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コラム

職場の「困った行動」は個人だけのせいか:非生産的職務行動を生まない環境とは(セミナーレポート)

コラム

ビジネスリサーチラボは、20261月にセミナー「職場の『困った行動』は個人だけのせいか:非生産的職務行動を生まない環境とは」を開催しました。

職場には、時として組織にとって望ましくない行動が見られることがあります。例えば、意図的に作業の手を抜いたり、周囲の士気を下げるような言動をとったりすることです。こうした行動は、組織の業績や職場の雰囲気に悪影響を与えかねない、見過ごせない問題です。これらは専門的に「非生産的職務行動」と呼ばれています。

このような行動を目にしたとき、私たちはつい「あの人のやる気がないからだ」「性格に問題がある」と、個人の資質に原因を求めてしまいます。しかし、本当に個人の問題だけなのでしょうか。もし、そうした行動が、その人が置かれている「職場環境」に対する何らかのサインだとしたら、私たちはその見方を変える必要があるかもしれません。

本セミナーでは、この「非生産的職務行動」を、個人の問題として片づけるのではなく、そうした行動が起きてしまう心理的な背景や、職場環境がどのように影響しているのかを掘り下げました。

一見すると、「貢献的な行動(良い行動)」と「非生産的な行動(悪い行動)」は正反対に見えますが、必ずしもそうとは限らないという複雑な実態にも触れました。その上で、日常の業務を進める上での障害、職場の人間関係、あるいは組織のルールや評価に対する不満や不公平感が、どのように従業員の感情に作用し、望ましくない行動へとつながっていくのか、そのプロセスを探りました。

また、こうした行動が、単なる組織への不満の表れとしてだけでなく、過度なストレスから自分を守るための「防衛反応」として現れるケースについても考察しました。本レポートが、従業員一人ひとりが意欲を持って業務に取り組める、健全で生産性の高い職場環境づくりに向けたヒントとなれば幸いです。

※本レポートはセミナーの内容を基に編集・再構成したものです。

はじめに

日々の業務の中で様々な従業員の姿を目にすることでしょう。その中には、かつては高い成果を上げ、周囲からも信頼されていた人物が、ある時点から会議での発言が非協力的になったり、業務の納期を意図的に守らなくなったりするというケースも含まれているかもしれません。

このような変化に直面した際、多くの人は「あの人に何があったのだろうか」「最近、意欲が低下しているのではないか」と、その原因を個人の内面的な変化に求めます。そして、対策として個別の面談や指導を行うことが一般的です。しかし、その望ましくない行動が、本人の資質の問題ではなく、その人が置かれている職場環境に対する何らかの「反応」であり、声なき「SOS」なのだとしたら、私たちはその行動を見る視点を変える必要があります。

本講演では、こうした組織や他者に害をなす行動、すなわち学術的に「非生産的職務行動(Counterproductive Work Behavior)」と呼ばれる現象に焦点を当てます。個人の問題として切り捨てるのではなく、その行動がどのような心理的プロセスを経て生み出されるのか、その背景にある組織の課題を読み解くための視点を提供できればと思います。

「良い」行動と「悪い」行動の複雑な関係

職場における従業員の行動を考える際、二つの対極的なカテゴリーを想定することができます。一つは、契約上の職務を超えて、組織のために自発的に貢献する行動、いわゆる「組織市民行動(Organizational Citizenship Behavior)」です。例えば、困っている同僚を助ける、組織全体の利益のために進んで追加的な業務を引き受けるといった行動が、これにあたります。もう一方は、その正反対に位置するように見える「非生産的職務行動」です。意図的に仕事の手を抜く、組織の備品を私的に持ち帰る、同僚の悪口を広めるといった、組織やそのメンバーに意図的に害を及ぼす行動群です。

直感的には、これら二つの行動は一つの物差しの両端にあり、組織市民行動を多くとる人は非生産的職務行動をとらず、逆に非生産的職務行動が目立つ人は組織市民行動をとらない、という負の関係にあると考えるでしょう。しかし、人間の行動はそれほど単純に割り切れるものでしょうか。

