2026年2月12日
恥は働き方をどう変えるか:創造性・努力・不正の分岐点

誰かの前で失敗して、顔から火が出るような思いをした経験は、多くの人にあるのではないでしょうか。仕事の場面であれば、重要な会議での言い間違い、顧客への誤った説明、上司に提出した資料の単純な計算ミスなど、そのきっかけは日常に潜んでいます。
「恥」という感情は、できれば経験したくないものです。私たちはこの感情を覚えると、その場から逃げ出したくなったり、自分を責めて落ち込んだりします。一般的に、恥は私たちのパフォーマンスを下げ、心を消耗させるだけの、百害あって一利なしの感情だと考えられています。
しかし、この厄介な感情は、特定の状況下では思いもよらない形で私たちの仕事ぶりに作用します。実は、近年の研究は、この不快な感情が持つ複雑な側面を解き明かしつつあります。恥は、私たちから活力を奪う一方で、時として創造性を刺激したり、翌日の仕事への集中力を高めたりする原動力にもなり得ます。本コラムでは、この「恥」という感情が職場で持つ二つの顔、すなわち、私たちの行動や成果に対して、どのような文脈で、どのように異なる働きをするのかを描き出していきます。
創造的な環境下では、恥はイメージ回復のため創造性を促す
恥という感情は、自己のイメージが損なわれたと感じる時に生じます。この不快な感覚から逃れたい、そして傷ついた自尊心や他者からの評価を回復したいという強い動機が生まれることがあります。この回復への動機が、創造的な行動、すなわち新奇で有用なアイデアを生み出すことにつながる可能性を検証した研究があります。コロンビアの従業員や学生を対象に行われた三つの連続した調査は、この関係性の背後にある条件と心理的な仕組みを明らかにしました[1]。
一つ目の調査は、日記形式で行われました。様々な組織で働く従業員に、一週間にわたって毎日二回、その時々の感情や行動を記録してもらいました。日々の恥の経験が、その日の創造性にどう結びつくのか、そして、その関係がどのような職場環境で変化するのかを調べました。
分析の結果、恥を感じたからといって、誰もが創造的になるわけではないことがわかりました。恥の経験が創造性の発揮に結びつくのは、限定された条件下でした。具体的には、その人が普段から「新しいアイデアを歓迎し、挑戦を奨励するチーム」に所属しており、なおかつ、恥ずかしさからくる引きこもりたいという気持ちを抑え、普段通りに振る舞おうと努めている場合に限られていました。創造的な風土がなく、本人が内にこもってしまう状況では、恥は創造性を後押ししませんでした。
二つ目の調査では、日々の感情の揺れ動きではなく、個人がもともと持っている「恥を感じやすい性質」に焦点を当てました。ここでは創造性も二種類に分けて分析されています。一つは、既存のやり方を少し改善するような、比較的リスクの低い「漸進的創造性」。もう一つは、全く新しいものを生み出す、リスクの高い「抜本的創造性」です。
分析の結果、恥を感じやすい性質を持つ人は、全体として創造性が高いことが示されました。特に、その関連は「漸進的創造性」との間ではっきりと見られました。これは、損なわれた自己イメージを安全かつ着実に回復させる手段として、大きな失敗の恐れが少ない改善型の創造性が選ばれやすいことを示唆しています。一つ目の調査と同様に、創造的なチーム環境と感情の抑制という条件がそろうと、恥ずかしがりな性質が創造性を高めるという相互作用が見られましたが、これもまた「漸進的創造性」に対してのみでした。
三つ目の調査は、実験室での実験です。ここでは、恥が創造性につながる心理的なプロセスを解き明かすことが目的とされました。参加した学生は、プレゼンテーションで大失敗するというシナリオを読まされ、意図的に恥の感情を喚起されました。その上で、「損なわれた自己イメージを回復したい」という動機の強さと、創造的な課題への取り組みが測定されました。
結果、恥をかいた学生たちは、そうでない学生たちに比べて、回復への動機も創造性も、ともに高い値を示しました。統計的な分析を進めると、「恥を感じる」→「回復への動機が高まる」→「創造性が発揮される」という一連の関係が確認されました。このプロセスは、自分が創造的なチームの一員であると想定した場合に、一層強く機能することもわかりました。
これらの結果を総合すると、恥という感情は、それ単体で創造性を生む魔法の杖ではありません。その感情が持つ潜在的な力が解き放たれるには、本人が社会的な支え、すなわち創造性を重んじる文化の中にいることが求められます。そして、恥ずかしさのあまり内に閉じこもるという自然な反応を乗り越え、周囲と関わり続けようとする個人の意思が伴って初めて、ネガティブな感情が建設的な成果へと転換されます。
上司の叱責による恥は、消耗させるが翌日の成果は高める
