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コラム

使命感を育む要因:家庭・信条・組織の影響

コラム

私たちの社会は、多くの公的なサービスによって支えられています。市役所の窓口で対応する職員、子どもたちの教育に携わる教員、私たちの安全を守る警察官や消防士。彼ら彼女らが日々の業務に向き合うとき、その心の中にはどのような「やる気」があるのでしょうか。もちろん、生活のための給与は基本的な動機の一つでしょう。しかし、それだけでは説明しきれない、公のために尽くしたいという情熱や使命感を持って働く人々がいます。

この、いわば「公への貢献意欲」を学術的に探求する概念が、「公共サービスモチベーション(Public Service Motivation;PSM)」です。これは、金銭的な報酬や地位といった外的な動機とは異なり、公共の利益に奉仕すること自体にやりがいや満足感を見出す、内面から湧き出る動機を指します。この動機は、一体どこから生まれ、何によって育まれるのでしょうか。生まれ持った資質なのでしょうか。それとも、育った環境や受けた教育、あるいは社会に出てからの経験によって形作られるのでしょうか。

本コラムでは、公共サービスモチベーションという概念の誕生から、その源泉をめぐる様々な実証研究の軌跡をたどります。個人の生い立ちや価値観、性別による違い、働く組織の環境まで、多様な角度からこの動機の正体に迫っていきます。

PSMの理論的基礎を築き、公務員の行動への影響を提起

公共サービスモチベーションという考え方が学術的な概念として体系化されるきっかけは、政府への市民の信頼が揺らぎ始めた時代に遡ります。公務員の士気や倫理観が問われ始めたとき、公共サービスに固有の動機とは何か、それが組織や個人の働きにとってどういう意味を持つのかを理論的に整理する必要性が高まりました。

こうした背景のもと、公共サービスモチベーションは「公的機関や組織に主に、あるいは固有に存在する動機に反応する個人の素質」と定義されました[1]。この動機は、人が何かを解消したいと感じる心理的な欲求を指し、大きく三つのカテゴリーに分類されました。

一つ目は「合理的動機」です。個人の利益や満足感を最大化しようとする動機で、公共への奉仕が自己の利益と結びつく側面も含まれます。例えば、良い公共政策の立案プロセスに参加することへの魅力や、個人的に思い入れのある公共プログラムへ深く関与したいというコミットメントがこれにあたります。

二つ目は「規範に基づく動機」です。特定の価値観に従いたいという欲求から生まれ、公共サービスモチベーションの中核をなすと広く考えられています。公共の利益に奉仕したいという純粋な願い、国民全体への忠誠心、社会的に恵まれない人々の暮らしを向上させたいという公平性への志向などが含まれます。

三つ目は「感情的動機」です。特定の対象への感情的な反応から引き起こされる動機です。ある公共プログラムの社会的意義を心から信じて献身したいという気持ちや、自国の人々への深い愛情と権利を守りたいという感情などが挙げられます。

この理論的枠組みに基づき、動機が実際の行動にどう結びつくかについて三つの仮説が立てられました。第一に、この動機が高い人ほど、公的な組織で働くことを選ぶ可能性が高いというもの。第二に、公的組織において、この動機は個人の仕事の成果と正の相関関係にあるという仮説。第三に、この動機が高い職員が集まる組織は、金銭的インセンティブに頼る必要性が低くなるというものです。彼ら彼女らは金銭より仕事の意義といった内面的な報酬に強く反応するためです。

こうして、公共サービスモチベーションの理論的土台が築かれ、公務員の行動を理解する新たな視点が提供されました。同時に、それは次の問いを生み出しました。このような特別な動機は、そもそも人の心の中にどう生まれるのでしょうか。

PSMの形成要因は多様で、次元ごとに異なる影響を与える

先ほど示された理論的枠組みは、公共サービスモチベーションの地図を描きました。その地図に描かれた大陸、すなわち人々の心中の動機は、どう形成されるのでしょうか。この問いに答えるべく、研究者たちはその源泉を探る実証的な調査に乗り出しました。

ある研究では、公共サービスモチベーションを「公共政策への志向」「公共利益・公民義務へのコミットメント」「思いやり」「自己犠牲」という四つの側面(次元)に分け、それぞれの成り立ちを探りました[2]。自己記入式の質問紙調査で、人々の多様な経験や価値観がデータとして集められました。

分析対象は、家庭環境、宗教、専門職意識、政治信条、学歴や年齢といった個人属性です。分析の結果、公共サービスモチベーションが、様々な要因が複雑に絡み合って形成される複合的な産物であることが見えてきました。