この疑問に答えるため、過去に行われた多数の研究データを統計的に統合する「メタ分析」を用いた大規模な調査が行われました[1]。この分析は、38件の研究、総勢16千人を超える働く人々を対象としたもので、組織市民行動と非生産的職務行動の関係性を精査しました。その結果、これら二つの行動の間に見出されたのは、私たちが想像するような強い負の関係ではなく、「弱い負の関係」に過ぎないという事実でした。これは、両者が表裏一体の概念ではなく、それぞれが異なる発生メカニズムを持つ、関連しつつも独立した現象であることを示唆しています。

したがって、組織市民行動を促進するための施策が、そのまま非生産的職務行動の抑制につながるとは限らないことになります。良い行動を増やすアプローチと、悪い行動を減らすアプローチは、分けて考える必要があるのです。

この二つの行動の関係は、単に独立しているだけでなく、特定の状況下では「両立し得る」という、より複雑な実態も報告されています。ある研究では、従来の組織市民行動の測定尺度に含まれていた問題点が指摘されました[2]。従来の尺度には、「些細なことで不平を言わない」といった、貢献行動の存在というよりは非生産的職務行動の「不在」を確かめるような項目が混入していました。これでは、測定上、両者が強い負の関係にあるように見えてしまうのは当然です。

そこで研究者たちは、こうした項目を排除し、純粋な貢献行動の実行「頻度」のみを尋ねる新しい尺度を開発しました。この新尺度を用いて、五つの異なる組織で働く従業員とその同僚からデータを収集し、非生産的職務行動との関係を再検証しました。その結果、新しい尺度で測定した場合、組織市民行動と非生産的職務行動の間には、弱いながらも統計的に意味のある「正の関係」が確認されました。

注目すべきは、職場の業務プロセスが円滑に進まない「組織的制約」や、職場での「対人葛藤」といったストレッサーが多い状況ほど、従業員は組織市民行動と非生産的職務行動の「両方を増やす」という関連が見出された点です。

この結果が描き出すのは、困難な状況下で葛藤する従業員の姿です。例えば、人手不足や設備の不備といった障害のために仕事がうまく進まない状況を想像してください。このような時、責任感の強い従業員は、その穴を埋めるために同僚の仕事まで引き受け、献身的に働くかもしれません。これは組織市民行動の増加です。

しかし、まさにその同じ従業員が、そのような状況を生み出している組織への不満や、過剰な負担からくるストレスによって、会社の悪口を言ったり、作業効率を意図的に落としたりすることもあり得るのです。これは非生産的職務行動の増加です。困難な状況が、一人の人間の中に「助ける行動」と「害する行動」を同時に生み出してしまう、この現象は「逸脱した市民(Deviant Citizen)」とも呼ばれます。

人事にとって、この知見は重要な視点を提供します。組織への貢献度が高い、いわゆる「優秀な社員」が非生産的職務行動を示すとき、それは単なる個人の逸脱ではなく、組織が抱える問題(例えば、過度な組織的制約や対人葛藤)に対する、その人なりの反応や危険信号である可能性を考慮しなければなりません。

引き金は組織の不備

非生産的職務行動が、貢献的な行動とは異なるメカニズムで発生し、時には両立し得ることを見てきました。具体的に何が非生産的職務行動の引き金となるのでしょうか。その要因は多岐にわたりますが、ここでは特に強力な影響力を持つ「職場環境」の要因、とりわけ見落とされやすい「組織の不備」に焦点を当てていきます。

初めに理解すべきは、非生産的職務行動と一口に言っても、その中身は多様であり、行動の種類によって主な動機や要因が異なるという点です。ある学術的な探究では、この問題意識から、非生産的職務行動を5つのカテゴリー(他者への暴言や身体的な危害といった「濫用」、意図的に非効率な働き方をする「生産逸脱」、会社の器物を損壊する「サボタージュ」、会社の金品を盗む「窃取」、遅刻や欠勤などの「離脱」)に分類しました[3]

