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コラム

雑談が創造性を育て、悪い手本が倫理を壊す:組織社会化の二面性

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新しい環境、特に社会人としての一歩を踏み出す職場は、その後の職業人生に影響を与える空間です。そこでは、業務知識を身につけるだけでなく、組織の一員として文化や価値観に馴染んでいくプロセスが進行します。この過程で、私たちは周囲の人々から何かを学び、自らを形成していきます。

上司の一言、先輩の仕事への姿勢、同僚との何気ない会話。これらは些細に見えるかもしれませんが、日々の相互作用の積み重ねが、新人の適応度や満足感、創造性や倫理観の形成にまで関わっていることが研究でわかってきています。

本コラムでは、組織の中で人が周囲からどのような作用を受け、変化していくのか、その複雑な仕組みを検討します。個人の成長や組織の活力を考える上で見過ごされがちな「人と人との関わり」が持つ力について掘り下げたいと思います。

組織社会化では先輩の意図的な関与が重要

新しく組織に加わった人が環境に慣れ、一人前のメンバーとなっていく過程は「組織社会化」と呼ばれます。このプロセスにおいて、既存のメンバー、特に先輩や指導的な立場にある人々の振る舞いが、新人の適応にどのような結びつきを持つのでしょうか。この問いを明らかにするため、米国の三つの大学に所属する博士課程の大学院生を対象とした調査が行われました[1]

調査対象は、博士課程に進学したばかりの一年生(新人)と、指導する立場にある教員および上級生の院生(内部者)です。学年の初めに、内部者である教員と上級生に対し、新人を支援することへの考え方を尋ねました。そして学年の終わりに、再び内部者へ新人とどの程度関わったかを尋ねるとともに、新人である一年生には、大学生活への適応度合いを測定しました。

調査の中心的な概念は二つです。一つは「社会化の気候」で、これは内部者が新人と個人的に関わることをどれほど前向きに捉えているかという態度を指します。もう一つは「社会化行動」であり、内部者が実際にどのくらいの頻度で新人と関わったかという行動を測定するものです。

分析の結果、いくつかの関係性が見えてきました。内部者の態度と行動の関係です。教員の場合、学年の初めに「新人と個人的に接することが大切だ」と考えている人ほど、学年の終わりには、実際に新人に対して手助けをしたり、親身に振る舞ったりする行動の頻度が高いという関連が見られました。一方で、上級生の院生においては、この態度と行動の結びつきは教員ほど強くはありませんでした。

続いて、内部者との関与が新人の適応にどう結びつくかを見てみましょう。新人の「役割の葛藤」は、廊下での雑談といった日常的なやり取りや、教員からキャリアについて考えるよう促される関与が多いほど低減しました。また「役割の曖昧さ」は、キャリア支援を受けることで和らぐことがわかりました。

しかし、「学生同士の社交」の頻度が高い新人ほど、役割の葛藤や曖昧さは高まる結果となりました。これは、交流の量が多すぎると、本来集中すべき時間との競合を生んだり、情報過多で混乱を招いたりする可能性を示唆します。関わりの「質」が問われるのです。

新人が自発的に所属組織へ貢献しようとする「市民行動」については、教員や上級生と一緒に研究活動に関わることで、その頻度が増えるという関連が確認されました。内部者から専門的な支援を受けたことへのお礼として、自らも組織のために動こうという気持ちが生まれると解釈できます。

組織社会化は上司や同僚など身近な文脈で進行する

先ほどは、先輩といった個々の内部者が新人の適応にどう関わるかを見てきました。しかし、人が組織に馴染んでいくプロセスは、より大きな文脈の中で捉える必要があります。組織社会化に関する研究を整理したある文献レビューでは、社会化が進行する「場所」についての指摘がなされています[2]。社会化の大部分は、抽象的な「組織」全体に対して行われるのではなく、新人が日常的に所属する、より身近で具体的な単位、すなわち直属の上司やチームの同僚といったローカルな文脈で進行するという考え方です。

新しく組織に入った人にとって、全社的な経営理念や行動規範は、すぐには実感しにくいものです。それらが「現実」となるのは、日々の業務における上司からの指示や同僚との協力作業を通じてです。例えば、上司が理念とは異なる行動をとっていれば、新人は理念よりも、上司の具体的な振る舞いを組織の「リアル」として学習していくでしょう。このように、組織の価値観や文化は、身近な人々とのやり取りを介して解釈され、内面化されていきます。

なぜ、このローカルな文脈がそれほどまでに強い作用を持つのでしょうか。一つには、アイデンティティと所属感の問題があります。人は、巨大で顔の見えない組織全体よりも、日々顔を合わせる小規模なチームや部署に対して、より強い一体感や所属意識を抱きやすいものです。

