得られた定性的な分析結果は、これらの統計的な発見を裏付け、より豊かな文脈を添えました。インタビューに応じた管理者の多くが、最も厄介なレッドテープとして人事関連のものを挙げていました。例えば、不適切な人物を昇進させなければならないという規則のために、あるポジションを3年近くも空席にせざるを得なかったというようなケースです。

情報システムと調達が交差する領域でも、問題は山積していました。契約プロセスがバラバラで、同じ業者に同じサービスを異なる価格で発注しているという非効率が存在していました。また、連邦政府の補助金を受ける際、ウェブ技術が主流となっているにもかかわらず、「プログラムのコード行数」に基づいて費用を計算するという、時代遅れの規則に従わなければならないという現実も語られました。

このような状況を乗り越える工夫として、システムの機微を熟知し、それを組織の利益のために活用できる有能な管理者の存在が挙げられていました。同時に、多くの管理者が、コミュニケーションを密にし、目標達成を尊重する文化を育むことの必要性を口々にしました。ある政治任用者は、組織文化を変革し、職員全員から「納得感」を得ることが、持続的な改善を達成する唯一の道であると述べました。これは、発展的文化がレッドテープの害を和らげるという仮説を、現場の実感として裏付ける話です。

人事レッドテープが管理者の労働疎外を一貫して高める

組織のパフォーマンスという大きな視点から、そこで働く個人の内面へと焦点を移してみましょう。機能不全に陥った規則や手続きは、組織の効率を損なうだけでなく、従業員の心にも影を落とす可能性があります。仕事からの心理的な断絶状態を指す「労働疎外」は、古くから官僚制組織の問題点として指摘されてきましたが、レッドテープと管理者の疎外感がどう結びつくのかは、これまで明確に検証されてきませんでした。

この問いを検証したある研究は、管理者が「無意味で負担が大きい」と感じる規則に直面することが、無力感や無意味感といった心理状態を招き、組織への愛着や仕事への満足感をむしばんでいくのではないかという仮説を立てました[2]。この研究も、先ほどの研究と同様に、全米の州政府機関の管理者を対象とした調査データを用いています。対象となったのは、各州の保健福祉機関で情報管理業務に従事する管理者たちです。

この研究で中心となる概念は「労働疎外」です。これは、仕事からの心理的な遊離状態を意味し、その度合いを三つの指標で測定しました。組織への愛着や忠誠心を示す「組織コミットメント」、仕事への満足度を示す「職務満足度」、仕事が人生の中心であると感じる度合いを示す「職務関与」です。これらの指標が低いほど、疎外感は高いと解釈されます。

この疎外感を引き起こす要因として、レッドテープが検証されました。ここでのレッドテープは二種類に分けて測定されています。一つは、組織全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼす規則の多さを問う「組織のレッドテープ」。もう一つが、人事考課や昇進、報酬に関する規則が機能不全に陥っている度合いを問う「人事のレッドテープ」です。これらに加えて、意思決定権が組織の上層部に集中している「中央集権化」や、ルールが明文化されている「公式化」といった、伝統的な組織統制の仕組みも分析の対象となりました。

分析の結果、一貫した結果を示したのはレッドテープでした。「人事のレッドテープ」は、三つの疎外感指標すべてに対して、疎外感を高める(それぞれの指標を低下させる)方向で、明確な結びつきを持っていました。人事関連のルールが機能していないと感じる管理者ほど、組織への愛着を失い、仕事に満足できず、仕事への関与も薄れていくのです。組織全体のレッドテープも、職務関与を除く二つの指標に対して同様の傾向が見られました。

しかし、「公式化」、すなわちルールがきちんと明文化されていることについては、仮説とは逆の結果が得られました。公式化は疎外感を高めるのではなく、職務満足度を高めるなど、むしろ疎外感を和らげる方向に関係していました。これは、明確な規則や手続きが存在することが、従業員が自分のすべきことについてのストレスを減らし、ある種の安心感につながるという他の研究での主張と一致します。この発見は、ルールがあること自体が問題なのではなく、そのルールが「機能不全」であると認識されること、すなわちレッドテープが問題なのだということを浮き彫りにします。

それぞれの要因が疎外感に及ぼす力の大きさを比較すると、興味深い事実が判明しました。レッドテープよりも、意思決定の権限が上層部に集中している「中央集権化」の方が、一貫して疎外感との結びつきが強かったのです。このことから、公務員管理者は、非効率な手続きに直面すること以上に、専門家としての自律性が制限され、自分の裁量で物事を進められないことによって、より強く疎外感を感じる可能性があるという解釈が成り立ちます。

また、二種類のレッドテープを比較すると、「人事のレッドテープ」を分析に用いたモデルの方が、管理者の疎外感をより多く説明できました。この結果は、人事関連の規則が、管理者の心理状態を理解する上でとりわけ配慮すべき要因であることを示しています。人事という、個人のキャリアや処遇に直接関わる領域での手続きの不透明さや非効率性が、従業員のエンゲージメントをいかに損なうかを示唆しているのです。

レッドテープは業績と従業員に負の関係で内部が外部より有害

これまで個別の研究を通じて、レッドテープが組織の有効性や従業員の心理に及ぼす作用をみてきました。しかし、これらの発見は特定の状況に限られたものでしょうか、それともより普遍的な現象なのでしょうか。この問いに答えるため、ある研究では「メタ分析」という手法が用いられました[3]。これは、過去に行われた数多くの実証研究の結果を体系的に収集し、統計的に統合することで、より一般的で頑健な結論を導き出そうとするアプローチです。