そして、複数の組織で働く従業員や学生のデータを統合し、これらの行動がどのような職場環境の要因(人間関係の対立や業務上の制約といったストレッサー、公正さの感覚、仕事への満足度)や、仕事中に感じるネガティブな感情と結びついているかを分析しました。

その結果、行動の種類によって、結びつく要因のパターンが異なることが明らかになりました。例えば、「濫用」行動は、職場の人間関係における対立ととりわけ強く結びついていました。仕事中に感じる「怒り」や「激昂」といった感情とも強い関連が見られました。このことから、濫用は、他者から受けたストレスに対する直接的で感情的な「戦う」反応として現れやすいと考えられます。

一方で、「離脱」行動は異なる様相を呈していました。こちらは職場の対人葛藤よりも、仕事への不満や、仕事中に感じる「退屈」や「憂鬱」といった感情と強く結びついていたのです。濫用が怒りを原動力とする攻撃的な反応であるのに対し、離脱は不快な職場環境から物理的・心理的に距離を置こうとする「逃げる」反応と解釈できます。

「窃取」は、これまで挙げたような感情的な要因とはほとんど関連が見られませんでした。仕事への満足度が低いことや、手続きが不公正だと感じることとはわずかな関連がありましたが、怒りや退屈といった感情とは結びつきが確認されませんでした。これは、窃取が感情的な爆発や現実逃避というよりも、経済的な利益を得たり、不当な扱いに対する埋め合わせを求めたりするといった、計算された「道具的」な行動であることを物語っています。このように、非生産的職務行動の背景にある動機を見極めることが、対策の出発点となります。

非生産的職務行動の発生要因を探る際、私たちはキャリアの初期段階における経験を見過ごしてしまいます。ドイツの職業訓練生を対象に行われたある調査は、この点に光を当てています[4]。この調査では、食肉加工やベーカリー販売といった特定の職種で訓練を受ける若者たちに、現在の仕事が第一希望であったかどうかを尋ね、それと仕事への満足度、自己を律する能力(自己統制力)、非生産的職務行動の頻度との関係を調べました。

分析から浮かび上がってきたのは、一つの連続したプロセスでした。現在の職業が第一希望ではなかった若者たちは、第一希望の職業に就いている若者たちに比べて、仕事に対する満足度が低いという結果が出ました。望まないキャリアのスタートが、日々の仕事から得られる喜びを減じてしまいます。この低い満足度が、非生産的職務行動の増加に直接的につながっていることが確認されました。さらに、第一希望でない職業に就くことは、満足の水準を下げるだけでなく、たとえ不満があってもそれを前向きな改善のエネルギーに変えようとする「建設性」という満足の質をも損なわせることがわかりました。

さて、非生産的職務行動の多様な要因の中で、人事が注目すべきものは何でしょうか。トルコの様々な業種で働くホワイトカラー従業員を対象に行われた調査は、この問いに一つの答えを出しています[5]。この調査では、非生産的職務行動の発生頻度と、いくつかの主要な職場ストレッサーとの関連の強さが比較されました。

比較されたストレッサーは、「量的仕事負荷(仕事の量の多さ)」、「対人葛藤(同僚や上司とのいさかい)」、「組織的制約(仕事を妨げる様々な障害)」です。組織的制約とは、具体的には、不十分な設備、必要な情報や権限の欠如、非効率なルールや手続きといった、従業員が自分の仕事を円滑に進めるのを妨げる組織側の様々な不備を指します。

分析の結果、非生産的職務行動の発生と最も強く、一貫して結びついていたのは、「組織的制約」でした。仕事の量が多かったり、人間関係で多少のもめごとがあったりすることよりも、自分の仕事をきちんと遂行しようとする努力が、組織側の不備によって妨げられるという経験の方が、従業員を非生産的な行動へと向かわせる力が強く働くことがわかりました。

