2026年1月29日
組織はなぜ政治的なのか:アリーナとしての視点
「会社の政治」と聞くと、どのようなイメージが浮かぶでしょうか。水面下での駆け引き、派閥争い、誰かを蹴落として自分の利益を図る、といった好ましくない光景を思い描くかもしれません。この言葉には、どこか組織の健全性を損なう、避けるべき活動という響きが伴います。日常会話で「うちの会社は政治的で・・・」と語られるとき、その口調はしばしば諦めや批判を含んでいます。このように、組織における「政治」は、一般的にネガティブなレッテルを貼られます。
しかし、私たちはこの現象を「悪」として片付けてしまって良いのでしょうか。組織から一切の「政治」がなくなったとしたら、それは本当に理想的な状態なのでしょうか。あるいは、私たちが「政治」と呼んでいるものの中には、組織が変化し、成長するために必要なエネルギーが含まれている可能性はないのでしょうか。この言葉が指し示す範囲は広く、その実態は非常に複雑で、一概に善悪を判断できるものではないのかもしれません。
本コラムでは、一度立ち止まって、「組織政治」という現象に目を向けます。ネガティブな先入観を一旦脇に置き、この複雑な人間模様を、学術的な知見を頼りに多角的に解き明かしていくことを目指します。そもそも「組織政治」とは何なのか、その定義から始めます。その上で、組織内で政治的な対立がどのように生まれ、展開していくのかを眺めます。そして、働く人々が実際に「政治」をどう経験しているのかを探ります。最後に、これまでの研究成果を整理する枠組みを紹介し、この現象の全体像を捉えます。
組織内政治とは、組織非公認の手段や目的を伴う影響力行使
組織における「政治」という言葉は、日常的に使われる一方で、その意味するところは人によって様々です。ある人は部門間の予算獲得競争を指して「政治的だ」と言い、またある人は上司への個人的な働きかけを指してそう呼ぶかもしれません。言葉の使われ方が曖昧であると、現象の正確な理解は難しくなります。そこで、まず「組織内政治」とは何かを定義しようとする試みがあります[1]。
過去には、いくつかの視点から組織内政治を定義づける試みがなされてきました。例えば、組織の限られた資源をめぐる要求活動を政治と捉える考え方がありました。しかし、この定義では範囲が広すぎます。規則に則った昇給の申請も資源配分への要求ですが、これを即座に政治的と見なす人は少ないでしょう。
また、方針決定をめぐる対立こそが政治だ、という見方もありましたが、これでは方針が決まった後の実行段階で見られる駆け引きが視野から抜け落ちてしまいます。他者に働きかける「影響力」の行使や、個人的な利益を追求する行動を政治と見なす考え方も、正当な業務指導や日常的な職務遂行との境界が曖昧になるという課題を抱えていました。
これらの問題点を乗り越えるために、新しい視点が提案されました。その核心は、組織内で行われる影響力の行使を、その「手段」と「目的」が組織によって公式に認められている(是認されている)かどうか、という基準で分類する点にあります。組織には通常、達成すべき公式の目的と、そのために用いてよいとされる公式の手段が定められています。この公式の範囲内で行われる活動は、非政治的な職務行動と考えることができます。
この考え方に基づくと、組織内政治は「組織によって是認されていない目的を達成するため、あるいは、是認された目的を是認されていない影響力の手段を用いて達成するための、影響力のマネジメント」と定義されます。
この定義によれば、政治的な行動は大きく三つのタイプに分けられます。
一つ目は、公式に認められた権限などを使いながら、組織の目標とは異なる個人的な目的を追求する行動です。これは組織にとって望ましくない政治活動と言えるでしょう。
二つ目は、カリスマ性や個人的な人間関係といった非公式な手段を用いて、組織が公式に掲げる目標を達成しようとする行動です。これは、組織の目標達成に貢献する可能性があり、リーダーシップの一形態と見なされることもあります。
三つ目は、手段と目的の両方が組織の規範から外れている行動です。これは組織の秩序を著しく乱すものであり、通常は秘密裏に行われます。