もう一つの理由は、社会的妥当化と支援の必要性です。新人は自分の行動が受け入れられるかを気にしており、その確認を上司や同僚に求めます。彼ら彼女らからの肯定的なフィードバックは、新人が安心感を得て自信を育む上で不可欠であり、逆に否定的な反応は適応を妨げます。

上司やメンターといった存在は、新人がより大きな組織を理解する上で重要な働きをします。彼ら彼女らは、組織内で何が起きているのかを翻訳し、新人が組織の全体像を把握するのを助けます。身近な人々との信頼関係を通じて、新人は初めて、所属するチームを超えて、より大きな組織への一体感を育んでいくことができるのです。

組織社会化では、職場での社会的受容が適応の鍵

組織社会化が、上司や同僚といった身近な人々との関わりの中で進行することを見てきました。その適応のプロセスにおいて、新人の心の中ではどのような変化が起きているのでしょうか。この問いに答えるため、過去に行われた研究データを統合し、組織社会化の全体像を解明しようとする大規模な分析が行われました[3]

このメタ分析という手法は、個別の研究では見えにくい法則性を浮かび上がらせます。研究者たちは、新入社員の「適応」を中核に、「先行要因」「適応」「結果」という三段階のモデルを検証しました。

モデルの中心である「適応」は、新入社員が組織の一員へと移行していく中での心理的な状態を指し、三つの核となる要素で構成されます。一つ目は「役割の明確さ」、二つ目は「自己効力感」、三つ目は「社会的受容」であり、職場の同僚や上司から一員として受け入れられていると感じる度合いです。

「先行要因」には、組織の「社会化戦術」と新入社員の「情報収集行動」が含まれます。そして「結果」として、職務満足度や組織への愛着、仕事の成果、離職の意図といった指標が設定されました。

分析の結果、このモデルは全体としてうまく機能することが確認されました。特に明らかになったのは、三つの「適応」指標が、先行要因と結果の間をつなぐ働きをしていたことです。例えば、新入社員の情報収集は、直接的に職務満足度を高めるのではなく、まず「役割の明確さ」や「社会的受容」を高め、その結果として満足度や定着につながるという間接的な道のりが示されました。

この三つの適応指標の中でも、強い関連性を示したのが「社会的受容」でした。同僚や上司から受け入れられているという感覚は、職務パフォーマンス、満足度、組織コミットメント、残留意図の向上、離職率の低下という、調査された結果指標のすべてと結びついていました。職場で自分が受け入れられているという感覚が、新人のその後の組織人生を健やかなものにする上で基盤となっていることがうかがえます。

この結果は、人が他者とのつながりや所属感を強く求める社会的な存在であることを示唆します。新しい環境で不安を抱える新人にとって、周囲から温かく迎え入れられる経験は安心感をもたらします。この安心感を基礎として、失敗を恐れず挑戦できるようになり、役割の理解や仕事への自信につながるのでしょう。

組織社会化ではインフォーマルな雑談が創造性を生む

新入社員が組織に適応する上で、「社会的受容」が根幹をなすことを見てきました。適応という段階を越え、組織がメンバーに期待するものの一つに「創造性」の発揮があります。この創造性は、どのような社会的環境から生まれてくるのでしょうか。ある調査では、組織内での従業員同士の交流が、創造性にどのような結びつきを持つかが探究されました[4]

この調査は、情報技術業界で働く専門家を対象に、オンラインアンケートの形式で実施されました。研究者たちは、職場での「社会化」を三つの側面から捉えました。一つ目は「インフォーマルな社会化」、二つ目は「オーガナイズされた社会化」、三つ目は「社会化への個人的傾向」です。これらの社会化の側面が、職場で新しいアイデアが生まれているとどの程度感じるか、という「創造性」の認識とどう関連しているかを分析しました。

分析の結果、三つの社会化の側面は、いずれも創造性の認識と肯定的な相関関係にあることがわかりました。しかし、どのタイプの交流がより強く創造性と結びついているのかを見ていくと、あるパターンが浮かび上がりました。

回帰分析で創造性に作用する要因を特定したところ、「インフォーマルな社会化」が他の要因よりも強く結びついていると判明しました。「オーガナイズされた社会化」も肯定的な作用はありましたが、その結びつきはインフォーマルな雑談には及びませんでした。

この結果から考えられるのは、創造性が、形式張った会議の中から生まれるというよりも、リラックスした雰囲気での何気ない対話から芽生えることが多いということです。インフォーマルな場では、役職などを気にせず自由な発想で話すことができます。そうした雑談の中で、異なる専門性を持つ人々の知識や視点が偶然に組み合わさり、新しい発想が誘発されることがあります。

