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コラム

主体性が拓く未来:組織を強くするプロアクティブ行動

コラム

現代のビジネス環境は、技術革新や市場変動が加速し、組織にとって不確実性が常態化しています。その中で、従業員が単に与えられた業務を遂行するだけでなく、自ら考え行動する姿勢がこれまで以上に重要視されています。

背景には、変化への即応力や新たな価値創出の必要性があり、個人の主体的な行動が組織全体の競争力を左右するようになっているのです。

こうした文脈で注目されているのが「プロアクティブ行動」という概念です。これは、問題を先取りして改善策を講じたり、将来の機会を探索したりするなど、未来を見据えて自発的に環境へ働きかける行動を指します。

従業員一人ひとりの主体性は、キャリアの成功に直結するだけでなく、組織のイノベーションや変革を支える要因として位置づけられています。

本コラムでは、このプロアクティブ行動をめぐる研究成果を整理し、どのように個人や組織に影響を及ぼすのか、またその行動を促す要因やマネジメントへの応用について探求していきます。読者にとって、主体性を引き出す仕組みづくりの示唆を得られる内容となるでしょう。

プロアクティブ行動が組織成果に与える影響

最初に紹介する研究は、組織における「プロアクティブ行動」に焦点を当て、従業員が自発的に環境へ働きかける姿勢がどのように成果や組織文化に影響を及ぼすのかを検討したものです。研究は、複数の業界に属するビジネスパーソンを対象にアンケートや面接を通じて行われ、職務満足度や評価、昇進との関連が分析されました[1]

ここでいうプロアクティブ行動とは、単に指示を待つのではなく、問題を先取りして改善策を提案する姿勢や、新しい機会を積極的に模索する行動を指します。例えば、営業職であれば既存の顧客管理に留まらず、新しい市場を開拓する行動がこれに該当します。

研究の結果、主体的に行動する従業員は上司から高い評価を得やすく、キャリア上の成功にもつながることが明らかになりました。また、組織レベルでもイノベーションや適応力の向上に寄与することが確認されています。

特に、外部環境の変化が激しい業界においては、従業員一人ひとりの自発的な行動が競争優位の源泉となり得ることが示唆されています。逆に、主体性の乏しい環境では、新しい課題への対応が遅れ、組織全体のパフォーマンスに影響を及ぼす可能性があります。

実践的な含意としては、従業員の主体性を引き出す環境づくりが重要であることが挙げられます。例えば、上司が意見を受け入れやすい雰囲気をつくる、挑戦的な目標を設定する、あるいは失敗を過度に咎めない文化を醸成することが有用です。このような取り組みは、従業員が自らの判断で行動しやすい土壌を整え、結果として組織全体の成果を高める効果が期待できます。

さらに、マネジメントへの応用としては、人材評価や育成制度の設計に主体性の要素を取り入れることが効果的です。例えば、人事評価において成果だけでなく、改善提案や新規プロジェクトへの積極的な関与といった行動面も重視することで、従業員のプロアクティブ行動を後押しすることができます。

また、リーダーシップ開発プログラムにおいても、単なる管理スキルではなく、自ら未来を構想し、周囲を巻き込んで行動する力を育む視点が有用です。

プロアクティブ行動を育む要因が成果を左右する

前章では、プロアクティブ行動そのものがキャリアや組織成果に結びつくことを確認しました。本章ではさらに踏み込み、なぜ人はプロアクティブに行動できるのか、その要因を明らかにした研究を紹介します[2]

この研究は、職場におけるプロアクティブ行動の前提条件をテーマとし、さまざまな業界で働く従業員を対象に調査を行ったものです。具体的には、アンケートによる数量的な分析と、行動観察を組み合わせて実施され、個人の性格特性や職場環境がどのように主体性と関連するのかを検証しました。

ここでいう性格特性とは、心理学でいう「パーソナリティ」(個人が持つ比較的一貫した思考や行動の傾向のこと)のことで、たとえば外向性や勤勉性といった行動傾向を指します。一方、職場環境の要素には、上司のサポートや裁量の度合いといった組織的な側面が含まれています。

研究の結果、プロアクティブ行動を促す要因は個人と環境の双方にあることが明らかになりました。具体的には、変化を好み挑戦的な姿勢を持つ従業員ほど、新しい提案や改善行動に積極的である傾向が見られました。