このように定義すると、組織内政治は思いつきの行動ではなく、一連の計算されたプロセスとして捉えることができます。個人は自分が望む結果が組織の公式目標と一致するかを判断し、政治的な目標を形成します。その目標達成のために他者の協力が必要かどうかを分析し、誰に、どのように働きかけるべきかという戦略を立てます。
組織内の政治的対立を4つのアリーナ類型とその興亡で説明
先ほどは、組織内政治を「非公式な影響力行使」として定義し、その基本的な構造を解明しました。この定義は、個々の行動を分類し理解する上で有効な道具となります。しかし、これらの政治的行動が組織全体に広がるとき、そこでは何が起こるのでしょうか。ここでは、組織そのものを一種の「政治的な闘技場(アリーナ)」と見なし、そこで繰り広げられる対立のダイナミクスを解き明かす視点を紹介します[2]。
この視点では、政治は、権威(公式の役職や命令系統)、イデオロギー(組織の共有された価値観)、専門性(特定の知識や技術)といった、組織における「正統な」影響力のシステムとは異なる、「非正統な」影響力のシステムとして位置づけられます。この非正統なシステムは、正統なシステムがうまく機能していないときにその欠陥を補ったり、逆に、硬直化した正統なシステムに揺さぶりをかけたりするような振る舞いをすることがあります。
この闘技場では、様々な種類の政治的な「ゲーム」が繰り広げられます。例えば、現状の権威に異を唱える「反乱ゲーム」と権力側が応戦する「対反乱ゲーム」。有力者の後ろ盾を得ようとする「スポンサーシップゲーム」。同僚間で協力する「同盟形成ゲーム」。自分の配下を増やそうとする「帝国建設ゲーム」。専門知識を独占して影響力を持とうとする「専門性ゲーム」など、その種類は多岐にわたります。
こうしたゲームが繰り広げられる政治的アリーナは、常に同じ状態にあるわけではありません。対立の「強度」、それが組織のどこまで広がっているかという「遍在性」、そしてどれくらいの期間続くかという「持続性」という三つの次元から、アリーナの状態を四つの基本類型に分類することができます。
一つ目は「対決」です。これは、対立の強度が高く、特定の部門間などに局在し、短期間で終結する状態です。企業の買収劇や二大派閥の激しい衝突などがこれにあたります。
二つ目は「ぐらつく同盟」です。対立の強度は中程度で、局在しており、比較的長く持続しうる状態です。例えば、公式な権威を持つ部門と、高度な専門性を持つ部門が、互いに牽制しあいながら不安定な均衡を保っているような状況が想像できます。
三つ目は「政治化組織」です。対立の強度は中程度ですが、組織全体に遍在しており、持続的な状態です。このような組織は内部の対立でエネルギーを消耗しがちで、外部からの支えなしには存続が難しい場合があります。
四つ目は「全面的政治的アリーナ」です。対立の強度も遍在性も高く、政治が組織のすべてを覆い尽くした状態です。組織は内部の闘争で麻痺し、極めて不安定になるため、長くは続かず、しばしば崩壊へと向かいます。
これらのアリーナは、生成、展開、終結というライフサイクルを辿ります。組織内の権力バランスを大きく変えるような強い圧力がかかると、「対決」が起こり、それが組織全体に広がって「全面的政治的アリーナ」へと移行することがあります。闘争の結果、どちらか一方が勝利して対立が解消されるか、組織そのものが崩壊するか、あるいは対立の強度が和らいで「ぐらつく同盟」や「政治化組織」といった持続的な状態に落ち着く、といった結末を迎えます。
このアリーナという見方は、組織内政治が常に有害であるとは限らないという示唆ももたらします。例えば、硬直化した権力構造を打ち破り、新たな変化を生み出すためには、一時的な「対決」が必要な場合もあるでしょう。組織を闘技場として捉えることで、私たちは対立のパターンを分析し、その興亡の先に何が起こりうるのかを考えるための、より広い視野を得ることができます。
組織の政治は、目標達成に役立つ肯定的な側面も持つ
これまで、組織内政治の定義や、組織全体に広がる対立の力学といった、いわばマクロな視点からこの現象を捉えてきました。しかし、組織を構成しているのは、日々の業務に従事する一人ひとりの人間です。ここでは視点を変え、従業員の語りを通して、組織内政治のリアルな姿に迫る試みを紹介します。