創造性を後押しする可能性を秘めた恥ですが、その経験は常に穏やかなわけではありません。特に、上司からの厳しいフィードバック、すなわち叱責によって引き起こされる恥は、より強烈で、私たちの心身に異なる形で作用します。
中国の金融機関で働く正社員を対象に行われたある調査は、この問題に切り込み、恥がもたらす光と影を時間的な推移の中で捉えました[2]。この調査では、参加者に五日間連続で日記をつけてもらい、日々の出来事や心身の状態を記録してもらいました。具体的には、毎日の業務終了前に、その日に上司からネガティブなフィードバックを受けた頻度、感じた恥の強さ、一日の終わりにおける精神的な消耗度を報告してもらいました。さらに、翌日の仕事のパフォーマンスについても自己評価を求めています。
分析から浮かび上がってきたのは、二つの側面を持つ複雑な姿でした。予想通り、ある日に上司からネガティブなフィードバックを多く受けた人ほど、その日により強い恥を感じていました。
興味深いことに、この関係は、上司と部下の関係性が良好であるほど、より強固になる傾向が見られました。普段から上司を信頼し、その期待に応えたいと思っている人ほど、上司からの叱責を重く受け止め、自分自身の不甲斐なさを責め、深く恥じるのです。関係性が希薄な場合は、フィードバックを上司側の問題だと捉えることもできるためか、恥との結びつきは弱まりました。
続いて、この恥がもたらす結果です。ある日に強い恥を感じた人は、その日の業務を終える頃には、精神的にひどく消耗していることがわかりました。恥という感情に対処し、それを表に出さないように努め、失敗を反芻しながらも業務に集中しようとする自己調整のプロセスは、多くの精神的エネルギーを消費します。
しかし、ここで終わりません。この精神的な消耗という代償を払いながらも、恥を経験した人は、その翌日の仕事において、本来の職務遂行(役割内パフォーマンス)と、職務外での貢献行動(役割外パフォーマンス)の両方で、より高い成果を上げていました。恥によって傷つけられた自己評価や社会的な立場を回復しようとする「修復動機」が、翌日の行動を方向づけていると考えられます。失敗を挽回するために一層仕事に励み、同僚を助けることで「良い従業員」であることを証明しようとするのです。
補足的な分析では、恥を感じたその日のパフォーマンスには、目立った変化が見られないことも確認されています。これは、恥という強い感情を経験してから、それを修復するための具体的な行動計画を立て、実行に移すまでには、ある程度の内省と準備の時間が必要であることを示唆しています。上司の叱責による恥は、短期的には従業員をひどく疲れさせる一方で、時間差でパフォーマンスを高めるという、両義的な働きを持っていることが明らかになりました。
営業で感じる恥は、顧客との接触回避につながり業績を下げる
これまで見てきたように、恥の感情は、創造性や翌日のパフォーマンスといった形で、建設的な行動につながることがあります。しかし、それはあくまで個人が失敗を乗り越え、再び状況に関与しようと選択した場合です。もし、恥が人を正反対の方向、すなわち他者との接触を避け、引きこもらせる力として働いたとしたら、成果はどうなるでしょうか。この問いに答える上で、営業職は格好の研究対象となります。顧客との対人関係構築が成果に直結するこの職業において、恥がもたらす回避行動は深刻な結果を招きかねません。
オランダの金融機関で働く四百人以上の営業担当者を対象とした調査が、この問題を検証しました[3]。この調査では、営業担当者が顧客とのやり取りの中で感じる恥や当惑の感情、そして、それらの感情に対処するためにとる「保護的な反応」、最終的な営業成績(売上量や対話の質)の関係が調べられました。
ここでいう「保護的な反応」とは、自己を防衛するための回避的な行動を指します。例えば、顧客との会話を形式的な話題に限定して個人的な話に踏み込まない、新規顧客の開拓をためらう、あるいは、既存の顧客に追加の商品を提案するのを控えるといった行動です。
分析の結果、恥や当惑を強く感じる営業担当者ほど、こうした保護的な反応を多くとるという関係が見出されました。この保護的な反応が多ければ多いほど、売上量や対話の質といった営業成績は低くなる、という構造が確認されました。恥ずかしい思いをしたくない、拒絶されたくないという気持ちが、営業担当者を内向きにさせ、本来であれば成果につながるはずの行動から遠ざけてしまいます。
この調査では、もう一つ発見がありました。この「恥→保護的反応→業績低下」という負の連鎖は、すべての営業担当者に等しく見られたわけではなかったのです。担当者の業務内容によって、その強度が異なっていました。業務の中心が、既存顧客との関係を維持することにある担当者よりも、常に新しい見込み客を探し続けなければならない、いわゆる新規開拓が中心の担当者において、この連鎖は強く作用していました。