また、上司が自主性を尊重し裁量を与える環境では、その行動が一層強く発揮されることも確認されています。つまり、個人の性格と環境の支援が組み合わさることで、プロアクティブ行動が最も強く現れるといえます。逆に、性格的に前向きであっても、過度に管理的な職場では行動が抑制されやすいという傾向も示されています。

実践的な含意としては、採用や配置において個人の特性を理解することが有用です。例えば、新規事業や変革を担う部署には、新しい挑戦を楽しめる人材を配置することが効果的です。

また、どのような人材であっても、自発的に動ける環境を整えることで行動を引き出せる点は見逃せません。具体的には、権限委譲を進めたり、自由度の高いプロジェクトを設けたりすることが、従業員の積極性を高める要因となります。

マネジメントへの応用としては、リーダーシップのスタイルを見直すことが挙げられます。細かい指示を繰り返す管理型の姿勢よりも、方向性を示した上でメンバーに裁量を与えるスタイルのほうが、プロアクティブ行動を生み出す上で効果的です。

また、人材開発の観点からは、主体性を阻害しない評価制度やフィードバックの仕組みが重要です。成果に至らなくとも、挑戦した行動自体を評価対象に含めることで、従業員は安心して新しい取り組みに踏み出しやすくなります。

プロアクティブ行動の多様なタイプが成果を形づくる

前章では、プロアクティブ行動を生み出す要因について考察しました。本章ではさらに一歩進め、プロアクティブ行動にはどのようなタイプがあり、それぞれが組織にどのような影響をもたらすのかを明らかにした研究を紹介します[3]

この研究は、職場で観察されるプロアクティブ行動を複数のタイプに分け、それぞれの特徴と影響を分析したものです。対象となったのは、多様な業種で働く従業員であり、アンケート調査と統計的な分析手法を用いてデータが収集されました。

ここでいう「タイプ」とは、プロアクティブ行動を構成する異なる側面を指します。例えば、新しい提案を行う行動と、現状を改善する行動は同じ「主体性」ではありますが、その性質や影響は異なると考えられます。

研究の結果、プロアクティブ行動は単一の概念ではなく、複数のタイプに分けて理解することが重要であることが明らかになりました。

具体的には、以下のタイプがあります。

  • 改善:業務の無駄をなくすなど「今」をよくする行動
  • 探索:新しい市場を探すなど「未来」の種を見つける行動
  • 変革:ルールそのものを見直すなど「仕組み」を変える行動

これらはそれぞれ別の特徴を持っています。

また、これらの行動はすべてが同じように評価されるわけではなく、状況や組織文化によってプラスに働く場合とそうでない場合があることも示されています。たとえば、改善提案は安定志向の組織に適合しやすい一方、大規模な変革行動は変化を歓迎する文化でなければ受け入れられにくいといった点です。

実践的な含意としては、プロアクティブ行動を評価する際に一律の基準を当てはめるのではなく、多様な次元を理解した上で文脈に応じて捉えることが有用です。例えば、業務改善を重視する部門では効率化の提案を評価する一方、新規事業部門では未来志向の探索的な行動を重視するといった形が考えられます。このように、行動の性質と部門の目的を照らし合わせることで、より適切な評価や支援が可能になります。

マネジメントへの応用としては、人材育成や評価制度の設計において「主体性の多様性」を反映させることが効果的です。リーダーは、部下のプロアクティブ行動を一つの型にはめて捉えるのではなく、異なる次元を理解し、それぞれの強みを活かせる役割や場を提供することが有用です。

また、組織文化の観点からは、挑戦を奨励する文化か、安定を重視する文化かを明確にした上で、望ましいプロアクティブ行動を促す環境を整えることが効果的です。

休養が主体性と働きがいを高める鍵

前章では、プロアクティブ行動の多様な次元とその影響について取り上げました。本章では視点を変え、仕事以外の時間の過ごし方が職場での主体性にどのように結びつくかを検討した研究を紹介します[4]

この研究は、勤務時間外における「リカバリー(心身の回復・充電)」と、仕事への「熱意・やりがい(ワーク・エンゲイジメント)」やプロアクティブ行動との関係をテーマにしています。調査対象となったのは、さまざまな職種に従事する従業員であり、アンケート調査を通じて、余暇の過ごし方、休養の質、職場での活力や主体性との関連を分析しました。

ここでいうリカバリーとは、仕事による心身の負担を和らげる過程を指し、十分な睡眠や趣味活動、運動などが含まれます。ビジネスパーソンにとっては、週末のリフレッシュや終業後の時間の使い方がこれにあたります。