例えば、宗教との関わり方では「神との近さ」といった内面的な信仰心が、動機の多くの側面と正の関連をみせました。しかし、教会への所属や活動参加といった制度的な関与の度合いは、意外にも「思いやり」や「自己犠牲」と負の関連を持っていました。これは、教会活動が他の市民活動の時間を制約したり、回答の仕方に別の規範性をもたらしたりする可能性を示唆します。宗教は動機形成に関わるものの、その関わり方は一様ではないのです。

専門職意識も二つの顔を持っていました。「公共利益・公民義務へのコミットメント」や「自己犠牲」とは正の関連が見られ、専門職倫理が公共性や奉仕精神を強めることがうかがえます。ところが、「公共政策への志向」、すなわち政治や政策決定プロセスに関わりたい意欲とは負の関連が観察され、専門家意識が政治プロセスへの距離感を生む可能性が考えられました。

政治信条や個人属性も、動機の側面によって異なる反応が確認されました。リベラルな人ほど「自己犠牲」のスコアが高い一方、保守的な人ほど「公共政策への志向」が高いというパターンが見られました。また、所得が高いほど「公共利益・公民義務へのコミットメント」のスコアが低くなるという結果も得られました。

この研究が示すのは、公共サービスモチベーションが決して単純ではないという事実です。それは異質な動機の束であり、それぞれの動機は、親からの教え、宗教、専門職経験、政治信条といった、人生の様々な社会化経験を通じ、異なる形で育まれていくのです。

PSMは性差を持ち、女性は「共感」の動機が特に強い

これまで公共サービスモチベーションの源泉を、個人の育った環境や価値観といった多角的な視点から探ってきました。ここでは視点を「ジェンダー」に絞り、この動機を掘り下げます。伝統的に、公共経営やリーダーシップは、競争や達成を重んじる、文化的に男性的なイメージで語られがちでした。公共への貢献意欲という、ケアの側面も含むこの動機に、性別による違いは見られるのでしょうか。

この問いを検証するため、全米の州レベルで保健・福祉サービスに携わる管理職を対象とした調査研究が行われました[3]。この研究では、「政策形成への魅力」「共感」「公共サービスへのコミットメント」という三つの側面に焦点を当て、性別との関連が分析されました。

研究者たちは、文化的なジェンダーのイメージに基づき仮説を立てました。政策プロセスは競争的なため「政策形成への魅力」は男性が強く、他者への配慮に基づく「共感」は女性が高いだろうと。そして、歴史的な役割分担を背景に、「公共サービスへのコミットメント」は女性の方が低いと予測しました。

しかし、分析結果はこれらの予測を部分的にしか支持しませんでした。「共感」は、予測通り女性の方が男性よりも明らかに高いスコアを示し、文化的なステレオタイプや先行研究を裏付けました。

一方で、「公共サービスへのコミットメント」に男女差は見られず、公的義務への献身という点で性別による違いは確認されませんでした。これは、厳格な性別役割分担がされなくなった現代社会を反映しているのかもしれません。

最も予想外だったのが「政策形成への魅力」です。男性優位と予測されたにもかかわらず、わずかな差ながら女性の方が高い数値を示したのです。この結果について、研究者たちは、女性の政治参加を阻んできた規範の変化や、政策形成が持つ応答性という側面が文化的に女性的な質と響きあう可能性などを考察しました。

加えて、調査対象が歴史的に女性の多い保健・福祉分野だったことも関係しているかもしれません。男女比が均等に近い職場では、性別による文化的な期待に縛られにくく、結果として女性が政策形成への魅力を表明しやすくなり、コミットメントの男女差が見られなくなったのではないかと考察されています。

PSMは組織要因にも影響され、レッドテープはPSMを低下

これまでの議論では、公共サービスモチベーションの源泉を、個人が組織に入る以前に形成される要因に求めてきました。しかし、人が働く上で、所属する「組織」という環境からの働きかけは計り知れません。高い志も、組織のあり方次第で削がれることはないのでしょうか。ここでは、視点を個人の内面から組織環境へと移し、両者の関係を探ります。

このテーマを解明するため、米国の州の保健・福祉機関で働く管理者を対象とした調査が行われました[4]。調査では、個人の背景要因(学歴など)と、組織の環境要因(組織文化、非効率な規則の多さ、改革への志向、階層の数、在籍期間)の両方が、公共サービスモチベーションとどう関連するかを同時に分析しました。

