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コラム

辞められない・辞めたくない・辞めるべきでない:組織への心理的結びつき

コラム

皆さんは、今の組織で働き続けたいですか。この問いに「はい」と答える人でも、その心の内は一人ひとり異なります。ある人は、仕事に誇りを持ち、仲間との一体感を感じているからだと答えるでしょう。またある人は、長年かけて築いたスキルや待遇、安定した生活を失えないからだと考えます。あるいは、組織から受けた恩義に報いたい、ここで身を立てることが務めだと感じている人もいるはずです。

このように、人が一つの組織にとどまる理由は一つではありません。その内実には、自ら「とどまりたい」と願う気持ち、経済的な理由で「とどまる必要がある」という計算、道義的な観点から「とどまるべきだ」という義務感といった、質の異なる複数の心理状態が混在しています。

本コラムでは、組織コミットメントという概念の「多成分性」を探究します。複数の心理的な結びつきが、どのように形成され、それぞれが働く人々の行動にどのような違いをもたらすのか。実証的な探究の道のりをたどります。

組織コミットメントは三つの成分で構成される

組織と従業員の結びつき、すなわち組織コミットメントは、単一の側面では説明できません。性質の異なる三つの心理的な要素が組み合わさって構成されると捉える考え方があります。

一つ目は「情緒的コミットメント」と呼ばれ、組織に所属していたいという純粋な欲求や愛着に基づきます。二つ目は「継続的コミットメント」で、組織を離れることで失うものの大きさ、例えば投じた時間や労力、あるいは他によい選択肢がないといった認識から生まれます。三つ目は「規範的コミットメント」といい、組織にとどまることが当然の義務であるという道徳的な感覚に根差したものです。

これらの三つの成分が、実際に人々の心理の中で別々のものとして存在するのかを確かめるための調査が行われました[1]。この探究の目的は、三つのコミットメントが測定上も区別でき、それぞれが異なる原因や結果と結びつくことを実証することにありました。

調査は、職種や業種の異なる複数の従業員グループを対象に行われました。参加者は、三つのコミットメント成分をそれぞれ測定するための質問項目群に回答しました。分析の核心は、これらの回答データが、コミットメントを一つの塊と見なす「一因子モデル」などよりも、三つの成分を独立したものと考える「三因子モデル」に最もよく適合するかどうかを検討する点にありました。

分析の結果、どの従業員グループでも、一貫して三因子モデルがデータに最もよく適合すると判明しました。これは、情緒的、継続的、規範的という三つのコミットメントが、人々の心の中で区別されているという考えを裏付けるものです。三つの成分の間にはある程度の関連性が見られたものの、それぞれが独立した概念として機能していることが確認されました。

続いて、それぞれのコミットメントが、どのような要因から生まれるのかが検証されました。理論的には、情緒的コミットメントは、公正な処遇や上司からの支援、仕事への満足感といった肯定的な経験によって育まれると想定されます。継続的コミットメントは、転職が難しい状況や、勤続年数に伴う退職金など、組織を離れることの不利益が大きいほど高まると考えられます。規範的コミットメントは、組織から受けた恩義や、組織が示す価値観を内面化して形成されると予測されました。

データ分析の結果は、こうした理論的な予測とおおむね一致していました。情緒的コミットメントは、仕事の満足度や組織からの支援、公平性の認識と正の関連を持っていました。継続的コミットメントは、転職の機会が少ないと感じている人や、勤続年数が長い人ほど高い水準にありましたが、仕事の満足度などとの関連は弱いものでした。規範的コミットメントは、組織への恩義を感じさせるような経験と結びついていました。

コミットメントの成分ごとに、関連する要因のパターンが異なっていたことは、三つの成分が質的に異なるものであることの証拠となります。

さらに、これらのコミットメントが従業員の行動とどう関わるかが調べられました。離職意思に関しては、三つの成分すべてが関連していましたが、情緒的コミットメントが低いこととの結びつきが最も強いものでした。欠勤や遅刻は、情緒的コミットメントが低い人々の間で見られやすいことがわかりました。

一方で、継続的コミットメントが高い場合、離職は思いとどまるかもしれませんが、組織への自発的な貢献行動を促すとは限らないことも浮かび上がりました。職務内容以上の貢献や仕事のパフォーマンスは、情緒的コミットメントが高いほど、次いで規範的コミットメントが高いほど良好であるという関係が見いだされました。

