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コラム

“返信”と“約束”が信頼をつくる:距離を超えるチームの条件

コラム

私たちの働き方は、ここ数十年で変化しました。同じオフィスに集まらず、インターネットを通じてつながり、プロジェクトを進める「バーチャルチーム」は、もはや珍しいものではありません。地理的な制約を超えて最適な人材が集まれる利点がある一方で、多くの人が漠然とした不安や難しさを感じています。その中心にあるのが「信頼」の問題です。

相手の表情が見えず、声のトーンも聞こえない。雑談から伝わる人柄もわからない。このような環境で、私たちはどうやって「この人を信頼して仕事を任せられる」と感じるのでしょうか。

バーチャルチームにおける信頼は、対面の場合と同じようにゆっくりと育まれるものなのでしょうか。あるいは、異なるメカニズムで機能するのでしょうか。一度築かれた信頼が、ふとしたきっかけで崩れ去ることもあります。その崩壊のプロセスには、どのような特徴があるのでしょう。本コラムでは、バーチャルチームにおける信頼の形成と破壊のメカニズムについて掘り下げていきます。

迅速な行動と応答が信頼を築き維持する

バーチャルチームに関する初期の研究で、研究者たちは、一度も顔を合わせたことのない人々が、どのようにして信頼関係を築くのか、あるいは築けないのかを観察しました[1]

ある研究では、世界中に散らばる学生たちを集め、バーチャルチームを結成させました。参加者たちは、6週間にわたって、電子メールやチャットといったテキストベースの通信手段だけを使い、共同でプロジェクト課題に取り組みます。対面での接触は一切禁じられました。研究者たちは、プロジェクト開始から2週間後と、プロジェクト終了時の2回にわたって、チームメンバー間の信頼度を測定しました。

すべての電子的なやり取りの記録と、信頼度の変化を分析した結果、チームの動向は大きく4つのパターンに分かれることがわかりました。

第一は、最初から信頼度が高く、最後までその高い水準を維持したチーム(高高)です。これらのチームは、プロジェクトの課題に関する議論だけでなく、趣味や週末の過ごし方といった社会的な雑談も活発に交わしていました。メンバーはプロジェクトへの熱意を言葉にし、前向きな雰囲気が漂っていました。プロジェクトの進め方について意見が対立する場面もありましたが、そうした対立を避けずに正面から議論し、乗り越えていました。

第二は、最初は信頼度が低かったものの、プロジェクト終了時には高い信頼度を築くことに成功したチーム(低高)です。このパターンのチームは、29チーム中わずか4チームと少数でした。第一のチームとは対照的に、社会的な雑談はほとんどありませんでした。その代わり、タスクに集中し、誰が何をするのか、いつまでにやるのかを明確にし、予測可能なコミュニケーションのパターンを確立していました。信頼は、言葉のやり取りよりも、着実な成果物の実行によって築かれていきました。

第三は、最初は高い熱意と楽観的な雰囲気でスタートしたにもかかわらず、最終的に信頼が崩壊してしまったチーム(高低)です。初期の社会的な盛り上がりはあったものの、それを具体的な「行動」に移すことに失敗しました。受動的な発言が目立ち、一部のメンバーが不満や他者への非難を口にし始めると、それが引き金となり、チーム全体の信頼が失われていきました。

第四は、最初から最後まで信頼度が低いままだったチーム(低低)です。これらのチームでは、コミュニケーションが極端に少ないか、特定のメンバーに偏っていました。技術的なトラブルに見舞われることもありましたが、それを乗り越えようとする前向きな雰囲気はなく、悲観主義が支配していました。

この結果からわかることは、バーチャルチームの信頼は、プロジェクト開始後のごく初期のやり取りによって、その後の方向性が大きく左右されるということです。そして、信頼を維持するためには、雑談などの社会的なつながりであれ(高高)、タスクの着実な実行であれ(低高)、何らかの形で「行動」が伴わなければなりません。

特に、第三(高低)と第四(低低)のチームに共通していたのは、「応答の欠如」でした。メッセージを送っても返事がない、あるいは極端に遅いという「沈黙」は、相手が何を考えているのか、作業をしているのかさえわからなくさせます。

信頼は初期の迅速で一貫した応答とコミットメント履行で構築

先ほど見たように、バーチャルチームにおいて「応答がない」という沈黙は、信頼関係にとって致命的です。このことは、信頼の土台が、対面での印象や人柄ではなく、テキスト上で観測可能な「行動」に依存していることを物語っています。信頼を築くためには、具体的にどのような行動が求められるのでしょうか。