このメカニズムは、人の持つ基本的な動機と関わっています。多くの人は、自分の仕事を通じて有能さを感じ、目標を達成したいという動機を持っています。しかし、組織的制約は、この「やり遂げたい」という前向きな意欲を正面から妨害します。必要な情報がなければ計画は立てられず、適切な道具がなければ品質は上がらず、無駄な手続きに時間を取られれば納期は守れません。このような状況が続くと、従業員は強いフラストレーションと無力感を抱きます。

フラストレーションのはけ口として、非生産的職務行動が選ばれることがあります。組織によって生産的な活動を阻害された従業員が、いわば「仕返し」として、組織が望まない非生産的な活動に従事するという構図です。例えば、「どうせこの会社はまともに仕事をさせてくれないのだから、こちらも時間をごまかして当然だ」という心理が働き、遅刻や長い休憩といった離脱行動や、意図的な手抜き(生産逸脱)につながるのです。

この調査では、ストレッサーの種類と、行動が向けられる対象との間に整合性が見られるという点も確認されました。「組織的制約」は、生産逸脱やサボタージュ、離脱といった、組織を標的とする非生産的職務行動と最も強く結びついていました。これは、不満の原因となった対象に対して、その不満が向けられやすいという反応パターンを示しています。

組織的制約の影響は、個人の特性によって強まることもあります。就労学生を対象とした別の調査では、ナルシシズム(自己愛)の傾向がこのプロセスにどう関わるかが調べられました[6]。分析の結果、「仕事上の制約」が非生産的職務行動を増やすという関連は、ナルシシズムの傾向が強い人において、とりわけ顕著になることが明らかになりました。

ナルシシズムの傾向が低い人は、制約が増えても非生産的職務行動のレベルは低いままで比較的平坦でした。彼ら彼女らにとって仕事のやりにくさは不便であっても、自尊心を揺るがすほどの脅威にはなりにくいのかもしれません。

対照的に、ナルシシズムの傾向が高い人は、制約が増えるにつれて非生産的職務行動が上昇していきました。これは、ナルシシズムが強い人にとって、思い通りに仕事を進められない状況が、ただの障害ではなく、「自分の有能さを否定された」という深刻な自我への脅威として受け止められ、強い怒りを引き起こし、その怒りが非生産的職務行動という形で表出することを示唆しています。

これらの知見は、人事管理において実践的な示唆を与えます。従業員の「手抜き」や「離脱」といった組織向けの非生産的職務行動が目立つ場合、疑うべきは本人の意欲低下だけではなく、彼ら彼女らの「仕事をやり遂げたい」という前向きな動機を妨害している「組織的制約」の存在です。業務プロセスの見直し、必要なリソースの提供、情報共有の円滑化といった環境整備が、非生産的職務行動を根本から減らすことにつながるかもしれません。

感情と公正さの役割

非生産的職務行動の強力な引き金として、組織的制約という環境要因が存在することを見てきました。環境からの刺激は、どのような心理的プロセスを経て、実際の行動へと変換されるのでしょうか。ここで中心的な役割を果たすのが、従業員が日々経験する「感情」と、職場環境に対する「公正さ」の認識です。

職場における人の行動は、その人が抱く感情の色合いに根差しています。ある研究では、この点を明らかにするため、様々な業種で働く200人以上の人々を対象に、自身の性格(特に怒りを感じやすい性質かどうか)、仕事中に抱く感情(ポジティブなものとネガティブなもの)、職場での行動(組織市民行動と非生産的職務行動)について尋ねました[7]。職場環境についても、仕事量の多さ、組織的制約、対人葛藤といった側面から測定されました。

分析の結果、組織にとって望ましい自発的な行動、すなわち組織市民行動の直接的な原動力となっていたのは「仕事におけるポジティブな感情」でした。達成感や充実感、同僚への感謝といった明るい気持ちが、人を前向きな行動へと駆り立てていたのです。