分析の結果、高い教育水準や専門職団体への加入といった個人の背景要因が、動機と強い正の関連を持つことが改めて示されました。組織に入る前の段階で、既に動機の素地が形成されていることを裏付けています。

それに加えて、組織の環境要因も動機と深く関わっていました。強い負の関連が見られたのが「レッドテープ」、すなわち目的が形骸化した規則や煩雑な手続きです。レッドテープが多いと感じる人ほど、公共サービスモチベーションが低いという結果でした。人々の貢献意欲が、非効率な官僚制の中で失われていく姿が浮かびます。逆に、従業員への権限移譲などを進める改革志向の強い組織で働く人は、動機が高いことも確認されました。

興味深いことに、組織の階層の数については、当初の予測と異なり、階層が多い組織で働く人の方が動機が高いという関係が見られました。階層構造は、役割分担を明確にし、キャリアの道筋を示すことで、管理職にとって自身の役割の意義を認識しやすくするのかもしれません。

また、組織での在籍期間が長いほど動機が低くなるという負の関連も見られました。これは、長期間同じ組織にいることで、本来の目的を見失い、規則遵守が自己目的化する現象を示唆している可能性があります。

この研究が明らかにしたのは、公共サービスモチベーションが固定されたものではなく、組織という後天的な環境によって育まれたり損なわれたりする、変化しうるものだということです。組織は、職員の動機を形成する責任と機会の両方を持っていると言えます。

PSMの道徳的源泉は宗教活動や家族にあり、人を変える経験も重要

これまで、公共サービスモチベーションが多様な源泉から形成される過程を見てきました。最後に、再び個人の内面に分け入り、「道徳的なコミットメント」の根源を探ります。他者や社会に尽くしたいという強い思いは、どのような経験から生まれるのでしょうか。この問いに迫るため、卓越したボランティア活動を称えられ大統領の名で表彰された、いわば社会の「道徳的な模範」といえる人々を対象としたユニークな研究が行われました[5]

この研究では、アンケートによる量的分析と、インタビューによる質的分析が組み合わされました。二つの手法で、統計的なパターンと、その背後にある個人の生きた経験の両方を捉えようとしたのです。

統計分析からは、これまでの知見を裏付ける結果が得られました。幼少期の「家族による社会化」、とりわけ親が社会貢献の手本を示すことや、「宗教活動」への参加は、公共サービスモチベーションの高さと直接的に関連していました。幼い頃からの経験が、成人後の道徳的コミットメントの土台を築いていることがうかがえます。

しかし、この研究の真骨頂は、インタビューによって明らかになった、統計データだけでは見えない動機の深層にあります。インタビューから浮かび上がったのは、第一に、動機づけの複雑さです。彼ら彼女らの多くは、人生の様々な段階で多様なきっかけから活動を始めており、動機は直線的な道のりをたどるわけではないことが分かりました。

第二に、アンケート結果でも示された宗教の役割が、より具体的に語られました。多くの人にとって、信仰やスピリチュアリティは、奉仕活動の根底にある価値観でした。

心を揺さぶる発見は、「人生を変えるような出来事」の存在でした。インタビューに答えた人の約四分の一が、個人的な悲劇をきっかけに奉仕活動を始めたと語ったのです。それは、我が子を失った経験、自身の癌宣告、近しい家族との死別といった、耐えがたいほどのつらい出来事でした。このような個人的で劇的な体験は、深い喪失感の中から、他者のために生きるという新たな目的意識を生み出す引き金となり得ます。

この研究は、道徳的源泉が幼少期の社会化プロセスにあることを確認すると同時に、それだけでは説明しきれない後天的な人生経験の働きを明らかにしました。模範的な人々の動機は、人生の物語と深く結びついているのです。

脚注

[1] Perry, J. L., and Wise, L. R. (1990). The motivational bases of public service. Public Administration Review, 50(3), 367-373.

[2] Perry, J. L. (1997). Antecedents of public service motivation. Journal of Public Administration Research and Theory, 7(2), 181-197.

[3] DeHart-Davis, L., Marlowe, J., and Pandey, S. K. (2006). Gender dimensions of public service motivation. Public Administration Review, 66(6), 873-887.

[4] Moynihan, D. P., and Pandey, S. K. (2007). The role of organizations in fostering public service motivation. Public Administration Review, 67(1), 40-53.

[5] Perry, J. L., Brudney, J. L., Coursey, D., and Littlepage, L. (2008). What drives morally committed citizens? A study of the antecedents of public service motivation. Public Administration Review, 68(3), 445-458.


執筆者

伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

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