この点を掘り下げた別の研究では、一時的なバーチャルチームを対象に、信頼形成の前提条件となる行動が分析されました[2]

そこで明らかになったのは、「応答の速さ」です。メッセージを受け取ってから返信するまでの時間は、強力な信号となります。すぐに返信があれば、相手は「メッセージを読んでもらえた」「自分は無視されていない」と安心します。たとえその場で完璧な答えが出せなくても、「メッセージを受け取りました。今夜中にお返事します」という一言があるだけで、相手の不確実性は減少します。

反対に、返信のない時間が長引くと、受け手は不安に陥ります。「忙しいのだろうか」「反対意見なのだろうか」「それとも、自分を軽視しているのだろうか」。このような疑念が生まれる「曖昧な時間」は、信頼の芽を摘んでしまいます。

続いて、「コミットメント(約束)の明文化とその履行」が挙げられます。信頼関係は、人が「何を」「いつまでに」行うかを言葉にすることから始まります。例えば、「金曜日までに草案を送ります」と宣言することです。これは、チーム内に明確な期待を生み出します。

そして信頼が試されるのは、その約束が果たされるかどうかです。金曜日に宣言通り草案が送られてくれば、他のメンバーは「この人は約束を守る、信頼できる人だ」という認識を強めます。これは、相手の「能力」や「誠実さ」に対する評価(認知的信頼)が形成される瞬間です。

興味深いことに、この研究では、必ずしも「常に速い」ことだけが求められているわけではないこともわかっています。それと並んで「一貫性」や「予測可能性」も信頼の基盤となります。例えば、あるメンバーが「常に24時間以内に返信する」というパターンを持っていれば、チームはその人の行動を予測でき、安心して作業を進められます。逆に、ある時は即座に返信するが、別の時は3日間返信がないといった行動の「予測不可能性」は、たとえ平均応答時間が短かったとしても、チームの信頼を揺るがします。

加えて、テキストベースのコミュニケーションでは失われやすい「感情的な合図」を補う行動も確認されました。「素晴らしいアイデアですね」「作業してくれてありがとうございます」といった、小さな肯定的な言葉です。これらは深い感情的な絆ではありませんが、相手への敬意や感謝の意を伝え、意図しない誤解を防ぎます。

高業績チームは初期に能力と感情の信頼を高め、その水準を維持

これまでの議論で、信頼が「行動の積み重ね」によって築かれることが見えてきました。しかし、一口に「信頼」と言っても、その中身は一様ではないかもしれません。例えば、私たちは「あの人は仕事ができる」という能力への信頼と、「あの人は思いやりがある」という人間性への信頼を区別しているのではないでしょうか。ある研究では、この点を明らかにするため、信頼を二つの種類に分けて分析しました[3]

一つは「認知的信頼(CBT)」です。これは、相手の「能力」「信頼性」「専門性」といった側面に基づく、合理的な評価から来る信頼です。「この人は時間通りに質の高い仕事を仕上げる」といった判断がこれにあたります。

もう一つは「情緒的信頼(ABT)」です。これは、相手が自分に対して「配慮」や「善意」を持ってくれているという、感情的な結びつきに基づく信頼です。「この人は困ったときに助けてくれるだろう」といった感覚がこれにあたります。

研究者たちは、MBAコースの学生たちをバーチャルチームに分け、8週間にわたる経営シミュレーションゲームを行わせました。各チームは架空の企業を経営し、メンバーは「マーケティング担当副社長」や「財務担当副社長」といった異なる役割を担います。コミュニケーションはテキストのみです。研究者たちは、プロジェクトの初期(T1)、中期(T2)、終期(T3)の3つの時点で、これら二種類の信頼(CBTABT)のレベルを測定し、チームの業績(シミュレーション内の株価)との関連を調べました。

分析の結果、タスク遂行が目的であるこれらのチームでは、当然ながら、プロジェクトの全期間を通じて、「情緒的信頼」よりも「認知的信頼」(能力への信頼)の方が一貫して高い水準にありました。

しかし、大きな発見は、業績との関係でした。プロジェクト開始時点(T1)では、最終的に高い業績を上げたチームと、低い業績に終わったチームとの間で、どちらの信頼レベルにも差はありませんでした。スタートラインは皆同じだったのです。

違いが生まれたのは、その「後」の軌跡でした。高い業績を上げたチームでは、「認知的信頼」と「情緒的信頼」の両方が、初期(T1)から中期(T2)にかけて顕著に上昇し、そのまま高い水準を終期(T3)まで維持していました。