一方で、非生産的職務行動に目を転じると、様相は一変します。こちらの行動を強く後押ししていたのは、「仕事におけるネガティブな感情」と、個人が元々持っている「怒りを感じやすい性質」でした。職場で経験する不満、不快感、苛立ちといった負の感情が、組織や他者への害となる行動に直結していました。

その決定的な要因となる「ネガティブな感情」は、どのような職場の状況から生まれてくるのでしょうか。この問いに答えるため、約300人の働く人々を対象に、仕事上のストレス要因と非生産的職務行動の関係を調べた研究があります[8]。この研究は、非生産的職務行動を一種の「行動的なストレス反応」と捉え、その発生プロセスを解き明かそうと試みました。

調査では、職場でのストレス要因(組織的制約、対人葛藤)や、組織の公正さ(給与や評価の配分が公平かという分配的公正、意思決定のプロセスが公平かという手続的公正)が、仕事中にどれほどのネガティブな感情を生み出しているか、そしてどのような非生産的職務行動(組織向け、個人向け)につながるかを分析しました。

そうしたところ、組織的制約や対人葛藤、不公正な扱いが、従業員のネガティブな感情を高める主な原因となっていました。そして、高まったネガティブな感情は、非生産的職務行動の発生を促していました。重要なのは、ストレス要因が直接的に行動を引き起こしているというよりも、間に「ネガティブな感情」という心理的なプロセスを挟んでいるという点です。ストレスフルな出来事それ自体が問題なのではなく、それによって引き起こされる不満や怒り、失望といった感情が、人々を望ましくない行動へと駆り立てるのです。「ストレス要因ネガティブな感情非生産的職務行動」というメカニズムが裏付けられました。

こうしたストレッサーは、組織的制約のような明確なものだけではありません。挨拶を無視する、会議で発言を遮るといった、日常に潜む「インシビリティ(無礼)」もまたストレッサーとなります。大学に通いながら働く学生たちを対象としたある調査では、この「インシビリティ」も、対人葛藤や組織的制約と同様に、従業員の職務満足度を低下させ、非生産的職務行動を増加させる方向で作用していることが確認されました[9]

この研究がさらに踏み込んだのは、「ネガティブ感情性」という個人の性格特性(物事のネガティブな側面に目を向けやすく、不安や怒りといった感情を抱きやすい傾向)が、このプロセスにどう影響するかという点です。分析の結果、このネガティブ感情性が、ストレスと非生産的職務行動の関係を強めることが判明しました。

具体的には、ネガティブ感情性が高い人は、そうでない人に比べて、ストレス要因(インシビリティ、対人葛藤、組織的制約)に直面したときに、非生産的職務行動に走りやすいという関係が見られました。ストレスが全くない状況では両者の非生産的職務行動に差はありませんが、ひとたび強いストレスにさらされると、ネガティブ感情性が高い人の非生産的職務行動は急激に増加するのです。

この結果は、非生産的職務行動が、環境だけで決まるものでも、個人の性格だけで決まるものでもない、環境という「刺激」と、個人が持つ「感受性」の相互作用によって生まれる現象であることを示しています。

加えて、非生産的職務行動には、組織への害という側面だけでなく、ストレスにさらされた個人が「心のバランスを取るため」の行動という側面があることもわかってきました。アメリカの多様な業種で働く人々を対象とした調査では、職場で公正な扱いを受けていないと感じる人ほど、「情緒的消耗」(精神的に疲れ果てること)が高いという関係が確認されました[10]

しかし、この調査の発見はここからです。「生産逸脱」(わざとゆっくり仕事をする)や「離脱」(長い休憩をとる)といった非生産的職務行動を頻繁に行っている人々に限ってみると、「公正さが低いほど、情緒的消耗が高まる」という結びつきが、著しく弱まることがわかりました。