長年、組織内政治は自己利益の追求といった否定的な側面から語られることがほとんどでした。しかし、そうした見方だけでは組織で起こっていることのすべてを説明できないのではないか、という問いが投げかけられてきました。そこで、従業員が自身の経験をどのように意味づけているのかを深く解釈する、質的なアプローチを用いた調査が行われました[3]。オーストラリアの三つの組織で働く14名の人々が、インタビューに協力しました。
その語りの分析から浮かび上がってきたのは、人々が組織内政治を非常に多様な形で認識しているという事実でした。その捉え方は、大きく四つの異なる視点に分類することができました。
第一は「反応的」な視点です。この視点を持つ人々は、政治を自分とは無関係な、破壊的で操作的なものと捉え、できる限り避けようとします。
第二は「不本意」な視点です。これは、政治を「必要悪」と見なす立場です。本当は関わりたくないと思いながらも、仕事の目標を達成するためには、時として不本意ながら政治的な行動を取らざるを得ない、という葛藤を抱えています。
第三は「戦略的」な視点です。この視点を持つ人々は、組織内政治を「物事を成し遂げるのに役立つ有用な戦略」として肯定的に捉えます。非公式なチャネルを通じて影響力を行使することは、有効なツールだと考えています。
第四は「統合的」な視点です。これは、組織内政治を組織の機能や意思決定の中心にある、根本的なものだと捉える、より広い視野です。ネットワークを築き、関係性を構築することは仕事そのものであり、不可欠なプロセスだと考えています。
同じ行動であっても、どの視点から見るかによって、その評価は全く異なります。例えば、「人間関係の構築」という行動は、反応的な視点からは「ゴマすり」と否定的に見なされますが、戦略的な視点からは「有効な関係構築」と肯定的に解釈され、統合的な視点からは「当然の行為」と見なされるのです。
これらの政治的行動がもたらす結果についても、肯定的な側面と否定的な側面の両方が語られました。
個人にとっては、ストレスやモチベーションの低下といった否定的な結果がある一方で、キャリアアップや満足感の向上といった肯定的な結果もありました。組織にとっても、生産性の低下といった否定的な結果もあれば、目標達成の促進やイノベーションといった肯定的な結果もありました。否定的な結果は主に「反応的」または「不本意」な視点を持つ人々によって、肯定的な結果は主に「戦略的」または「統合的」な視点を持つ人々によって語られるという関連が見られました。
この調査は、組織内政治が一枚岩の現象ではなく、見る人の視点を通して多様に解釈される多面的なものであることを明らかにしました。政治的と見なされる行動そのものに善悪の色がついているのではなく、個人がどのような前提や視点を持っているかによって、その色合いは肯定的なものにも否定的なものにも変わりうるのです。
組織政治研究を「特性」「行動」「結果」の枠で再編成
これまで、組織内政治を「非公式な影響力行使」と定義し、それが組織という「闘技場」で展開する力学を眺め、さらに個々の従業員の「視点」によってその意味合いが変わることを確認してきました。この捉えどころのない現象を、研究者たちはどのように理解し、知識を体系化しようと努めてきたのでしょうか。ここでは、約40年間にわたる組織政治研究の蓄積を整理し、より包括的な理解を目指す新たな枠組みを紹介します[4]。
これまでの研究は、大まかに「政治的認識」「政治的行動」「政治的スキル」という三つの領域に分類されてきました。この分類は多くの知見を生み出す上で役立ってきましたが、各領域が別々に議論されることが多く、現象の全体像が見えにくいという課題も指摘されていました。
そこで、これらの研究領域を再編成し、より大きな全体像を描き出すための新しい枠組みが提案されました。それは、「政治的特性」「政治的行動」「政治的結果」という三つのカテゴリーで組織政治を捉え直すものです。この枠組みは、人間が単に環境に反応する受動的な存在ではなく、自ら環境に働きかけて意味を創造していく能動的な存在であるという考え方に基づいています。
これら三つの要素は、互いに作用し合う関係にあると考えます。個人の「特性」が「行動」に結びつき、その「行動」が何らかの「結果」を生み、その「結果」がまた次の「行動」のきっかけになる、という循環的なプロセスとして現象を捉えるのです。