価値観の一致に基づくコミットメントが貢献行動を生む

従業員が組織にとどまる理由には、異なる心理的基盤があることが見えてきました。その結びつきの質の違いは、従業員の行動にどのような違いをもたらすのでしょうか。この問いをさらに掘り下げるため、組織への心理的な愛着を三つの異なる基盤から捉え直すアプローチがあります。それは、「応諾(コンプライアンス)」「同一化(アイデンティフィケーション)」「内面化(インターナリゼーション)」という三つの次元で、組織と個人の結びつきを分析するものです。

「応諾」とは、報酬を得たり罰を避けたりするために、表面的な態度や行動をとる状態です。「同一化」は、所属する組織との良好な関係を維持したいという願望から生まれる愛着です。組織の一員であることに誇りを持ちますが、組織の価値観が自分自身の価値観と完全に一致しているわけではありません。「内面化」は、組織が掲げる価値観が、自分自身の価値観と合致しているために生まれる深いレベルの愛着です。

これらの三つの愛着の基盤が、それぞれ独立した概念なのか、従業員の自発的な貢献行動とどのように関わるのかを明らかにするための調査が実施されました[2]。調査は大学の職員を対象とし、次いで学生を対象に行われました。

最初の調査では、大学の事務職員や管理職の人々が参加し、組織への愛着の基盤(応諾、同一化、内面化)を測定する質問票に回答しました。同時に、職務として定められた行動と、必須ではないが組織のためになる行動について自己申告を求めました。調査時の離職意思を尋ね、16ヶ月後に実際に離職したかを人事記録で確認しました。

分析の結果、予測通り、愛着の基盤は「内面化」「同一化」「応諾」という三つの次元に分かれることが確認されました。これらの次元と行動との関連を調べたところ、「内面化」、すなわち価値観の一致に基づく愛着は、役割内外の行動、組織にとどまり続けるという意思決定と正の関連を持っていました。実際に離職しなかった人々は、「内面化」の度合いが高いという関係が見られました。「同一化」もまた、役割外行動や組織への残留と関連していました。しかし、「応諾」に基づく愛着は、これらの貢献的な行動や実際の離職とは関連が見られませんでした。

二つ目の調査は、卒業を控えた経営学部の学生を対象に実施されました。学生たちに、所属するビジネススクールへの愛着を、同様に三つの次元で測定しました。行動指標として、役割外行動の自己申告に加え、MBAの学生については、大学への寄付金の誓約額というデータが用いられました。

ここでも、愛着の三つの次元は分離されました。行動との関連では、「内面化」の度合いが高い学生ほど、役割外行動に積極的に関わり、より高額の寄付を誓約するという関係が見いだされました。「同一化」も学部生の役割外行動とは強く関連していましたが、寄付額との関連はありませんでした。「応諾」は、貢献行動とは結びつきませんでした。

コミットメントの種類が違えば、要因も異なる

組織への愛着の質が、従業員の貢献行動に違いをもたらすことがわかってきました。そうであるならば、問われるべきは、「そもそも、これらの異なる種類のコミットメントは、どのような経験や環境から生まれるのか」という点です。「好きだから残る」という感情、「必要だから残る」という計算、「そうすべきだから残る」という義務感は、それぞれ異なる源泉を持つはずです。この問いに答えるため、三つのコミットメント(情緒的、継続的、規範的)を測定する尺度を開発し、それぞれの先行要因を体系的に検証する研究が行われました[3]

この探究は、二つの研究で構成されています。最初の研究では、三つのコミットメント成分をそれぞれ信頼性高く測定するための質問項目群が作成され、それらが統計的に別個の概念として成り立つかが確認されました。因子分析により、これらの項目は三つのグループに分かれ、三つの概念が実際に区別できるものであることが裏付けられました。

二つ目の研究では、開発された尺度を用いて、三つのコミットメントがそれぞれどのような要因と関連しているのかが、より大規模な調査で検証されました。仕事における様々な経験や個人的な状況といった「原因」のグループと、三つのコミットメントという「結果」のグループとの間の関係性が調べられました。

分析の結果、三つのコミットメントと先行要因との間には、異なる三つの関係性のパターンが見いだされました。

第一のパターンは、情緒的コミットメントを中心とするものでした。仕事の役割や目標の明確さ、経営陣の受容的な姿勢、良好な同僚関係、組織の公正さや信頼性、仕事を通じた成長実感といった日々の肯定的な仕事経験が、情緒的コミットメントの高さと結びついていました。これは、「いたい組織」という感覚が、快適で自己の有能さを満たせる職場環境から生まれるという理論的な予測と一致するものでした。