これは、非生産的職務行動が、不公正な職場環境がもたらす精神的なダメージを和らげる機能を果たしていたことを示しています。例えば、「離脱」行動は、ストレスの原因となっている状況から物理的・心理的に距離を置くことで、一時的に精神的な緊張を解くことにつながります。「生産逸脱」行動は、特に自分の働きに見合った報酬が得られていないと感じる場合、意図的に努力を差し控えることで、不当に搾取されているという感覚に対して「帳尻を合わせる」行為として機能し、心の消耗を抑えている可能性が考えられます。非生産的職務行動は、組織への不満の表れであると同時に、過度なストレスから自分を守るための不器用な「防衛反応」でもあります。

人事として、非生産的職務行動のリスクを減らすために何ができるでしょうか。個人の性格を変えることは困難ですし、倫理的な問題も伴います。ただし、性格が行動へと結びつくプロセスに介入することは可能です。タイの1600人以上の従業員を対象とした調査では、個人の性格特性と非生産的職務行動の関係に、職場の「組織的公正」がどのように影響するかが検証されました[11]

基本的な関係として、「誠実性」や「協調性」が低い人、そして「自尊感情」が低い人ほど、非生産的職務行動をとりやすいという関係が確認されました。ただし、この調査の核心は、組織的公正がこれらの関係性を変化させるかを検証した点にあります。分析の結果、給与や評価といった結果の公平さである「分配的公正」と、上司や同僚から敬意をもって丁寧に扱われているかという「相互作用的公正」の両方が、性格特性と非生産的職務行動のネガティブな結びつきを弱めることが明らかになりました。

この緩衝効果は、とりわけ「相互作用的公正」において強く現れました。たとえ性格的に非生産的職務行動のリスクが高い人であっても、上司から丁寧な説明を受けたり、同僚から尊重されていると感じたりする経験、すなわち公正だと感じられる職場環境にいれば、その行動が抑制されます。

日々のコミュニケーションにおける人間的な配慮が、組織の健全性を保つ上で基盤となることを、この結果は物語っています。ルールやプロセスの公平さ(手続き的公正)も重要ですが、それ以上に、人としてどう扱われたかという対人関係の質が、日々の行動を決定づける上で大きな力を持っているのです。

おわりに

本講演では、職場で発生する「非生産的職務行動」について、それが個人の資質の問題ではなく、職場環境との複雑な相互作用の中で生まれる現象であることを解説してきました。貢献的な行動をとる優秀な従業員でさえ、特定の状況下では非生産的職務行動を行う可能性があること。その強力な引き金の一つが、個人の意欲を妨げる「組織的制約」であること。

非生産的職務行動は不公正な扱いやストレスに対するネガティブな「感情」の表れであり、時には心を守るための「防衛反応」として機能してしまう側面も持つこと。個人の性格的リスクが行動に現れるのを防ぐ上で、日々の敬意あるコミュニケーション、すなわち「相互作用的公正」が緩衝材となることを見てきました。

非生産的職務行動を「罰するべき個人の逸脱」としてのみ捉える視点を一度手放し、それを「組織の健全性を示す重要なデータ」として捉え直すことが大事になるかもしれません。その行動の裏には、どのような「満たされない欲求」や「妨げられた意欲」が隠されているのか。人事の役割は、問題行動を起こした個人を特定し罰することに限定されるべきではなく、従業員が前向きな意欲を妨げられることなく、人として尊重され、公正に扱われていると感じられる「環境を整備する」ことにもあるのでしょう。

Q&A

Q:本日のご講演の中で、望ましい「組織市民行動」と、ネガティブな影響を及ぼす「非生産的職務行動」の両方を高いレベルで行う従業員を「逸脱する市民」と呼ぶ研究があるというお話がありました。貢献も大きい一方で問題行動もとってしまう人材に対し、管理職はどう向き合うべきでしょうか。