加えて、このような非公式な交流は、従業員間の信頼関係を育みます。互いに共感し合える関係が築かれていると、人々は失敗を恐れずに斬新なアイデアを提案しやすくなります。創造的な活動にはリスクが伴いますが、インフォーマルな交流を通じて培われた人間関係が、そのリスクを引き受けるための心理的な支えとなるのです。

組織社会化で、先輩の非倫理的行動は後輩に伝染する

これまで、周囲との関わりが、新人の適応や創造性といった肯定的な側面をいかに育むかを見てきました。しかし、社会的相互作用は、常に望ましい結果だけをもたらすとは限りません。組織社会化のプロセスには、個人の倫理観を揺るがし、望ましくない行動へと導く危険性も潜んでいます。特に、指導的な立場にある先輩の振る舞いは、新人の行動規範を形成する上で力を持つことがわかっています。

この社会化の負の側面を明らかにするため、中国のある不動産会社に勤務する新入社員と、彼ら彼女らを指導する先輩(ピアコーチ)を対象とした、九ヶ月間にわたる追跡調査が実施されました[5]。この研究の特筆すべき点は、新入社員の「非倫理的行動」を、自己申告ではなく、会社の公式記録に残された客観的な違反回数に基づいて測定したことです。

研究の理論的な支柱となったのは、「資源保存理論」です。これは、人は時間やエネルギーといった限りある「資源」を持っており、それを失うことを避けようとするという考え方です。新しい環境への適応は多くのストレスを伴うため、新入社員の精神的な資源を消耗させ、「情緒的消耗」と呼ばれる状態に陥らせることがあります。

この枠組みのもと、ピアコーチの振る舞いが、新入社員の情緒的消耗を通じて、最終的に非倫理的行動にどう結びつくかを検証しました。さらに、新入社員がもともと持っている「目標志向性」(熟達志向と遂行志向)が、このプロセスにどう作用するかも分析されました。

分析の結果、質の高いコーチングを受けている新入社員は、情緒的消耗の度合いが低く、結果として非倫理的な行動をとる回数も少ないことが確認されました。

対照的に、ピアコーチ自身が非倫理的な行動をとる場合、新入社員の情緒的消耗は高まり、それに伴い自身の非倫理的行動も増加するという負の連鎖が明らかになりました。これは単なる模倣ではなく、手本である先輩の非倫理的な姿が「社会の常識」と「会社の現実」との間で新人に葛藤を生じさせ、その精神的な苦闘が資源を奪い枯渇させてしまうのです。

そして、感情的に枯渇し、自己を制御するエネルギーが失われた結果、倫理的な基準を守ることよりも、目先の成果や安易な手段へと流されやすくなる、という仕組みが考えられます。

このプロセスは新人の目標志向性によって異なります。「熟達志向」が高い新入社員は、感情的に枯渇しても非倫理的な行動に走りにくい傾向がありました。一方で「遂行志向」が高い場合、枯渇すると成果への焦りから倫理規範を破ってでも結果を出そうとする結びつきが一層強まりました。

この研究が描き出すのは、組織社会化というプロセスが、良くも悪くも、いかに強力に個人の行動を方向づけるかという現実です。新入社員にとって最も身近な手本である先輩の倫理観は、研修で教えられる規範以上に、生々しい現実として新人の行動基準を形作っていきます。先輩の非倫理的な振る舞いが引き起こす精神的な消耗は、新人の倫理観を低下させ、組織全体に望ましくない行動が蔓延していく一つの源流となり得ることを、この調査は示唆しています。

脚注

[1] Slaughter, J. E., and Zickar, M. J. (2006). A new look at the role of insiders in the newcomer socialization process. Group & Organization Management, 31(2), 264-290.

[2] Ashforth, B. E., Sluss, D. M., and Harrison, S. H. (2007). Socialization in organizational contexts. In G. P. Hodgkinson and J. K. Ford (Eds.), International review of industrial and organizational psychology, 22 (pp. 1-70). John Wiley & Sons.

[3] Bauer, T. N., Bodner, T., Erdogan, B., Truxillo, D. M., and Tucker, J. S. (2007). Newcomer adjustment during organizational socialization: A meta-analytic review of antecedents, outcomes, and methods. Journal of Applied Psychology, 92(3), 707-721.

[4] Handzic, M., and Chaimungkalanont, M. (2004). Enhancing organisational creativity through socialisation. The Electronic Journal of Knowledge Management, 2(1), 57-64.

[5] Liu, X., Greenbaum, R. L., Allen, D., and Zhang, Z. (2022). A newcomer socialization perspective on the proliferation of unethical conduct in organizations: The influences of peer coaching practices and newcomers’ goal orientations. Journal of Business Ethics, 176(1), 73-88.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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