一方、低い業績に終わったチームでは、どちらの信頼レベルも停滞し、成長が見られませんでした。それどころか、「情緒的信頼」(感情的なつながり)については、プロジェクトの終盤にかけて、わずかに減少する兆候さえ見られました。

この研究が明らかにしたのは、バーチャルチームの成功は、スタート時の信頼レベルではなく、プロジェクトの「初期から中期」という重要な時期に、信頼を「築き上げる能力」にかかっているという事実です。

成功したチームは、初期のやり取りを通じて、「この人は有能だ」(認知的信頼)という証拠と、「この人は仲間として配慮してくれる」(情緒的信頼)という感覚の両方を、メンバー間で醸成することに成功しました。失敗したチームは、そのどちらの証拠も提供できず、信頼が育たないままプロジェクトを終えることになったのです。

行動統制は監視性を高め、皮肉にも信頼を低下させる

チームが初期に「能力への信頼(CBT)」と「感情的な信頼(ABT)」の両方を築くことが、良い結果につながる可能性が示されました。この話を聞くと、管理者は「それならば、信頼構築に役立つ『良い行動』をチームに強制すればよいのではないか」と考えるかもしれません。例えば、報告を義務化し、責任を明確にすれば、能力への信頼が高まるはずです。

しかし、このような「行動統制」の導入は、本当に信頼を高めるのでしょうか。ある研究が、この直感に反する、皮肉なメカニズムを明らかにしました[4]

研究者たちは、51の学生バーチャルチームを対象に実験を行いました。チームはランダムに二つのグループに分けられ、共同でビジネスプランを作成する課題に取り組みました。

第一のグループは「対照群」です。このチームは、課題を与えられた後は、特にルールはなく、自由にプロジェクトを進めるよう指示されました。

第二のグループは「行動統制群」です。このチームには厳格なルールが課されました。メンバーは、毎週必ず「今週の計画」「各メンバーのタスク割り当て」「前週の進捗」を詳細に記したレポートを提出しなければならず、このレポート自体が成績の一部となりました。この仕組みは、一見すると、責任感を高め、約束の履行を促す、信頼構築に良さそうなものに思えます。

研究者たちは、プロジェクト開始前と終了後の二回、メンバー間の信頼度を測定しました。結果、対照群(放置されたチーム)の信頼度は、プロジェクトの前後で平均して大きな変化はありませんでした。しかし、厳格なレポートを義務付けられた「行動統制群」の信頼度は、プロジェクト開始前と比べて、終了時に有意に低下していたのです。

この現象は、どうして起きたのでしょうか。研究者たちは、そのメカニズムを次のように考察しています。

第一に、「監視性(Vigilance)」の高まりです。毎週のレポート提出義務は、メンバー全員に「他のメンバーが自分の義務を果たしているか」を常にチェックさせることになりました。「あの人はレポートのために自分のパートをちゃんとやったか」という意識が生まれ、それは協働というよりも、「監視」の雰囲気を醸成しました。

第二に、「顕在性(Salience)」の高まりです。どのようなプロジェクトでも、小さな失敗や遅延はつきものです。誰かが一日遅れたり、期待したほどの品質でなかったりすることは起こり得ます。対照群では、そうした小さなつまずきは、非公式に処理されたり、見逃されたりするかもしれません。

しかし、行動統制群では、その「レポート」という仕組みが、そうした小さな失敗をすべて「公式の記録」として可視化し、強調してしまいました。わずかな遅れが、「報告書に記載すべき、公式な約束の不履行」となってしまったのです。

信頼性を高めるために導入されたはずの「行動統制」システムが、意図せずして、メンバー間のあらゆる「小さな失敗」を検出し、強調する装置として機能してしまいました。メンバーは、お互いを善意に基づいて評価するのではなく、毎週の「スコアカード」に基づいて厳しく評価し合うようになりました。このような義務不履行や期待のズレが監視され、強調される環境が、皮肉にも信頼を破壊していった、というわけです。

脚注

[1] Jarvenpaa, S. L., and Leidner, D. E. (1999). Communication and trust in global virtual teams. Organization Science, 10(6), 791-815.

[2] Jarvenpaa, S. L., Knoll, K., and Leidner, D. E. (1998). Is anybody out there? Antecedents of trust in global virtual teams. Journal of Management Information Systems, 14(4), 29-64.

[3] Kanawattanachai, P., and Yoo, Y. (2002). Dynamic nature of trust in virtual teams. Journal of Strategic Information Systems, 11(3-4), 187-213.

[4] Piccoli, G., and Ives, B. (2003). Trust and the unintended effects of behavior control in virtual teams. MIS Quarterly, 27(3), 365-395.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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