まず、彼ら彼女らの貢献行動に対してしっかりと感謝や承認を伝えることが重要です。「褒める」ステップを省略してはいけません。非生産的な行動への対処ばかりが先行すると、マイナスをゼロにするところばかりに注力することになります。日頃の頑張りを認めた上で、対話に進むという順番を意識すると良いでしょう。

その上で、非生産的職務行動への対処を考えます。就業規則やルールに違反していれば毅然とした対応が必要ですが、単に叱るだけでは不十分です。重要なのは、その行動の背景に何があるのかを傾聴する姿勢です。本人が無理をしているのかもしれませんし、本日の講演で触れた「組織的制約」が行動を歪ませている可能性もあります。

例えば、「仕事を進める中で、何か妨げられていると感じることはありませんか」と問いかけてみると良いでしょう。耳を傾けることで、本人が発するSOSを拾えるかもしれません。そこでの気づきを環境改善につなげれば、本人だけでなく職場全体で非生産的職務行動を減らせます。こうしたアプローチが、中長期的には建設的で持続可能な解決策になるはずです。

Q:組織的制約が非生産的職務行動の引き金になるという点は理解できました。しかし、すぐに設備投資や人員補充が難しい局面も多いと思います。物理的な制約がすぐには解消できないフェーズにおいて、次善の策として何かできることはありますか。

リソースの問題は一朝一夕には解決できません。そのような時には、「相互作用的公正」という考え方が鍵となります。物理的な制約は非生産的行動につながりますが、その影響を和らげるのは、上司や経営層による丁寧なコミュニケーションです。

リソース不足で不便を強いているなら、現状を隠さず説明することが求められます。上司が「不自由をかけて申し訳ない」という姿勢を示し、一人の人間として配慮ある態度で接する。こうした敬意のあるコミュニケーションが徹底されていれば、従業員は「大切にされている」と感じることができ、不満が攻撃的な行動へと転化するのを防げます。

状況が変えられないとしても、困難な環境で奮闘する従業員に敬意を示し、納得感のある説明を尽くす。相互作用的公正の質を高めることが、物理的制約が避けられない場合の有効な対策と言えます。

Q:丁寧な説明が重要だという点は納得しましたが、現実には管理職自身がプレイングマネージャーとして多忙を極め、部下の話を聞く余裕がないケースも少なくありません。管理職の業務過多という組織的制約がボトルネックになっている場合、どのような支援が可能でしょうか。

管理職もまた組織的制約の被害者であるという、日本企業の大きな課題ですね。多忙な中で完璧な対応を全員にしようとすればパンクしてしまいます。スモールステップとして「説明責任を果たす」ことから始めてみるのはどうでしょうか。

例えば部下の要望を叶えられない時、無下に断るのではなく「なぜ今は受けられないのか」という理由を一言添えます。背景を説明しようとする姿勢が、部下の受ける印象を変えます。

また、人事ができる支援もあります。管理職の多忙さを組織全体に周知して相互理解を促すと同時に、管理職自身のケアも不可欠です。管理職同士が悩みを共有できる場を作るだけでも、ストレスは軽減されるかもしれません。管理職の心の余裕を取り戻すことが、結果的に部下への接し方の改善につながり、組織全体に良い波及効果をもたらすはずです。

Q:問題行動があった場合、厳正な処分が必要だと思います。しかし、その背景にも組織的要因があるかもしれないと考えると、情状酌量の余地が生まれるようにも感じます。

法的な判断は専門家に仰ぐべきですが、「行為への対処」と「再発防止のための分析」を使い分ける視点が重要でしょう。まずルール違反そのものに対しては、組織の秩序を保ち公正さを維持するために、毅然として厳正に対処しなければなりません。

しかし、処分を下して終わりにしてはいけないのが組織運営の難しさです。再発防止を考えるフェーズにおいて、本日お話しした「組織的な要因」を考慮すべきです。本人の処分とは切り離して、「なぜそのような行動が起きる隙があったのか」「不満を募らせる環境要因はなかったか」という問いを立てる必要があります。