第二のパターンは、継続的コミットメントに特有のものでした。こちらは、学歴やスキルが他の組織では通用しにくい、年金制度が自社に有利である、転職が難しいと考えている、といった要因と強く関連していました。代替案が乏しく、これまでに組織へ投じてきたものが大きいほど、「辞めにくい」という感覚が強まるという、継続的コミットメントの概念を裏付ける結果となりました。

第三のパターンは、規範的コミットメントに関連するものでした。このコミットメントは、情緒的コミットメントともある程度連動していましたが、それとは別に、仕事の目標や役割の明確さ、あるいは地域社会への定着といった要因とも結びつきが見られました。

この研究を通じて、三種類のコミットメントが測定の上で区別できるだけでなく、それぞれが異なる種類の経験や状況から生まれることが実証されました。特に、日々の仕事における経験の質が、従業員の組織への愛着(情緒的コミットメント)を育む上で中心的であること、経済的な投資や転職市場の状況が、損得勘定に基づく残留(継続的コミットメント)を支えていることが描き出されました。

「辞められない」コミットメントは失うものと選択肢のなさから成る

組織コミットメントが三つの異なる心理状態から成り立っていることが、複数の研究によって明らかにされてきました。特に「継続的コミットメント」、つまり「辞められない」という感覚は、それ自体がさらに細かく分類できる、より複雑なものかもしれません。この問いを検証するため、九つの一連の研究が実施されました[4]

この探究の主な目的は、組織コミットメントの多次元的な構造を、より厳密に検証することにありました。特に、継続的コミットメントが、「個人的犠牲(Personal Sacrifice)」と「代替案の欠如(Lack of Alternatives)」という、二つの異なる下位次元に分けられるのではないか、という仮説が中心に据えられました。

「個人的犠牲」とは、組織を辞めることで失うであろう地位や給与など、これまでに築いたものの大きさを認識することから生まれる感覚です。一方、「代替案の欠如」は、他に魅力的な就職先が見つからない、という外部の労働市場に対する認識に基づきます。

調査は、警察官や非営利団体の職員など、多様な背景を持つ合計2734人を対象に行われました。分析には、研究者が事前に想定した理論的なモデルが、実際の回答データにどれだけうまく当てはまるかを客観的に評価する、確認的因子分析が用いられました。

分析の結果、一貫した結論が得られました。組織コミットメントを「情緒的」「規範的」「継続的」の三つの因子で捉えるモデルは、データをよく説明することが確認されました。そして、継続的コミットメントを一つの塊として扱うよりも、「個人的犠牲」と「代替案の欠如」という二つの下位次元に分けた四因子モデルの方が、統計的により優れた適合度を示しました。

この結果は複数のサンプルで繰り返し確認され、「辞められない」という感覚が、失うものの大きさと選択肢のなさという、二つの異なる心理的要素から構成されているという考えを支持するものでした。

この一連の研究からは、もう一つ重要な発見がありました。これまで組織コミットメントの研究で広く用いられてきた「組織コミットメント質問票(OCQ)」という尺度が、何を測定しているのかという問題です。このOCQの質問項目を、三成分モデルの質問項目と同時に分析したところ、OCQの項目のほとんどが「情緒的コミットメント」の項目と一つのグループを形成することが判明しました。これは、OCQが組織コミットメント全体ではなく、その中の「組織への感情的な愛着」という側面を主として測定していたことを意味します。

脚注

[1] Allen, N. J., and Meyer, J. P. (1996). Affective, continuance, and normative commitment to the organization: An examination of construct validity. Journal of Vocational Behavior, 49(3), 252-276.

[2] O’Reilly, C., III, and Chatman, J. (1986). Organizational commitment and psychological attachment: The effects of compliance, identification, and internalization on prosocial behavior. Journal of Applied Psychology, 71(3), 492-499.

[3] Allen, N. J., and Meyer, J. P. (1990). The measurement and antecedents of affective, continuance and normative commitment to the organization. Journal of Occupational Psychology, 63(1), 1-18.

[4] Dunham, R. B., Grube, J. A., and Castaneda, M. B. (1994). Organizational commitment: The utility of an integrative definition. Journal of Applied Psychology, 79(3), 370-380.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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