研究の結果、非労働時間に適切なリカバリーがなされている人ほど、高いワーク・エンゲイジメントを示し、さらにプロアクティブ行動も活発であることが明らかになりました。

逆に、休養が不十分な場合は、創造的な提案や改善行動が減少する傾向が確認されています。つまり、主体性は職場内だけでなく、職場外の生活習慣や余暇活動からも大きな影響を受けるということです。

実践的な含意としては、従業員が効果的にリカバリーできる環境を整えることが有用です。たとえば、長時間労働を前提としない働き方を推進することや、休暇取得を後押しする制度設計が挙げられます。

また、福利厚生としてフィットネスやカウンセリングを提供することも、従業員の回復を助ける手段となります。これらは一見すると業務とは直接関係がないように思われますが、結果的に主体性や生産性の向上につながる点が重要です。

マネジメントへの応用としては、単に仕事上の指導や目標設定に注力するのではなく、従業員のオフタイムを尊重する姿勢が効果的です。例えば、勤務時間外の連絡を控えることや、成果だけでなくワークライフバランスを評価に含めることが挙げられます。さらに、管理職自身が休暇を積極的に取る姿を示すことも、休養を大切にする文化の醸成に役立ちます。

不確実性の中で役割行動を再定義する視点

前章では、休養が従業員の主体性を高める要因となることを取り上げました。本章ではさらに深く、不確実で部署やメンバー同士のつながりが強く影響し合う環境において、従業員の役割行動をどのように捉え直すことができるのかを示した研究を紹介します[5]

この研究は、従来の「職務遂行」という枠組みを超え、従業員の役割行動を新たにモデル化したものです。対象となったのは多様な業種の従業員であり、アンケート調査や行動観察を通じてデータが収集されました。

ここでいう「役割行動」とは、与えられた職務をこなすだけでなく、変化する環境に適応し、他者と協働しながら成果を出す行動を含みます。たとえば、チーム全体のために情報を積極的に共有したり、予測不能な課題に対処するために自発的に新しいやり方を試みたりする行動です。

研究の結果、役割行動は三つの側面に分けて理解できることが明らかになりました。第一に「遂行的行動」であり、これは定められた業務を正確かつ効率的にこなすことを指します。第二に「適応的行動」であり、変化や予期せぬ事態に柔軟に対応する力を意味します。第三に「プロアクティブ行動」であり、現状にとどまらず改善や新たな挑戦に踏み出す姿勢を含みます。

特に、不確実性が高い環境においては、遂行的行動だけでなく、適応的・プロアクティブ行動の重要性が増すことが確認されました。

実践的な含意として、組織は従業員の役割行動を評価する際、単に業務遂行の成果だけを見るのではなく、変化への適応や改善への取り組みも考慮することが有用です。例えば、環境が安定している部門では遂行的行動を重視しつつ、変化の多いプロジェクトチームでは適応的・プロアクティブ行動を評価対象に含めるといった柔軟な基準が効果的です。

この研究が示すように、不確実性が高まる現代においては、役割行動の枠組みを拡張し、遂行・適応・プロアクティブ行動の三側面をバランスよく捉えることが、組織の持続的な成果につながるといえるでしょう。

プロアクティブ行動が変革を生む力

前章では、不確実な環境における役割行動の枠組みについて整理しました。最終章となる本章ではさらに視野を広げ、未来志向の姿勢がどのように従業員の行動を方向づけ、組織の変革に結びつくのかを明らかにしたレビュー論文を紹介します[6]

この研究は、「職場のプロアクティブ行動」をテーマとしています。対象はさまざまな業界で働く従業員であり、質問票調査を通じて、将来を意識した行動と組織への影響の関係が分析されました。

ここでいう職場のプロアクティブ行動とは、単に与えられた課題をこなすだけではなく、未来の課題や機会を先取りして動く姿勢を意味します。例えば、次年度に必要となるスキルを先に学んでおく行動や、まだ顕在化していない顧客ニーズを想定して新しい提案を準備することがこれにあたります。

研究の結果、未来を意識した職場のプロアクティブ行動は、組織の変革やイノベーションを推進する上で重要な役割を果たすことが明らかになりました。具体的には、環境変化への適応力が高まり、組織全体としても柔軟性を持って新しい課題に取り組めることが確認されています。