個人の責任追及だけでは、環境が変わらない限り、また別の人が同じ過ちを繰り返す可能性があります。厳格な「処罰」と、組織要因を見つめ直す「改善」をセットで行うこと。この二つの視点を併せ持つことが、健全な組織運営には求められると思います。

Q:組織的制約を取り除くために現場の声を聞きすぎると、かえって過剰な要求やわがままが増長してしまうのではないかと危惧しています。現場の声を吸い上げる際、その要望が正当なものか、それとも過剰なものかを判断する基準はありますか。

現場の声がエスカレートして収拾がつかなくなるという不安ですね。こうした事態を防ぐ基準は、その要望が「顧客にとっての価値」や「組織の目標」につながっているかどうかという観点です。

現場から制約の解消を求められた際、「その制約がなくなると、お客様にとってどんな良いことがありますか」あるいは「チームの目標達成にどう貢献しますか」と問いかけてみると良いでしょう。答えが論理的で組織の成果に直結するのであれば、それは解消すべき「正当な要望」かもしれません。一方で、「自分が楽をしたいだけ」という理由であれば、それは個人的な要求に過ぎません。

要望を出す側に顧客価値や目標達成という視座を求めることで、単なるわがままを抑制し、建設的な提案へと昇華させることができるでしょう。

脚注

[1] Dalal, R. S. (2005). A meta-analysis of the relationship between organizational citizenship behavior and counterproductive work behavior. Journal of Applied Psychology, 90(6), 1241-1255.

[2] Fox, S., Spector, P. E., Goh, A., Bruursema, K., and Kessler, S. R. (2012). The deviant citizen: Measuring potential positive relations between counterproductive work behaviour and organizational citizenship behaviour. Journal of Occupational and Organizational Psychology, 85(1), 199-220.

[3] Spector, P. E., Fox, S., Penney, L. M., Bruursema, K., Goh, A., and Kessler, S. (2006). The dimensionality of counterproductivity: Are all counterproductive behaviors created equal? Journal of Vocational Behavior, 68(3), 446-460.

[4] Marcus, B., and Wagner, U. (2007). Combining dispositions and evaluations of vocation and job to account for counterproductive work behavior in adolescent job apprentices. Journal of Occupational Health Psychology, 12(2), 161-176.

[5] Bayram, N., Gursakal, N., and Bilgel, N. (2009). Counterproductive work behavior among white-collar employees: A study from Turkey. International Journal of Selection and Assessment, 17(2), 180-188.

[6] Penney, L. M., and Spector, P. E. (2002). Narcissism and counterproductive work behavior: Do bigger egos mean bigger problems? International Journal of Selection and Assessment, 10(1-2), 126-134.

[7] Miles, D. E., Borman, W. E., Spector, P. E., and Fox, S. (2002). Building an integrative model of extra-role work behaviors: A comparison of counterproductive work behavior with organizational citizenship behavior. International Journal of Selection and Assessment, 10(1-2), 51-57.

[8] Fox, S., Spector, P. E., and Miles, D. (2001). Counterproductive work behavior (CWB) in response to job stressors and organizational justice: Some mediator and moderator tests for autonomy and emotions. Journal of Vocational Behavior, 59(3), 291-309.

[9] Penney, L. M., and Spector, P. E. (2005). Job stress, incivility, and counterproductive work behavior (CWB): The moderating role of negative affectivity. Journal of Organizational Behavior, 26(7), 777-796.

[10] Krischer, M. M., Penney, L. M., and Hunter, E. M. (2010). Can counterproductive work behaviors be productive? CWB as emotion-focused coping. Journal of Occupational Health Psychology, 15(2), 154-166.

[11] Chang, K., and Smithikrai, C. (2010). Counterproductive behaviour at work: An investigation into reduction strategies. The International Journal of Human Resource Management, 21(8), 1272-1288.


登壇者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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