この研究は、過去約15年間に発表された公的セクターに関する25本の査読付き論文を分析の対象としました。これらの論文に含まれる83個の効果量を統合し、レッドテープが「組織業績」と「従業員アウトカム」(仕事満足、コミットメント、ウェルビーイング等を含む広い範疇)に及ぼす平均的な関係の大きさを算出しました。

このメタ分析の大きな特徴は、レッドテープをその「源泉」によって三つに分類した点にあります。組織自身が自らに課す「内部レッドテープ」、組織の外部から課される「外部レッドテープ」、源泉を特定しない「一般レッドテープ」です。内部と外部の決定的な違いは、コントロールの可能性にあります。この概念的な違いが、実際に及ぼす害の大きさに違いとして現れるのかが、検証の大きな柱となりました。

メタ分析の結果、レッドテープは、組織業績と従業員アウトカムの両方に対して、統計的に有意な、小から中程度の負の関係を持つことが確認されました。この結果から、レッドテープが組織と従業員の双方にとって好ましくない存在であるという認識が、多くの研究に共通してみられる、一貫したものであることが裏付けられました。

続いて、研究ごとの結果のばらつき(異質性)がなぜ生じるのかを探りました。これによって、どのような条件の下でレッドテープの害が強まったり弱まったりするのかを調べることができます。

分析から、実務的にも学術的にも意義深い発見が得られました。それは、外部レッドテープは、内部レッドテープよりも害が小さいという結果です。言い換えると、組織が自ら作り出し、自らに課している規則や手続きの方が、外部から押し付けられる規制よりも、組織業績や従業員アウトカムに対して、より強い負の関連性を持っていたのです。

その他の要因については、多くが統計的に明確な差を生みませんでした。例えば、レッドテープが及ぼす負の関連性の強さは、組織業績に対するものと従業員アウトカムに対するもので、ほとんど差がありませんでした。また、公的セクターと私的セクターの間や、主要な行政伝統の間でも、明確な違いは見出されませんでした。このことは、レッドテープが特定の文脈に固有の問題ではなく、様々な組織や文化圏に共通してみられる課題であることを示唆しています。

レッドテープは手続き満足を低下させ保守層で効果が特に強い

組織が自ら作り出す「内部レッドテープ」の方が、外部から課されるものよりも有害である可能性が示されました。この知見は、私たちの目を組織内部の具体的な手続きへと向けさせます。例えば、多くの従業員にとってキャリア上の重要な出来事である「昇進」のプロセスは、どのように設計されているでしょうか。その手続きが煩雑で時間がかかるとしたら、従業員はその手続き自体に満足できるのでしょうか。

この関係を検証するために、ある研究では実験という手法が用いられました[4]。これまでの研究の多くはアンケート調査に依存しており、相関関係はわかっても、何が原因で何が結果なのかを断定することは困難でした。実験では、研究者が意図的に条件を操作し、参加者を無作為に異なるグループに割り当てることで、条件の違いが結果の違いを引き起こした、とより強く主張することが可能になります。

この研究では、オンラインのプラットフォームを通じて募集されたアメリカ在住の一般成人141名が実験に参加しました。参加者は、ある架空の組織における昇進手続きについて書かれたシナリオを読むよう指示され、その後、その手続きへの満足度などを回答しました。重要なのは、参加者が読むシナリオが二種類用意され、どちらを読むかが完全にランダムに決められた点です。

一方のグループ(低レッドテープ条件)が読んだのは、非常にシンプルな昇進手続きです。二つのステップで構成され、合計で約1時間しかかからないという内容でした。もう一方のグループ(高レッドテープ条件)が読んだのは、著しく複雑で負担の大きい手続きでした。合計で八つのステップから成り、各工程で詳細な書類作成や評価、委員会による審査が課され、すべてを終えるのに合計で約18時間かかるという内容です。

実験の結果、複雑で負担の大きい昇進手続きのシナリオを読んだ高レッドテープ条件のグループは、シンプルな手続きのシナリオを読んだ低レッドテープ条件のグループに比べて、手続きへの満足度が低いことが明らかになりました。手続きの煩雑さが、手続きへの満足度を低下させるという関係が、実験によって裏付けられたことになります。

さらにこの研究では、どのような人が特にレッドテープに強く反発するのかも分析されました。二つの個人特性が検証されました。一つは、管理職であるかどうか。もう一つは、政治的なイデオロギーです。

分析の結果、管理職であるかどうかは、レッドテープへの反応に違いをもたらしませんでした。管理職も非管理職も、同様に煩雑な手続きに不満を感じていました。

しかし、政治的イデオロギーは、反応の違いを説明する要因となりました。レッドテープが手続き満足度を低下させるという負の結びつきは、自身を保守的だと考える人において、より強く現れました。シンプルな手続きでは、保守層もリベラル層も比較的高い満足度を示します。しかし、煩雑な手続きに直面すると、両者ともに満足度は低下しますが、特に保守層の満足度の落ち込みが急角度になるというパターンが見られました。

脚注

[1] Pandey, S. K., Coursey, D. H., and Moynihan, D. P. (2007). Organizational effectiveness and bureaucratic red tape: A multimethod study. Public Performance & Management Review, 30(3), 398-425.

[2] DeHart-Davis, L., and Pandey, S. K. (2005). Red tape and public employees: Does perceived rule dysfunction alienate managers? Journal of Public Administration Research and Theory, 15(1), 133-148.

[3] George, B., Pandey, S. K., Steijn, B., Decramer, A., and Audenaert, M. (2021). Red tape, organizational performance, and employee outcomes: Meta-analysis, meta-regression, and research agenda. Public Administration Review, 81(4), 638-651.

[4] Kaufmann, W., and Tummers, L. (2017). The negative effect of red tape on procedural satisfaction. Public Management Review, 19(9), 1311-1327.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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