新規開拓営業は、初対面の人との接触が多く、拒絶される可能性も高い、ストレスの多い仕事です。このような状況では、自己のイメージが脅かされる機会も頻繁に訪れます。その結果、自己を守ろうとする動機が過剰に働き、顧客との接触を避けるという行動につながりやすいと考えられます。この研究は、恥という感情が、特に対人リスクの高い状況において、いかに人の行動を萎縮させ、成果を損なうかを実証しました。
職場の不正行為は、怒りだけでなく予想外に恥が強く予測する
恥という感情が、創造性のような建設的な行動、あるいは営業活動からの回避といった、仕事の成果に直接関わる行動に作用する様子を見てきました。これらは、いずれも自己のイメージを回復したり、守ったりするという動機に基づいた反応と解釈できます。しかし、恥の感情がもたらす帰結は、それだけにとどまりません。場合によっては、その矛先が他者や組織そのものに向けられ、より破壊的な行動、すなわち不正行為や非倫理的な行動につながる可能性も指摘されています。
ある研究では、職場における七つの異なるネガティブな感情(怒り、羨望、嫉妬、退屈、恥、不安、悲しみ)と、七つの異なる種類の非生産的職務行動(同僚への虐待、窃盗、サボタージュ、社会的妨害など)との関係が調査されました[4]。理論的には、怒りのような他者に向かう「接近関連感情」は、他者を攻撃するような能動的な不正行為に結びつきやすく、一方で、恥のような内に向かう「回避関連感情」は、仕事を怠けるといった受動的な不正行為に結びつきやすいと予測されていました。
しかし、二百数十名の就業中の学生から得られたデータを分析した結果は、この予測を覆すものでした。特に驚きをもって迎えられたのは、恥に関する結果です。理論的な予測に反して、恥は、仕事を怠けるといった受動的な行動よりも、同僚を侮辱したり、その評判を落とすような画策をしたりする「他者への虐待」や「社会的妨害」といった、能動的で攻撃的な不正行為と強い関連を持っていました。
これは、恥という感情が、必ずしも内面への逃避だけをもたらすわけではないことを物語っています。自己の全体が否定されたかのような強烈な痛みを伴う恥の経験は、時として、その原因を他者に転嫁し、攻撃という形で外部に発散されることがあります。自分の無力さや欠点を認める代わりに、他者を貶めることで、相対的に自己の価値を保とうとする、防衛的な心の働きと解釈できるかもしれません。
さらに、七つの感情すべてを同時に投入して、どの感情が不正行為を最も強く予測するかを検討する重回帰分析が行われました。その結果、恥は、分析対象となった七つの不正行為のうち六つにおいて、他の感情の影響を考慮してもなお、独自の予測力を持つことがわかりました。これは、一般的に不正行為の引き金として考えられがちな「怒り」をもしのぐ結果でした。
この研究は、職場の不正行為を理解する上で、これまであまり光が当てられてこなかった恥という感情が、いかに見過ごせないものであるかを示唆しています。自己に向けられたはずのネガティブな評価が、反転して他者への攻撃となり得るという、恥の持つ暗い側面を浮き彫りにしたのです。
脚注
[1] Gonzalez-Gomez, H. V., and Richter, A. W. (2015). Turning shame into creativity: The importance of exposure to creative team environments. Organizational Behavior and Human Decision Processes, 126(C), 142-161.
[2] Xing, L., Sun, J. (J.), and Jepsen, D. (2021). Feeling shame in the workplace: Examining negative feedback as an antecedent and performance and well-being as consequences. Journal of Organizational Behavior, 42(9), 1244-1260.
[3] Verbeke, W. J. M. I., and Bagozzi, R. P. (2002). A situational analysis on how salespeople experience and cope with shame and embarrassment. Psychology & Marketing, 19(9), 713-741.
[4] Bauer, J. A., and Spector, P. E. (2015). Discrete negative emotions and counterproductive work behavior. Human Performance, 28(4), 307-331.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。