「政治的特性」の中心的な概念は「政治的スキル」です。これは、他者の意図を正確に理解し、様々な状況でうまく立ち振る舞い、他者に働きかけることができる、対人影響力の能力を指します。このスキルが高い人は、職場でのパフォーマンス評価が高くなることが分かっています。スキルを持つ人が上司との良好な関係を築き、自分の仕事ぶりを適切にアピールできるためだと考えられています。もう一つの特性として「政治的意志」があります。これは、政治的なゲームに参加し続けようとする意欲のことです。
「政治的行動」には、様々な種類があります。代表的なものに「影響戦術」があります。これは、自分の意見を通すために使われる具体的な働きかけのことで、「合理的に説得する」など、複数の種類が特定されています。どのような戦術が選ばれるかは、相手との力関係や目的によって異なります。もう一つは「印象管理」です。これは、他者から自分がどう見られるかをコントロールしようとする行動で、自分の功績をアピールする(自己宣伝)といった戦術が含まれます。
「政治的結果」の中心には、「組織政治認識」があります。これは、個人が「この職場は、自己利益のために動く人が多い、政治的な場所だ」と主観的に感じる度合いを指します。この認識が高いと、職務満足感などが低下することが示されています。もう一つの結果として「評判」が挙げられます。良い評判は、政治的行動が成功した結果として得られるものですが、同時に、それは次の政治的行動を有利に進めるための資源ともなります。
このように「特性・行動・結果」という相互に関連し合う枠組みで捉えることで、組織政治という複雑な現象の全体像が描き出されます。この包括的な視点は、組織という舞台で繰り広げられる人間模様を、より立体的に理解するための地図となるでしょう。
脚注
[1] Mayes, B. T., and Allen, R. W. (1977). Toward a definition of organizational politics. The Academy of Management Review, 2(4), 672-678.
[2] Mintzberg, H. (1985). The organization as political arena. Journal of Management Studies, 22(2), 133-154.
[3] Landells, E. M., and Albrecht, S. L. (2017). The positives and negatives of organizational politics: A qualitative study. Journal of Business Psychology, 32(1), 41-58.
[4] Ferris, G. R., Ellen III, B. P., McAllister, C. P., and Maher, L. P. (2019). Reorganizing organizational politics research: A review of the literature and identification of future research directions. Annual Review of Organizational Psychology and Organizational Behavior, 6, 299-323.
執筆者
伊達 洋駆 株式会社ビジネスリサーチラボ 代表取締役
神戸大学大学院経営学研究科 博士前期課程修了。修士(経営学)。2009年にLLPビジネスリサーチラボ、2011年に株式会社ビジネスリサーチラボを創業。以降、組織・人事領域を中心に、民間企業を対象にした調査・コンサルティング事業を展開。研究知と実践知の両方を活用した「アカデミックリサーチ」をコンセプトに、組織サーベイや人事データ分析のサービスを提供している。著書に『組織内の“見えない問題”を言語化する 人事・HRフレームワーク大全』、『イノベーションを生み出すチームの作り方 成功するリーダーが「コンパッション」を取り入れる理由』(ともにすばる舎)、『越境学習入門 組織を強くする「冒険人材」の育て方』(共著;日本能率協会マネジメントセンター)などがある。2022年に「日本の人事部 HRアワード2022」書籍部門 最優秀賞を受賞。東京大学大学院情報学環 特任研究員を兼務。