また、こうした行動は個人にとってもキャリア形成の機会を広げ、自らの市場価値を高める効果があると示されています。逆に、未来志向が欠ける場合、組織は短期的な効率には強くても、長期的な競争力を維持することが難しくなる傾向が示されています。

実践的な含意としては、従業員が未来を見据えて動けるような環境づくりが有用です。例えば、短期的な成果だけでなく、中長期的な視点を重視する評価基準を導入することが効果的です。また、未来をテーマとした社内ワークショップや、外部トレンドを学ぶ機会を設けることも、従業員の視野を広げ、先を読む行動を促す要因となります。

マネジメントへの応用としては、リーダーが自ら未来志向の姿勢を示すことが重要です。たとえば、戦略会議で長期的な方向性を語る、将来必要となる能力を明示するなど、ビジョンを共有することが有用です。また、部下の提案に対して「今すぐには不要かもしれないが将来的に役立つ」という視点から耳を傾けることも、先を読む行動を支える文化づくりにつながります。

この研究が示すように、未来志向の職場のプロアクティブ行動は、変化の激しい時代において組織の成長を支える原動力です。短期的な成果と同時に長期的な視点を育むことが、組織と個人双方の持続的な成功につながるといえるでしょう。

おわりに

これまで紹介してきた一連の研究は、プロアクティブ行動が個人と組織の双方にとってどれほど重要な意味を持つかを多角的に示していました。主体性は成果や評価につながるだけでなく、個人の性格特性や職場環境によっても左右されること、さらに行動の種類や次元によって評価され方が異なることが明らかになっています。

加えて、職場外での休養やリカバリーの質が主体性を支える重要な基盤となること、不確実な環境では遂行・適応・主体性の三側面をバランスよく発揮することが成果に結びつくこと、そして未来を見据えた行動が組織の変革を推進する力になることが確認されました。

これらを踏まえると、組織が持続的に成果を上げるためには、短期的な効率や目先の成果だけに焦点を当てるのではなく、個人の主体性を多面的に理解し、その発揮を支える環境を整えることが有用です。

管理職やリーダーは、従業員に裁量を与え、挑戦を歓迎する文化を築くと同時に、自ら未来志向の姿勢を示すことが効果的です。また、制度や評価の仕組みも、成果だけでなく取り組みや行動の質を含めて捉えることが、プロアクティブ行動を長期的に育む基盤となるでしょう。

主体的に動く個人が集まることで、変化に強く、柔軟で、未来に向けて成長し続ける組織が形づくられます。プロアクティブ行動は、まさに不確実な時代を切り拓く組織の力であるといえるでしょう。

脚注

[1] Crant, J. M. (2000). Proactive behavior in organizations. Journal of management, 26(3), 435-462.

[2] Parker, S. K., Williams, H. M., & Turner, N. (2006). Modeling the antecedents of proactive behavior at work. Journal of applied psychology, 91(3), 636.

[3] Parker, S. K., & Collins, C. G. (2010). Taking stock: Integrating and differentiating multiple proactive behaviors. Journal of management, 36(3), 633-662.

[4] Sonnentag, S. (2003). Recovery, work engagement, and proactive behavior: a new look at the interface between nonwork and work. Journal of applied psychology, 88(3), 518.

[5] Griffin, M. A., Neal, A., & Parker, S. K. (2007). A new model of work role performance: Positive behavior in uncertain and interdependent contexts. Academy of management journal, 50(2), 327-347.

[6] Bindl, U. K., & Parker, S. K. (2011). Proactive work behavior: Forward-thinking and change-oriented action in organizations.


執筆者

樋口 知比呂 株式会社ビジネスリサーチラボ コンサルティングフェロー
早稲田大学政治経済学部卒業、カリフォルニア州立大学MBA修了、UCLA HR Certificate取得、立命館大学大学院博士課程修了。博士(人間科学)。国家資格キャリアコンサルタント。ビジネスの第一線で30年間、組織と人に関する実務経験、専門知識で、経営理論を実践してきた人事のプロフェッショナル。通信会社で人事担当者としての経験を積み、その後、コンサルティングファームで人事コンサルタントやシニアマネージャーを務め、さらに銀行で人事部長などの役職を歴任した後、現在はFWD生命にて執行役員兼CHROを務める。ビジネスと学術研究をつなぐ架け橋となることを目指し、実践で役立つアプローチを探求している。

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